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提言 性感染症や望まない妊娠から青少年を守るには回避する方法の伝授

――法律で禁止しても解決にはならない――

小宅 理沙
『教育新聞』平成16年(2004年)10月21日(木曜日) 第2493号



  東京都における「青少年の性行動について考える委員会」の初会合が9月22日都庁で開かれ、中学卒業まではセックスをしないよう都条例で規制すべきだとの意見が出されたようである。委員会によると、理由は性感染症や望まない妊娠から青少年を守るため、ということだ。
  性感染症や望まない妊娠の回避は望ましいことであろう。しかし、それらは青少年からさえ守ればよいのかとの素朴な疑問を抱いてしまう。その上、この条例では、性感染症や望まない妊娠を回避する方法「=(イコール)」セックスの禁止、といっているのであろうか。性感染症や望まない妊娠の回避方法は、それを回避できるやり方でセックスをする、あるいは、セックスそのものをしない、この2択ではないかと思われる。
  しかし、この条例では後者の選択肢の方のみを指摘している。しかも、選択権を奪い禁止のかたちを取るという。
  都青少年総合対策推進本部長の竹花豊副知事は「この10年で中高生の性交経験率が急増、人工妊娠中絶などの問題が看過できなくなった。大人社会の真剣な取り組みが必要だ」と述べたようである。表1からも分かるように、全妊娠数に対する人工妊娠中絶の割合が最も高いのは40歳以上の68.4%、続いて20歳未満の66.5%である。これは、40歳以上や20歳未満に望まない妊娠をする確率が高いと読みかえることが可能であろう。中絶率が第二番目に高い20歳未満における人工妊娠中絶の問題は重大であると思うが、
  中絶率が二番目に高い20歳未満における人工妊娠中絶の問題は重大であると思うが、中絶率の最も高い40歳以上における人工妊娠中絶の問題も同様に重大であるのではないか。40歳以上の望まない妊娠を回避するためにもまた、40歳以上のセックス禁止条例が必要であるのだろうか。
  産婦人科医の赤枝恒雄氏も10代女性の性感染症が増えているデータをもって「十分な知識がないまま性体験が早くなっている。中学時代までは(都条例で)セックスは絶対駄目とし、リスクを理解させるようにすべきだ」と訴えたようである。
  繰り返しになるが、性感染症のリスクを理解させるためにセックスは絶対駄目だとしなければならない理由が私には理解できない。性感染症や望まない妊娠のリスクを回避しようとするならば、それを回避できる方法を教えればよいのではないであろうか。だいいち、単なるセックス禁止は根本的な問題解決に何の効果ももたらさない。
  例えば、保護者や保護者以外の同居人から児童への性交や性的行為の強要等は児童虐待にあたる、つまりそれは犯罪である。したがって、法律にて禁止されている。法律で禁止されているにも関わらず、児童への性的虐待はゼロにはならない。これは、性的虐待というものは通常密室で行われるため、他人に知られる可能性が低く表面化しにくいからではないかと考えている。条例でセックスを禁止したところで、中学生が他人にばれないよう密室などでそれを行えば、性感染症や望まない妊娠の問題解決には当然効果はまったくない。
  必要なのは、性感染症や望まない妊娠を回避できる方法の伝授であろう。40歳以上の望まない妊娠してしまう大人が多い中で、誰が15歳以下の子どもにその方法を教えるのが適切なのであろうか。竹花副知事は「親や大人の努力義務規定を設けることは、大人社会の決意を子どもたちに伝えることにもなる」と強調しているようであるが、説得力にかけるのではないかと心配になる。

  立命館大学院生 小宅理沙

表1 世代別全妊娠数に対する人工妊娠中絶件数の占める割合
(平成10年 厚生省 母体保護統計と人口動態統計から類計)
=Women's MediNavi(http://www.e-medinavi.com/index.htm)参照


UP:20041114
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