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共生社会をめざして

(特集 安全・安心な暮らし)

東京大学 村田拓司・小板橋恵美子
『住まいと電化』(日本工業出版)(第15巻第12号) pp.9-12 2003年12月


はじめに
(1)共生社会とは
 平成14年12月に決定された国の障害者基本計画では、「21世紀に我が国が目指すべき社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会とする必要がある」と述べられています。
 現在、我が国には法的に認定された障害者だけでも601.5万人(注1:平成13年度・厚生労働省調査)、65歳以上の高齢者は2,363万人(注2:平成15年版高齢社会白書)、生活しています。そして、誰もがいずれは歳をとること、傷病や妊娠による制約を受ける可能性があることなどを考えれば、障害者や高齢者の抱える問題は、決して他人事ではない問題だといえます。すなわち、共生社会の実現は、誰もが考え、目指すべき目標であり、障害者や高齢者が抱える障壁(バリア)の解消・除去(バリアフリー)は、誰にとっても重要な課題といえるでしょう。

(2)住まいと共生社会
 住まい(住宅)は、極めて私的な空間であり、本来、その間取りや規模、設備については、持ち家なら住む人の、借家なら家主の自由に委ねられているといえます。そして、これまでのところ、多くの借家や建売住宅は、若く健康な人たちを基準に作られてきたといえます。そのため、家を借りようとすると、障害者や高齢者にとって住みにくいのなら、他を探してくれ、ということになります。たとえ借主が加齢や中途障害により住宅改造が必要となっても借家ではままならないのが実情でしょう。
 しかし、今後高齢化と障害者の社会参加が進めば、住まい作りのみならず、住まいの貸借にも、バリアフリー化を積極的に推進する必要があるといえます。
 さらに、障害の有無にかかわらず、ライフスタイルやライフサイクルの変化、その時々のニーズに応じて多様な住宅の中から選択し、居住することができれば、誰もが、どんな場合でも、その地域社会の中で、人々とともに住み続けることができ、人々の生活はより豊かになるはずです。
 住宅は、これまでのようにいつでも建て替えられる時代は終わり、今後何十年も住み続けられるものが目指されています(百年住宅構想)。このようなことからも、住宅は良質かつ多様な住宅ストックとして整備し、社会資本として考えていく視点が求められます。つまり、誰もが安心・安全に住める住宅を標準として考えていくということです。それは誰もが住まえる住宅、誰もがその地域で生きていける住宅ともいえます。

(3)障害者等をめぐる住宅の現状と課題
 現在、国の施策としては、公営・公団・公社住宅に関する身体機能低下に対応した仕様の標準化、長寿社会対応住宅設計指針による誘導、住宅金融公庫における長寿社会対応住宅等への割増融資、などが実施されています。
 残念ながら、住宅における障害者の単身入居は難しいのが現状です。地域で単身生活をしたくても、定収入が得にくい、保証人が見つからない、などの困難を抱える人たちもいます。現在、これらの人々に対する家賃補助や公的保証人制度を実施している自治体もありますが、今後、障害者や高齢者が単身でも安定した生活がおくれるような制度の充実が望まれます。
 以下、住宅の間取りや段差など、空間計画上の配慮が必要な肢体不自由者、情報の入手をはじめとする設備計画上の配慮が必要な視・聴覚障害者の個別事例を通して、「住まいにおける共生」を考えていきましょう。


肢体不自由者(車いす使用者)が家族と共生する住まい
 肢体不自由者、特に車いすを常時使用する人の住宅は、車いすで通れるような廊下幅や開口部にするほか、その人の車いすの座面の高さ、垂直方向の可動域等をふまえて、設備・機器を整え、日常的に使用する家具・什器をおさめることが求められます。すなわち車いすで生活するための「車いす対応」の住宅が計画されます。
 しかし車いす使用者が障害のない家族と暮らす場合、障害の状況にかかわらず両者が快適に使用し、共に生活できる空間が必要です。

