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障害児に対する通常学級教師の役割−法令、意識調査、実践からの検討−

Regular school teacher’s role for children with disabilities*1

木村素子*2・中川辰雄*3 2003



*1 『横浜国立大学大学院教育学研究科教育相談・支援総合センター紀要』第3号収録論文。
*2 筑波大学人間総合科学研究科心身障害学専攻
*3 横浜国立大学教育学部

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I.問題の所在

  今日、多くの障害のある子ども●1が通常学級に在籍するようになっている●2。ノーマライゼーションの社会的な高まりや、「共生」概念の流入などが影響しているといえる。近年では、障害児への就学指導に際して、教育委員会や学校の論理による強い就学指導が成立しにくくなったことや、「21世紀の特殊教育の在り方」(21世紀の特殊教育のあり方に関する調査研究協力者会議、2002)などにより、通常学級において学ぶ障害児の存在が認知されたことなどを受け、増加の速度は一層増している。
  一方、通常学級に在籍する障害児への支援や指導は、不十分であるといわれている。文部科学省は、通常学級に在籍している障害児を特殊教育対象外として毎年の全国的な特殊教育統計によって把握していない。また、特殊学級教師による通常学級在籍障害児への支援に関する実践は、研究発表などを通してしばしば世に出てくるが、膨大にあるはずの通常学級教師による指導実践は、我々の目に触れる形にはなりにくい。以上のような実態把握の難しさから、通常学級に在籍する障害児の数もその対応の実際も、依然、ブラックボックスの中にある。果たして、通常学級教師はどのような役割を付与されているのだろうか。先行研究では、特殊学級教師や、実際に障害児を担任する通常学級教師に対して、通常学級に在籍する障害児への対応に関する意識調査や実態調査が行われているが、現場の実態やニーズを把握するだけに留まり、制度や実践との連関から、通常学級教師の障害児に対する役割がどのように捉えられ、実践されているのかに目が向けられてこなかった。

II.研究の目的

  本稿では、現在、通常学級において障害児を担任している教師が、どのような役割を期待され、また、どのような役割を実際に担っているかを明らかにすることを目的とする。まず、Vにおいて、法令上、通常学級教師がどのような役割を担うことを規定されているかを検討する。次に、Wにおいて、通常学級教師と彼らを取り巻く特殊学級教師などが、通常学級教師にどのような役割を想定しているかを検討する。さらに、Xにおいて、実際に現場において行為へ移されている通常学級教師の役割について検討する。

III.就学基準の変遷にみる通常学級教師の役割

1.従来の特殊教育対象者
1)養護学校義務制と就学基準
  通常学級教師の障害児に対する役割を論じるにあたって、就学基準の変遷を軸に検討を進めることとする。就学基準とは、「盲・聾・養護学校に就学すべき児童生徒の障害の程度に関する基準」(細村、2002)であり、我が国で最初に就学基準が定められたのは、昭和37年の学校教育法施行令改正時である(解説教育六法編修委員会、2000)●3。施行令第22条の2●4に示された各障害種別の就学基準は、視力、聴力レベル、発達遅滞の程度、四肢の故障の程度、疾病治癒に関する加療・生活規制期間などの医学的な数値によって簡潔に示されている。この当時、障害児が教育を受けられる機会は十分でなく、就学猶予を受ける者が相当数存在した(柳本、1992)。昭和54年に養護学校の義務制が敷かれ全ての障害児の教育を保障しようとする制度が誕生するまで、現在のような共生、集団や地域の教育力といった文脈から障害児が通常学級に就学することは皆無であった。よって、施行令改正当時に、現在のような教育的ニーズではなく医学的な数値により就学基準が区切られていたことは、理解に難くない。
  養護学校の義務制を翌年に控えた昭和53年、特殊学級において指導すべき者と通常学級において留意して指導すべき者について規定した「教育上特別な取り扱いを要する児童・生徒の教育措置について(通達)」が出された(文部省初等中等教育局特殊教育課、1979)。いわゆる「309号通達」で、1995年に通級による指導が開始されるまでの16年間、我が国の特殊教育は、盲・聾・養護学校と特殊学級という二本の柱で進められることとなった。309号通達において示された教育措置基準を見ると、施行令第22条の2で挙げられた、盲者、聾者、精神遅滞者(後に知的障害者)、肢体不自由者、病弱者については従来どおりの基準を踏襲することが記載されている。そして、弱視者、難聴者、知的障害者、肢体不自由者、病弱者、身体虚弱者、言語障害者、情緒障害者の内、施行令の障害の程度に達しない者については、特殊学級あるいは通常学級において留意して指導することと規定された。309号通達で注目すべきは、施行令第22条の2と同様に医学的数値により基準が規定されていることと、特殊学級において指導すべき者と通常学級において留意して指導すべき者が並列されていることである。前者に関しては、309号通達において教育措置基準と併せて規定された「心身の故障の判断に当たつての留意事項」と就学指導体制の整備に関する規定が、当時の医学的見地の強さを物語っている。「心身の故障の判断に当たつての留意事項」では、措置判断を「専門医による精密な診断に基づき総合的に行うこと」とされた。「総合的に行う」こととされているものの、医学的な判断のウエイトが大きいことがわかる。また、就学指導体制の整備については、都道府県および市町村が「専門家の意見を聞くことにより適切な就学指導を行うための機関」である就学指導委員会の設置を定めている。就学指導委員会の構成は、都道府県においては「医師五人以上、教育職員七人以上及び児童福祉法に定める児童福祉施設の職員三人以上」、市町村においては、「医師二人以上、教職員七人以上及び児童福祉施設などの職員一人以上」とされており、構成員の比率と力関係を考慮すると、医学的な判断のウエイトがやはり大きいことがうかがえる。このことは、特殊教育の世界で「障害児」が永く、教育的にどのような指導が必要な者なのかというよりも、医学的な「障害」をもつ者として、捉えられてきたことを意味する。この障害児観の構築が、後に触れる「障害児は特殊教育で」という現場教師の役割意識にも少なからず関連していると思われる。

