重症障害児の成長を抑制
問題になっているのは、重症障害児に対してシアトル子ども病院で施された成長抑制“療法”だ。2004年7月に、当時6歳の女児から子宮と乳房芽を摘出。次いで2年半のホルモン大量投与で身長と体重の伸びを抑制したというもの。両親が望んだ主な理由は、@体が小さい方が本人のQOLが維持でき、将来ずっと家で世話することも可能となる。A本人には無用の臓器の摘出により、生理や胸のふくらみなど思春期以降の体の変化から来る不快を取り除き、病気や性的虐待の予防にもなる。
担当医2人は去年の秋に論文(Attenuating Growth in Children With Profound Developmental Disability :A New Approach to an Old Dilemma, Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine Vol.160 No.10, Oct 2006)を発表しており、ロイターも11月1日付けで報じているのだが、論争にわっと火をつけたのは、両親が元旦に立ち上げたブログだった。タイトルは娘の名前を冠して”Ashley Treatment(アシュリー療法)“。この決断を巡る親の思いや批判への反論を述べ、賛同の声を紹介する他、娘の生育過程を14枚の写真で公開している。
LATimes (1月3日)の記事を皮切りに、メディアの報道は概ね批判的な論調で過熱。ネットでも議論が沸騰している。
加熱する賛否の議論
日本では、ネットで最初に報じられた際に、知的機能は既に失われているとの記述が一部にあり、植物状態との混同が起こった。そこで、まずは両親のブログの記述を中心に、アシュリーの障害像を正しく整理しておきたい。
アシュリーは原因不明の脳障害のために、経管栄養で寝たきりの全介助。頭を上げておくことも寝返りも出来ず、枕の上など、下ろされた場所にじっとしているので、両親は愛情を込めて“Pillow Angel(枕の天使)”と呼ぶ。話すことはできないが意識は明瞭で、家族が接すると笑顔で応じる。不快を泣いて訴えることもできる。気に入った音楽を聴くと手足を動かし声を出してはしゃぐ。認知・精神機能は両親によると生後3ヶ月、担当医は生後6ヶ月相当と言っている。現在の体重は約30キロで、親が抱えあげられる限界に近い。
報道を受けて、障害者の人権擁護団体やフェミニズムの活動家は猛抗議。各種団体から「捜査を」、「尊厳を踏みにじる許しがたい暴挙」、「人を変えるな、制度を変えよ」と、非難声明が相次いだ(Washington Post 1月11日他)。一方、「介護の大変さを知らない者に批判する資格はない」、「気持ちは分かる」などの擁護・容認や、「勇気ある英断」、「ここまでして家で世話をしたいという親の愛情に感動」など賛同・賛美の声も多い。また、さっそく「ウチの子にもやって」と、数人の障害児の親が名乗りを上げている(The Guardian 1月8日他)。