HOME > 全文掲載 >

記者の視点・2004

記者の視点・2003

原 昌平 2004 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)



◆2004  「「かかりつけ医」って何なのか?」(記者の視点12)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「真実を遠ざける「平均値」」(記者の視点13)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「「混合診療」をめぐる混乱」(記者の視点14)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「「名義貸し」の被害者はだれか」(記者の視点15)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「今こそ勤務医の会を」(記者の視点16)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「政治献金が生む不信」(記者の視点17)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)
◆2004  「「患者の味方」と思える医師会に」(記者の視点18)
 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会)


 
 
>TOP

Date: Fri, 09 Jan 2004 18:18:31 +0900
From: HARA SHOHEI
Subject: [mhr:2295] 記者の視点12

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原です。京都府保険医協会の新聞に書いているコラムの12回目です。

「かかりつけ医の責務」に関しては、これを書いた後に出された
日医の「職業倫理規程案」(このメールの末尾参照)が少し言及していますが、
さらに数歩、具体的であってほしいと思います。
(重複受信の方はすみません。以下、非営利活動転載可)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆記者の視点12(京都保険医新聞)
 「かかりつけ医」って何なのか?
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 「かかりつけ医を持ちましょう」。多くの診療所にはそんなポスターが貼って
ある。医師会や行政は何かにつけて宣伝している。
 だが「かかりつけ医」とはそもそも何だろうか。
 「行きつけの店、なじみの店を持ちましょう」と飲食店組合から言われている
ような気がして、落ち着きの悪さを感じるのは、ひねくれ者の私だけだろうか。
 もともとは患者の大病院指向が強まる中、旧厚生省が家庭医制度を構想したの
に対し、日本医師会が言い始めた言葉らしい。今では厚労省も一緒になってPR
しているが、「かかりつけ医」の明確な定義はなく、「行きつけの店」と似た程
度の意味のようだ。
 確かにいきなり大病院にかかるより、身近な開業医を活用した方が良いし、医
療費のムダも減る。むやみにドクターショッピングするのは賢くない。
 そこに異論はないが、患者に大病院信仰が根強いのは、医療の実情への知識不
足だけでなく、信頼に足る医師を見つけるのに実際、苦労するからでもある。
 専門重視の医師養成と自由開業制、自由標榜制、情報公開の規制がもたらした
「玉石混交の海」に戸惑ってしまうのだ。
 行きつけの飲食店の利点は、料理やサービスの内容と値段がわかっている、店
の人と話が通じやすい、自分の好みを考えてくれる、メニュー外の注文も聞いて
くれる、ツケがきく、といったところだろうか。
 飲食と違って病気は常連になりたくない、という違いはさておき、「かかりつ
け医」に期待される機能は次のようなものだろう。
 1身近にあって待ち時間が短い(迅速アクセス)
 2重い病気でないかの見極めを中心に初期診療ができる(プライマリケア)
 3必要に応じて専門医へ紹介できる(専門連携)
 4話をよく聞いて丁寧に説明し、健康の相談に乗れる(コミュニケーション)
 5時間外や電話の対応、往診もできる(柔軟対応)
 6病歴や体質、生活を知っている(主治医機能)
 このうち1から5は能力や資質、運営の姿勢にかかわる内容で、6はむしろ、
かかりつけた結果である。
 内容的には家庭医、ホームドクターと同じだと思う。そう呼ばないのは家庭医
を制度化させない意図と、内科・小児科以外の診療科への配慮だろうが、そんな
受け身のネーミングを医師側が使うべきなのか。患者側に行動の修正を求めるだ
けでなく、個々の開業医も先の要件を満たす努力が問われているのではないか。
 家庭医の制度化はフリーアクセス制限につながるという意見もある。私も保険
診療上の資格制度化で受診制限すると弊害が大きいと思うが、選別されたくない
という意識では困る。専門性とは別の軸で、家庭医機能の評価が何らかの形であっ
た方が患者の参考になるし、開業医の活性化にもつながるのではないか。
 とりあえず「かかりつけ医にふさわしい医師になろう」という活動はないもの
か。ついでに医療費のツケもきいたらありがたい。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆参考資料
日本医師会「医師の職業倫理規程(案)」
http://www.med.or.jp/nichikara/rinri/questionnaire.html