2)通級による指導の誕生
  309号通達において、通常学級に在籍する障害児を認める規定が初めてなされたわけであるが、「留意して指導する」という至極曖昧なレトリックの下、結局は現場で求められていた個別指導などを提供する制度はなんら整備されていなかった。309号通達から16年経過した1995年、「通級による指導」の誕生により、ようやく通常学級に在籍する障害児への特殊教育サービスが提供されるようになった。以下に文部省特殊教育課内特殊教育研究会の出版物(1993)から、通級による指導の趣旨を見てみる。

「通級による指導」とは、小・中学校の通常の学級に在籍している心身に軽度の障害がある児童生徒に対して、各教科等の指導は通常の学級で行いつつ、心身の障害に応じた特別の指導を特別の指導の場で行う、という新しい特殊教育の形態です。
  これによって軽度の言語障害や難聴といった障害のある子供で、従来、小・中学校の通常の学級において、その障害に留意して指導するとされていた児童生徒について、週に1から3単位時間程度その障害の改善、克服を図るための指導、いわゆる養護・訓練を中心とした特別の指導を特別の指導の場、つまり「通級指導教室」で行うことができるようになります。
(冒頭「はじめに」より)
「しかし、通級による指導は、心身の障害の状態を改善・克服することが主たる目的であり、教科の指導は、特に必要がある場合に、あくまで補充的に行いうるにすぎないものであることを考えれば、養護・訓練の時間がごくわずかで、大半が教科の補充指導に当てられるという指導の形態は、「通級による指導」の本来の趣旨に沿うものとはいえないでしょう。」
(pp.58)
*下線は筆者による。
(『通級による指導の手引き−解説とQ&A−』)

  通常学級に在籍する障害児全てが通級による指導の対象となるわけではない。通級による指導はあくまでも、「特殊教育」サービスの一つである。上記下線部の示す通り、通級による指導の対象となる障害児とは、障害の程度が「軽度」の者である。この「軽度」とは、表1に示す通り、養護・訓練(後に自立活動)にあたる「特別な指導」を必要とするが、「通常の学級での学習におおむね参加でき」る程度である。通級による指導によって補われるものは、あくまでも養護・訓練にあたる指導であって、大半が教科の補充指導に当てられることは、通級による指導の趣旨に合わないという。通常の教育課程の履修ができないと見なされている「知的障害」を有する子どもが、通級による指導の対象となっていないことからもわかるように、通級による指導の対象となる軽度の障害の程度とは、養護・訓練の指導を補えば通常学級において通常の教育課程を履修でき、学級の活動にもついていける子どものための指導形態なのである。したがって、今日、通常学級において増加している、盲・聾・養護学校において指導すべき程度の障害児に対する指導形態では、そもそもないのである。

表1 通級による指導の対象となる児童生徒の基準(弱視者)
----------------------------------------------------------------------------------3 弱視者
両眼の視力が矯正しても0.1以上0.3未満の者又は視力以外の視機能障害が高度の者のうち,点字による教育を必要としない者で,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とするもの。
----------------------------------------------------------------------------------(他に、「言語障害者」、「情緒障害者」、「難聴者」、「肢体不自由者、病弱者及び病虚弱者」の規定がある)

3)通常学級に在籍する障害児に対する通常学級教師の役割
本項では、盲・聾・養護学校及び特殊学級における教育目標や方法を踏まえ、通常学級教師の障害児に対する役割を検討する。特に、近年、増加している盲・聾・養護学校又は特殊学級において指導を受けることが適切であると想定されている程度の障害児に対する、通常学級教師の役割を論じる。以下に引くのは、盲・聾・養護学校及び特殊学級における教育の目標と方法を示した資料(文部科学省初等中等教育局特別支援教育科、2002a)である。

「視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、言語障害及び情緒障害があるため、小・中学校等の通常の学級での指導を受けることが困難であったり、通常の学級の指導では十分な教育的効果が期待できない児童生徒に対しては、その可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するための基盤となる生きる力を培うため、盲学校、聾学校、養護学校(知的障害、肢体不自由、病弱)又は小・中学校の特殊学級等において、特別な配慮のもとに、より手厚く、きめ細かな教育を行うことが必要である。具体的には、盲学校、聾学校及び養護学校…略…や特殊学級では、一人一人の障害の状態に応じた指導を行うため、少人数で学級が編制され、当該分野についての知識・経験を有する教職員が配置されている。また、障害に応じた特別な施設や教材の整備及び一人一人の教育的ニーズに対応した教育課程を編成し、柔軟な教育内容・方法等により、障害のある児童生徒の能力を最大限に伸ばし、自立し社会参加することをめざした教育が実施されている。」
*下線は筆者による。
(『就学指導資料』)

