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障害者基本法改正の現状報告と障害者差別禁止法の制定に向けて

障害者政策研究全国実行委員会「障害者差別禁止法」作業チーム
金政玉(DPI障害者権利擁護センター所長)・池上智子(障害者総合情報ネットワ―ク)
2003/05/23 障害学研究会関東部会 第33回研究会



T 障害者基本法改正案を提起するにあたっての考え方(要旨)

 私たちは、障害をもつ人たちが、地域であたりまえにいきいきと暮らしていくため
に、多くの課題があると考えています。それぞれの課題別に、多くの運動を展開して
きました。

しかしながら、課題解決のためには、障害をもつ人たちの権利を保障する確固たる理
念が必要です。その理念となる、現行の障害者基本法は、大きな問題を抱えていま
す。

現行の障害者基本法をいかに改正しようとも障害をもつ人の権利を保障するには、不
十分で、障害者基本法でなく「障害者差別禁止法」が必要であると考えています。

2002年秋に、国際的な動きや、諸外国にも学び、障害者差別禁止法の第一次要綱案を
作成しました。多くの意見を求め、他に差別禁止法案を作成している団体とも連帯
し、要綱案を改正する作業の一方で、要綱案の議論を広め、制定に向けた運動展開を
していく方針を打ち出しています。

 今、障害者基本法の改正の動きが与党にあり、広く議論がなされないままの改正と
なることが予想され、これは、大きな問題です。少なくとも今、障害者差別禁止法の
制定が困難になるような障害者基本法改正は、認めることはできません。

とくに以下の2点が争点であると考えています。

今回の私たちの対案(作業チーム案)づくりは、障害者差別禁止法が必要となるため
の、最低限の基本法改正とするためのものです。

1 中途半端な権利保障の規定をもりこませない。(実効性のない、権利救済
規定等)

2 障害をもつ人の「障害」については、「発生予防」を前提とした医療モデルから
とらえるのではなく、社会モデルとしてとらえること


U 障害者基本法の改正に関する作業チーム案(※)について

※「障害者差別禁止法」作業チームが作成した改正案をさす。以下、作業チーム案と
する。

1.障害者基本法の主な問題点


日本においてはこの十年間、心身障害者対策基本法が障害者基本法(1993年)に改め
られ、ハートビル法や交通バリアフリー法、または契約型の福祉サービスの利用等に
ついて定めた社会福祉法などのいくつかの法律が制定された。しかし、いずれも権利
の明記とその行使にあたっての国及び地方公共団体、民間事業者等への義務規定なら
びに差別の定義とそれを違法とする禁止規定がなく、国及び地方公共団体の障害者施
策の推進を促すことを基本とする努力義務を課す規定にとどまっている。



現行の障害者施策の包括的根拠となる障害者基本法(以下、基本法とする)について
は、主に次の問題を指摘することができる。

@ 障害の定義(第2条関係)では、「この法律において『障害者』とは、身
体障害、知

的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する)があるため、長期にわたり日常生活
又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」とあり、生活上の「制限を受ける者」
という考え方は示されたが機能的な障害を列挙することにとどまり、未だ具体的な施
策やサービス受給につながる現行法の「障害者」の定義は、機能障害に重点をおく
「医学モデル」にとらわれている。それは、サービス受給を限定する欠点をもつだけ
でなく、障害をもつ人の権利を保障する意味においても次のような重大な欠点があ
る。

(ア)「医学モデル」による「障害者観」は、本質的な問題として、伝統的に障害者
を恩恵と保護による福祉施策の「特殊な対象」とみなすことによって、市民社会のあ
らゆる場面で対等な構成員として存在することを阻害してきた。

こうした福祉施策の「特殊な対象」とみなす「障害者観」は、障害をもつ人を胎児の
段階から現在の社会に存在しないほうがいい「不幸な人々」としてみていく社会意識
と深い関連をもち、それが現行の基本法において「障害の予防に関する基本的施策」
(第3章関係)として章立てまでをする法的根拠の背景になっている。

