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「葬儀場で遺体から人体組織を採りたい放題」

児玉 真美 200608 「介護保険情報」2006年8月号

last update: 20110517


★米・ニューヨークほか
葬儀場で遺体から人体組織を採りたい放題
 最近は自宅での葬儀など滅多になくて、荘厳なセレモニー・ホールを備えた葬儀場で執り行われることが多くなった。あの葬儀場の奥に実は解剖室があって、そこで遺体が密かに切り刻まれていて………などと真顔でいったら、「まさか」と一笑に付されることだろう。しかし、まるで出来の悪いB級ホラーのようなこの話。まぎれもなく現実に起こった事件なのだ。
 一連の報道によると、主な舞台はニューヨーク。主犯は、かつてコカインの使用で医師免許を返上した経歴を持つ元口腔外科医である。当時のコネを生かして、その後バイオ企業を設立した元口腔外科医は、葬儀屋と共謀のうえ、葬儀場奥の「解剖室」で親族に無断で遺体から組織を採取していた。
去年の秋に事件が発覚するまで犯行は約5年間にわたり、被害にあった遺体は何百にも及ぶという。採ったのは皮膚、骨、腱、心臓の弁などなど………。心臓死前後に採らなければ使い物にならない臓器と違って、こうした人体組織は死後48時間以内の採取でよいらしい。一体分の組織から7000ドルもの利益を得ていたという報道もある。
 事件の発覚で、埋葬された遺体を掘り起こしてみたら、下半身が跡形もなく採り去られたものまで出てきた。棺に入れてもバレないように、脚の代わりの配管パイプがネジで骨盤に取り付けられていたという。検察当局は主犯を含む4人の起訴を発表する記者会見で、この遺体のレントゲン写真を公開している(USATODAY 6月12日)。なんとも奇妙かつ不気味な写真である。
 そして問題を深刻にしているのが、元口腔外科医らは親族の同意書を偽造しただけでなく、組織の安全性のスクリーニングを行わなかったことだ。年齢と死因を都合よく偽った書類をつけて、安全が疑わしい人体組織を加工会社に持ち込んだのである。それらの組織から加工された医療製品は、今のところアメリカ国内とカナダに流通したものと見られている。
 FDA(食品医薬品局)は事件報道を受けて、汚染の可能性のある医療製品の回収を命じたが、膝や歯のありふれた外科的治療も含め、治療に使用された場合には、梅毒のほか、HIVや肝炎に感染する恐れまである。
 カナダでは被害に遭った患者が3月に集団訴訟を起こした(canada.com 3月23日)。また、汚染した医療製品が流入していないとされるオーストラリアでも、疑わしい治療を受けた患者に関係機関が個別に確認をとったり(THE AUSTRALIAN 6月6日)、ニュージーランドでも医師が個人的に購入した商品に不安の声が上がる(ニュージーランドのニュースサイト stuff.com6月23日)など、事件発覚から1年半経って、波紋はなお広がっている。
 それにしても、この事件のことを調べていて、あるキーワードで検索をかけたところ、ヒットした中に弁護士事務所のホームページが並んでいたのには、びっくりした。こぞって事件の概要を詳細に語り、「もしもあなたが被害に遭っていたら、訴訟はぜひとも当方で。ご相談、ご連絡はこちらまで」などと呼びかけている。全貌が手軽に分かりやすいので、事件に興味のある方には、むしろこちらの弁護士事務所のサイトをお勧めしたいくらいだ。
 そういえば、こういう弁護士のことを英語では ambulance chaser という。「霊柩車の追っかけ」が起こした醜悪事件に、「救急車の追っかけ」が、ヨダレを垂らして群がっていく──。それも、どこやらアメリカン・ホラーではなかろうか。

★アメリカ合衆国
DNA検査はインターネットでお手軽に
 同じく、「まさか」と思わずつぶやきたくなる話ながら、こちらはホラーではなく、SFといった趣きか──。
 ワシントンポスト6月13日付の記事によると、インターネットでお手軽にDNA検査をオーダーする人が増えているそうである。目的はもちろん、特定の病気になる可能性を知るためだ。値段は病気によって200ドルから3300ドルまで様々。
検査の方法は、送られてくる遺伝子診断キットの中にある綿球で口の中をくるっと撫でて返送すると、やがて自分の遺伝子情報が送られてくるという仕組み。病院へ行く必要もない。遺伝カウンセラーと面接する必要もない。そのお手軽さを、ある女性向け月刊誌は「テイクアウトの料理をオーダーする簡単さ」と評したそうだ。
 現在こうした遺伝子診断を行っている会社がすでに10数社あり、不安をあおるような商法や結果の信憑性、素人解釈の危うさに、「しなくてもよい心配をあおり、しないほうがいい安心を招くのでは」と懸念する声が専門家から上がっている。
しかし、なにしろこういうのもDTC( direct-to-consumer 消費者直結)と称するのだそうだ。日本でもそのうち流行るかもしれないが、インターネットを介した目に見えない「消費者直結」とあっては規制が難しく、こうした遺伝子診断、ほとんど野放し状態になっている。

★アメリカ合衆国
DNA検査で従兄弟11人が胃を全摘
 先の記事の5日後に、続編みたいな話に出会って、またもや「まさか」とつぶやいてしまった。
代々どうやら胃がんで死ぬ血筋かと思われる一族があったそうである。おばあちゃんも胃がんで死んだ。お父さんもお母さんも、叔父さんも伯母さんも胃がんだった……と不安になった従兄弟たち17人は、こぞってDNA検査を受けた。すると、そのうち11人に、おばあちゃんの欠陥遺伝子が見つかった。将来胃がんになる確率は70%。それならば、いっそ……と、11人はみんな、胃の全摘手術を受けた。
 「慣れるのにはしばらくかかったけど、ずっと胃がんに怯えて暮らすくらいなら、少しずつ何回にも分けて食事をする生活の方がよっぽどマシ。これで胃がんの心配はなし!」と、11人は晴れ晴れ。写真に至極ハッピーな笑顔を並べておられるのである(Yahoo!NEWS AP6月18日)。
 その笑顔を眺めて大いに複雑な気持ちとなり、「でも、仮に来年にでも、この中の誰かが事故で死んだりしたら、それって、ほとんどブラックユーモアのショートショートじゃない?」と考えた私は、よほど人間がひねくれているのだろうか。
 同記事によると、この11人のほかにも、胃、乳房、子宮、腸、甲状腺といった臓器については、これまでにDNA検査でガンにかかる確率が高いと出たという理由で、摘出された例があるそうだ。そのうち医師はコレステロールの検査をするようにDNA検査をするのが当たり前になるかもしれない、そうなれば将来の病気のリスクを見つけて、危険度を下げることができる、と評価し将来を予測する専門家もいるとのこと。  その物言いの、どこか誇らしげなことが、なんとなく気に食わない。こういう単純明快な論理を操る人は、さらにもっと科学が進歩した時には「そうだ、DNA検査をみんなに義務付けよう。リスクの高い臓器の摘出もついでに義務化。これぞ究極の病気予防だ!」なんて、言い出したりはしないのだろうか。これらのニュースを読んでなお、「まさか、いくらなんでも、そこまでは」と、あなたは笑い飛ばせるだろうか……。


*作成:堀田 義太郎
UP:20100212 REV: 20110517
全文掲載児玉 真美
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