  上記引用部の裏を返せば、盲・聾・養護学校又は特殊学級において指導することが適切とされるような障害児が通常学級に在籍していたとしても、一人一人の障害の状態に応じた指導を行うための“少人数の学級編制”、“当該分野についての知識・経験を有する教職員の配置”、“障害に応じた特別な施設や教材の整備”、“一人一人の教育的ニーズに対応した教育課程を編成”そして“柔軟な教育内容・方法等”の保障はされないことが示されている。今日、増加する盲・聾・養護学校又は特殊学級において指導することが適切とされるような障害児の通常学級への就学に対応するために、介助員の配置に関する条例を独自に制定している自治体は少なくない。しかしながら、介助員の配置の対象となるのは、運動障害や行動障害をもつ子どもである。求められている多くの事例に対しての配置はされていない。介助員の配置でさえそのような現状にあっては、教育方法や内容の抜本的な変更を含む上記引用下線部のような整備に取り組もうとする自治体はほとんどない。盲・聾・養護学校又は特殊学級において指導することが適切とされるような障害児は、上記のような整備がなければ、「一人一人の障害の状態に応じた指導」を受けられないような仕組みになっているのであるから、よって、通常学級教師はこういった状況下では担任する障害児に対して、一人一人の障害の状態に応じた指導を行う役割を担えないことが法令上、許容されていると解釈できる。
  次に、正規に、通級による指導の対象となっているような障害児に対して、通常学級教師がどのような役割を担っているかを検討する。通級による指導の対象児とは、通常学級での学習に「おおむね参加できる」者であった。おおむね参加できるというのは、

「弱視のケースでは、通常の学級では、例えば、その児童生徒の机を教壇の近くに置いて先生の板書した文字が読みやすい状態にするような配慮をすれば、大きな支障がなく学習を続けて行くことができる…」
「…障害のない他の児童生徒と同じように、その学級での学習をだいたい支障なく行なっていくことができるもの、と考えてよいでしょう。」
(『通級による指導の手引き−解説とQ&A−』)

といった程度と想定されている。通級による指導に関する通達(278号通達)において、通常学級教師は、通級指導教室において指導されている事柄を通級指導教室の教師と共有し、通常学級における指導に生かすことができるようにと規定されている。とまれ、通級による指導の対象児は、上記引用部のような配慮を行えば、通常学級の学習をだいたい支障なく行っていくことができる程度であるのだから、通常学級教師は上記のような配慮以上の役割を担うように、法令上、規定されていないと考えられる。また、そのような配慮以上の配慮が必要な障害児が措置されることは想定されていないわけであり、そのような障害児が措置された場合の役割の規定は、当然、ない。
  ここまでの議論をまとめると、通常学級教師は、就学指導の際に盲・聾・養護学校又は特殊学級への措置が適しているとされたような障害児に対して、その子どもの障害の状態に応じた指導を行う役割を法令上付与されていない。ただし、筆者は、“よって通常学級教師は障害児に対して何の役割も果たさなくてよい”などと結論づけたいわけではない。それは研究の目的の外にあることであるし、法令上付与されていないことと実際に何もしないことは別である●5。筆者が述べたいのは、あくまでも法令上、通常学級教師が障害児に対する指導の役割を担うように規定されていないということのみである。

2.学校教育法施行令の改正

1)「教育的ニーズ」という基準
  平成14年、学校教育法施行令が改正された。この改正は、就学基準と就学指導の改正も含んでおり、特殊教育界に大きな衝撃を与えた。改正の契機には、医学の進歩がある。初めて就学基準が定められた昭和37年と比較すると、ディスアビリティを補う拡大鏡、補聴器、補装具など補助用具が目覚しく発展した。さらに、障害観の転換により、障害が環境との関係から捉えられるようになり、「特別な教育的ニーズ」という概念が生まれた(文部科学省初等中等教育特別支援教育課、2002b)。このような背景から、教育措置が医学的な数値ではなく、教育的観点から判断されるように、教育措置基準が転換された。2000年4月1日に施行された地方分権一括法により、309号通達、278号通達は廃止され、「障害のある児童生徒の就学について」の通知をもって、特殊学級において指導されるべき者と通級による指導の対象とすることが適切である者について、新たな基準が示された。改正前は、医学的数値による基準(表2下線部)によって措置基準が示されていたが、改正後は医学的数値による基準の提示は一切なくなった。かわりに、表2の波線部のように教育的ニーズによる措置基準が提示された。

表2 特殊学級と通級による指導の措置基準の改正前後対照表(難聴者)

難聴特殊学級
・改正後
 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの
・改正前
 (309号通達)
 両耳の聴力レベルが100デシベル未満60デシベル以上で、補聴器を使用すれば通常の話声を解するに著しい困難を感じない程度の者及び両耳の聴力レベルが60デシベル未満で、補聴器を使用しても通常の話声を解することが困難な程度の者

通級による指導
・改正後
 補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの
・改正前
 (278号通達)
 両耳の聴力レベルが100デシベル未満60デシベル以上で,補聴器を使用すれば通常の話声を解するに著しい困難を感じない程度の者又は両耳の聴力レベルが60デシベル未満で補聴器を使用しても通常の話声を解することが困難な程度の者で,通常の学級での学習におおむね参加でき,一部特別な指導を必要とするもの

2)「認定就学者」に対する通常学級教師の役割
  平成14年の施行令改正において、特殊教育関係者に最も衝撃を与えたもののひとつは、「認定就学者」という形で、障害児を通常学級に措置することが法令に規定されたことである。この認定就学者とは、

