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「逃げられなさ」の位置をめぐって

全国公的介護保障要求者組合が訴えるもの

深田 耕一郎 20070917
障害学会第4回大会 於:立命館大学

last update: 20151224

・立教大学社会学研究科
深田 耕一郎

◆要旨
◆報告原稿

■要旨

1.問題意識――組合は失敗したのか
 全国公的介護保障要求者組合(以下、組合)は全国的な介護保障の確立を目的として1988年に結成された(中西・上野2003:27−8)。以来、組合 は行政に対する介護保障要求や全国の障害者に向けて介護制度情報を発信してきた 。組合は府中療育センターから飛び出し地域生活をはじめた障害者たち、つまり自立生活運動の第一世代が中心メンバーとなって組織され、介護保障の進展に貢 献をしてきた。
 ところで、組合は現在どうなっているのだろうか。自立生活運動は近年、大きな広がりを見せ、全国的な組織としては全国自立生活センター協議会や、全国介 護保障協議会が運動の中心的な役割を果たすようになっている。そんななかで組合はどのような活動を行っているのだろうか。組合員への聞き取りによると、現 在組合は全国6箇所に支部を持ち、会員数は約350名を数えるという。活動としては年に1度の総会ならびに定期的な執行委員会の開催と厚生労働省と年に数 回、行政交渉を行っているということだった。
端的に言って組合は力を失った。ではこの運動は失敗であったのか。仮にそうであったとすれば、失敗の意味を考えてみようというのが本報告の目的である。以 下では組合の介護保障要求の技法を明らかにすることで、彼らが訴えているものとは何であるのか考察する。

2.介護保障を要求するということ――関係性要求の技法
 介護保障要求という運動は社会に対して次の2つのことを訴えるものだった。第1は介護に要する費用、すなわち介護料を供給せよ、というものである。介護 料を行政に要求するという意味からこの運動は特に介護料要求運動とも呼ばれる。要求は行政との直接交渉というかたちで行われ、各種の介護保障制度が獲得さ れてきた(立岩1993:123)。
また、第2に介護保障要求とは介護者への関係性要求であった。というのは介護料を確保したことがただちに介護体制の確立にはつながらない。"金"を取って きても"人"が集まらなければ日々の介護は成り立たないのである。だから、介護保障を万全なものにするためには介護者と良好な介護関係を結ぶ必要があり、 そこで介護の関係性はこうあるべきだとする訴えが介護者に対してなされた。
 第1のものは「つつがなく暮らすためには介護が必要である、だから金を出せ」という訴えであったとすれば、第2は「お金は取ってきた、あなた方はこんな ふうにつきあってくれ」という訴えであったと言える。介護保障制度の進展を見るかぎり、組合は第1の「介護料要求」について一定の成功をおさめた。第2の 「関係性要求」についてはどうだったろうか。以下では組合の第2の側面に焦点化し、関係性要求の技法を明らかにする。

3.組合モデルとCILモデル――"専従"と"サービス"
 組合のある役員は介護関係について次のように記している。「障害者と健常者とでは、全く違うそれぞれの生きてきた歴史や感性があります。れっきと違うの は、弱者と強者という立場の違いです。そこで、対等にぶつかれば、当然、弱者の勝ち目はのぞめません。次のことが、人の命を看ていくという介護職にとっ て、一番大切なことだと思います。1.奉仕の気持ち、2.双方が人間を思いやる関係、3.双方がお互いの生活を思いやる関係、4.双方がこじれても関係を 切っていかない関係、5.あくまでも話し合いのなかで解決していく関係」。この発想は障害者が自ら介護者を探し、介護関係を結んでいく「専従介護者」とい うあり方となって現れた。
 ここで、組合とは対照的な運動団体、自立生活センター(以下、CIL)の関係性要求の技法を確認しておくことが有益である。CILの「関係性要求」は明 確である。「私たちは消費者であり介護を受ける権利がある、だから、介護サービスを提供せよ」というものである。
 CILは当事者が主体となり介護を供給する技法をとった点で画期的であった。介護を"サービス"とし、"仕事として"位置づけたほうが、広く普遍的に供 給できる。これは組合が唱えた専従介護者という関係性からは大きく異なるものだった。専従からサービスへ。この転換によってCILは急速に発展を遂げた。 そして、組合の主要メンバーはCILに移って行った 。