(イ) 「障害者の範囲」が心身の損傷または欠損による機能障害が医学的基準に
よって

認定(特定)され、日常生活動作(ADL)を基本に障害等級が決定されて、それに
対応する福祉サービスが支給される。そのために、こうした対象者の範囲は必然的に
限定され、日常生活動作(ADL)を中心とする判定基準に該当しない、例えば、高
次脳障害や学習障害(LD)、顔面のあざ等によって差別を受ける「ユニークフェイ
ス」の当事者たちは、多くが現行の「障害の定義」から除外されることになる。

今後の課題として、環境的要因から障害をもつ人の権利を保障する社会モデルへの転
換が急がれなければならない。

A 基本的理念(第3条関係)では、「すべて障害者は、……あらゆる分野の活動に
参加する機会が与えられる」となっている。つまり、障害者は「参加する機会」が恩
恵的に「与えられる」対象とみなされ、障害者の社会参加を権利として保障するとは
なっていない。つまり、「更生」と「保護」に基づく旧来からの障害者施策の考え方
にとどまり、当事者に対して障害の軽減と克服への努力をおしつける考え方を堅持し
ている。

B 「自立することの著しく困難な」重度の障害者に対しては、保護の観点から施設
入所を引き続き推進するという点では、〈施設から地域へ〉という明確な方向が打ち
出されていない。(第10条の2〜第11条関係)

C 自治体の障害者計画の策定をはじめ、各基本的施策に関する規定が「努力規定」
の枠内にとどまり、権利の確立に向けて実効性をあげていくことには限界がある。

(第7条の2関係)



2.改正の主な課題



基本法の改正の重要な課題として、次のことが上げられる。
@ 障害者の定義を個人因子に着目した「医学モデル」から、環境との関係を問題に
する「社会モデル」へ変更すること。
A 都道府県、市町村の障害者計画策定と報告の義務づけを明記すること。
B 国及び地方公共団体の審議会における障害者施策の決定過程への当事者参加(審
議会等の構成割合)を明記すること。
C 施策の基本方向として、「施設・病院から地域生活へ」、「統合教育を基本とす
る」など   を明記すること。



3.現行基本法の修正及び削除事項



前項における基本法の主な問題点を踏まえて、以下の修正及び削除事項を提起する。

(1) 修正事項について

●別紙:「作業チーム案と現行基本法の対照表」を参照

(2) 削除事項について

  @(自立への努力)第6条1〜2関係

  A(施設への入所、在宅障害者への支援等)第10条の2〜4関係

  B(重度障害者の保護等)第11条関係

  C(職業指導等)第14条1〜2関係

  D(判定及び相談)第16条関係

  E(措置後の指導助言等)第17条関係

  F(施設の整備)第18条1〜2関係

  G(専門的技術職員等の確保)第19条1〜2関係

  H(資金の貸付け等)第21条関係

  I(経済的負担の軽減)第23条関係→?

  J(施策に対する配慮)第24条関係

  K(文化的諸条件の整備等)第25条関係

  L第3章 障害の予防に関する基本的施策 第26条の2関係

  M第4章 地方障害者施策推進協議会 第27条1〜4関係



4.対照表と作業チーム案の要点



@ 前記の「2.法律上の枠組みに関する考え方」と「3.主な課題」に基づいて、
国及び地方公共団体に「施策実現のための基本計画」の策定を義務づけることが主な
目的であることを明確にする。

A 用語について、障害者の定義を個人因子に着目した「医学モデル」から、
環境との関

係を問題にする「社会モデル」へ変更していくことによって、障害が社会の構成員の
共通課題であるという考え方を普及させていく観点から、作業チーム案では「障害を
もつ人」という用語を用いる。その上で「施策実現のための基本計画」に関連する部
分では、便宜上、「障害をもつ人」を「障害者」と表記する。

B 「第2章 障害をもつ人の基本施策」では、「障害者差別禁止法−要綱案」
(作業チー

ム作成02年9月 別紙参照)の「基本事項」(第2章)とを対照させ、社会サービス法
と差別禁止法のそれぞれの守備範囲との関係において、共通するものとしないものを
区別する。