「盲者等のうち、市町村の教育委員会が、その者の心身の故障の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情があると認める者」
(「学校教育法施行令」第5条)

である。盲者等とは、盲・聾・養護学校への就学が適当とされてきた子どもたちのことである。特別の事情がある場合には、盲・聾・養護学校への就学が適当とされる子どもが通常学級に措置されることを認めるというのである。盲・聾・養護学校への就学が適当とされてきた子どもたちが、これまでも多く通常学級に在籍していたにもかかわらず、今日までこれらの「谷間の子どもたち」に対応する制度が存在しなかったことから、この新制度は注目された。
  さて、この認定就学者はどのように認定されるのであろうか。特殊学級や通級による指導の措置判断が教育的観点からなされるように改正されたのと同様に、認定就学者の認定も教育的観点からなされることとなった。認定にあたって、小学校又は中学校の通常学級において適切な教育を受けることができるかどうか、医学的見地からだけでなく教育歴なども合わせて検討することが定められた。そして、もうひとつ重要な認定条件とは、小学校又は中学校において適切な教育を受けることができる「特別な事情」があるかどうかである。

「施行令においては、「心身の故障の状態に照らし」「小・中学校において適切な教育を受けることができる特別の事情がある」かどうかを判断する旨規定される・・・略・・・。障害のある児童生徒の障害の状態に照らして、その者が小・中学校に就学できるかどうかを判断するため、いかなる事項を考慮するかについては、その障害の種類や状態に応じて一律ではないため、個々の児童生徒の障害の種類や状態に応じて必要と認められる事項をよく考慮して、特別の事情が認められるかどうか適切に判断する必要がある。例えば、@スロープやエレベータ等の施設の整備状況、A障害のある児童生徒の学習活動をサポートする学習機器等の設置状況、B障害のある児童生徒の教育に関する専門性の高い教員の配置状況、Cボランティアによる援助等地域における支援の状況、D通学時の安全性、E教育の内容と方法についての保護者の意向等様々なものが考えられるが…略…当該児童生徒が小・中学校の教育の目的を踏まえ各学校において編制される教育課程を履修し…略…」
(『就学指導資料』)