4.非対称性を引き受けよ――「逃げられなさ」の位置
 介護関係とは非対称性をはらんでいる。関係性要求はその非対称性の位置をめぐる訴えであった。非対称性の抹消を求めたのがCILであった。金銭を媒介さ せることによって介護はサービスに変換された。そのことで障害者は介護を受ける権利があり、あなた方と対等であると主張された。一方、組合は自らを弱者の 位置におき、相手に強者であることを自覚させることで非対称性を突きつけることをした。組合の関係性要求の技法は「非対称性を引き受けてくれ」と訴えるも のだった。援助関係において、いかんともしがたい苦しみを前に「最後の最後のところで、援助者にできることは、逃げ出すことであり、見捨ててしまうこと」 (稲沢2002:191)と言われるが、組合は「逃げられなさ」を引き受けるよう求めてきたのである。
 こうした観点から見ると、CILは「逃げられなさ」を引き受けさせるのではなく、むしろこの関係は「逃げられる関係」であることを前面に出したと言え る。そうすることによって、逆説的に安定した介護の供給を可能にしたのである。こうした関係性要求の技法をめぐる差異が、組合の運動としての展開に限界を もたらしたのではないかと考えられる。

☆01 障害者自立生活運動においては、「介護」には保護のニュアンスが含まれるとされ、「介助」というよりニュートラルな語が用いられる。ただし、それ はCILの運動のなかで採用されることが多く、組合は「介護」か「介助」かにこだわりを示していない。本報告は組合の世界を記述することを目的とするた め、組合の使用法に合わせて、「介護」を用いている。
☆02 たとえば、CIL・立川の代表であり組合の委員長を務めた高橋修は組合的技法とCIL的技法のはざまで葛藤し、CILに希望を見出して行った人で ある。高橋は次のように語っている。「仕事として割るんだと、割り切っちゃうんだと。個人的魅力のある人間なんか介護者確保できるわけよ、どんなかたちで も。ほんとに自己主張できない、知識障害があるとか、精神障害があるとか、そういう人たちが、サポートがなきゃ自立できないんだ。一人暮らしできないんだ と。それは個人では無理である。そういったときに、中西さん(ヒューマンケア協会代表)のその、サービスという。」(高橋2001:256)。

参考文献
稲沢公一,2002,「援助者は「友人」たりうるのか――援助関係の非対称性」」古川孝順ほか『援助するということ――社会福祉実践を支える価値規範を問 う』有斐閣:135ー208.
中西正司・上野千鶴子,2003,『当事者主権』岩波書店.
高橋修,2001,「引けないな。引いたら、自分は何のために、1981年から」全国自立生活センター協議会編『自立生活運動と障害文化――当事者からの 福祉論』現代書館:249−262.
立岩真也,1993,「生活保護他人介護加算」『季刊福祉労働』60:118−123.


 
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■報告原稿

 「逃げられなさ」の位置をめぐって――全国公的介護保障要求者組合が訴えるもの
 立教大学社会学研究科博士後期課程 深田耕一郎
 2007年9月17日 障害学会 第4回大会@立命館大学

1.問題意識――組合が訴えるものとは何か

  (1) 組合は失敗したのか
  全国公的介護保障要求者組合(以下、組合)は全国的な介護保障の確立を目的として、1988年に組織された障害当事者とその介護者からなる障害者運動団体である(中西・上野2003:27−8)。結成以来、組合は行政に対する介護保障要求や全国の障害者に向けた介護制度情報を発信してきた 。組合は府中療育センターから飛び出し自立生活をはじめた障害者たち、つまり自立生活運動の第一世代が中心となって組織され、以後、介護保障制度の進展に貢献してきた(全国公的介護保障要求者組合1988)。
  ところで、組合は現在どうなっているのだろうか。というのは、障害者の自立生活運動は近年、大きな広がりを見せ、全国的な組織としては全国自立生活センター協議会や全国障害者介護保障協議会といった自立生活センター(以下、CIL)の理念と方法を標榜する団体が運動の中心的な役割を果たすようになっており、組合はその力を失いつつあるからだ 。おそらく現在の障害者運動において、運動のイニシアティブをとる団体が組合であると位置づけることはできないだろう。
  そのなかで組合を取り上げることの意義はどこにあるだろうか。議論を先取りすると、組合は、青い芝の会がそうであったような告発型の運動から、現在のCILのような事業型の運動が台頭するまでの、ちょうど中間に位置する運動団体であったと言えるだろう。組合はいつごろかまではその役割を果たし、いつごろかからその役割を果たしえなくなったと考えることができる。
  では、その要因は何だったのだろうか。本報告は組合が訴えるものが何であったのかを明らかにすることで何が組合の活動に可能性をもたらし、その展開に困難を生じさせたのかを考察する。仮に組合の戦略が失敗であったとすれば、その過程から失敗の意味を考えようとするものである。
  
