選挙における視覚障害者のアクセシビリティ
――電子投票システムを中心に――
Accessibility of Election for People with Visual Disabilities
- Review of e-voting Systems -
村田拓司 中野泰志 大河内直之 前田晃秀(以上、東京大学先端科学技術研究センター)
Takuji Murata, Yasushi Nakano, Naoyuki Okochi and Akihide Maeda(Research
Center for Advanced Science and Technology, The University
of Tokyo)
Abstract - This study aims, firstly, to clarify the current status of and
challenges facing e-voting machines from the perspective
of accessibility of people with visual impairments. Secondly, it
aims to analyze the accessibility of overall election system,
including (a) the public provision of election information that is a prerequisite
for people to choose their candidates and (b)
physical accessibility of polling stations. This is needed since
even when e-voting machines are accessible, if the entire system
is not accessible, voting rights of people with visual impairments are
not fully guaranteed. This study concludes that e-voting
can be either beneficial or harmful depending on its accessibility.
It also concludes that even if the e-voting is accessible,
unless the comprehensive accessibility, which includes support from polling
officials, physical accessibility of polling stations
and provision of election information, is achieved, the election is not
accessible.
Keywords: people with visual disabilities, e-voting, accessibility of e-voting
machines, accessibility of election system
2.3 投票機の機能分析の結果
2.3.1 投票機仕様の分析結果:電子投票機は、読み上げ(出力)方式と操作(入力)方式で分類できることがわかった。表1に各投票機の機能を分類して示した。以下、各方式の概要を示す。
(1) 読み上げ方式
a) 選挙人が順次、左右矢印(「戻る」「進む」)キーを押して候補者の氏名等(候補者の氏名の掲示順の番号、候補者氏名、党派別。以下同じ)を読み上げさせる個別読み上げ方式
b) 機械が連続して候補者の氏名等を読み上げる連続読み上げ方式
c) それらの併用式
(2)入力方式
a) 左右矢印キーと○・×キー(当初は、やり直しのための△キーもあったが、その後×キーにその機能を持たせた)のみを専用のキーパッドに配置した記号入力方式
b) プッシュホンのようなテンキーをキーパッドに配置したテンキー方式
c) 1から0までの数字キーを画面下部に並べ、左右矢印キーと○・×・△キーを画面右側に配置した番号・記号入力併用式
図1 電子投票機操作のながれ
Fig.1 Flow chart of the e-voting system
操作の流れをフローチャートで示している。
a.「投票カード挿入」→「選択画面」
b.「選択画面」→(「読み上げ方式で異なる」という説明有)→「確認画面」
c.「確認画面」から、1.「選択場面」へ矢印(矢印の途中に「No」という説明がある)、又は2.「終了」へ矢印(矢印の途中に「Yes」という説明がある)。1.の場合は、b.に戻る。
d.「終了」→「投票カード排出」
3.4 面接結果と考察
A. 選挙前
(1)電子投票機の選定:多くは、住民代表、有識者、自治体職員などで構成される選定委員会が組織されるなどして、選定作業がなされる。アクセシビリティの観点からは、選定委員には、新たな電子投票機に対応しにくい高齢者や障害者が含められる必要がある(白石市、鯖江市、可児市など)。それとともに、住民の意見が広く反映できるよう、選定前にも体験会などが実施される必要がある(新見市)。
(2)電子投票の事前広報:電子投票の事前広報は、自治体の広報誌やウェブページなどで行われる。また、障害者に限れば、地元の障害者団体を通じてその会員に広報したり(広島市、鯖江市)、その総会での体験会を開いたり(白石市、鯖江市)して周知を図る場合もある。また、特に鯖江市では、視覚障害者には、音声表示による操作手順を配布しており、大玉村では、各戸に一般的な操作手順と、等寸大の実際の候補者表示画面図を配布してもいる。しかし、視覚障害者には、音声表示の配慮があることまで伝わっていないことが多い。例えば新見市では、地元の視覚障害者団体の役員でさえ、市の説明会で家族が質問して初めて視覚障害者向け配慮のあることを知り、模擬投票にも行く気になったという。広島市では、区報のほか、障害者団体を通しても広報したが、面接者のうち二人はその会員であったものの、一人は、公民館に別件でかけた電話で誘われた模擬投票で初めて、偶然、音声表示を知ったという。別の一人は、タッチパネルの報道が先行していて、前日まで音声表示などを知らず、模擬投票も億劫だったという。さらに別の弱視者は、口コミで知ったという。白石市の全盲夫婦は、投票日1週間ほど前の調査者からの電話まで音声表示等の配慮を知らず、棄権しようとしていた。もっと自治体は広報に配慮したほうが良いと指摘している。鯖江市では、視覚障害者団体の会員である面接者は、団体の会議の場での模擬投票、団体や選管から障害者向けに配布された「お知らせ」、配慮に触れたテレビ・ラジオなどで知っていた。
