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DVの実態と今後の課題

小宅 理沙 20030731,0915,1103,20040122,0315 『教育新聞』2392,2403,2414,2431,2444



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 1http://www.arsvi.com/2000/03073101.doc
 2http://www.arsvi.com/2000/03073102.doc
 3http://www.arsvi.com/2000/03073103.doc

1「被害者が加害者になる悲劇も〜5人に1人が被害経験/20人に1人が命に危機感〜」
 『教育新聞』平成15年(2003年)7月31日(木曜日)第2393号
2「女性の基本的人権を侵害〜離婚調停申し立て理由一位/ 殺害される女性120人以上〜」
 『教育新聞』平成15年(2003年)9月15日(月曜日)第2403号
3「なぜDV夫から離れないのか〜被害者は強く思い込む「自分にも悪いところが」〜」
 『教育新聞』平成15年(2003年)11月3日(月曜日)第2414号
4「支援の現状と限界〜一人で悩まず専門機関に相談/根本的な解決策は加害行為の根絶〜」
 『教育新聞』平成16年(2004年)1月22日(木曜日)第2431号
5「教育への影響を回避できるか〜保護命令の対象を広げるべき〜」
 『教育新聞』平成16年(2004年)3月15日(月曜日)第2444号

DVの実態と今後の課題1
被害者が加害者になる悲劇も〜5人に1人が被害経験/20人に1人が命に危機感〜

『教育新聞』平成15年(2003年)7月31日(木曜日) 第2393号

  ドメスティックバイオレンス(DV)を直訳すると「家庭内暴力」となるが、日本ではこれまで子どもが親に振るう暴力を「家庭内暴力」と呼んできたことから、それと区別し「配偶者・恋人など親密な関係にあるパートナーからの暴力」と解することになっている。90年代に入り、それまで「夫婦喧嘩」の延長として片づけられていた夫婦間の暴力行為が、徐々に正面から取り上げられるようになり、01年4月には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が成立し、DVは犯罪であるということが明確にされた。被害当事者の95〜97%は女性であることから、DVを「夫・パ−トナ−から女性への暴力」として定義 する書籍も多い。
  内閣府調査内閣府男女共同参画局が03年4月11日に発表した「配偶者等からの暴力に関する調査」では、DVの被害を受けた経験のある女性が5人に1人であることが明らかになった。被害の8割は殴る・ける・突き飛ばすなどの暴行を伴い(女性19.1%・男性9.3%)、その行為別内訳は、暴行が15.5%(同8.1%)、脅迫は5.6%(同1.8%)、性的強要は9%(同1.3%)だった(複数回答)。さらに、女性の20人に1人(4.4%)が命の危険を感じており(同0.7%)、「医師の治療が必要な程度のけがをした」とする女性も2.7%(同0.6%)いた。
  加害者と女性の関係は75.3%が夫婦、10.7%が恋人、4.6%が元恋人である。他方、加害経験については、男性の35.1%(女性19.5%)が暴行の経験があると答えるなど、男女間の暴力の深刻な実態が浮き彫りとなっている。
  このように、DV被害者の大多数が女性である。正確に言えば、「男性が、様々な『力』を用いて女性を『支配』しコントロ−ルしようとすること(power & control)がDVの本質」である。
しかし逆のケ−スも、ごく少数(3〜5%)であるが確かに存在する。つまり、 「力(暴力)で相手を支配する」ということ自体が悪いのであり、男性だから悪いのではない。
多くの男性は、そして女性も、間違った「男らしさ」「女らしさ」の枠組みの中で育ったことが誘因の1つなのである。
  さて、表1において奇妙なことに気付いた。言うまでも無く、全体的に検挙数が増加していることは一目瞭然である。これは、以前に比べDVの数自体が増加しているのでは決してなく、DVに対する意識の高まりによって、警察への通報数などが増加しているだけにすぎない。
  DVの問題はここ5,6年間で、急に降って沸いた社会病理というわけではない。では、奇妙なこととは何か。表の殺人項目についてである。DV被害者は女性が大半であることを確認した。実際、傷害や暴行の項目の90%以上が、夫から妻に向けられたものとなっている。
  それにもかかわらず、殺人の被害にあう妻は、いずれの年においても60%台にすぎない。言い換えると、40%くらいのケースで妻によって夫が殺害されているのである。このことは何を意味するのであろうか。一瞬何故かと考えさせられた。しかし、これはDV被害における悲劇の結果であることに気付いた。つまり、DVの被害に耐えられなくなった女性が、最後の最後に夫を殺害する他手段が無く、必要に迫られたのではないかということである。被害者が加害者になってしまうという悲劇である。
  参照/ 内閣府男女共同参画局URL=http://www.gender.go.jp/に相談所一覧/ 「グループ『女綱(なづな)』〜STOP DV とやま」URL=http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/3062/
  (立命館大学院生・小宅理沙)