  (2) 視点と方法――介護保障を要求するということ
  組合の言う「公的介護保障要求」とはいかなる意味が含まれているのか確認する必要がある。それは端的に、従来、家族あるいはボランティアによって担われるべきものとされていた介護(在宅)を「公的に供給せよ」という求めであった。これは、第1に介護を「誰が担うのか」という行為者の問題に対して「社会が担え」という主張であり、第2に介護を直接には担わないがその費用を「誰が負担するのか」という負担者の問題に対して「社会が負担せよ」という主張であった。第1の行為者については、介護は有償の労働者によって担われるべきとした。第2の負担者については、その有償の部分を支払うのは社会全体であるべきとし、つまりは所得の強制的な移転・再分配を求めた(立岩1995:231)。
  この2点は別々の水準のことであり、分けて論じられるべきだろう。ただ、介護保障要求とは、介護という「肯定的なものである一方で、それは負担であり、否定的なもの、いやなこと」(立岩2000:234)を、「社会が引き受けよ」とする「負担要求」であったことをここでは確認しておきたい。
  公的な介護保障を求めている点では組合と後に見るCILとの相違はない。異なるのは、負担要求の技法であると考える。とくにその差異は介護をする行為者の水準=介護関係における要求に顕著である。それを関係性要求と呼ぼう。以下、組合の関係性要求の技法を読み解くことを通して組合が訴えんとするものを抽出し、それが組合に何をもたらしたのかを検討する。
  私は組合の役員を務める障害者(60代、男性)の介護に2年間入っており、組合が実施する会議や行政交渉に参加している。したがって、研究方法としては、参与観察で得られたデータを参照し考察を加えることになる。また、適宜、書籍・雑誌に掲載されている組合、CIL関係者の文章を取り上げる。
  
2.関係性要求の技法――組合モデルとCILモデル
  
  (1) 組合と介護保障制度
  1988年の結成以来、組合が求めてきたのは、1つに、未整備であった全国的な介護保障制度の確立であり、2つに既存制度の拡充であった(立岩1993)。当時、介護保障制度と呼べるものは各自治体が実施する介護人派遣事業と、国レベルでは生活保護に特別措置として支給される他人介護加算、国のホームヘルパー制度が存在するのみだった 。諸制度の特徴として、第1に、制度の原理を見ると、このころの社会福祉制度を基礎付けていた原理は「措置」(措置制度)という考え方であった点、第2に、給付の体系を見ると、生活保護他人介護加算の場合、保護費は障害者に直接支給される仕組みになっていた点、自治体の介護人派遣事業においては、介護料は直接介護者に支払われ仲介組織が不在であった点があげられる。
  
  (2) 関係性要求の組合モデル――専従介護という2者関係
  上記した制度のありようと介護関係は密接に関連していた。すなわち、措置制度という国家責任の明確ななかで、直接支給に近い給付体系は「専従介護」と呼ばれる介護形態を可能にした。それは障害者自らが、暮らして行くのに必要な介護者を集め、関係を結び、自分の「専従」として介護に入れる形態である 。障害者を介護する介護者のなかに代表介護者をひとり設けその代表者が介護料を受け取り、集まった介護料を障害者が一括管理し、介護者に再分配するという仕方である。これは自立生活とは障害者がこうして自己管理するものだという発想を反映したものだった。では、そこで組合は介護者とどのような関係をつくろうとしてきたのだろうか。ある組合役員はこう記している。
  
  「障害者と健常者とでは、全く違うそれぞれの生きてきた歴史や感性があります。れっきと違うのは、弱者と強者という立場の違いです。そこで、対等にぶつかれば、当然、弱者の勝ち目はのぞめません。次のことが、人の命を看ていくという介護職にとって、一番大切なことだと思います。
  1.奉仕の気持ち
  2.双方が人間を思いやる関係
  3.双方がお互いの生活を思いやる関係
  4.双方がこじれても関係を切っていかない関係
  5.あくまでも話し合いのなかで解決していく関係」
  
  組合は障害者と介護者との立場の違いを強調し、そのなかで関係性を問い直していく2者の関係を第一に据えている。この思想は措置制度という原理のもとで、2者関係を支える直接支給型の給付体系を拡充させた。そして、その制度のもとで自立生活は広まっていった。また、介護関係についてこうも記している。
  
