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アフリカでHIVとともに生きる人々にとって必要なものは何か

〜ケア・サポートと治療、そして治療リテラシーの重要性〜

ロラケ・ンワグ(ナイジェリア治療アクション運動フォカル・パーソン)
2003/08/05
国際シンポジウム「アフリカのHIV/AIDS問題と世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の役割」



皆様こんばんは。私は治療アクション運動(TAM)からやってきましたロラケ・ンワグと申します。TAMでは,HIVエイズ・マラリア・結核に対する治療のアクセスの活動を行っております。
まず皆様,ナイジェリアに以前行かれたことはありますでしょうか?もしナイジェリアに行かれたことのある方でしたら、飛行機から見下ろす景色というものは一面がスラム街というわけではなく、非常に美しい景色であることをお伝えしたいと思います。もちろんラゴスの中にもスラム街はあります。スラム街には多くの感染、死があり、厳しい状況に置かれている人たちがたくさんいます。これは主に貧困によるものです。

エイズにまつわるスティグマの弊害

なぜ治療リテラシーや医薬品へのアクセスが必要なのでしょうか?私たちは先ほど、アスンタ・ワグラさんのいるKENWA(注:ケニア・HIVとともに生きる女性たちのネットワーク)や地元のコミュニティーからもいろいろと聞きました。
スティグマというものがある限り、私たちはこうした治療へのアクセスに自ら進んで行こうとはしません。HIVに関して、スティグマ・沈黙・恥といったものがある限り、情報や医薬品などへのアクセスは不可能です。その結果として多くの人が、死ぬ必要のない理由から死んでしまうのです。つまり治療可能な感染症から死ぬのです。なぜかといいますと、そういった沈黙や恥というものを考えていく為に、検査や治療のための施設に出向かないのです。つまり質問することすら、恥ずかしいと感じてしまうのです。

HIVに感染して・・

私は5年前にHIV検査をして、陽性であるということがわかりました。それがわかったとき、私が一番欲しいと望んだものは赤ちゃんでした。ちょうどそのとき結婚して2年たっており、夫とともに一番欲しかったものは家族・赤ちゃんでした。しかしお医者さんは「赤ちゃんを決して産んではいけない」といいました。産んだらあかちゃんがHIVに感染するからということでした。
今は状況がよくなりました。もちろんHIVに感染していても、赤ちゃんをもつことが可能ということもわかりましたし、HIVとともに生きていくということも受け入れられるようになりました。また実りのある生活も送ることができます。HIVの陽性であるとわかって、尊厳をもって生きていくことができるということが分かったのです。

HIVと生きる

私はHIVを恥じてはおりません。HIVは病気であるかもしれません。でも私は誰かを殺したり、犯罪を犯したりしたことは一度もありません。ただ、病気をもっているだけであります。
ここで私が皆様にお伝えしたいメッセージというのは、HIVは犯罪ではないということです。HIVは恥ではありません。差別される必要もありません。ただの感染症なのです。われわれはHIVに感染していることが恥であるという時代にたまたまいるのです。私たちはHIVと共に生きていく権利もありますし、薬にアクセスする権利ももっています。そういった形で、私たちはHIVを受け入れて生きていく必要があるのです。
皆さんは私たちの話を聞いてくれるようになりましたし、私たちの話を広めることも出来ます。これがアドボカシーなのです。そして私たちHIV患者は、自分たちの生活、自分たちの人生を自分の手にとって生きていくことが出来ます。

アドボカシー運動の拡大

アドボカシーとは問題に対しての関心を高める活動のことをいいます。地域に対して予防などを促進していくことです。アドボカシーでは、何をする必要があるのか?誰が行うのか?どこで行うのか?いつ行うのか?という話をします。まずこの部屋で今私が行っていることがアドボカシーですし、ここで皆様が得たものを通して何を行っていくかを考えてもらいたいです。アドボカシーのなかには、例えばHIVについて歌をつくれば、それがアドボカシーになりますし。結核についてのダンスを踊るというのもアドボカシーになります。また、マラリアに関する簡単なポスターを作ることもアドボカシーになります。