DVの実態と今後の課題2
女性の基本的人権を侵害〜離婚調停申し立て理由一位/ 殺害される女性120人以上〜

『教育新聞』平成15年(2003年)9月15日(月曜日) 第2403号

  DV(ドメスティック・バイオレンス)被害、特に身体的暴力を伴う被害を受けている女性の中には、「殺されるか、もしくは、殺すかしかない」といった境遇に立たされている人も大勢いる。以前は夫を殺すという選択肢しか残されていなかったかもしれない。しかし、他に手立ては無いものだろうか。
  アメリカでは、DV発見者に警察などへの通報を義務付けたため、警察もDVの通報があれば即ちに加害者を逮捕するようになった。それと同時に、被害者女性の避難できる民間シェルターなどが増え、夫を殺すに至るまでにそこへ逃げ込むことが可能となった。そのため、夫から殺害される妻の数は依然変わらないものの、加害者の夫が妻から殺害される件数は大幅に減少した。これは、殺害されずに済む加害者にとってはもちろん、殺害せずに済む被害者女性が浮かばれることでもある。
  しかし、日本ではアメリカなどに比べて、民間シェルターなど被害者女性が避難できる場所などの受け皿が非常に少ない。このため、十分な支援を受けられないのが現状であり、これからの課題でもある。このことは、DVが犯罪であり、深刻な社会問題であるといった我々の認識が、あまりにも低すぎることを物語っている。
  さて、DVの種類には問題視されやすい「身体的暴力」の他に、 脅す・ののしる・卑下するなどの「精神的暴力」、生活費を入れない・借金を重ねるなどの「経済的暴力」、行動の監視・制限などの「社会的暴力」、性行為の強要・中絶の強要・避妊に非協力などの「性的暴力」もある。
  いずれの暴力も、圧倒的に力の強い男性から女性に対して行われる傾向にある。実際約5%の女性(男性0.7%)が命の危険を感じるような暴力を受けた経験があり、また実際に一年間で100人〜130人の女性がその暴力によって殺害されているのである。
  「そんなことが本当にあるのか」という声をよく聞くが、実際、妻からの離婚調停申し立て理由の約3割は「夫の暴力・酒乱」で、この割合は20数年来変化していないという。 毎年1千万人以上の女性が「夫の(身体的)暴力」を理由に離婚していることとなり、身体的暴力以外の項目を足せば、実質的にはDVが調停申し立て理由の1位となっている。
  こういったことから、平成13年度には「DV防止法」が成立した。それには、配偶者や恋人からの暴力も犯罪となる行為であること、国や県・市町村に、DV被害者保護の責務があることがはっきりと明記されている。同法では、DV被害者支援のために各都道府県は、「婦人相談所その他の施設」において、配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにすることが定められており、ここでは、相談・一時保護・情報提供等などが行われる。
  さらに、暴力を受けている被害者を発見した際には、警察か配偶者暴力相談支援センターに通報する努力義務が我々に定められている。そして、被害者の申し立てにより、裁判所は加害者に対し、保護命令を出すことができる。保護命令には、@半年間の接近禁止命令A自宅からの2週間の退去命令―などがあり、違反した場合は1年以上の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。
  DVは、性別役割分担意識やジェンダーを背景に、女性の基本的人権を侵害していることであり、いかなる理由においても許される行為ではない。暴力を我慢せねばならない理由はどこにもない。
  しかし、実は、DV被害者の女性の中には夫から離れようと思う者ばかりではない。夫などからの暴力にひたすら耐えることを選択するケースも多い。なぜ、危険性が高く過酷な状況に苦しんでいるにもかかわらず、抜け出す決心がつきにくいのか。これは、一見非常に理解しにくく、大変奇妙な感じがし、被害者に同情しにくい人も多い。
  しかし、そこには数多くのDV神話が存在している。DV被害女性はなぜ夫から逃げない・逃げられないのか。次回から、検討していきたい。
  参照/内閣府男女共同参画局 URL=http://www.gender.go.jp/に配偶者からの暴力被害者支援情報/ 「グループ『女綱(なづな)』〜STOP DV とやま」URL=http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Suzuran/3062/
(立命館大学院生・小宅理沙)