以上から、自治体が電子投票について広報する際に、広報誌に止まらず、障害者団体を通してのほか、報道においても障害者への配慮にも触れるよう働きかけるなど、より徹底した広報がなされなければ、新たな電子技術に対応しにくい障害者は、アクセシビリティへの不安から利用に消極的になり、棄権にも繋がりかねない。
(3)模擬電子投票:模擬投票を体験した視覚障害のある選挙人には、それが音声表示等の配慮を知るきっかけにもなったとする人が多い。体験者の多くは、戸惑いがなくなり、選挙では、円滑操作に繋がるとしている。ただし、白石市では、模擬投票で戸惑いを感じ、選挙当日は点字投票にしたという指摘も1名あった。
B. 選挙期間中
選挙情報:現在、視覚障害者向けの点字・録音の選挙公報は、原文忠実でないとの理由で、公的に保障されていない。しかし、原文忠実性もさることながら、情報の内容そのものの伝達を優先しなければ、何のための選挙情報提供か、本末転倒のそしりを免れない。電子投票において、投票の効率化を目指すテンキー方式をとる場合、新たな事前の選挙情報提供の必要性が生じている。
C.投票当日
(1)投票所アクセス:面接者は多くの場合、家族と投票所へ行く。弱視者は単独でも来ることもある。しかし、単独歩行に不慣れな中途失明者で独居の場合など、現状では、投票所アクセスの面で、投票しやすい環境が必ずしも十分に保障されているとはいいがたい。この点、介助員の優先利用など、制度的な整備が望まれる。
(2)係員の対応:視覚障害のある面接者からは、A.音声表示用のヘッドホンなどを直ちに持ってきてくれないことへの不満、B.本来選挙人自身でなすべきこととされる投票カードの投票機への出し入れを勝手にやられたことへの不安、C.専用キーパッドを逆さに、あるいは説明抜きで渡されたために生じた戸惑いなどの声が聞かれた(広島市など)。キーパッドの逆渡しなどは、一見、たいしたことでないようにも思える。しかし、模擬投票などを体験せず、選挙当日、初めて電子投票に臨んだ人などは、極度な緊張状態にあると予想される。一度操作を誤れば、予期しない人への投票になるという誤操作の結果の重大性も考えると、係員対応の適切性の担保が、電子投票のアクセシビリティ向上に不可欠である。
(3)電子投票機操作による投票:電子投票の全般的評価は、どの実施自治体でも、概ね好評であった。以下、主要な利点と問題点を列挙する。
a) 利点:第一に、弱視者や高齢者から多く聞かれたのは、これまでの自書式投票では、自身の書いた投票が判読不能で無効にならないかとの不安だった。その点、電子投票では無効票がなくなるといわれており、容易な操作で確実に投票できて安心というものである。第二に、電子投票では、タッチパネル式や音声表示式の別なく、記録媒体には同一条件で記録されることから、これまで抱いていた点字投票の匿名性の侵害や、確実に開票時に解読されているかということへの不安からの解放をもたらす。さらに、中途失明者の場合、これまで使っていた墨字も書けず、点字も習得できないため、残されるのは代理投票だが、政治信条の吐露への抵抗感から棄権してきた例もあった。そのような問題からの解放という面もある(広島市の例)。この意味で、電子投票は、点字の書けない視覚障害者に選挙参加の途を開く利器といえる。
b) 問題点:第一に、議員選挙のように、候補者多数の場合の選択に時間がかかる問題がある。記号入力方式で、カーソルキーで、順次、候補者氏名等を読み上げさせる場合のほか、今のところ、テンキー方式でも事前情報がないだけに、結局は順次、読み上げを聞いていくほかない。多数候補者表示の問題は、音声表示のみならず、画面表示でもある。今のところ、15インチ画面が主流だが、それでは30人くらいまでしか表示できない。弱視者には、表示人数が多いと、文字が見えにくいなどの問題が生じる。画面が見えにくいために投票操作途中で音声式に切り替えることが困難なことは、前述した。
参考文献
[1] 小板橋,村田:身体障害者の選挙アクセシビリティ その1 広島市安芸区における投票所の事例調査から;日本福祉のまちづくり学会 第6回全国大会概要集,pp.137-140(2003).
[2] 村田,小板橋:身体障害者の選挙アクセシビリティ その2 −広島市安芸区における電子投票後の面接調査から−;日本福祉のまちづくり学会 第6回全国大会概要集,pp.141-144(2003).
[3] Murata, T., Yada, A., Sakajiri, S.: "Universal Design for E-Voting
System in Japan"; Proceedings of the International Conference
for Universal Design in Japan 2002, pp.646-654(2002).
[4] 電子政府の総合窓口 法令データ提供システム:地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律(平成十三年十二月七日法律第百四十七号);http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO147.html,(2001,(2001).
[5] 新見市:新見市議会の議員及び新見市長の選挙における電磁的記録式投票機による投票に関する条例;http://www.city.niimi.okayama.jp/soshiki/senkyo/torikumi/jyourei.html,(2002).