HIV/AIDSに対して現実的になることが重要

皆様は今日ここにきて何を期待なさっているのでしょうか?なぜ今この部屋にいらっしゃるのでしょうか?もちろん皆様は本当にこの問題に対して深く関心をもたれているから今日ここにきたと私は確信しております。HIVについてなら家に帰って寝るわ、というのではなく、ここに来てくださいました。私たちの話に耳を傾けてくださいました。本当にありがとうございます。
HIVはアフリカだけの問題ではなく、また中国・アメリカだけの問題ではありません。HIVは世界中どこにでもあるのです。HIVにはビザも労働許可証も必要ありません。HIVはバリアやフェンスを通して入ってくるものであります。それを遠くのものであると考えてしまうのは間違いです。この問題は誰にでも起こりうるというわけではありません。しかし誰もがみな、何か果たすべき役割というものがあるのではないでしょうか?
日本では、人口のわずか0.01%の人だけがHIVに感染しているときいています。その人口は12,000人です。しかし日本でも何も行動が起きなければ、感染が拡大していってしまう恐れがあるのです。皆さんは、ここにいるアフリカから来た人はなんてかわいそうなのだろうと思っているかもしれません。しかし国内にいるHIV患者や感染者について何も知らず、知ろうともしなければ、HIVにおける日本人の感染者は増えていきます。また国内で何もサポートをせず、アフリカの貧しい人たちに洋服を送ったとしても、国内の問題はまだまだ拡大していく可能性があります。
ここで私たちがしなければならないことは、沈黙を破ることです。HIVについて話をしていきましょう。HIVは幽霊でもなく、霊魂でも、神でもありません。HIVは何者でもなく、ただのウイルスです。HIVウィルスというのは100%予防することができるものです。予防と治療が可能なのです。私たちはエイズで死ぬ必要は全くないのです。そのためには薬品へアクセスする権利が必要です。私たちは生きていく権利を持っています。
こちらにいる私たちの仲間、アスンタさんは15年前にHIVに感染しました。しかし、今も健康に生きています。
HIVのさまざまな数字がTVでよく出てきますが、これは単なる数字ではありません。この数字に含まれている人々は、明日死ぬかもしれません。これが私たちが直面している現実なのです。そして、もし私たちが薬品にアクセスすることができれば、われわれは強く、そして健康的に、そして生産的に生活していくことが出来ますし、家庭で、そして国内で、そして(アフリカ)大陸においても貢献できる人材となりえるのです。

治療リテラシー

医薬品へのアクセスという面で私たちが今取り組んでいる事は、コミュニティーの準備です。医薬品に対して人々がアクセスをしていく際に、なぜその薬を投薬していく必要があるのか。その薬が人体でどのような役割を果たしているのか、こういうことを知っていくこと、それが「治療リテラシー」です。 
治療リテラシーでは、まず栄養についての話があります。もちろん薬は必要ですが、実際に抗レトロウイルス薬を必要としているのはHIVエイズ感染者のうちの20%以下です。サプリメントについてもお話します。私自身もビタミン剤などをとって、より健康を維持するように努力しています。最終的に薬が必要になったときに薬をとるのです。

ケア・サポートと治療の必要性

私たちは人々のHIV・エイズについての関心を高めるために運動をおこなっております。そこで世界エイズ・結核・マラリア基金:世界基金があります。治療はこの世界基金によって与えられております。政府の多くや、海外の機関などはコストがかかるので治療を直接したいとは考えておりません。政府の政策があります。
日本の政府は消耗品の供給の必要性を認めていますが、自らそれを提供していきたいとは考えていないようです。日本の政府が行っていることは、予防策、コンドームを配布したり、VCT(自発的カウンセリングテスト)を行うことです。
しかし私にとって、予防策というのは手遅れです。HIVはすでに私の血液の中にあるからです。私に何が必要かというと、そのHIVを血液のなかで、いかに一定に維持していくかということです。だから私にとってはそういったVCTやコンドームなどは役に立ちません。
私にとって今最も大切なのは、血中のHIVウイルスが私が産むであろう赤ちゃんに感染する率というものをできるだけ低く抑えるということであります。アフリカではすでに3000万人の人々がエイズに感染しております。JICAなどの開発パートナーはアフリカを助けるといって多額のお金をHIVのために活用しようとしています。しかし、こうした団体が促進しようとしているのは、予防策が中心です。つまりVCTなどです。
アフリカで、すでに3000万人の人々はHIVに感染してしまっています。もちろんVCTは非常に良いものであります。私がHIVであるということがわかれば、自分の赤ちゃんへの感染を予防することも出来ます。
しかし、VCTはそれだけでは、その後のケアやサポートを伴うわけではありません。もし私が検査を受けて、HIVにかかっているということがわかっても、なんのケアやサポートもなく暗闇に落とされてしまうのです。そして治療も受けることが出来ません。援助している人たちは、私が死を待つべき、それともHIVの淵に落ちていくべきと考えているのでしょうか?私が必要なのは、そのテストのあとの様々なサポートなのです。

HIVエイズについての関心を高める

私が今晩この場で皆様にお伝えしたいのは、ひとつのことです。「関心を高めましょう」ということです。政府に対して働きかけ、(治療薬を含む)消耗品の供給へと進めていこうということです。また、その政府からの資金を、世界エイズ・結核・マラリア対策基金のほうに入れていきましょう。世界基金には、さまざまな良いプログラムがあります。
実際にアフリカにはいろいろな面でお金が入っていますが、それは一体どこで何のために使われているのでしょうか?有益なプログラムもあります。ですから問題は、アフリカに入っているお金が何に使われ、そしてどこに使われているかということです。そうしたお金は治療リテラシーや、コミュニティーに対するメッセージの配信というものに使われるべきだと考えます。知識というものは大きなパワーを持っています。

最後になりましたが、ナイジェリアの現実についてお話したいと思います。ナイジェリアでは毎日17,123人の女性が妊娠しております。そのうちの993人がHIVに感染しています。そして母子感染プログラムについて何もしなければ、308人の子供たちにHIVが母子感染を通して移ってしまうのです。もちろん予防は必要ですが、ケアを伴って初めて非常に有益になります。ナイジェリアでは毎日465人の人々がHIVで亡くなっております。これが現実です。このことをお伝えして今日の話を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。


UP:20031228
HIV/AIDS2003  ◇全文掲載
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