  *暴力根絶のシンボルマークhttp://www.gender.go.jp/


DVの実態と今後の課題3
なぜDV夫から離れないのか〜被害者は強く思い込む「自分にも悪いところが」〜

『教育新聞』平成15年(2003年)11月3日(月曜日)  第2414号

  DV被害者女性が、危険性の高い暴力を受けながらも、夫のもとから逃げ出せずにいるケースも非常に多い。それにはまず、相談する所や逃げられる場所が分からないということがある。また、暴力の事実を他人に隠しておきたいという思いや、「家を出るな」「誰かに相談するとただではおかない」などと夫に脅されることから行動できない場合もある。これらに関して我々は、比較的被害者への共感・理解が容易にできると思われる。そして、何らかの対処を考え、働きかけることも可能である。
  しかし、被害者女性は次のような思い込みに縛られているケースも少なくない。@自分にも悪いところがあったAどんな父親でも子どもには父親が必要Bこの人は私がいないと駄目C経済的自立は不可能Dこの暴力は一時的なものに違いないE優しい時が本当の彼。(DVのサイクル図参照) http://www.pref.kyoto.jp/josei/sp/n331.html#05←バタードウーマンのレノア巻によるDVの3つのサイクル図)
  DV被害女性は、夫などからの様々な暴行、あるいは強迫や卑下する言葉の暴力により、自尊心や本来持っているパワーを踏みにじられ、相談するなど行動を起こしにくい。つまり、被害者女性はエンパワメントできない状態にある。さらに、暴力を愛情表現だと勘違いしてしまう(DVのサイクル参照)ことも多い。
  このように、様々な要因が複雑に絡み合い、DV被害者女性たちが加害者の夫に依存する構造を作り上げてしまうのである。これらの悪循環を知らなければ、夫から離れない被害者女性に対して、共感や理解ができず、彼女たちを責めたい気持ちにさえなってしまう。
  実際、被害者女性を懸命に援助してきた支援者は、「時間をかけ、親身になって援助してきたにもかかわらず、なぜ夫のもとへ帰るのか」と落胆してしまうという。確かに、夫のもとを離れない、あるいは、わざわざ夫のもとへ帰ていく、といった被害者女性の行動は、非常に不思議で理解しにくい。
  しかし、こういった様々なDV神話が原因で、被害者女性たちは逃げないのではなく、逃げられなくなってしまっているのでる。
  我々がすべきことは、被害者女性がエンパワメントできる状況を作ることである。それにはまず、被害者女性の話しを親身になって聞いてあげてほしい。「あなたにも悪いところがあった」「女性は我慢すべき」「男なんてこんなもの」などのDV神話を持って、被害者女性を決して責めてはならない。なぜならそれは、被害者女性がエンパワメントできなくなるといったことはもちろん、暴力や犯罪行為を肯定していることにほかならないからだ。
  そして、警察や各関連機関、そして相談所などが、被害者女性に対して二次的被害を与えないよう切に願う。
  また、DVにおける暴力の矛先は直接子どもに向かう場合が3分の2だといわれる。子どもへの暴力は父からに留まらない。夫からの暴力により、行き場を無くした母親から暴力を受けてしまうケースもある。このように、DVと児童虐待は大変密接に関わっており、問題を切り離して考えることなどできない。あるいは、直接的な暴力が無い場合でも、母親が父親に殴られる場面を見聞きすること自体、子どもたちは非常に心理的悪影響を受けることとなる。
  DVを見聞きし育った子どもは、「暴力による支配は許される」「男の暴力に女は我慢しなければならない」などと思い込んでしまう。こういった間違った規範が修正されずに成人した場合、実際男児は妻に暴力を当然のように振るい、女児は夫からの暴力にひたすら耐える、といった傾向をもつことになってしまう。いわゆる世代間伝達である。
  このように、暴力はどこかで止めねば、永遠に続いてしまう。DVは、被害者女性にとってはもちろん、それを見聞きする子どもたちにとってもよくない。また暴力は、第三者の介入無しでは解決があり得無いという。
  次回は、実際に行われるDV被害者支援の現状について紹介する。
  相談所一覧=参照/内閣府男女共同参画局(http://www.gender.go.jp/e-vaw/sitmaptop.htm)または、「は〜とふるらんど」
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/6614/index.html)を参照。
  (立命館大学院生・小宅理沙)