  上記の@〜Eは全てを満たさなければならないということではなく、あくまでも一例である。よって、当該の子どもが通常学級で学ぶために必要なものを整備できればよいのである。この新たな規定により、特別な事情が認められた認定就学者を担任した場合、通常学級教師は、その認定就学者にも等しく小学校又は中学校の教育課程を履修させる最大限の努力をする役割を付与されたことと解釈できる。
  しかしながら、この認定就学者の規定に関して何点か疑問が残る。一点目は、小・中学校の教育課程を変えないことが明記されていることである。なるほど、障害児とはいえ、通常学級において他の子どもたちと同じ教育課程を履修できる者として認定されるのであるから、当然かもしれない。とはいえ、元々は、盲・聾・養護学校において指導すべき程度の障害児である。盲・聾・養護学校では、その障害を補うための「自立活動」が設けられている。認定就学者らは、本来、自立活動の指導を必要とするはずの「盲者等」であるにもかかわらず、自立活動の指導を受けることなく、「一人一人の障害に応じた指導」を受けることができるのであろうか。加えて、就学指導資料には、教育内容を変更することについて、別段、記されていない。自立活動は、本来、必ずしも教科や領域の学習と独立して指導されなければならない性質のものではなく、全体の指導の中で個別の障害に応じた自立活動の指導を組み込めればよいものである。しかしながら、教育内容も変えずに指導ができると考えるには疑問は残る。果たして、学級全体の指導の中で自立活動を組み込んで指導するような、かなり高度な専門性と指導技術の要求される指導をできる教員がどれだけいるであろうか。このような指導は、養護学校や特殊学級において、長年、経験を積み、専門性が高いといわれる教師になら、できるのであろうか。無論、そのような「卓越した専門性をもった教師」がいることはありうる。しかし、仮に、専門性の高い教員だとしても、一斉指導の中で、その専門性が即、発揮できるのであろうか。障害のある子どもの教育は、施設・教材の整備、専門性のある教員の配置、子どもの障害に応じた教育課程や教育内容が子どもに応じて整備されて初めて成立してきたはずである。にもかかわらず、通常学級という大人数の学級において、教育課程を変えずに、学習支援機器の整備や専門性の高い教員の配置などによって、子どもに適切な指導が施せるとは想像しがたい。つまり、認定就学者の規定は、担任となった通常学級教師が障害児の指導に対する役割を担うように改正した一方で、構造上は就学指導資料に謳われているような障害児への適切な指導が極めて困難なまま規定されているのである。改正により、実際の指導の困難は残ったまま、法令上の役割は明記されてしまったのである。
IV.現場教師によって想定される通常学級教師の役割
1.通常学級教師は自身の役割をどう想定しているか
  本項では、通常学級教師の障害児に対する役割が、現場の教師らにどのように想定されているのかを論じる。ここでは、主に、先行研究における意識調査の結果の分析を通して検討する。まず、長澤・滝川(1998)は、通常学級教師に対して統合教育に関する意識調査を行っている。それによると、通常学級教師の88.9%が統合教育に賛成したという。しかしながら、無条件に統合教育を歓迎するのは22.2%であり、66.7%が条件付きの賛成であった。「条件付き」とは、「児童の実態により検討する」あるいは「教育条件が整備されれば」などであった。さらに彼らのいう「教育条件の整備」の内実がうかがえる調査結果も併せて示されている。長澤・滝川は「統合教育を実施するために必要だと思われる条件」について自由回答を求め、これに対し「サブティーチャー(T2)の配属」、「個々の実態に応じた指導・指導の工夫」、「通級による指導学級の設置」などが挙げられた。長澤・滝川は同時に特殊学級教師にも同じ質問をしており、「サブティーチャー(T2)の配属」、「通常学級児童数の削減」などが多く挙げられた。特殊学級教師の回答と通常学級教師の回答と比較すると、特殊学級教師には多く挙げられていた「通常学級児童数の削減」を挙げた通常学級教師が少なかった。この意識調査の結果の考察から、通常学級教師は教育条件が整わなければ、統合教育の実施は困難であると考えており、特に、通常学級児童数を減らし、自身が中心となって障害児へ対応していくというよりは、TTなどを活用し、学級全体の指導とのバランスを維持しながら指導が進められることを、重視していることがわかる。
  次に、実際に障害児を担任する通常学級教師への調査を引こう。長澤・皆川(1999)は、実際に通常学級において障害児を受けもっている通常学級教師29名に質問紙調査を行っている。指導上困っていることとして、「障害児とクラスメイトとの人間関係(14人:複数回答)」や「学級内での行動上の問題(12人)」など学級での生活上の問題以上に、「指導方法など学習上の問題(24人)」が一番に挙げられている。今後、必要だと思われる支援・対応についての質問に対しては、「個別指導の充実(12人:複数回答)」が最も多く挙げられ、「級友による支援(4人)」、「教員の加配・TTによる指導(4人)」、「リソースルームによる指導(3人)」と続き、「一学級の児童数の減少」との回答は1人であった。通常学級教師は生活面の課題よりも学習面の課題により問題を感じる傾向にあるようだ。長澤・皆川の調査からも、通常学級教師は、通常学級という大きな集団の中で障害児に対応していくのは困難であるため、集団の活動とは切り離した形で、個別指導を行ったり、リソースルームを利用したりする方法が望ましいと考えていることがわかる。
  また、前出の長澤・滝川は、特殊学級教師と通常学級教師双方に「統合教育」という言葉の認知度を測る質問をしている。これに対し、特殊学級教師の94.4%が「知っている」と答えたのに対し、通常学級教師の66.7%が「知らない」と答えた。また、安藤ら(1987)は、通常学級教師の統合教育に対する認知度と関心度は低いことを指摘しており、「障害児の統合教育が特殊教育サイドでの関心事に止まっている」と結論付けているが、1980年代後半当時の通常学級教師の意識が10年経過しても依然として変化していないことが示唆される。