◆かかりつけ医の責務
 かかりつけ医として患者から選ばれた医師は、平素、患者の生活歴、薬歴など
診療に必要な患者の全体像を把握しておく必要がある。かかりつけ医は、継続的
な診療の結果として患者の診療情報を最も多く持ち、患者が病気の際に第一に選
択する医師であるがゆえに、日頃から患者の相談にのり、必要に応じて専門医へ
の紹介など、医療、保健、福祉上の様々なニーズに対応出来るよう自ら積極的に
研鑽を積んでおくことが大切である。また緊急時は勿論、一般時においても患者
に対し、常に対応出来るよう地域医療の連携体制を整備し、これを予め患者に知
らせ、その不安をなくすよう心がけておかねばならない。


 
 
>TOP

Date: Fri, 09 Jan 2004 18:20:52 +0900
From: HARA SHOHEI
Subject: [mhr:2296] 記者の視点13

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
また原です。京都府保険医協会の新聞に書いているコラムの13回目です。
(重複受信の方はすみません。以下、非営利活動転載可)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆記者の視点13(京都保険医新聞)
 真実を遠ざける「平均値」
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 厚労省が公表する統計ものの報道の中で、医療側からいつも不満が出るのは、
二年に一度の医療経済実態調査に登場する「開業医の平均月収」である。医療機
関の経営動向を公的保険運営の参考にするのは当然だから、「他人の懐をのぞく
品のない記事」という非難は無理があるが、「私はそんなにもうかってないのに…」
と嘆く開業医が多い点はよく考える必要がある。
 先月公表された今年六月分の調査の速報値では、開業医(介護保険を扱わない
個人経営診療所)の医業収益は平均二百二十六万八千円で、二年前に比べて9・
9%減。歯科開業医は百二十二万五千円で3・8%減だった。なお医療法人の一
般病院は三百三十一万円で、40%もの大幅減だが、前回調査では前々回比35%増
と毎回の変動が大きすぎ、病院に関するデータは信頼性が低いとみた方がよい。
 医業収益とは、医業収入から人件費や材料費などの医業費用を引いた差額で粗
利益にあたる。費用には建物や医療機器の減価償却費や青色専従者(家族)の給
与も含まれる。投資を伴う個人事業と、給与所得者の月収を直接比べるのは問題
があるが、「額面」から税金や社会保険料を納め、さらには住宅ローンの返済な
どで実際の手取りが減るのはサラリーマンも同じだ。
 今回の収益ダウンの原因は国民生活の低迷と保険の自己負担増による受診手控
えだろう。それでも月収二百二十六万円なら世間的にはリッチに違いない。
 ところが「実態とかけ離れている」と首をかしげる開業医が多いのはなぜか。
 詳細が公表されている前回調査分を見ると、開業医の医業収益の平均値は二百
五十一万円(七百十九か所調査)。しかしゼロ円未満(赤字)から一千万円以上
まで分布は幅広く、グラフにすると、Y軸寄りにピークがあり、右側へ長く伸び
る。中央値(順に並べて真ん中の値)は百九十八万円、最頻値(数の最も多い区
分)は百―百五十万円(百二十二か所)だった。
 結局、もうかっている医師とそうでない医師の格差が大きいのだ。開業医には
ボーナスや退職金がないことも考えると、月収百―百五十万円なら、大企業の社
員と比べてそう高額ではない(ただし定年がない)。
 これに限らず、平均値だけを見ると落とし穴にはまりやすい。国民生活基礎調
査(二〇〇一年)で、高齢者世帯の平均所得は三百十九万円だった。これをもと
に「高齢者は意外に金持ちだ」と主張する官僚や政治家もいるが、中央値は二百
四十六万円、最頻値は百―百五十万円だった。全体の27%の世帯は年収百五十万
円未満の低所得層なのだ。
 社会的な格差が広がるほど、調査データの平均値は現実から遠ざかる。数字の
一人歩きに用心したい。


 
 

Date: Wed, 21 Jan 2004 14:35:06 +0900
From: HARA SHOHEI
Subject: [mhr:2313] 記者の視点14 (混合診療)

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原です。京都府保険医協会の新聞に書いているコラムです。
(今回分は神奈川県保険医協会の新聞にも載るようです)

ややこしいテーマで、意見はいろいろあるでしょうが・・・
目的と手段、根本問題と当面の問題を区別する必要があると思います。
(重複受信の方はすみません。以下、非営利活動に転載可)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