  「障害者というのは、重度であればある程、自分のからだの身動きが閉ざされたなかで、明かりを強く求めて、それを自分の生きていく配下に置こうとします。その明かりというのは生きていく上で頼れる人、孤独なときに甘えさせてくれる人、信じることができる人、生きていくのにいつ何時でも手を貸してくれて、生きている限り救ってくれる人のことです。
   そんな人には、両親でもなれません。まして、それを他人に求めていくこと自体、全く不可能だと分かり切っていても、身動きできない立場におかれると、自分の介護に関わる人に、そのように自分の存在や命までも託してしまうのです。(中略)
   自分の命の全てを誰かに依存するという考えはよくないけれど、ある程度、頼り頼られ、また、介護者もいろんな弱いところを見せていくなかで、関係が出来てくるものです。そもそも介護という仕事は、介護される側との関係でいえば、あなたの動く手足を借りますよ、あなたの動く手足を頼りにして私は生きていきますよ、ということが前提の仕事なのです。依存してはいけない、頼ってはいけないといっても、そもそも、誰にも依存しないし、誰も頼らないというような人間は、健全者にもいないと思います。人間社会は、他人との共存というなかで成り立っています。そこは特に、弱者の介護を仕事とする以上、頼られていく存在であるということを自覚して、この仕事をやってください。」
  
  ここで、組合的技法の特徴を浮き彫りにするために、同じ障害者自立生活運動のなかでも組合とは異なる戦略をとるCILの関係性要求の技法を確認しておこう 。
  
  (3)  関係性要求のCILモデル――介護派遣サービスという3者関係
  CILは結成当初、行政交渉を積極的には行わなかった。「お金を取ってくる」ことにではなく、むしろ、措置制度を使って個々の障害者の自立生活を支援する事業=運動に力点を置いた。CILは専従という形態ではなく、行政の介護料を利用しながら、介護者派遣をサービスとして行った点が注目される。CIL・立川の代表であり組合の委員長を務めた高橋修は次のように語っている 。
  
  「むかしの東京の活動って、介護もそうだけどみんな全部個人の関係だったのよ。みんな関係性って、なんていうかな、個人のめんどうみなのよね。個人的な応援体制なのよ。おれ、個人のネットワークっていうのは意味がない。意味がないというか、それでは限界があるんだと。組織としてきちっとやるべきだし…(中略)仕事として割るんだと、割り切っちゃうんだと。個人的魅力のある人間なんか介護者確保できるわけよ。どんなかたちでも。ほんとに自己主張できない、知識障害があるとか、精神障害があるとか、そういう人たちが、サポートがなきゃ自立できないんだ。一人暮らしできないんだと。それは個人では無理である。そういったときに、中西さんのその、サービスという。それと障害種別をこえて応援するんだというところ。」(高橋2001:256)
  
  障害者と介護者のあいだにCILが媒介項として入ることで2者関係は3者関係に再編された。介護を"サービス"とし"仕事として"位置づけたほうが広く普遍的に介護を供給できる。障害者はサービスの「利用者」となり介護者はサービスの「提供者」となった。この転換によってCILは急速に発展を遂げた。
  
3.要求への応答可能性と不可能性――2つの態度
  
  組合の関係性要求はどのような事態を生んだのか。次の2つの態度を見ることができる。1つは、専従という関係性にのみこまれ汲々としてしまうものである。高橋は専従介護者との関係に疲弊していたことを語っていたが(高橋2001:253)、障害者だけでなく介護者にも困難をもたらした。組合に所属する障害者の専従介護をしていたKは次のように話す。この人は組合の活動に関与していたが辞めて行った人である。
  
  【介護者Kの語り】
  「おれだってね、Aさんとラブラブなときはあったよ。でも、"専従"っていうのはもうドロドロとしたね、"家族以上の"っていう世界があるわけよ。それはもう悲惨になるときはなっちゃう。」
  
  障害者にとっても介護者にとっても専従介護という形態を持続させることは容易なものでなかった。しかし、他方で、まったく異なる現実がもたらされてもいる。組合に所属する、ある介護者はこう語る。
  
  【介護者Oの語り】
  「人間の弱いところを全部受け入れるのが原則だと思いますし、健全者っていうのは自分の弱いところを見せないっていうことに長けてますから。そうすると、弱さを軽蔑するというより、弱さに向き合わざるをえないわけですよ。自分の弱さを受け入れていくってことが要求されていく。その過程で、自分のプライドも捨ててかないといけないし、自分が強くなきゃならないっていうこだわりも捨ててかなきゃいけない。ということは、自分の弱さをさらすってことですね。自分の弱さをさらすとどういうことになるかっていうと、相手はそこで自然に障害者でありながら、健常者を気づかうってスタンスもありうるってことを、やって示すことになるわけで。そんなことはAさんはとうの昔にわかってやってる。」
  