  さらに、「通常学級において障害児を受け持ったとしたら何が必要であるか」を調査した研究を列挙したい。荒木・香川(1998)は、通常学級教師が「好ましい状態だと考えながら、現実にはそのような対応ができていないものとして、個別指導の体制が挙げられる」と指摘している。また、廣瀬・東條・寺山(2000)は、自閉性障害児を受け持つ通常学級教師54人へ質問紙調査を行い、「通常の学級担任が自閉性障害児を統合して指導や学級経営を行う場合、最優先で希望することは、自閉性障害児を個別に支援できる教師であり、複数の教師で指導できる校内支援体制」であったとしている。そして、太田(1994)は、視覚障害児を受け入れることを想定した際の通常学級教師が求めるフォローアップを質問紙調査によって探り、「教師自身の理解や研修の必要性を説いたものは11人中5人であり、不安は多いが自主的な研修意欲は少ない。まずは担任が理解することが大切なのだが、そのことよりも周囲や施設(施設設備の充実、専門教師の必要性など)に対する手だての要望が強い」と結果を分析している。さらに、福家・小原(1998)は、中学校の通常学級教師40人に、特別な教育的ニーズをもつ生徒に対し援助教員が付くことの是非と、求める援助内容を問う質問紙調査を行っている。40人中36人が賛意を表し、その援助内容として「SEN●6生徒に付き添ってともかく個別指導をしてほしい」という回答が一番多く(7名)、次に「集団参加への援助を求める」という回答(6名)が続いた。
  これらの先行研究の検討から次のような指摘ができる。それは、学級全体の指導・運営を視野に入れた結果、通常学級教師が、自ら担任する障害児に対する指導を−特に、学習面の指導を−自らの役割と捉えていないということである。通常学級教師が自己の役割をそのように規定してしまう背景として、「一人の教師が40人の児童と障害をもつ児童を一つの学級で教えることは到底無理である」(長澤・滝川)、「時間不足で無理」(福家・小原)、自閉性障害児であるため「授業妨害があるから」(廣瀬ら)、「対象児の指導に費やす時間が多いために学級全体を指導しにくい」、「きわめて困難」・「かなり負担」(長澤・皆川)などの理由が挙げられている。つまり、自らが主体となって障害児への指導にかかわるという方法論では限界があると、通常学級教師は認識しているのである。
  一方で、施行令改正後、認定就学者の規定により、盲・聾・養護学校において指導することが適当とされる障害児までも通常学級に在籍することが法的に認められたが、認定のために行われる整備とは、先に挙げた長澤・滝川の調査における「教育条件が整備されれば統合教育に賛成する」際の条件にほぼ重なる。認定就学者を受け持つということは、専門教師の加配や個別の取り出し授業を望んでいた通常学級教師らが、実際にそのような整備がなされた上で「認定」された障害児を受けもつということである。ならば、“学習面の指導はできない”という今までの通常学級教師の役割想定は変化するだろうか。この議論については、施行令施行後の認定就学者が就学する2003年春以降の動向を見ていく必要があるだろうが、本稿においてその議論を扱うのは不可能であるので、今後の課題としなければなるまい。
2.誰が通常学級に在籍する障害児に対応するべきと想定されているか
  前項で、通常学級教師の多くが、障害児に対する指導−特に学習面−を自らの役割と想定していないことがわかった。ならば、誰が通常学級に在籍する障害児に対応するべき者として想定されているのだろうか。例えば、その学校に特殊学級が存在するのであれば、特殊学級教師が通常学級に在籍する障害児に対してのフォローをする者として想定されうる。渡辺・佐藤・新井ら(1997)は、特別な支援がなされないまま通常学級に在籍している障害児への支援の担い手として、特殊学級を想定し、特殊学級教師へ支援に関する質問紙調査を行っている。この調査で、通常学級への支援体制としてもっとも望ましいものを問うたところ、「教員の加配」(35.4%)、「介助員等の配置」(28.3%)、「校内支援体制の充実」(26.3%)、「複数担任制」(13.1%)が挙げられ、特殊学級教師が通常学級の支援体制には人的措置が不可欠と考えているとしている。一方、特殊学級から通常学級へ支援する体制が整えば統合教育は進行するか、との問いに対しては、「進行する」としたのは27.3%で、「それほど変わらない」としたのが、50.5%と半数を占め、「その他」の回答では、「現状では支援は無理」、「校内支援体制を考えないと『特殊学級』が重荷になる」という理由が挙げられ、「通級指導教室を利用」したり、「教育センター等の機関がきちんと対応する」案が挙げられた、としている。さらに、「児童の障害の重度・重複化の状態の中で、心障学級のスタッフが不足」しており、「個々の児童に指導計画を立て、細かく観察しながら指導していこうとすると通常学級までは手が回らない」ため、通常学級への支援よりも、特殊学級の充実の方が先決であることを特殊学級教師が訴えていると、示している。
  渡辺・佐藤・新井らの研究結果を整理すると、特殊学級教師は通常学級への支援として、教員の加配、介助員等の配置、校内支援体制の充実、複数担任制を挙げている。このことから、特殊学級教師は、通常学級に在籍する障害児への指導は、通常学級教師一人で負える役割ではないと想定していることがわかる。しかしながら、特殊学級からの通常学級への支援に対しては否定的な回答が多く、特殊学級教師が、通常学級に在籍する障害児への指導は特殊学級教師の役割と想定していないことがわかる。そして、通常学級に在籍する障害児への指導は、新たなる人的措置、通級による指導、教育センター等によって、担われるべきと、想定している。
  一方、通常学級に在籍する障害児への指導をするべき場として制度上定められている通級による指導は、現場の教師たちによってどのような役割を付与されているのであろうか。渡辺・佐藤・柴田ら(1998)は、通常学級教師に対し、通級指導教室に求めているものを調査したところ●7、「専門的な助言・支援」(35.9%)、「教科の補充、個別指導」(33.3%)など通常学級で対応できないことを求める回答が多かった。ここでも、通常学級教師は、通常学級に在籍する障害児への指導に自ら参画するというよりも、通級による指導へ大きく委ねる意識が強いことがわかる。
  V、Wにおける検討を通して、法令上の規定においても現場の教師の想定においても、通常学級に在籍する障害児への指導の役割を担う主体は、「通級による指導」で一致していることがわかった。さらに通級による指導によってカバーされていない学級内での指導に対して、既存の通常学級教師や特殊学級教師以外の新しい資源の配置(専門教師の加配など)という対応策が想定されており、いずれにしても通常学級教師は通常学級に在籍する障害児への指導をするべき者としての役割を想定されていないことが明らかとなった。

