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英国における尊厳死法案をめぐる攻防3――英国Leslie Burke裁判Munby判決の再評価
○堀田義太郎1) 的場和子2) 20070519
1)立命館大学衣笠総合研究機構 2)
立命館大学大学院先端総合学術研究科
日本保健医療社会学会第33回大会 於:新潟県医療福祉大学
http://square.umin.ac.jp/medsocio/index.htm
last update: 20151224
堀田
http://www.arsvi.com/0w1/htystru.htm
的場
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/mk04.htm
[要旨]
【
はじめに
】英国での「尊厳死法案」をめぐる攻防において、この法案を事実上の廃案に追い込んだCNKは、同時に、「無益な治療」の中止・差し控えを許容している。英国では1993年のBland裁判以後、人工水分栄養補給法(Artificial Nutrition and Hydration ;ANH)も「医療行為」とされ、その中止や差し控えは医師の判断の対象として位置づけられている。だが、この判断は「治療中止・差し控えが許容されうるタイプの人間が存在する」という生命の質に対する評価を前提にしている。治療中止・差し控えを直接的に主題にしたのは、2004年に進行性中枢神経系難病患者レスリー・バーク氏が将来のANHの継続の保証を求めて起こした訴訟である。この訴訟に対する第一審である高等裁判院女王座部でのMunby裁判官による判決は、バーク氏の訴えを認め、ガイダンスを「一部違法」とし、さらにそれは人権協定に抵触するとした。被告側は即座に控訴し、約一年後2005年7月28日には第一審判決は覆された。控訴審判決は、第一審判決を単に却下しただけでない。控訴審は、第一審の内容自体を「判例」として用いることをも否定した。公式の記録からは抹消されたMunby 判決には、だが、あらためて検証すべき意義がある。その意義は、逆説的ではあるが、これを退けた第二審を通してむしろ明らかにされた。
【
目的および対象
】Munby判決の内容を、これを却下した第二審判決の論点を踏まえて再検証する。これを、中止・差し控えの「条件」をめぐる議論を、より一般的に考察するための事例として提示する。解析対象は、Lexis NexisサービスおよびBALIIデータベースより参照可能な両裁判の判決文、その判決に関するレポートおよび当時の新聞記事等である。
【
結果
】控訴審における一審破棄の理由は、Munby判決で想定されている状況が判決当時のバーク氏の状況には妥当しない、というものだった。バーク氏は当時、法廷で証言可能な判断および思考能力を備えており、ANHの中止に対する異議を明確に表明していた。控訴審は、第一審判決が踏み込んだ倫理的論点には言及せず、当時の状況で、医師がバーク氏の意に反してANHを中止することはガイドラインからすれば起こり得ない、とした。
【
考察
】控訴審判決は、将来の治療方針に対する事前の決定権問題を訴因とすること自体を退けている。だが、この判決は治療に対する事前の決定一般を否定したわけではない。他方、Munby判決はこの訴訟を、治療の「停止」に関する事前決定が存在する場合には意思表示できない状態でも「停止」を許容するガイドラインに対して、治療継続に関する意思決定の保証を求めた裁判として位置づけている。ガイドラインは、治療継続に関して明示的に言及していない。この非対称性から明らかになるのは、中止・差し控えの条件をめぐる問題構成そのものが、中止・差し控えに向かう志向性を有しているということである。Munby判決の中心的論点は、字義通りにはこうした「非対称性」にはない。Munby判決の意義が、この「非対称性」の指摘にある、と言えるのは、事前の意思決定を訴因とすることを退けた第二審において、まさにこの「非対称性」が反復されているからである。
UP:20070417
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安楽死・尊厳死:イギリス
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安楽死・尊厳死 2007
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