HOME > 全文掲載 >

連絡書

弁護士 大石 剛一郎 2003/12/05



石神井警察署
三浦刑事 殿

                         平成15年12月5日

                   東京都中央区銀座3丁目7番16号
                           銀座NSビル6階
                    電話 03(3535)2851
                    ファックス(3535)2854
                        弁護士 大石 剛一郎 

                連  絡  書

私は、昨日(石神井警察に)逮捕された C氏およ及び B氏について、本日午
後5時接見して、同人らの弁護人になろうとする者です。同接見後に、取調担
当官の方と少しお話をしたいと思っておりますが、ご都合が合わなかったり、
無用に時間を費やしたりすることを考慮して、事前に私からお話したいことの
趣旨を御連絡する次第です。

1 本件は、構成要件に該当する行為の罪名としては(障害者入所施設への)建
造物侵入ということですが、問題の本質は、「住居の平穏」という法益侵害(刑
事的問題)にあるのではなく、A さん(3 6歳)というダウン症・知的障害を
持っている方の「生活支援」の方向性に関する争い(福祉的問題)にあります。

2 具体的には、A さんのお父さんはおそらく、「入所施設に入れるのが安心」
と考えて、A さんを入所させたのだと思います。入所施設側もお父さんの意
思に基づいて、A さんの生活支援をしようとしています。
 しかし、A さん本人は、「家に帰りたい、入所施設はイヤだ、家に帰れない
のであれば施設ではなく、アパートで暮らしたい、という意思をハッキリと持
っている」という状況があります。

3 この点については、お父さん及び入所施設側は、「A さんにはそのような
判断能力はない、そのような意思表示は無効だ」と主張されております。しか
し、A さんは、難しい法律行為の判断はできないとしても、そこに住みたい
か、住みたくないか、別のところの方が良いのかどうか、といったレベルの判
断は十分に可能な方なのです。

4 一般論として、誰でも、大人数の入所施設に詰め込まれて生活をするのは
嫌です。できることならば、地域で普通に暮らしたい、と思うものです。
 しかし、多くの場合、地域で生活する条件が整いにくいので、やむを得ず、
大きな入所施設に居ざるを得ない、というのが現状なのです。

5 ところが、今回のA さんの場合、本人のキャラクター(人から好かれる)
もあって、周囲に「A さんが地域で暮らすのを全力で支援しよう」という人が
集まりました。それが、今回逮捕されたC さんやB さんたちでした。
 しかし、彼らの生活支援については、お父さんとしては入所施設と比べて安
心できると思えなかったのでしょう。お父さんは、彼らの生活支援ではなく、
入所施設を選択しました(しかし、現実的には、入所施設でも死亡に至るような
事故は少なからず発生しています)。
 ここで、C さんやB さんたちの生活支援の方向性(地域で普通の暮らし)
とお父さん・入所施設の意思が対立する形になりました(ここに今回の事件の
本質があります)。
 そして、A さん本人の意思は、C さんやB さんたちの方向性と一致して
いたのですが、お父さんは了解されませんでした。

6 このような状況の下、私は最近、そのようなA さんの生活支援の方向性を
どうしたら良いかということについて、C さんやB さんたちから相談を受
けていました。
 私は、法律的には、A さんは既に成人に達しており、お父さんは法定代理人(
親権者)ではないので、施設を選択するにしてもアパート生活を選択するにし
ても、本人の自己決定によって決められるのが原則であり、仮にそのような自
己決定をするだけの能力がないということであれば、「成年後見制度」を利用し
て、家裁によって選任された成年後見人が本人のために決める、という形しか
ないことなどを話しました。
今回の事件は、C さんやB さんたちが、この成年後見制度の利用に関する説
明のことも含めて、あらためて、A さんの意思を確認するために、施設に赴い
たところ、発生しました。すなわち、C さんやB さんたちの生活支援(A さ
んのための)の方向性に異議を唱えていた施設(しかし、その「異議」はA さん本
人の意思には反しています)が、C さんやB さんたちの動きを止めるために、
警察沙汰にした、というのが真相です。
私は、このようなケースに警察が介入するのは適当でない、と思います。

7 A さん本人が、「施設に居たくない、自宅がだめならば、アパートで暮ら
したい」と意思表示しているのに、成年後見制度を利用することもなく、施設に
居させ続けること、更には、A さん本人の意思に沿った方向性の情報を入手す
る経路さえ絶ってしまうこと(今回の施設側の対応は実質的にこれにあたります)
は、たとえそれが、A さんのためを思って行われた・としても、それは合理的
な理由のない自由拘束であり、態様によっては監禁罪に該当する可能性もある、
と思います。

8 以上のとおり、本件は、住居の平穏を妨害するといった実態があるケース
ではなく、A さんの生活支援に関する見解の相違の中で、警察の力を利用して、
A さんを施設に居させ続けようとしているケースですので、この点をご理解
いただいたうえで、対応していただきたいと切に思います。
                                 以上