V.実践にみる通常学級教師の役割

1.実際は誰が通常学級に在籍する障害児に対応しているのか
  先行研究や文献の検討の結果、通常学級に在籍する障害児は、本来、通級による指導によって対応されるべき、と教育現場において想定されているらしいことがわかった。ところが、教育現場では、“わたしの役割ではないから放っておきます”、ということにはならない。本項では、教育現場において、実際には誰が通常学級に在籍する障害児に対応しているかということを論じる。
  まず、通常学級に在籍する障害児に対応しているのは、先に述べた通り、通級指導教室である。通級による指導においては、通級指導教室の担当教師が通常の学級の児童の様子を参観したり、情報交換をしたり、通常学級教師に助言を行ったり、報告会を行うことが制度上、規定されている(「学校教育法施行規則の一部改正等について(通達)」)。そのため、通常学級教師も“他人任せ”ではいられない。ただ、通級による指導の場合は、通常学級で過ごす時間のフォローを視野に入れて指導がされるものの、あくまでも抜き出しの指導●8が中心であり、通常学級にいる際の直接のフォローがあるわけではない。
  次に、現実的な担い手となっているのは、特殊学級教師である。従来から行われてきた「交流」では、特殊学級に在籍する児童が通常学級に交流する際に、特殊学級教師が付き添うという形態がすでにあった(足立、1992)。それとは別に、通常学級に在籍する障害児を個別に支援する者として、特殊学級教師やT・T担当教師が指導を行うケースが少なくない。通常学級に在籍する障害児に、特殊学級教師が対応するというのは、本来、イレギュラーな形態ではある。しかしながら、廣瀬ら(2000)が、「自閉性障害児が通常の学級で学習や生活する場合の個別の支援者の存在は、「いる」と答えた教師は25人(46%)で、主な支援者は特殊学級担任や、T・T担当教師であった」と報告しているように、このような形態は現場で多く実践されていると考えてよいだろう。渡辺・佐藤・新井らも、通常学級に在籍する障害児に特殊学級教師が援助していることを報告している。しかし、この援助・支援とは、「通常学級教師への助言」であったり、「個別指導」であったりと幅がある。
  一方、介助員や巡回指導員の配置などの公的支援は、通常学級に在籍する障害児へ対応する形態として、制度的な位置付けのあるものである(荒木ら、1998)。今日、多くの市町村が条例などで介助員の設置を明記している。ただし、介助員の配置が認められる対象とは、肢体不自由や行動上の問題がある自閉症児や知的障害児とする市町村がほとんどであり●9、通常学級に在籍する障害児に必要な介助がない場合が多くを占める。
  近年、通常学級に在籍する障害児に関する校内支援体制があるという事例も少なくない。これには、先に述べた特殊学級教師による支援を含むことも多いようだ。支援体制の支援内容として、障害児を受けもつ通常学級教師の校務分掌の軽減、事例研究、教育相談や就学相談に関する委員会での検討会などの形態が挙げられている。
  また、地域の教育センターや大学などの専門機関の専門家のように、その学校の外の相談機関へ支援を求める事例も存在する。通常学級に障害児が在籍しているものの、当該学校に特殊学級や通級指導教室がない場合や、保護者が共働きであったりするために他校通級が叶わない場合などは、外の相談機関へ向かう、と加藤は指摘している(加藤、1997)。さらに、有尾・辻井・池谷(2001)は、通常学級において学習障害または高機能広汎性発達障害が疑われる児童生徒を実際に担任する教師の意識調査を行っている。調査対象者は、「教師のための学習障害・高機能広汎性発達障害セミナー」への参加者であるため、元々、障害児に対して無関心ではないことを考慮しなければならないが、調査対象者の約半数は、「専門機関との連携の機会をもった」と回答していることからわかるように、通常学級に在籍する障害児への対応の手段として、専門機関へ支援を求めることが認知されていることがわかる。
  他に行われうる支援を検討してみると、例外的な事例と考えられるが、通常学級に在籍する障害児への支援者として、「友達(級友)」、「家庭」、「家庭教師や塾の教師」を挙げる調査研究も存在する。これらの支援主体は、教育現場における通常学級に在籍する障害児への支援の現状を如実に表し、また、メディアに表出されないものの同様の事例が日本全国に存在する可能性を示している。
しかしながら、通常学級に在籍する障害児の指導の担い手として、制度上も、現場の教師らにも想定されていないにもかかわらず、通常学級教師が通常学級に在籍する障害児への指導の一番の担い手となっているのが現実である。通級の対象とならない程度の障害児への指導、支援の入らない通常学級における授業時間中の通級による指導の対象児への指導、介助員のつかない障害児への指導を担っているのが、通常学級教師なのである。

2.通常学級教師はどのように障害児に対応しているのか
  本項では、通常学級教師がどのように障害児に対応しているのかを記す。まず、通常学級教師が受けもった障害児に対して対応する努力を行うことが、どの程度、一般的であるかを整理する必要がある。長澤・皆川は、障害児を実際に受けもった通常学級教師に、障害児へ支援を行っている主体を質問したところ、29人中28人が、自ら指導を行っていると回答した。そのうちの8人がほぼ毎時間何らかの支援を行い、15人がほぼ毎日支援を行っていると回答した。また、福家・小原は、中学校において障害児を受けもつ通常の学級の教師40人のうち、23人が「指導中個別指導を多くしている」、4人が「休憩時間に個別指導している」と回答(複数回答)していることを、報告している。このように通常学級教師が実際に障害児に対応していることに触れた先行研究は少なくないことから、通常学級に在籍する障害児に通常学級教師が対応することがかなり一般的であることがわかるだろう。また、そのような先行研究における結果を引かずとも、我々、特殊教育に携わる者たちは、通常学級教師が、目の前にいる通常学級に在籍する障害児への指導に腐心している事例を多く見聞きしているはずである。
次いで、通常学級教師による障害児への対応の具体的事例に触れる●10。通常学級に聴覚障害のある子どもを通わせた経験のある保護者へ、普通学校で受けた支援の具体的内容を問うたアンケート調査を引用する(聴覚障害児と共に歩む会・トライアングル、2000)。
  普通小学校において、通常学級教師が行った配慮として、以下の配慮が挙げられている。

・座席の位置に配慮する
・机・椅子の脚にテニスボール●11、その他の設備を整える
・FM補聴器(マイク)を使用する
・板書を多くしてもらう
・模造紙(大きな紙)に書き出してもらう
・OHP・実物投影機等を使う
・メモ用紙をいつも用意しておく
・話し方(口話)を配慮してもらう
・手指メディアを使って話す
・友人、(隣の人など)の助けを借りる
・ビデオ教材などの工夫
・取り出し授業をする
・連絡帳を作る
・懇談をする
・子供達への啓蒙
・親達への啓蒙
(『わたしにできること あなたにできること−バリアフリー体験記(パートT)−』)

