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障害者基本法改正法改正の現状報告と障害者差別禁止法の制定に向けて

金政玉・池上智子
2003年5月23日 第33回障害学研究会関東部会 三田障害者福祉会館



Date: Mon, 09 Jun 2003 21:49:00 +0900
Subject: [jsds:8125] 第 33 回障害学研究会(関東部会)記録

土屋葉@関東部会世話人の一人、です。

遅くなりましたが、先日の研究会の記録をアップいたします。ロ
グを参考にして作成し、金さんと池上さんに確認していただきま
した(金さん、池上さんありがとうございました)。当日のレ
ジュメは[jsds:8059] にあります。

初めて参加される方も多く、ホットな話題にもりあがりました。
今後も目が離せないところだと思います。

********************
2003年5月23日
13:30〜16:30
第33回障害学研究会関東部会 三田障害者福祉会館


『障害者基本法改正法改正の現状報告と障害者差別禁止法の制定
に向けて』
報告者:金政玉・池上智子
司会:長瀬修

(参加者の自己紹介)

金:長瀬さんから絶妙なタイミングでテーマをいただいた。私が
このところの障害者基本法の改正の動きについて、そのあとで池
上さんが障害者差別禁止法の概要について話す。

○障害者基本法改正について
 まず、障害者基本法の改正について。障害者基本法は1993年
に議員立法として制定された。身体障害者福祉法、知的障害者福
祉法、精神保健福祉法などの実定法の包括的な根拠になる法律で
あるといわれている。10年たち、社会経済的な状況が変化し
た、関連するいくつかの法律が制定されたことが改正の背景にあ
る。しかし、単純に時間がたったから改正をするというのではな
い。何をテーマにするかいろいろと意見がある。

 2000年にワシントンDCで障害者法制に関する会議があった
際、国際的には障害者差別禁止法を定めている国が43あるとい
う報告があった。当事者団体として、障害をもつ人の権利の確立
を考えてきた立場からすると衝撃的だった。これをきかっけに、
障害者基本法の改正ではなく、差別法禁止法制定に向けた動きを
はじめた。具体的には、2年前に障害者政策研究全国実行委員会
のなかに「障害者差別禁止法」作業チームを設置し、制定に向け
て取り組みをしてきた。日弁連が「障害者差別禁止法」制定にむ
けて動いているという経過もある。
 
 この一方で、2002年8月、「アジア太平洋障害者の十年」最
終年記念フォーラム実行委員会のシンポジウム「障害者差別禁止
法の展望に向けて」が開かれた。そのときの講演で、与党の国会
議員から次の通常国会で障害者基本法改正をし、拘束力のある法
制にしたいという発言があった。それが障害者基本法改正の動き
が出てきた直接のきっかけで、最近の動きは今年4月に与党3党
のなかで関係協議がもたれたことがある。
 いったん改正されると、10年くらいは据え置かれる。「障害
者差別禁止法の制定はすぐには無理。何よりも経済界の反発があ
る」と言われている。近い将来のうちに障害者差別禁止法をつ
くっていきたいと考えているが、基本法の改正によって差別禁止
法の制定が「一見落着」とされて、棚上げされる恐れがある。そ
うさせてはならないという気持ちを強くもっている。当面は障害
者基本法の改正のなかに、障害による差別を禁止し、権利に関す
る規定をどのように盛り込むかということが最大のテーマ。

(以下、「障害者基本法改正案を提起するにあたっての考え方」
レジュメ参照)

 今、唐突なかたちで障害者基本法改正が行われようとしてい
る。現実に与党案が出されていることから、数の論理で通過する
可能性もある。もし基本理念に「差別禁止規定」が盛り込まれた
としても、国や地方公共団体、民間事業者の配慮義務や救済機関
に関する規定がなければ実効性はほとんどない。差別禁止法制定
を10年まつということにしてはならない。

池上:障害者総合情報ネットワークの事務局員である。障害者総
合情報ネットワークは、障害者当事者が情報を収集し分析して、
政策を提起していこうということでたちあがった団体。専従は2
人。その他は私を含め、仕事をもちながら事務局員をしている。
情報誌等の発行の他に、毎年、DPIなどと実行委員会をつくり、
障害者政策研究集会を開き、いろいろな課題に対して政策提言を
していこうという動きをしている。
 当初はこの政策集会実行委員会の基本政策のプロジェクトのな
かで、「障害者基本法の改正」を考えていた。「心身障害者対策
基本法」の改正の時に、似たようなメンバーで改正案つくりの議
論をしてきており、「基本法」が満足のいくものではなかったと
いう認識をもっていた。しかしプロジェクトのなかで、基本法改
正では不十分で、差別禁止法をつくらなければならないというこ
とになり、チームを再編した。あくまで障害当事者が何を差別と
感じ、何を権利ととらえるかを考えている点で、他の団体の差別
禁止法案とは異なる特色があると思っている。
 2002年の秋から障害者基本法の改正という話があがってき
た。これでは障害者基本法改正が中途半端なかたちで成立してし
まい、差別禁止法につながらない、という危機感で、急きょ、改
正案をつくった。この改正案は、私たちの望むものではないが、
最低限のものを盛り込ませ、また削除させるところはさせ、さら
に、差別禁止法が必要だということにつなげたい。男女共同参画
社会基本法など、これまでになく、一定の権利が明記される法律
もできている。これは評価すべき点もあるが、差別禁止に関して
弱いところをもっている。ここからも学ばなければならない。中
途半端な基本法をつくらせてはならないと思っている。あくまで
差別禁止法が必要だというところにつなげていきたい。