◆記者の視点14(京都保険医新聞)
◆「混合診療」をめぐる混乱
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 「混合診療」が関心を集めている。現在は原則禁止されている保険診療と自由
診療の併用を広範囲に認めよという主張だが、様々な方面から出ている解禁・拡
大論は、動機や内容がまちまちなのに、同じ言葉を使っているから混乱する。
 経済界は、公的保険の範囲を抑える一方、医療費全体のパイは増やす。その間
の高度医療や医療関連サービスを混合診療にすることで顧客の幅を広げ、株式会
社病院や民間保険の市場にしようという発想である。
 厚労省は野放図な解禁には慎重ながら、特定療養費制度を順次拡大して国の財
政負担を抑えたい考えだ。
 経営の苦しい病院経営者は「とにかく保険外収入が増えれば助かる」、競争に
自信のある病院経営者は「質とサービス向上の努力は報われるべき」と言う。
 医師からは保険診療の制約の多さへの不満から「未承認や適応外の薬の使用を
含め、もっと自由にさせてくれ」という声がある。
 患者の一部は、未承認や適応外の抗がん剤を使うと重い経済的負担になる問題
などから「保険外の部分を自分で払うなら、なぜいけないのか」「すべて自由診
療になる現状より治療の機会が広がる」と訴える。
 経済界と国は公的保険の守備範囲を抑える方向なのに対し、医師と患者は自由
診療の一部を混合診療に移して手を届きやすくする、つまり保険の範囲を実質的
に広げて財政負担を増やす方向なのだ。
 よく考えると、医師や患者が訴える制約は、薬の承認手続きや診療報酬のあり
方が根本的な問題であって、彼らも保険で可能ならその方がよいと考えている。
 だとすれば、混合診療は「自由診療よりは経済的負担が軽い」という中途半端
な当面の解決にすぎない。「混合診療で使えるから」とされて医学の成果の幅広
い提供を遅らせる可能性もある。有意義な薬や治療法は速やかに承認し、保険適
用するのが王道のはずだ。
 公的保険には「有効性と安全性の目安」という役割もある。未確立の医療への
間口をルールなしに広げると、リスクが増大する。
 それを承知で先端医学の可能性に賭けたい患者のために、高度先進医療の種類
や医療機関の範囲を広げることは考えてよい。しかし肝心なのは、治験の改革を
含めて有用な薬の迅速な承認と供給を図ること、診療報酬や薬価の決定システム
に患者や臨床現場の意見を反映させることだろう。
 必要な医療は公的保険でカバーするという社会保障の考え方を守るか、自己責
任重視で経済力に応じた医療でよいとするかは理念と価値観による選択だが、後
者の道は「生命の価値」に差を公認することになる。
 快適性・利便性・審美性といった領域はまだしも、<医師の腕による上乗せ料
金><時間をかけた診療の追加料金>など治療の達成に直接かかわる領域で混合
診療を自由化すると、「金持ちは名医の丁寧な診療、貧乏人はヤブ医者の粗雑な
診察」になりかねない。
 再生医療、遺伝子診療、高度医療機器などで「有用性は確立したが極端に高価」
という場合が悩ましいが、救命率や生活の質に大差が生じるなら、やはり社会保
障の理念に沿った道を探るべきではないか。


 
 

Date: Thu, 26 Feb 2004 03:42:49 +0900
From: HARA SHOHEI
Subject: [mhr:2338] 記者の視点15(名義貸し)