(1)バリアの多い水回り空間
 さて、排泄や入浴といった行為は、障害の有無にかかわらず、できる限り自力で行いたい行為です。ところが、これらの行為を行う便所、浴室、洗面所といった水回り空間は、車いす使用者にとってバリアの最も多い空間です。しかもこれらのバリアをなくすために「車いす対応」としたところ、障害のない家族にとって、新たなバリアが生じるケースもあり、水回り空間は慎重に計画されなければなりません。
 車いす使用者家庭を対象に浴室の不便さについて尋ねたところ、浴室の広さや段差などに関するさまざまな不便さがあげられました(表−1)。回答者の多くは、「車いす対応」「高齢者対応」といった、いわゆるバリアフリー住宅に居住しています。残念ながら、こうした住宅であっても車いす使用者の不便さは解消されていませんでした。さらに、家族については、「(不便さは)意識したことがない」という家族がいる一方で、車いすの座面高と同じ高さにした洗い場の昇降に危険を感じたり、開口部を広く確保するために扉を設けなかった結果、寒さを感じたりする家族もいます。

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表−1 車いす使用者家庭における浴室についての不便さ・意見(1999年調査)

事例1 ハーフメイド住宅
車いす使用者
・洗い場が広くて移動がたいへん
・浴槽が埋め込み式になっているので、洗い場で流した湯水が浴槽に入ってしまうのが気になる
家族
・洗い場と脱衣所の床面に400mm の高低差があり、危険を感じることがある

事例2 車いす対応住宅
車いす使用者
・洗い場から浴槽の栓に手が届かない
家族
・扉がないために冬は寒い
・洗い場と脱衣所床面に540mmの高低差があるため、洗い場で流した湯水が脱衣所に流れていってしまうので危ない

事例3 バリアフリー住宅
車いす使用者
・水仕舞いもための段差(150mm)があり、浴室に入りにくく、危険
家族
・意識したことがない

事例4 一般住宅(浴室のみ改造)
車いす使用者
・据え置き式浴槽と洗い場の床面に630mmの差があるため、浴槽に入るのが大変で危険
家族
・浴室内で使用するマットが不衛生になりやすい

事例5 高齢者対応住宅
車いす使用者
・浴室の段差解消用のすのこの上げ下ろしが自力でできない
・開き戸は、入室後閉めるのが大変
家族
・段差解消のすのこ、マットが不衛生になりやすい
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(2)浴室の洗い場問題
 洗い場の昇降が危険だとする障害の無い家族は、入浴を終えて身体を拭かないまま、洗い場から約40cm下の脱衣スペースに降りたところ、足を滑らせて転倒した、というエピソードを持っていました。一方、車いす使用者にとっては、洗い場が高ければ車いすからそのまま移乗できるので、浴室に楽に入ることができます。
 これに対して、洗い場に危険を感じていない家族が使用している浴室は、すべて洗い場と床面が同じ高さか、あるいは水仕舞いのために数cmの段差があるような、通常目にするような浴室です。このような洗い場は、車いす使用者にとっては使いづらいというケースが多くあります。
 以上のように使いやすい洗い場の高さは、車いす使用者と障害のない家族とで異なっています。
 しかしながら、ほとんどの家庭では、浴室を複数設けることは現実的ではありません。車いす使用者、家族ともに快適に使える洗い場を計画することは不可能で、車いす使用者が、あるいは家族が不便さを感じながら、一方の使い勝手を優先した浴室を使うしかないのでしょうか。
 一つの解決方法が、浴室の中で、洗い場の高さを変えることにより、車いす使用者と家族それぞれが安全に、そして快適に洗い場と脱衣所・浴槽間を移動できるようにすることです(図−1、写真−1)。この方法は、車いすの座面高と同じ高さの洗い場に、家族の昇降用の「階段」を設けるよりも適切だと思われます。なぜならば、階段であっても、家族は身体がぬれたまま垂直方向の移動をすることになり、足を滑らせる危険性は依然として残されるからです。
 さらにこの浴室では、障害の無い家族にとっては浴槽が据え置き式、あるいは半埋め込み式になります。その結果、洗い場から浴槽内に転落する危険性が少なくなるほか、家族が浴槽の底を掃除するときに無理な姿勢をとらずに済むことになります。