DVの実態と今後の課題4
支援の現状と限界〜一人で悩まず専門機関に相談/根本的な解決策は加害行為の根絶〜
『教育新聞』平成16年(2004年)1月22日(木曜日) 第2431号

  アメリカでは、DVの通報があれば即ちに警察が加害者を逮捕する。逮捕されれば少なくともその時点で暴力はやみ、女性の受ける被害は最小限にとどめられる。日本においても最近では、警察や裁判所が加害者への対処を厳しくしはじめた。しかし、法律的にも不備な面が多く、被害者支援や加害者対処は決して十分なものではない。
  わが国でも、DVの通報があればその場で加害者は即逮捕である。ところが、DV加害者は警察に逮捕されたとしても、前科がなければ2週間程度でたいてい戻って来ることが可能である。しかも、アメリカで実施されているような教育プログラムなども科せられていない。そのため、戻ってくると以前よりもひどい暴力を再び振るう可能性が高いともいわれる。
  つまり、通報することが必ずしもベストな対策ではないのである。
  また、離婚調停申し立ての一位は実質的にはDVが理由であることを以前確認した。しかし、別れ話を切り出したり加害者のもとから離れそうな態度を取ったりすれば、「加害者から殺害されるのでは」と危険を感じる被害者にとっては、離婚を申し立てること自体もできない。
  このような現状において、今すぐにでも命に危険がある状況で、通報も法的手段もベストでないならば、まずは加害者から行方を晦ませる方が暴力を回避できる。その方法の多くは、被害者が加害者に自分の居場所がばれないよう黙って見知らぬ土地へ逃げ隠れするといったものである。
  しかし、「とにかく加害者から逃げたい」と思っていても、経済的に余裕がないか、無理だと断念して逃げられないままその場に留まり、結局は暴力を受け続けなくてはならない例も少なくはないであろう。また、一度は加害者から逃げたにもかかわらず、その後の生活が経済的にも成り立たなくなり、暴力はあったが以前の生活の方がまだましだと判断して、被害者が加害者のもとへ帰って行くケースもある。
  以上の理由で、経済力のない被害者にとっては、わが国の現状ではよほど命に危険性がある暴力でない限り、加害者の顔色をうかがいながら暴力を我慢した方がよいということになってしまうのである。
  DV被害者が、離婚・避難場所・経済面での問題・子どものこと等で悩んでいる場合は、一人で悩まず専門機関に相談することを勧めたい。「このまま暴力を受け続ければ、命が危険」「離婚話しをすれば、きっと殺される」「こんな経済状況では自立は不可能」などの一人では到底解決できそうにない問題でも、解決策は何とかあるはずだ。
  DV問題の解決方法として、被害者と加害者を離せばよいというわけでは決してない。なぜなら、加害者は再び別の人物に対して加害行為に及ぶ確率が高いからだ。結局、誰かが被害者になってしまうというサイクルが存在する限り、DVの問題が解決したとはならない。したがって、DV問題の根本的な解決とは、加害者の加害行為をストップさせることである。アメリカでは、DV加害者への更正教育プログラムに力を入れている。それに対して、日本では加害者対処にまで手が回らず、命の危険を回避するために、被害者をとにかく安全な場所へと避難させることで精一杯なのである。
  忘れられた被害者となっている、DV家庭の子どもへの支援についても、よく考えなくてはならない。DVを直接受ける女性などが被害者であることはもちろん、その家庭で育つ子どもも直接的、間接的に、様々な形で暴力を受けている被害者である。
 DV解決策には、被害者支援と加害者対処のどちらもが必要である。それと同様に、DV被害者支援とその子どもへの支援は、切っても切り離せないのである。被害者女性の支援と子どもの支援を、別々の団体、別々の法律で対処しようとすることは、問題解決に限界をもたらすのではないだろうか。
相談機関一覧 http://www.gender.go.jp/e-vaw/
立命館大学院生 小宅理