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。

原です。

京都府保険医協会の新聞に書いているコラムです。
協会事務局の人には「辛口ですね」と言われました。
(重複受信の方はすみません。以下、非営利活動転載可)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆記者の視点15(京都保険医新聞)
◆「名義貸し」の被害者はだれか
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 北海道に端を発した医師の「名義貸し」問題が医療界を揺さぶっている。文部
科学省が1月に公表した調査結果では51大学、延べ1161人だが、医師・大学
の自主申告による数字だし、勤務時間数の水増しの実態把握は不十分なので、本
当はもっとあるだろう。
 「名義貸し」と呼ぶと響きは軽いが、病院側から見れば「幽霊医師」を使った
職員数の水増しである。医療法上は基準充足率の虚偽報告、健康保険法上は虚偽
の施設基準の届け出にあたり、それによって診療報酬の不正受給(詐欺)をして
いたケースが多いはずだ。
 スピード違反とは違い、水増しには勤務関係の各種書類のねつ造を必ず伴うの
で、病院側には不正の認識が明確にある。承知の上で名前を貸したなら医師も詐
欺の共犯である。
 医師確保に悩む病院、収入の少ない若い勤務医、人事の支配で弱みにつけ込む
大学医局の利害が絡んで蔓延した不正だが、行政にもなれあいがある。医療法に
よる年一回の立入検査は職員数の確認が最重点だが、抜き打ちは例外的で、看護
師数のチェックも十分とはいえず、医師の勤務状況の点検はもっと甘い。不正発
覚時の影響や調査の手間を考え、見ないふりをしていたことも多いと思われる。
 被害者は保険財政だけではない。不正の横行は質の低下を覆い隠し、温存させる。
少ない医師数で手薄な診療しか提供されなかった患者こそ一番の被害者であり、
医療費の自己負担分も過大徴収されていたはずだ。
 医療法の標準数は、良質な医療の確保に必要な最低基準とされる。たしかに常
勤換算で入院患者16人に1人(療養病棟や精神病院なら48対1)という医師の配
置基準に明快な根拠はないし、人数がいても能力が乏しければ質は落ちる。けれ
ども逆にいくら優秀な医師が頑張っても、人手不足だと質の低下は避けられず、
一定の基準は必要だろう。
 その基準も厳格に適用されるわけではない。医師数、看護師数の片方が基準の
80%以上なら、片方が60%でも入院基本料は減額されずに済む。両方が50%未満
でも3割カットにとどまる。そういう緩めたラインさえ割り、幽霊医師でごまか
していた病院の場合、医療密度はどうだったろうか。
 過疎地・寒冷地の医師不足は深刻だ。大都市圏なら大幅な医師不足の病院はベッ
ド数の運用を減らすか病院をたたむべきだが、過疎地では困難なこともある。
 だからといって地域差をつけて基準を緩めるのは本末転倒だろう。もともと日
本は病床数が多く、患者一人あたりの職員数が欧米より少ない。地方はさらに手
薄な体制でよいとする理由は見つけにくい。考えるなら患者の重症度を積み上げ
て必要人員数を算定する方式への転換だが、それでも医師の偏在は解決しない。
 肝心な問題は、過疎地・寒冷地の住民に必要な水準の医療を提供できないこと
にある。医師の養成・研修・派遣での優遇策とともに、診療報酬も思い切って地
域別の上積みを考えるべきではないか。むろん不正防止が前提だが、勤務時間数
を含めた医療従事者の名簿を院内と役所で公開するだけでも、簡便でかなり有効
な対策になる。

 
 

From: HARA SHOHEI
Reply-To: mhr@freeml.com
To: 原昌平
Subject: [mhr:2339] 記者の視点16(勤務医)

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原です。
続けてコラムの16回目です。
実はこれは、来週発行の京都府保険医協会の新聞に載る分ですが・・・。
(重複受信の方はすみません。以下、非営利活動転載可)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆記者の視点16(京都保険医新聞)
 今こそ勤務医の会を
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 4月からの臨床研修義務化に伴い、大学病院が一般病院へ派遣していた医師を
引き揚げる動きが相次いでいる。研修医を安価な労働力として使えなくなり、人
手不足に陥りそうなためだ。大学以外の研修病院も指導医が必要だし、それ以外
の病院では研修医のバイトが減り、違法な名義貸しに対するチェックも強まるの
で、医師確保は二重、三重に厳しくなるだろう。
 「見習い」を陰でこき使いながら、患者には「一人前」のように見せる歪んだ
やり方を是正し、研究優先だった医師養成を臨床能力重視に変えるプロセスだか
ら、過渡的にはやむをえない混乱だと思う。大学医局の封建的な人事支配に比べ
れば、企業ベースの医師の紹介・派遣も悪くない。まともな専門医や総合診療医
の制度を確立し、診療報酬上の評価に連動させれば、医師の腕の差が患者にも見
えやすくなり、博士号信仰も薄まるだろう。
 とはいえ、勤務医が「売り手市場」になるかは疑問だ。腕一本で渡り歩けると
したら一部の外科医ぐらいで、一般的にはいくら”名医”でも、病気がすいすい
治るわけではない。大多数の勤務医は、地道な医療に取り組んでいる。
 その際の診療水準を確保できれば研修改革の意味はあるわけだが、前述のよう
に病院が医師不足だと、働き口はあってもハードな勤務を強いられる。地域的な
医師の偏在、診療科による偏在が輪をかける。給料はいくぶん上がるかも知れな
いが、もともとのマンパワー不足がさらにきつくなり、事故防止や働きがいの面
では不安が増すだろう。
 妥当な着地点は入院ベッド数を整理して医療密度を上げることだが、病院経営
者、大学医局、財務省、厚労省といったプレーヤーの間で、現場の労働条件がど
こまで重視されるだろうか。この変動期こそ勤務医の団体が必要だし、その好機
ではなかろうか。
 医師会も保険医協会も、勤務医部会があるとはいえ、やはり開業医と中小病院
経営者の意見が中心になっている。日医はこれまで医師や看護師の配置基準引き
上げ論議の際、マンパワー充実にむしろ抵抗してきた。
 勤務医という空白域から独自に声を上げる方が社会に直接届きやすいし、報道
もしやすいと私は見る。
 「目の前の患者さんの診療に追われ、余裕がない」「そう思うならマスコミが
過酷な実情を取り上げて」といった声が出るのはわかっているが、本当に何もで
きないのだろうか。守備範囲に全力を注ぐ職人気質だけでよいのだろうか。
 全国の勤務医が団結して、などとは言わない。まずは飛び出す人々がいて、変
化は始まるのかも知れない。