C 障害者施策推進審議会については、第1章(総則)で審議会の設置を提起し、第3
章では、計画(予算・執行)、評価、監視、調査・提言等の審議会の機能について提
起する。

5.法律上の枠組みと基本法「改正」の前提に関する考え方



本来、あるべき法律上の枠組みの基本は、障害者差別禁止法の制定であり、差別禁止
法を積極的に補完するための社会サービス法の制定が必要である。

社会サービス法においては、障害をもつ人の自立と社会、経済、文化その他あらゆる
分野の活動への完全参加と平等を実現するための国及び地方公共団体の環境整備にか
かわる施策義務の基本事項と、事業者の配慮義務にかかわる基本事項を明記する。

したがって、このたびの基本法の改正においては、近い将来のより実効性のある障害
者差別禁止法の制定を目標にすることを前提とし、その目標の実現に向けた橋渡し的
な役割を果すための社会サービス法の制定という位置づけと方向にとどめた検討が最
も重要な課題であると考える。

以上の考え方から、基本法改正の必須の前提事項として、次の2点を提起する。



第一に、「1.障害者基本法の主な問題点」の@−(ア)(イ)で述べた理由から、
「障害の予防に関する基本的施策」(第3章関係)は削除すること。



第二に、「障害の定義」と「差別の定義」の相関関係が当事者の声を十分に踏まえて
多角的に議論されていない現状の中で、本質的に民事法上のアプローチから規定する
べき「差別禁止」と「権利救済機関の設置」に関する規定については、今回の基本法
の改正を社会サービス法的視点から国及び地方公共団体の施策義務とそれにかかわる
事業者の配慮義務を定めることにとどめるという方向性との関係において、法律上の
整合性と実効性の面から、結果として曖昧さと問題を生じる可能性があるため、当該
規定(「差別禁止」と「権利救済機関の設置」)は設けないこと。


V 障害者差別禁止法の要綱案について

◆障害者差別禁止法の基本的枠組みについて

 障害者差別禁止法を立案して行く場合に、基本的な権利構成との関係において、ど
のように考えていくべきなのだろうか。一般的に人権規定を大別すると、国際人権規
約の枠組みをみても自由権と社会権に大別して構成されている。

 差別禁止法の基本形態が「民事法上のアプローチ」にあるという観点からすると、
その構成要件としては、次のように整理することができる。

(一)自由権を基本的柱として国内の最高法規、つまり差別禁止法の上位法となる憲法
との関係を考えていくことになるが、この場合、憲法の根拠条項としては、十三条
(自律権・幸福追及権)と十四条(法の下の平等と基本的人権及び自由を享受する権
利)を中心に位置づけること、その上で、自由権を基調とする目的、理念を達成する
ための積極的な手段として、社会権(所得保障や介助サービスまたは教育や就労等の
特別のニーズ)に基づく事項を結び付けて組み立てていくことが重要になってくる。

(二)前記(一)の組み立てを前提にした上で、移動、建物または就労、教育等の各課
題(基本事項)ごとに、@障害を理由とする「差別を受けない権利」、A「差別の禁
止に関す規定」、そして配慮義務として、B不特定多数の障害をもつ人への国及び地
方公共団体の環境及び基盤整備に関する「施策義務」と、C個別的権利侵害事例に対
応することを民間事業者等に求める「配慮義務」など、4本の項目だてを行ない、そ
れぞれの項目ごとに必要な内容を明記していく。

(三)差別禁止法における国及び地方公共団体の「施策義務」と民間事業者等に課す
「配慮義務」の実効性を具体的に担保するためには、独立性と専門性の機能が確保さ
れている「実施及び救済機関」と「支援機関」について明記し、準司法的段階と司法
(裁判)の両方に対応できる手法によって迅速に問題解決を図る仕組みの内容を明示
する。