■旭出生産福祉園内と石神井警察署での事実経過の概略

2003年12月4日(木)
17:00 Aさんに関わる地域生活支援者B、Cと知的障害当事者の仲間Dが車で、
旭出生産福祉園のいつものように駐車場に入る。
作業が終わり、作業棟から出てきたAさんをB、C、Dが呼びに行くと、Aさん
が車に乗ってくる。
   Bが、園の職員に車内で話すことを伝える。
   職員らしき人が車をノックする。
17:05 Aさんと落ち着いて話すため、内側から新聞紙を車の窓に貼る。
   車の外から園の職員がビデオで撮影を始める。
17:15 石神井警察署のパトカーが到着。職員が車をノックする音。
   車中でAさんと話を始める。(以下Aさんとのやり取りの一部)
    Aさん、旭出生産福祉園の写真に「バツ」のマークをおく。
    Aさん、家の絵に「マル」のマークをおく。
    B「警察が来てるな。みんな来てるな。旭出行く?」
    Aさん、手をふって「イヤ」のサイン。
    C(車外に向かって)「あのー。話してるだけなんですよ。本人おり
     たくないって。本人がおりたくないって言ってるんですよ。何でダ
     メなんですか。本人の意志で。」
    B「出るか?A、行くか?」
    Aさん首を振る。
    C「静かに話させてください。パトカーのランプ嫌なんですよ。降り
      たがらないんですよ。旭出が嫌だって言ってるんですよ。」
17:36 B、車中より当事者の仲間に携帯で連絡する。
   「警察10人くらいに囲まれている。」
17:45 B、車中より他の仲間や所属団体代表Eにも携帯で連絡する。
17:59 Aさんの父親が来て、Aさんが車から降りる。
B、C、DはAさんが降りることを特に止めなかった。
18:10 電話を受けた仲間が旭出生産福祉園に到着するが、入り口門を警察が封
   鎖。車中から呼ばれた事を伝えても、一切門前払い。
18:35 支援者E、旭出生産福祉園に到着。B、C、Dは車から降りる。
   B、Cは現行犯逮捕。知的障害当事者のDについての扱いは不明。
18:40 EとB、C、Dが石神井警察署に連行される。
19:00 他の支援者、当事者の仲間の数人も石神井警察署到着。1階ロビーで待
   つ。
19:10 署内で、石神井警察署の刑事課課長補佐牧野氏からの説明。
牧野氏「建造物侵入で逮捕した。建物の管理者に権限がある。親には親権があ
    る。」(注:民法上Aさんは成人なので、親に親権はない。)
支援者(新井)「本人が助けてくれって連絡があってもダメなんですか」
牧野氏「そうだ」
19:25 署内から、「正当な理由のない方の出入をお断りします」という名目だ
   けで、一切の説明をなしに半実力行使にて全員追い出される。
19:40 同署近藤氏、「(逮捕の理由として)40歳になっても親権はある」「
         法律でそうなってる」
   支援者(中村)「どの法律か?」近藤氏答えず。
20:15 他の当事者の仲間、支援者が車にて署に来るが、駐車場ほとんど空いて
   るにも関わらず、駐車拒否。支援者側の質問には、上記と同じ名目。石
   神井警察署「お前たちは帰りなさい。用がない」のいってんば
   一点張り。
21:45 支援者(末永)が代表で署内に入り、警務課長代理江黒氏と話す。
   末永「何で逮捕されたんですか」
   江黒氏「建造物侵入または、住居侵入、住居部分なら住居侵入というこ
       とになる。許可なしに立ち入ったということで、旭出さんの方
       から通報があった」
   末永「今まで何回も、普通に中に入って本人と話したり、外出したりし
     てきたのに、何で今回いきなり逮捕されるんですか?双方から事情
     を聞いたんですか」
   江黒氏「こちらは、旭出さんから通報があったので行った。事情は今聞
       いている。詳しいことは、逮捕して捜査をしている段階なので
       、私からは何も言えない。」
22:10 Aさんの父親、警察署から出てくる。
22:30 D、E、警察署から出て、旭出生産福祉園に向かう。
   現地に着き、そのままD、Eは帰ってよいことになる。
12月5日(金)
9:00 Bの妻、支援者らが接見を希望したが、拒否される。
   最初、警察側は説明なく「48時間は、接見できない」(注:刑事訴訟
   法では、原則的に接見可)と主張。
   末永「弁護士との打ち合わせの為、数分だけ」
   牧野氏「あなたと会う権利があるかどうかはわからない」
   末永「弁護士は何時なら会えるのか」
   牧野氏「あんたに説明する必要はない」 
  最後、「16時以降でないと会えない」と言われる。
時間不明 C、板橋警察署に身柄を移される。
17:50 弁護士がBに接見。
   牧野氏が弁護士に「Bに監禁罪でも取り調べている」と説明。
19:20 弁護士がCに接見。

12月6日(土)
時間不明 B、C、送検され、検察側は10日間の拘留を裁判所に申請。


UP:20031212
旭出生産福祉園における不当逮捕事件  ◇知的障害者の権利  ◇全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)