 
 

Date: Fri, 26 Mar 2004 03:44:17 +0900
From: HARA SHOHEI
Subject: [mhr:2369] 記者の視点17(政治献金)

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原です。京都府保険医協会の新聞に書いているコラムです。

なお掲載後に情勢が変わり、日医の会長選挙(4月1日)の立候補者は25日の
締め切り時点で3人。桜井秀也・日医常任理事、宮崎秀樹・参院議員は立候補を
やめ、植松治雄・大阪府医師会長を支持して、その副会長候補に回りました。
したがって実質的には、坪井栄孝・現会長路線を「継承」する青柳俊・日医副会
長と、坪井路線の「刷新」を掲げる植松氏の一騎打ちになりました。

(念のためですが、この文章は読売新聞と関係なく個人の考えで書いています)
(重複受信の方はすみません。以下、非営利サイト転載可)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆記者の視点17
 政治献金が生む不信(京都保険医新聞)
 原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 日本医師会の会長選挙が実質終盤に入った。坪井路線の継承か変革か、この間
の国の医療費抑制策や制度改革への対応を理性的と見るか、妥協的と見るかを軸
に四氏が争っているが、本当に重要なのは、会員医師はもちろん、患者・国民に
とっても味方と思える団体になれるかどうかだろう。
 その意味で軽視できないのは、日医の政治活動、とりわけ政治献金のあり方だ。
これは国民の共感を得にくくする大きな要因の一つになっている。
 医師会は各地方で「○○県医師連盟」などの政治団体を作っている。現在は一
応、任意加入だが、その会費は医師会費に上乗せ徴収している。集めた金の多く
は「日本医師連盟」に上納され、中央分だけで年間十数億円から二十億円もの巨
費を動かしている。連盟の代表者や所在地は医師会と重なっている。
 資金の使い道の多くは自民党を中心にした政党とその支部、個々の政治家の政
治団体への献金や選挙時の寄付で、億単位の資金提供を受けている議員もいる。
講演会や懇談会などの「会費」の名目でも数十万円から百万円を多数の議員にポ
ンポンとばらまいている。
 もちろん医師にも政治参加の権利はあるし、献金もできる。医師連盟は形式的
には個人寄付をもとにした政治団体なので、そこから政党や他の政治団体への寄
付に法的制限はない。
 この手の政治団体は薬剤師や看護師を含め、他の様々な業界にもあるが、問題
は、こうした手法による献金が実質的な「団体献金」ではないかという点だ。
 政治資金規正法の目的は腐敗や癒着の防止で、そのために政治資金の公開制度
と質的制限、量的制限を設けているわけだが、根本的な理念は「金の力で政治が
左右されてはならない」ということだろう。
 企業・団体献金が批判されてきたのは、そのためだ。企業・団体・業界には
「利害」が存在する。相手が政党であれ、政治家であれ、政治献金が法案や政策
を動かすのに有効なら「わいろ性」が強まるし、有効でなければ団体内部での
「背任性」が問われるという本質的な矛盾をはらんでいる。
 様々な圧力団体や政治団体があるのは構わないが、自前で集会、宣伝、交渉を
するだけならともかく、団体を作って金を渡すのは、言論と投票以外の力で政治
を左右しようとする行動に映り、「浄財」とは受け取られないだろう。
 透明性も不十分だ。日本歯科医師連盟ではヤミ献金が発覚しており、疑獄に発
展するかも知れない。
 政治資金規正法は「国民による不断の監視と批判」を強調している。たとえ法
に直接触れない政治献金でも「外部からとやかく言う権利」はある。現実政治は
力関係だと割り切って献金を続けるなら、とやかく言われる覚悟がいるし、国民
の幅広い支持は得にくいことを認識すべきだろう。