第1章(総則)―主な論点



1 障害の定義と差別の関係について

(一) 障害者基本法の「障害の定義」の問題性

  障害者基本法(1993年)の第二条(障害者の定義)では、「この法律において
『障害者』とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下『障害』と総称する)があ
るため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」と規定
している。これは心身の機能上の障害により「長期にわたり日常生活又は社会生活に
相当な制限を受ける者」という能力の不全と心身の損傷による機能障害に着目した
「医療モデル」に基づく「障害者観」である。

(二)こうした「障害者観」は、伝統的に障害者を恩恵と保護による福祉施策の「特殊
な存在」とみなしていく法的根拠の背景になっており、障害をもつ人が市民社会のあ
らゆる場面で対等な構成員として存在することを阻害してきた。「障害の定義」を環
境的要因からのアプローチによって明確にし、その阻害要因(差別の原因)の除去を
求める「社会モデル」への転換が急がれなければならない。



2 障害をもつ人への積極的改善策の実施を明記する

アファーマティブ・アクションの定義を導入するという観点から、障害をもつ人の権
利及び自由・機会の均等を保障することを目的としてとられる積極的改善策は、障害
をもつ人への差別とはみなさないこと。また、このような措置は、その結果、その目
的が達成された後は継続させてはならないことを明記する。



3 加害者に対する挙証責任の義務づけを明記する

現行制度においては、権利侵害事案が発生した場合、障害をもつ当事者が被害救済の
申立を行ない、被害者に「立証責任」が課せられている。現実にはそれができないた
めに被害者に泣寝入りを強要する結果を招いてきた。こうした現状を踏まえ、被申立
て人側が「差別ではない」と主張する必要があると認める場合には、まず被申立て人
が、その挙証責任を果さなければならないことを明記する。



4 自己決定権の保障を明記する

障害をもつ人が、権利主体になるためのもっとも核心的なテーマが「自己決定の保
障」である。法律上の手続き(成年後見制度)による場合を除いて、障害をもつ人自
身の生活全般に関する意思決定に関し、適切な情報の提供を得て、選び、決定し、自
己の利益にも不利益にも、他人の関与を受けない権利を有することを明記する。



第2章 障害をもつ人への差別禁止と権利に関する基本事項―主な論点



1 地域生活  2 移 動  3 建 物  4 利 用  5 情報とコミュニケーション

6 教 育   7 就 労  8 医療とリハビリテーション

9 出生    10 性   11 政治参加   12 司法手続



1 地域生活について

(一) 障害をもつ人は、その種別、程度に関わらず、障害を持たない他の人と同等
に、いかなる差別も受けることなく、地域で生活を営む権利を有することを明記し、
地域生活に必要不可欠なものとして、所得及び介助保障、住宅等の実体法として整備
されなければならない必要事項を国及び地方公共団体の施策義務として明記する。

(二) 「移動」「建物」「利用」等についても、同様の観点から「基本事項」を定め
る。この際、「民間事業者等の配慮義務」については、当該事業者に「過度な負担」
の証明(説明)を行う責任があるとし、当該事業者が「過度な負担」の証明を適切に
行うことができたと認められる場合は、例外的措置として取り扱うことができること
を明記する。



2 情報とコミュニケーション

(一)障害をもつ人が幅広く情報を享受・利用し,また表現することを保障する条項
として、 聴覚や視覚の障害に限らず、知的障害等により文章理解に制約のある人の情
報に関わる権利についても明記する。

(二) 放送事業や電気通信事業は、国の免許・許可事業であるからその仕組みを利
用して、それらのユニバーサルデザイン化を進めることを国の義務とするという観点
から、国及び地方公共団体の配慮義務(施策義務)として、事業者の事業が国及び地
方公共団体の免許・許可等に係るものであるときは、その免許・許可等の条件に障害
をもつ人への対応の整備を含めなければならないことを明記する。



3 教 育

(一)教育に関する権利として、障害をもつ人は、同世代の障害をもたない人と統合
された環境のもとで、その個々人にとって必要な支援を受ける権利を有することを明
記する。

(二)ろう教育を必要とする人は、手話という独自の言語を修得するために必要な支
援を受ける権利を有し、その権利の確保のために、統合的な環境以外の場における教
育的支援を希望することが、権利として保障されることを明記する。

