延命中止の条件・ガイドライン設定論議に関する意見
清水 昭美 2006
last update: 20151224
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2006.3.31
延命中止の条件・ガイドライン設定論議に関する意見
安楽死・尊厳死法制化を阻止する会
清 水 昭 美
1.診断の確実性
診断、予後、死期切迫の判断に誤りはないか?複数の医師なら確実か?
例 鹿児島安楽死事件
・8ヶ所で40代、50代の医師の診断がすべて誤診であった。
・司法解剖で腎結核であった。
・命をたってもよい確実性はない。
東大の冲中内科の剖検による誤診率14.2%。
2.本人、家族への説明について
患者が示す、病状の事実を説明しているか。
例 川崎協同病院の主治医、「9割9分9厘脳死状態、又9割9分9厘植物状態」と説明。
・事実は、人工呼吸器が必要なくなり、自発呼吸があり、ICUから一般病棟に移り、血圧、体温、脈拍、呼吸共に安定していた。
・裁判で、生存の可能性があった証言あり。
・裁判官の問いに、被告女医は「あれは、医学用語ではなく、病状が重いことをわかり易く説明するためにのべた」と語った。
・告げられた家族は大変ショックを受けた。しかし、家族は中止は誰も望まず。
・実際の病状より重症の説明をすることは、結果として、家族や本人に絶望を抱かせ、延命措置中止を言わせる誘導となる。
・故意は言うまでもなく、悪意がなくとも誘導となる説明はしてはならない。
・相手がどう受け取るか、十分配慮が必要である。
・項目をあげ、本人の意思表示とか家族の同意、要請があったか、なかったか、ですます事柄ではない。
3.前もっての本人の意思表示
リビング・ウィルを書いておくこと、との主張があるが、それでよいか?
@ 前もっての意思である。
・記入するときは健康であり、実際のその時の状態はあくまでも知らないことを、前もって想像するのである。
・身体の状態も、心理状態も体験のない事を、前もって想像して書くのである。
A 本人の意思に変化はないか。
・患者の意思はゆれ動くものである。
・いざその時に変わっていることの確認。
例
○アメリカの女性
ケリー・クーンズさんは尊厳死を希望し、NY州最高裁で人工呼吸器を外すことを承認した。実行する間際に意識が戻り、自分で食事をし、会話をするようになり、主治医が「尊厳死を希望していたが・・・・・」と問うと、「それはむずかしい問題ね」と言い、尊厳死を希望せず、裁判所は尊厳死承認を撤回した。
○安楽死を希望していた前大審院部長が病気が重くなり、気持ちが変わり、「いざとなってみると、うまいものが食いたくなる、と微笑して語られた」。(千種達夫 法律時報 1950年 10月)
4.家族が承諾、同意要請することの危険
他人の世話になる障害者、老人、重病人にとって、家族は必ずしも信頼できる保護者と言えない場合がある。
障害者は家族は味方といえないという人が多数いる。
例 障害者殺人事件の多くが家族であること。
東海大事件の家族
今日中に連れて帰りたい・・・・まだ息している。今日中に連れて帰りたいと迫った家族。夫が死の注射をされる時、妻は美容院に行っていた。
家族は、常に本人を思っているとは限らない。
本人の意思を家族が推定することの危険。
家族の意思は本人の意思ではない。
恣意があっても、医療人や第三者にはわからない。
命を絶つことを推定で決めてはならない。
5.延命を中止し、早く死なせることは、本人にとって安楽で尊厳なことといえるか。
・中止する行為について、実施する側は「早く楽にしてあげたい」という。
・中止する行為は果たして本人にとって楽なのか?
酸素が吸えないことは、溺れる以上に苦しいことである。
川崎協同病院の場合、挿管を抜き、苦悶し、上半身を「く」の字に持ち上げて、苦しんだ。
・酸素を止められた人は、喘ぎ苦しみ、1時間後に死亡した。
・「早く楽に」といい、「安楽」「尊厳」と周りがいいつつ、最も苦悶する最期であり、苦悶死である。
・阪大の救急の杉本教授は、尊厳死希望の父の言うとおりにしたが、栄養不足で手足が腫れ上がり、かわいそうで見ていられない。尊厳死といってもつらいものだった、と新聞で述べている。
以上のように項目をあげ、クリアすれば、中止は許されるものではない。一人ひとりその時の状態に最も適した治療・看護が望まれる。