(3)自分も快適、家族も快適に
 障害のない家族と共に暮らす車いす使用者のための住宅では、すべてを「車いす対応」にするだけではなく、そこで生活する家族にとっても快適かどうかを検討する視点が重要です。すなわち、「車いす対応」としたことによって、障害のない家族に新たなバリアが生じていないかどうかの確認が必要です。住宅を計画するときには、どうしても身体的機能の制約が大きい人の方に環境を合わせる発想になりがちですが、特に入浴や排泄といった毎日行われる行為をする空間、しかも共同利用する空間は、それを使う全ての人にとっての使いやすさ、快適さを考慮し、計画したいものです。そしてその後も継続的に空間を評価し、再計画していくことの積み重ねによって、家族としての快適な生活がもたらされるはずです。

図−1 洗い場の高さを変えた事例の住宅(訳者注:図、省略)
写真−1 洗い場の高さの異なる浴室−車いす使用者は高い洗い場、家族は床面と同じ高さの洗い場を使う


視覚や聴覚に障害のある人と住まい
 視覚や聴覚に障害のある人たちの住みやすい住宅の条件といっても、車いす使用者ほどには空間計画上の特別な配慮がほしいということはあまり聞かれません。住宅購入の基準としたのは、間取りや設備ではなく、立地と価格だ、というある視覚障害者の言葉に象徴されています。
 ここでは、自身が全盲である筆者(村田)の経験と視覚障害者等に聞き取りした結果を中心に、住みやすい住宅、そして共生可能な住宅のあり方について述べることにします。

(1)視覚や聴覚の障害の特徴
 視覚や聴覚の障害は、情報を得るために主要な感覚器官に制約があるため、情報障害ともいうべきものです。したがって、空間の段差や幅員に関するバリアよりも、視覚や音声の情報が得られないゆえのバリアのほうが問題です。

(2)住まいの設備における判りづらい操作系
 住宅設備は、電子化・多機能化が進むにつれ、タッチパネルのような視覚中心の操作系が増え、視覚障害者にはバリアとなっています。タッチパネルは、触れて判るボタンやツマミがなく、パネルも見えにくいものが多いからです。ある全盲者がオートロック式の新しい社宅に移ったところ、入り口でロックを解除するにはタッチパネルによる暗証番号入力が必要だったようです。しかも、そのパネル上のボタンは、セキュリティの観点から配置もアトランダムになり、当て推量で押すことさえできず、自室に入れなかった、という事例が報告されています。
 そのほか、全盲者からは、エアコンや給湯器の押しても反応が判りにくいオンオフ・温度調節などがバリアとして挙げられています。
 解決策としては、オンやオフになった際、それぞれを異なった音反応で示すことで区別する、スライド式やダイアル式の温度調節、シーソースイッチなど、触れて変化が判るスイッチ類、表示を大きくするなどが考えられます。

(3)見えない、見えにくいことからくるその他のバリア
 ほかにも、集合住宅などで、住棟番号、階段の階数表示、部屋番号表示があっても判らないか、見えにくいのは、視覚障害者にはバリアです。解決策としては、壁などとコントラストがあり、見やすい色の浮き出し数字などによる表示です。視覚障害者も晴眼者もわかるからです。
 また、透明なガラス戸、同系色でコントラストのない階段、床や家具と壁などは、弱視者にとって、判別しにくく、階段から落ちたり、ぶつかったりしてバリアになります。照明も、人により暗かったり、まぶしかったりすることもあります。蛍光管を、電球色から、色の差が判りやすい蛍光色に変えた例もあります。