(三)教育に関する事業者の配慮義務として、 教育を提供する事業者は、障害をもつ
本人または代理人の合意にもとづき、その本人にとって必要な個別支援の内容をとも
に作成し、提供しなければいけないことを明記する。

4 就 労

(一)国および地方公共団体の施策義務として、障害をもつ人が就労する上で障壁と
なっている欠格条項や最低賃金適用除外、雇用率算定方法など、法制度上、障害を理
由とした差別的ないかなる条項も設けてはならないことを明記する。

(二)国及び地方公共団体は、障害をもつ人の雇用を進めようとしない事業所に対し
ては、事業名の公表等の厳しい措置と罰則をともなった制度的措置を実施しなければ
ならないことを明記する。



5 出生と性

(一)妊娠、出産に際し、いかなる障害をもった胎児も生きる権利を有することを明
記し、出生に関する差別禁止事項として、次の点を明記する。

 @すべての人は、妊娠に際し、障害を排除するための治療・検査を強制されてはな
らない。

 A胎児に対して、障害を理由とした中絶を禁止する。

(二)性に関する差別禁止事項として、次の点を明記する。

 @障害をもつことを理由に、子宮摘出および断種など生殖機能を奪うこと

 A障害をもつことを理由に、避妊、中絶を強要され、子どもをうむ機会を取り上げ
られること

 B障害をもつことを理由に、子どもを育てる機会を阻まれること



6 政治参加

障害をもつ人の政治参加に関する差別とは、障害をもたない人と異なる取扱いを受け
た場

合をいい、これを禁止する。政治参加に関する異なる取扱いとは、次のことをいう。

@障害をもつことを理由にして、投票の機会が制限されるか失われること。

A障害をもつことを理由にして、選挙に関する情報が公平に提供されないこと。

B障害をもつことを理由にして、被選挙権、及びそれに付随する選挙活動が、事実上
制限されるか奪われること。

C障害をもつことを理由にして、議員としての活動が、事実上制限されるか奪われる
こと。



7 司法手続

障害をもつ人の司法手続きにおける固有の権利について明記する。

@ ろう者が手話を利用し,視覚、聴覚に障害をもつ人、または盲ろう者が自己
の感覚機能を補完するために補助者を利用することはその者の固有の権利であり、い
かなる場面においてもその利用を制限されない。

A 知的障害・精神障害をもつ人が自己の理解を助けまたは心理的安定を保持する為
に補助者を利用することはその者の固有の権利であり、いかなる場面においてもその
利用を制限されない。



【第三章】 実施および救済機関



1 組織体制

(1) この法律を実効性あるものにするために、その実施機関として障害をもつ人
への差別禁止と権利に関する委員会(仮称「障害者人権委員会」)を設置する。

(2)「障害者人権委員会」の理事会は、障害をもつ人、権利擁護に関する学識経験
者、弁護士、検察官等から構成され、かつ行政から独立した組織とする。

(3)「障害者人権委員会」のもとに、以下の課題別専門部会を設ける。

1 地域生活  2 移 動  3 建 物  4 利 用  5 情報とコミュニケー
ション

6 教 育   7 就 労  8 医療とリハビリテーション

9 出生    10 性   11 政治参加   12 司法手続

(4) 専門部会は、課題ごとに問題の実態を類型化し、何が差別であるのかの解釈
指針を作成し、かつ本法を具体的に実施するための細則を作成する。



2 実施機関としての役割

この委員会の実施機関としての職務および権限は、以下のとおりとする。

(1) 障害をもつ人のおかれている現状を調査して、我が国の差別の実態を明らか
にすること。

(2) 本法の施行に向けて、差別の定義、配慮義務等の解釈指針を策定し、これを
広報すること。

(3) 本法により策定されるべき国の施策の大綱を作成し、これに基づいて国が策
定した施策の内容、実施状況について調査・監視し、定期的にその調査結果とそれに
対する意見を内閣に提出すること。