  介護者Oは障害者Aに全幅の信頼を寄せ、Aも同様にそうである。組合的世界では障害者と介護者がともに食事をし入浴し睡眠をとるという半ば共同生活に近いなかで、2者の親密性は非常に高いものとなる。
  
4.非対称性を引き受けよ――「逃げられなさ」の位置
  
  組合とCILの関係性要求の中身を考える。組合的技法には、第1に「弱者」という自己呈示、第2に「専従介護」という2者関係への拘泥があった。また、第3に介護とは「サービス」などではなく、愛や共同性の行いであるとする主張を読み取ることもできる。他方、CIL的技法は、第1にサービスの「利用者」という自己呈示、第2に媒介組織がサービスを提供する3者関係への再編、第3に組合と比較すると介護に過剰な意味を求めない関係の無色さがあげられる。
  稲沢公一は「おそらく、現実とは、誰にも背負いきれないほどの苦しみをたえず生み出し続けているものである」と述べ、援助関係には「一見底知れぬ溝とも思える非対称性」が存在するという(稲沢2002:185)。とするなら、関係性要求とは援助関係に内在する非対称性を喚起させる求め、あるいは変更を求める訴えであったと考えることができる。すなわち、CILは非対称性の抹消を求め、金銭を媒介させることによって介護をサービスに変換させた。そのことで「私たちには介護を受ける権利があり、あなた方と対等である」と主張した。
  金銭を媒介させた点は組合も同様である。しかし、そのことが非対称性を抹消させるとは考えなかった。組合は、目の前のあなたと私のあいだには否定しがたい非対称性が存在すると主張するのである。つまり、自らを弱者の位置におき、相手に強者であることを自覚させることで非対称性を突きつけることをした。それは「非対称性を引き受けよ」という訴えであったと言える。援助関係において、いかんともしがたい苦しみを前に「最後の最後のところで、援助者にできることは、逃げ出すことであり、見捨ててしまうこと」(稲沢2002:191)であるとすれば、組合はその「逃げられなさ」を引き受けるよう求めてきたのである。こうした観点から見ると、CILは「逃げられなさ」を引き受けさせるのではなく、むしろこの関係は「逃げられる関係」であることを前面に出し、そうすることによって逆説的に安定した介護の供給を可能にしたと言えるだろう。
  「サービス行為者」と「費用負担者」を峻別して議論すべきことを最初に確認したように、介護者への関係性要求をもって「社会」全体への要求として読み替えることには無理があるかもしれない。しかし、これを負担要求という関係性―社会を通約する訴えとして受け取るとするなら、組合が訴えるのは、福祉とは非対称な位置にある他者の存在を引き受けることであり、それは「逃げられなさ」を受け入れる態度であるということである。
  3節で見たように、組合の「逃げられなさ」をめぐる訴えは障害者と介護者双方に困難をもたらした。すなわち、この要求技法が組合の展開過程に限界をもたらしたと指摘することができるのである。しかしながら、3節ではもう一つ別の態度を確認することができた。つまり、要求には応答可能なのであり、そこではきわめて親密でパーソナルな関係が実現されていた。このことをどう考えればよいだろうか。今後は、こうした組合的技法から受け取ることができるものと福祉国家や社会の変容とを関連づけながら考察していきたい。
  
参考文献
  稲沢公一,2002,「援助者は『友人』たりうるのか――援助関係の非対称性」古川孝順ほか『援助するということ――社会福祉実践を支える価値規範を問う』有斐閣:135−208.
  中西正司・上野千鶴子,2003,『当事者主権』岩波書店.
  高橋修,2001,「引けないな。引いたら、自分は何のために、1981年から」全国自立生活センター協議会編『自立生活運動と障害文化――当事者からの福祉論』現代書館:249−262.
  立岩真也,1993,「生活保護他人介護加算」『季刊福祉労働』60:118−123.
  ――――,1990(=増補改訂版1995),「私が決め、社会が支える、のを当事者が支える――介助システム論」安積純子ほか『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』藤原書店:227−265.
  ――――,2000,「遠離・遭遇――介助について」『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』青土社:221−354.
  全国公的介護保障要求者組合,1988,「全国初の重度障害者・介護者混成組合結成」『季刊福祉労働』41:127−132.
  自立生活情報センター・全国公的介護保障要求者組合,1997,『公的介護保障情報』64.


UP:20070807 REV:20070905
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