 障害者差別禁止法の要綱案について(レジュメ参照)

(質疑応答)
司会:障害者基本法についてだが、実際に活用する場面もあっ
た。ある憲章のなかに障害者支援の規則を盛り込む際、知らない
人には「障害者基本法」という国の法律があるということを話す
ととおりやすい。

**:二つ。改正は全文改正なのか、一部改正なのか。また、判
例についてわかれば教えてほしい。
金:基本的には一部改正ということで協議がすすんでいる。支援
費制度への変化、認定就学児童への支援策など、関係領域で状況
が変化したということで、必要な部分を改正しましょうというと
ころ。裁判の事例については、日弁連が事例集をつくろうとすす
めているところ。また、『当事者がつくる障害者差別禁止法』
(現代書館)にも掲載。

**:「情報保障とコミュニケーション」のところ。重要な部分
だと思うが、情報手段に関してインターネットをふくめた情報機
器の記述が必要だと思うが。
鎌田:作業チームの一員です。14条の内容は差別禁止法にある
条項を使っている。手段というよりも情報がのっている媒体でわ
けている。インターフェースの対応の問題が抜けているのではな
いかという指摘も出ている。

(休憩)

**:日弁連との協力体制は?障害者差別禁止法(要綱案)は、
刑法、民法、憲法、社会福祉法のアプローチのどの類型にあては
まるのか?日本では民法がかならずしもよいということにはなら
ないのでは?
金:1点目。第一案は本に出したが、第二次の案を近々出す予定
で、日弁連とも歩調をあわせる。気運を盛り上げていくためにも
いろんな団体が案をつくってキャンペーンに取組んでいくという
時期があってもよいのではないか。今の段階で統合して1つのも
のをつくるのは、かえってマイナスではないかと私は思ってい
る。2点目。差別禁止法は、民法上のアプローチから。長所とし
ては、差別の定義を「無知や無理解による差別」も含めて幅広く
しやすいというところ。刑事法であれば「何らかの罰を加える」
ということができるが、差別を厳格に狭くとらえなければならな
いというところがある。

**:要綱案について2つ質問。「出生」と「性」(セクシュア
リティ)と一緒に論じるのはどうか?2点目「地域」という言葉
は「家族介助を前提とした暮らし」という誤解を招くのではない
か?また必ずしも地域生活がだれにとってもよいということには
ならないのでは?
池上:1点め。レジュメの構成の誤り。要綱案は「出生」と
「性」は別になっている。優生保護法のことなどで、女性団体と
障害者団体が議論をしてきたことをふまえた提案をしている。2
点め。すべての施設や入院を否定するものではない。施設そのも
のが悪いのか、今ある施設が問題なのかというところは、議論し
ていかなければならない。「在宅生活」はともかくとして、地域
での自立生活の運動をしてきた中で、「地域生活」が家族介護を
イメージするとは、私たちは考えていない。議論のひとつとして
いきたい。
**:1990年代から「施設から地域へ」という政策のなかでか
えって家族介護が見えなくなっているのが現状ではないか。現状
としては家族が支えている人が大多数。行政としては当然こちら
を「地域で暮らす」ものとしてイメージしているのでは?

**:1つめ。民法的なアプローチという言葉が使われたが、国
や地方公共団体が責任をもつという法律であることを忘れてはな
らない。2つめは「地域生活」というあいまいな言葉を使っては
いけないのでは?「居住の自由」ということで整理すべきなので
はないか。
金:障害者差別禁止法の要綱案は、民法上のアプローチが基本形
態になっているが、各基本事項(課題)のところに国や地方公共
団体の環境整備に関わる「施策義務」を提案している。差別禁止
法でよく質問を受けるのは、罰則を設けて罰していくことを考え
ているのかと聞かれることがよくあるが、要綱案では考えていな
い。ただ、障害者雇用だったら、未達成企業の名前を公表すると
いうのは一つのペナリティ。それくらいのことはやってもよいと
思う。差別禁止法というと、罰則がなくちゃいけないのかという
ところは、刑事法との関係もあるので、罰則の内容については議
論するべき。第一義的には、裁判規範として有効なものにしてい
くことが重要

(後から来た参加者の自己紹介。)

