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障害分野の国際協力

障害と開発を結びつける実践のための枠組みと視点

久野 研二 2004/12/05
障害学研究会関東部会 第42回研究会


*レジュメ

1.「障害と開発」の課題はなにか?
  
  「障害」と「開発」それぞれの課題の取り組みが乖離している点。今まで異なる課題・枠組み・分野だと思われてきた「障害」と「開発」それぞれの諸課題を一つの大きな枠組みの中で「捉え」「取り組む」ための「思考の枠組み」および「実践の枠組みと方法論」の構築が「障害と開発」の今日的課題。
  
2.「障害」とは何か?どう捉えるか?
  
  多面的で、生活のあらゆる側面にと関わる障害を、「障害とは〜であるす」という形で簡潔に説明することは難しく、そのように複雑な障害を解き明かすくために、これまでも多くの捉え方・視点が検討されてきた。これが障害のモデルである:「医学(医療)モデル」「社会モデル」「統合モデル」「差異モデル」「家族モデル」。
  
3.「障害と開発」の枠組み
  
  障害は開発の課題として取り組まれず、障害者はそこから排除されてきた(もしくは不平等に組み込まれていた)。しかし、障害という課題の認識および開発の枠組み(パラダイム)が変化してくる中で、障害は開発における分野横断的課題として認識され取り組まれつつある。開発分野でも、国家の経済的発展と近代化を目標とし、経済的貧困を指標・課題とする見方から、持続的生計や人間発達、安全保障を枠組みとした個々人のWell-beingや生活の質(Quality of Life: QOL)を捉える方向が出されつつあり、ジェンダーや環境などと共に、障害もWell-beingと切り離せない開発の分野横断的課題として捉えられるようになってきている。
  しかし、そのための具体的な枠組みがないことが課題。「障害と開発」の課題を捉える包括的な思考の枠組みの一つとして現在有効と考えられるのがアマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ(Capability Approach)」である。
  そして包括的な実践の方法論は、障害(者)のメインストリーミング(インルージョン)とエンパワメントからなる複線アプローチ(Twin-track approach)である。なぜそれではいけないのか?それはICFがいくら包括的であったとしても、障害のモデルが捉えることができるのは「障害」でしかなく、性差別や人種差別、貧困や紛争といったことまでを包括的に反映することはできる視点ではないからである。途上国では貧困をはじめとするさまざま様々な課題が複雑に絡み合っており、それらを包括的に捉え関わることなしには障害「者」の実際の生活を変えていくこと事はできない。そして、時間軸の反映を示唆する「持続的生計アプローチ」、「エンパワメント」と「社会的排除・インクルージョン」からなる「参加」の概念がそれを補完する枠組みとなる。

4.実践の枠組み:複線アプローチ

  理念を実現する具体的な方法論・枠組みの一つが複線アプローチである。「障害者が“健常者”になることでのでの社会参加」を目指すのではなく、「障害者が障害者のままで」自立し社会参加ができるよう支援する枠組み。@全ての開発の取り組みの障害者差別・排除を是正する(1)「障害(者)のメインストリーミングとインクルージョン」、とおよび、A「(2)障害(当事)者のエンパワメント」を並平行して進めるアプローチであとなる。前者の具体的な取り組みとしてには、障害に関する包括的な政策・指針や、「開発の障害分析」などがある。後者では、障害者団体の設立、自立生活プログラムやCBRプログラムの実践などがある。

5.具体的なアプローチ

  具体的なアプローチの枠組みの土台は、パウロ・フレイレの「エンパワメント」やロバート・チェンバースの「参加による学びと行動(PLA)」などを基礎とする「参加型アプローチ」である。そしてその理想を実現していくためのより具体的なアプローチ・方法としては以下がある:「障害政策・指針」「開発の障害分析」「適性技術」「権利指向アプローチ」「目標展開型アプローチ」「プロセス重視アプローチ」「関与者分析アプローチ削除」「プロジェクト・サイクル・マネジメント」。そして、そのアプローチに基づく具体的なプログラム・活動としては以下がある:「地域社会に根ざしたリハビリテーション(Community Based Rehabilitation: CBR)」「自立生活運動」そして「障害平等研修」。

6.論点1:開発という枠組みにおける「障害者の参加」という言説を巡る課題

  *障害者か(裨益)当事障害者か?
  
  *障害の価値:属性の価値・個人の価値?
  
  *我々とは誰?属性・仲間・連帯か?(どの当事者か?:開発・地域社会・障害(者)問題)
  
  *できる・できない?
  
  *非障害者の参加?
  
  *良いロールモデルとなる、のか?
  
  *障害者同士はニードがわかる、のか?
  
  *平等な関係・使命感がある、のか?
  
  7.論点2:CBRの課題・論点
  
  「CBRとは何か?重要なのか?」
  
  「理念の実践への転換」の問題
  
  「プログラムとして」の問題
  
  「CBRの仮説・理論自体」の問題」
  
  「障害者の参加」


UP:20041201
久野 研二  ◇全文掲載  ◇全文掲載(著者名50音順)
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