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英国における尊厳死法案をめぐる攻防2――議会外キャンペーンの様相

○安部彰 大谷通高 的場和子 20070519
立命館大学大学院先端総合学術研究科公共領域
日本保健医療社会学会第33回大会 於:新潟県医療福祉大学
http://square.umin.ac.jp/medsocio/index.htm

last update: 20151224

安部 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/aa01.htm
大谷 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/om01.htm
的場 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/g/mk04.htm

発表レジュメ http://www.ritsumei.ac.jp/~gr022059/product/joffe/20070519abe.htm

  [要旨]

はじめに】2003年から貴族院で繰り返し論議されていたJoffe卿によるADTI法案は06年5月12日、ようやく採決に到達しうる状況にあった。法案可決に向けて、英国安楽死協会Voluntary Euthanasia Society(VES)は、さまざまなキャンペーンを展開していた。それに対抗すべく、新たに法制化反対、緩和ケアの充実を旗印に2006年1月にCare Not Killing(CNK)という団体も形成された。両者は法案の可否をめぐって社会に向けさまざまな働きかけを行なわれいた。
目的】06年5月の貴族院での論議にむけて、VES(06年1月に Death in Dignityと改称)およびCNKが、いつ、どのようなキャンペーンを展開してきたのか、両陣営が何を主張し、どのような方法で社会に働きかけていったのかを明らかにすること。
対象と方法】両者ともに、独自のホームページを有し、さまざまな情報提供を行うとともに、登録者へのメイルでの情報提供も行なっていた。こういった情報、および、当時のメディア報道などを。解析対象とし、一部Atlas.tiを用いて内容解析を行った。
結果】VESの歴史は古く、1935年結成された。2001年にデボラ・アネットが会の代表に就任し、名称変更を含む、さまざまな戦略を駆使した。一方CNKは2005年10月10日に行なわれた特別委員会調査報告書に基づく貴族院討議に備えて、法案に危惧をいだく各種団体の連合を目的にそれぞれの代表者および関心のある議員等がもった2005年7月会合に端を発した。06年1月31日に正式にCNKが結成され、07年冬までに、人権問題、医療問題、緩和ケア、信仰に関するに団体のうち、趣旨に賛同する44の団体が加入している。
考察】南ア出身の人権派弁護士Joffe卿の主張する、死に臨んで苦しんでいる人の苦悩をそのまま放置し見過ごすのは、人権侵害にあたり正義ではない、という法案提出の動機には両陣営ともに異論は無い。両者を分かつものはその解決策であり、VESが重きを置くのは患者当人の自己決定による選択の自由であり、後者は苦悩そのものを取り除く他者(環境も含めて)の確保である。前者は苦悩そのものの解消よりも、それを受ける者自身がそれを回避する道の確保を強く訴えているのに対し、後者は苦悩そのものを軽減してゆくことで、そもそもの選択理由をなくそうと考えるところにある。上院での議論を医師幇助自殺法案に向けて懐疑的な方向に導いたのは、直接関わることになる医師集団の態度による。一般社会に向けたキャンペーンを展開したVESに対し、CNKはその医学的連携を積極的に活用した。緩和ケアの充実を訴えるCNKの戦略は成功した。しかし一方で、ヨーロッパ緩和ケア協会(EAPC)などでは、安楽死は積極的安楽死のみとし、これには緩和ケアは決して与しないとしながらも、治療の中止/差し控えは容認する。また、終末期の耐え難い苦痛に対しての鎮静も症状緩和の一環として認めている。こういった医師の行為が果たして医師幇助自殺と臨床現場でどれほど明確に区別しうるか。死に至らしめる行為主体としての責任はガイドラインや法制化によって完全に免責され得ないのではないか。


UP:20070417
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