(4) 本法の改正、関連法令の改廃・制定に関し、提言を内閣に提出すること。

(5)本法の実施に関する相談窓口を開設し、情報の提供、権利擁護に関する教育を
実施すること。

(6)構造的な差別に関しては、勧告ないし、是正命令を発すること



3 救済機関としての役割

この法律に基づく権利を侵害された場合の救済機関として障害をもつ人に対する差別
禁止委員会(仮称「障害者差別禁止委員会」)を中央ならびに都道府県を一つの単位
として地方に設置する。

この委員会の救済機関としての職務および権限は、以下のとおりとする。

(1) 障害者差別禁止委員会は、複数の救済委員を任命する。

(2) 障害者差別禁止委員会は、申立てを受けると、まず、任意の調査をしなけれ
ばならない。任意の調査によって事案が明らかにならない場合でかつ事案の解明が必
要と思料される事件に関しては、職権による立ち入りも含めた調査を実施する。

(3) 調査の結果、差別・虐待等の行為が明らかに存在しないと思料する場合を除
いて、救済委員が被害の回復に向けた調停を開く。

(4) 調停が不調に終わった場合で、かつ差別行為が認定されるときには、事案の
重大性、緊急性に応じて、是正命令、警告、勧告、要望、公表等の処分をなす。

@被害者の救済に必要な場合、緊急一時保護等により、被害者を保護しなければなら
ない。

Aまた、行為が犯罪にわたると認定したときには、告発をしなければならない。

B事案の重大性、被害の広範性に鑑み、訴訟を提起しなければ、根本的な救済になら
ないと思料するときには、自ら訴訟を提起し、又は、被害者が起こした訴訟に参加す
ることができる。被害者が提起した訴訟において、証拠資料の開示を求めた場合、こ
れに応じなければならない。



4 国の責務

国は、司法および準司法救済に関して、裁判所および「障害者差別禁止委員会」等の
準司法機関が実効性ある救済手段を持ち得るよう、事案の特性にあった調停、裁判等
の所定の手続、差別を是正するために必要とされる積極的な作為命令等に関する法律
を整備しなければならない。



【第四章】 障害をもつ人のための支援機関



1 組織体制

(1) 国は障害をもつ人の権利に関して障害をもつ人の立場に立ち、相談を受け、
若しくは代理人として、任意の交渉や行政救済手続、司法手続により問題を解決する
機関として、都道府県を一つの単位として障害をもつ人のための権利擁護機関(仮称
「障害者権利擁護センター」)を設置する。

(2)「障害者権利擁護センター」は、公益法人とし、その理事会は、障害をもつ
人、権利擁護に関する学識経験者、弁護士、福祉専門職等から構成される。



2 職務および権限

(1) 障害者権利擁護センターは、障害をもつ人、弁護士、福祉専門職、学識経験
者を職員として配置し、障害をもつ人の立場に立ち、障害をもつ人および関係者の相
談に応じる。

(2) 障害者権利擁護センターは、相談を受けたうえで、問題解決に必要な場合、
相手方ないしは関連機関に対して、任意および職権に基づく強制調査を行う権限を有
する。

(3) 調査の結果、問題解決に必要であれば、代理人として相手方との任意の交
渉、行政救済手続、司法救済手続を通じた問題解決を図る。

(4) 以上の手続は、無料でなければならない。但し、問題解決により、障害をも
つ人が実際に金銭的利益を得た場合、一定の基準により報酬を得ることができる。



3 国の責務

(1) 国は、障害者権利擁護センターを各都道府県に一つの割合で、その資質を有
する公益法人に委託し、障害をもつ人および専門家を複数職員として配置できる予算
を割り当てなければならない。

(2) 国は、同センターの理事および職員の選任、解任、同センターの運営等に関
与し、その独立性を侵してはならない。

以上


※「要綱案」の全文とその「補足説明」は、「当事者がつくる障害者差別禁止法〜保
護から権利へ」(「障害者差別禁止法制定」作業チーム編・現代書館発行・2002年10
月)に掲載。



UP:20030522
報告記録  ◇障害学研究会関東部会  ◇全文掲載
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