 
 

Date: Sat, 17 Apr 2004 02:00:18 +0900
Subject: [mhr:2380] 記者の視点18(日医)

医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原です。京都府保険医協会の新聞に書いているコラムです。
このあと診療報酬汚職事件がはじけ、久しぶりにびっくりの内容。
20日後にどういう新たな展開があるか、気になるところです。
汚職捜査の常識としては、同じ構図で国会議員(職務権限が問題)や高級官僚に
伸ばすか、収賄側の調べで、別団体からの贈賄を見つけるかでしょうが・・・。
(別団体というのは日医を示唆したわけではなく、実際いろいろ考えられます)

(重複受信の方はすみません。以下、非営利サイト転載可)
(念のためですが、この文章は読売新聞と関係なく個人の考えで書いています)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

◆記者の視点18(京都保険医新聞)
 「患者の味方」と思える医師会に
 原昌平(読売新聞大阪本社科学部)

 保険医協会の新聞だが、また医師会のことを書く。
 日本医師会の新会長に植松治雄・前大阪府医師会長が選ばれた。運営刷新を求
めた原動力は、小泉政権で進んだ医療費抑制策への不満、市場原理主義の医療制
度改革への懸念、それらとしっかり対決しなかった前執行部への不信だろう。
 大阪人には商売人のイメージがつきまとうのか、欲張り村の復活とか、抵抗勢
力の代表という見方もあるようだが、私はそこそこ期待している。「社会保障と
しての医療」に信念を持っていることと、くそまじめな人物だからだ。
 特定の政党・政治家に肩入れして(というより、たかられて?)、多少のメリッ
トを得る時代は終わった。財政当局や経済界に抗して国民皆保険制度を守りなが
ら医療の向上を目指すには、何よりも世論の共感をパワーにしないといけない。
 そのために肝心なのは、政治との関係をフリーハンドに転換するとともに、
「患者の味方だ」と誰もが思える明快な政策を打ち出すことである。医師会は時
として「患者の敵」にさえ映ってきたからだ。
 まず患者に対して優位な力関係を保とうとする姿勢を改める。カルテ開示の法
制化は来年度施行の個人情報保護法で大筋けりがつくので、この際、「患者の権
利法」の制定に率先して取り組んではどうか。昔と違って、理念的にはもはや異
論は少ないはずだ。
 行政が持つ資料を含めた医療機関の情報公開の拡大、患者アドボケイト(権利
擁護者)の導入、そして窓口での医療費明細書の発行(レセプト並み)も積極的
に進めてもらいたい。
 安全対策では、医療事故報告の全面的な義務化と、訴訟外の被害救済機関の設
立が欠かせない。医師や看護師の配置水準と労働環境の改善も重要で、当面の経
営を考えて抵抗するのでなく、積極姿勢を示したうえで、必要な人材確保策と財
源を求めるべきだ。
 職能団体・専門家団体としての自浄作用の発揮に道筋をつけたのは坪井前会長
時代の功績だ。「医師の職業倫理指針」もできた。
 これからは具体的に実行する段階に入る。故意の不正請求や劣悪医療、独善的
医療、研究優先の医療には厳しい姿勢を示す。自主的な処分・再教育や医道審議
会だけでなく、保険医制度との連動も考えてよい。終身免許制と自由標榜制の見
直し、専門医資格の内実にも踏み込み、「プロ」のレベル確保に努めてほしい。
 植松氏が身内に甘いとは思わない。抵抗勢力はむしろ内部にあり、各論的反対
は多いだろう。しかし外圧でようやく受け入れるのでなく、「医師会は変わった」
とマスコミも驚くような先取りを進めれば、医療問題をめぐる社会の風向きも変
わり、医療費抑制策を打破する力になるだろう。


UP:20040327 REV:0418
原昌平  ◇患者の権利