(4)聞こえにくい場合のバリア
 聴覚障害者には、音情報が得にくいことが、安心・安全な生活を営むのにはバリアになります。防犯・防災の観点でも、警報音が聞こえません。
 来客や子供の泣き声が聞こえないことが、バリアとして挙げられました。来客がインタホンの呼び鈴を押したり、泣き声を感知したりすると点灯する装置などがありますが、その装置がない部屋にいると意味がない、突然明るくなるのには驚く、ということで、あきらめている例もありました。
 ただ、その事例では、画面のあるインタホンを使えば、人がきたとき、画面が明るくなることを、来客を知る手段として利用しているようでした(写真−2)。

(5)望ましい空間計画
 視覚や聴覚に障害のある人にとって、建物の構造上、バリアは少ないといっても、建物へのアプローチや廊下、室内における段差解消は、やはり望ましいとの声があります。
 また、視覚障害のある家族にとっては、開き戸が開いているとぶつかって危険なため引き戸にしたかったが、できないので、開くとメロディが鳴る装置をつけている例がありました(写真−3)。さらに、柱のような出っ張りは、距離感がなかったり、コントラストがはっきりしないため気づきにくく怖いなどの声もあります。

写真−2 来客を知らせるインタホン
写真−3 開き戸が開くとメロディが聞こえる装置


おわりに
 住宅は、地域社会で他者と共存しつつ、個人が自立的に生きていくための基盤です。21世紀の共生社会においては、全ての人にとってできる限り利用可能な、ユニバーサルデザイン(UD)の理念に根ざした構造・設備を備えた住宅の供給促進、入居支援制度の充実といった施策の推進と社会の意識転換が重要になってきます。
 UDは、全ての人にとって、できる限り利用可能な製品、建物、環境をデザインすることで、最大公約数を目指すものですが、必ずしも100%の人を満足させることはできません。UDではカバーできない個別ニーズに対する配慮も必要です。したがって社会全体としてはUDを目指しつつも、個別ニーズにも対応しうる柔軟なデザインが住宅にも求められると考えます。具体的には、独自設計による持ち家ならまだしも、障害の有無や障害種別による多様なニーズ全てを満たす賃貸・分譲住宅の建設は、ほとんど不可能ともいえます。一つの解決策としては、SI住宅の試みです。これは、骨格部分(skeleton)のみを建設しておき、内装や設備(infill)は住む人の生活様式に応じてリフォームできるように設計された住宅です。これにより、特に流動性の高い賃貸住宅の場合、住む人の生活様式、障害種別、好みに合った内装設備を注文でき、借主の身体状況の変化や、新たな借主の生活様式に応じてリフォームすることも可能で、変化への対応が容易になることが期待できます。
 家族は、社会の基本単位です。家族生活の場である住宅では、各家族員が快適に生活できるよう配慮することが必要です。さらに、住まいを訪れる様々な条件を持った来訪者にとっても快適な空間であれば、そこで行われる日常生活や社会的活動はより豊かなものとなるでしょう。
 以上のことから、第一次的には、そこに住む各家族員のニーズを満足させるいわば家族共生、第二次的には、来訪者や社会との関わりも考慮した、いわば社会共生のいずれも備えた「共生住宅」が実現してこそ、真の共生社会の基盤が整うことになるといえます。


<参考文献>
1)古瀬敏、ユニバーサルデザインヘの挑戦 住宅・まち・高齢社会とユニバーサルデザイン、株式会社ネオ書房、2002年
2)野村みどり編、バリアフリーの生活環境論第2版、医歯薬出版株式会社、1998年
3)小板橋恵美子・沖田冨美子、「車いす使用者家庭のサニタリー空間に関する事例的研究」、日本生活学論叢vol.6、日本生活学会、2001年


筆者紹介
村田拓司
東京大学先端科学技術研究センター
バリアフリープロジェクト

小板橋恵美子
東京大学大学院工学系研究科


UP: 20060909
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