DVの実態と今後の課題5
教育への影響を回避できるか〜保護命令の対象を広げるべき〜
『教育新聞』平成16年(2004年)3月15日(月曜日) 第2444号

  01年4月「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」が成立し、10月から施行された。日本国憲法では第13条で「個人の尊重」が、第14条で「法の下の平等」がすでにうたわれているが、DV防止法によって、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関して明確化された。ただ、このDV防止法にもまた多くの落とし穴があり、新たな不平等を生み出している。
  法律名から一目瞭然であるが、これは「配偶者」においてのみ効力を発揮する。元配偶者や同棲相手、元同棲相手、恋人や元恋人などからの暴力には適応されず、この場合は被害者であるにもかかわらず、支援を受けられない。
  また、たとえ法律が適応され保護されたとしても問題は多々残る。まず、加害者から逃げる場合、被害者は居場所を突き止められないように、住民票を半永久的に移せない。そのため、必要な書類の受け取りや選挙権の行使ができないなど不自由が非常に多い。したがって、戸籍や住民登録の編成は世帯単位から個人単位とし、加害者には非公開にすべきである。
  次に、例えばDV加害者である夫の保険に加入している場合、夫の暴力による負傷の際は健康保険給付の制限を受けることがある。また、医療費通知書は夫宛に届くため、高額医療費の実費負担や、受診そのものをあきらめざるを得無い被害者も多く存在する。また、離婚調停や裁判が長引き、その間、夫が妻の保険の資格喪失手続を行わないため、新たに健康保険が作れず無保険状態となってしまう被害者も多い。したがって、世帯単位から個人単位へシステムを変換するよう、健康保険法、国民健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法の各法の改正が望まれる。
  学校、保育所に関しても、保育所の空きがないため就労の機会を失う被害者も多く、また公立高校の転校は困難なため、退学や通信制高校への転校を余儀なくされることも多い。
  暴力の回避からの断念は、経済的自立の実現が困難であるとの諦めからくると以前にも述べた。高齢女性になると全く就労先はない。就労できたとしても、先程述べたが新たな社会保険がつくれない。正規職員でさえ夫から身を隠すためには辞めざるを得ない。
 保護命令の対象に関しては、以前も述べたが、被害者に限定せず被害者の子どもや親族など、つまり被害者が指定する者を含むべきであり、さらに、申立権者も現行法では被害者のみとなっておるが、加害者からの報復のおそれなどから、自ら申し立てることのできない場合が多い。したがって、警察署長や支援センター所長が被害者保護のため申立権限を発動すべきである。
  第3条では「被害者の心身の健康を回復させるため、医学的または心理的な指導その他必要な指導を行うこと」とあり、第4条でも「婦人相談員は、被害者の相談に応じ、必要な指導を行うことができるものとする」とあるが、被害者は本人が責められるべき理由のない暴力を受け支援を求めてくるのであり、指導を受ける対象ではない。
 また、第6条医療関係者の業務についてでは、「情報を提供するよう努めなければならない」とあるが「情報を提供しなければならない」とすべきであるし、医師に相談をすると逆に夫に連絡をされたというケースもあり、安全保障が全くない。そして、第8条警察官による被害の防止についてでは、「被害者の保護その他の配愚者による被害の発生を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」とあるが、本法の前文では、「配偶者からの暴力は犯罪となる行為である」ことが確認されているのだるから、被害者の保護、暴力による被害の発生の防止のための措置を講ずることは警察官の責務であり、努力義務にとどまるものではないはずだ。
 そのほか、DV防止法における落とし穴は多々あるものの、法律が成立する以前も以降も、支援を求め行政や民間支援団体等を訪れるDV被害者女性や子どもたちがあとを絶たないというのが現状である。
 もうすぐこのDV防止法も改正されるはずの予定であるが注目してみたい。
 本文は「配愚者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」の改正及び運用改善に関する提言集を引用した。これはDV支援をする自身の関わる民間団体等や弁護士等が全7回にわたり検討会を行い作成したものである。
 立命館大学院生 小宅理沙


UP:20031214 REV:20040723
小宅 理沙  ◇DV(ドメスティック・バイオレンス)  ◇ARCHIVES
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