**:難病患者会のメンバー。ぜひ社会モデルからの法制をして
ほしい。障害認定も難病認定もされず、福祉のはずれにある。実
際の生活では採用を拒否されたりするために、隠さざるをえな
い。すると、ケアもままならない等の不都合が出てくる。体調を
壊して転職したりする。転職した人は半数以上。採用の段階で、
差別してはならないというかたちの文言をいれていただけたらと
思う。
池上:就労の質問。採用の部分からということを盛りこんでいる
つもりである。具体的な記述に欠けるか、また検討したい。

**:なぜ、90年にアメリカで出来た障害者差別禁止法が、な
ぜ日本では成立しないのか?という素朴な疑問を抱く。
金:理由は国会レベルの動きのなかで、5点くらいあるといわれ
ている。まず、財源問題。不況のなかでは国・企業の負担が重
い。また、ADAと同じものを作ると、損害賠償の請求の額が格
段に違うために、経済界の理解は難しいこと。3つめ。裁判が多
くなると健常者の理解に水をさすことになるのではないか?とい
う認識がある。4つめ。差別禁止法は与党は必要ではないとは
言っていない。障害者基本法を改正するなかで理念に差別禁止規
定を盛り込み、10年後に必要であればもう一度つくればよいと
いう話をしている。最後に、雇用に関しては、雇用契約の問題に
ひっかかる。つまり、民法上の原則、たとえば「私的自治の原
則」や「契約自由の原則」に抵触することにつながる。あと、衆
参両院の法制局の従来の見解は、民法の一般規定に「不法行為」
「公序良俗」「名誉毀損」等に関する規定が定められているのだ
から、それで対応することになるという無味乾燥なものだし、ま
た国会議員の平均的な意識も、「なぜわざわざ障害者だけに差別
禁止法が必要なのか」というところでとどまっているのが現実だ
ということがある。これからの不可欠な課題として、民法上の一
般規定等では何の役にも立たないということを、具体的なわかり
やすい人権侵害の事例をたくさんつくって、関係方面にねばり強
く何度も訴えて説明していくことが必要。

**:93年の改正のときにも同じような議論はあった。DPI
を中心として「差別禁止法」の原案をみた記憶もある。当時はバ
ブルだったので財源という問題は出てこなかったが、日本には合
わないという話になった。1つめの質問。差別禁止法への第2の
波が起こっている。日弁連や国連の委員会など。公明党と与党が
提示してことがあった。野党側から差別法の見直しなど大きな動
きがあるのか?2つめ。アファーマティブアクションと、差別禁
止法は両立しないのか?厚生労働省は雇用率を守ろうとするだろ
うが?また、欧米と比べても、重度の障害者の部分については雇
用されている率は高いという報告もある。差別禁止法とひきかえ
に雇用促進法をなくして、ほんとうに戦えるのかどうか。
金:1点め。公明党と自民党は、女性議員が中心になってプロ
ジェクトチームをつくっている。しかし差別禁止法はいますぐと
りあげることができないという前提がある。野党のなかでは本格
的な話ははじまっていないのが現状。こちらでは、理念だけに抽
象的な差別禁止規定をもりこむ中途半端な基本法の「改正」がさ
れることによって、差別禁止法の可能性がかえって遠のくような
ことだけは認めることはできない。基本的には、現実的に国や地
方公共団体等の施策の義務づけをしていくようなものを考えま
しょう、という話をしている。少なくとも与党から基本法の改正
案が出されたときに、具体的に対応できるようにはしておきま
しょう、ということ。
 障害者雇用におけるアファーマティブアクションと差別禁止法
との関係については、私たちも差別の積極的な是正措置の導入を
主張したいと思っている。ただ、この問題には、障害の定義にか
かわってくる難しい問題がある。つまり、アメリカではたとえば
少数民族の場合は、当事者の民族的出身が特定できることから適
用しやすいが、障害の定義をどのように線をひいて規定し特定す
るかによって、アファーマティブアクションが適用できるかどう
かも変わってくる。障害者雇用に適用した事例を今のところ聞い
ていない。
割当制度について。法定雇用率をつくったときの担当者と先日話
す機会があったが、この制度をなくしたほうがよいという話をし
ている。当初は確かに意義はあったが、法定雇用率が「雇用納付
金」制度とがセットにされているため、今はかえってマイナス要
因になっている。雇用率制度があるから余計に就労がすすまなく
なったのだ、という。これをやめて、ジョブコーチ等の補助的な
手段を障害種別にかかわらず必要に応じて柔軟に制度化していく
べきだという。

**:割当制度が雇用をしにくくしているというのはどういう意
味か?
金:法定雇用率にいまだに達したことはない。罰則規定がないこ
とはもちろんだが、雇用納付金という抜け道が用意されているこ
と。小手先では全体としては進まないということ。昨年、雇用促
進法の一部改正があり、特例子会社制度ができたが、これも特例
子会社をもつ親会社だけが得をしており、法定雇用率が達成され
るかというとそうではないということ。

(以上)


UP:20030614
当日配布資料  ◇障害学  ◇障害学研究会関東部会  ◇全文掲載
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