  聴覚障害児の事例であるから、教具の工夫など物理的な支援が目立つ。取り出し授業については、通常学級教師自身による個別の指導と、他の学級の教師が個別の指導を行う場合が上げられていた。連絡帳については、「先生とのれんらく帳のやりとりは、この1年間で4冊目にのぼり、5冊目に突入しました。38名という大人数をかかえているにもかかわらず、先生はいつもたっぷりお返事をくださり、必ず励まし認める言葉を添えて下さいます」というような、教師の実践例が挙げられていた。また、国語の教科書の文章を全紙に打ち出して対応してくれた教師の実践例を紹介した母親の体験記では、「先生自身、今までに年に何回かしか使わなかった手法とのことでしたが、竣平のために毎回準備してくださっています。このワープロ打ちで、先生の仕事量はぐんと増えてしまったものと思いますが、先生は拡大コピーされた全紙に教科書と同じ絵も配置し、鉛筆で色づけまでしてくださり」という教師の支援が紹介されている。しかしながら、このような継続的な支援を、すべての通常学級教師が行えるわけではなさそうだ。同じ著書の違う母親の体験記には、「1,2年の先生は、余裕のあるときは指示などをノートに書いたりして下さいました」とあり、「5年は、…略…現状の先生の中でメモをしてくださるということになりましたが、1学期はその先生がお忙しくできませんでした」とあるように、“気持ちがある先生”と母親が語るような教師であっても、支援が断続的、一時的になることが少なくないようである。
  以上に示したとおり、実際には通常学級教師が障害児に対応する役割を担っていることがわかる。しかしながら、その対応は、通常学級教師、障害児本人、保護者にとっても満足いくものとはなり難い現状のようである。

VI.結論

  本稿では、障害児に対する通常学級教師の役割を、法令、意識調査、実践から検討した。法令上の役割としては、近年、増加する盲・聾・養護学校における指導が適切とされるような障害児への役割、特に学習面の指導の役割は、規定されていないことがわかった。一方、平成14年の学校教育法施行令の改正における認定就学者の規定により、通常学級教師の障害児に対する指導の役割が法令上も付与されたと考えられるが、実際に通常学級教師が障害児に適切な指導を行うためには構造上の問題が残された。また、法令上の規定だけでなく、現場教師による想定の中にも、通常学級教師の障害児に対する指導の役割は見出せなかった。現場の通常学級教師だけでなく、特殊学級教師も通常学級に在籍する障害児への対応に困難を感じ、通級による指導、あるいは、教員の加配に障害児への指導の役割を期待していた。しかしながら、実践の中では、法令上の役割規定や現場教師の想定上の役割設定を超えたところで障害児への対応が行われていた。特殊学級教師、介助員、巡回指導教師、地域の専門機関などが障害児への対応にあたり、その中でも一番、対応しているのは、通常学級教師であった。ただし、現行法の下では、通常学級教師の担える障害児への役割は、十分なものとは成り得ていないことが明らかとなった。
  障害児の地域の普通小学校への就学の増加は、冒頭に挙げた時勢の下では、一層、進んでいくことであろう。これまでは、彼らが通常学級において十分な成果が得られない場合、「彼らを支援する制度がないこと」が免罪符となってきた。しかし、「21世紀の特殊教育の在り方」、「今後の特別支援教育のあり方」、認定就学者の規定などを受け、対応できない状況が許容されなくなりつつある。ただし、法令上の規定と現場における対応の可否には隔たりがある可能性があることは、本稿に示したとおりである。今後、法令において規定される役割、現場の教師によって想定される役割、そして実践において執り行われる役割の差異が区別された上で、通常学級に在籍する障害児への支援のあり方が議論されることを望む。

●註

1 本稿で使用する「障害児」の範囲については、基本的に、従来の障害種別に含まれてくる障害児と、LD児、ADHD児、高機能自閉症児などの子どもを想定しているが、「盲・聾・養護学校又は特殊学級において指導すべき者」を想定する際はその旨を断る。
2 本稿では、通常学級に在籍する障害児についてその現象のみを現す目的から「通常学級に在籍する障害児」と記し、「インテグレーション」「インクルージョン」などの用語を使用しない。
3 「就学基準」は、盲・聾・養護学校対象児にのみ使用される用語である。一方、「教育措置」は、特殊学級対象児や通常学級対象児にも使用される用語であり、本稿で特殊学級や通常学級に措置する基準をいうときは、教育措置の基準という。
4 後に、第22条の3へ項数がずらされる。
5 現場の教師たちの実践については、後述する。
6 特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs)。SNEは、特別なニーズ教育。
7 複数回答可。
8 一般に、通常学級の教室とは別の教室へ対象児童を抜き出し、個別指導や少人数指導を行う形態をいう。「取り出し指導」、「抽出指導」ともいう。
9 愛媛県松山市が「学校生活支援員」の対象を「肢体不自由の児童生徒、特殊学級に在籍する児童生徒、耳の不自由な児童生徒、帰国子女、外国人子女の児童生徒」としているのは例外的といえる(原田ら、2001)。
10 通常学級に在籍する聴覚障害児に関する質的研究として、拙稿「母親と担任教師の連携と役割設定−通常学級に在籍する聴覚障害児のエスノグラフィー−」(2003年横浜国立大学教育学研究科修士論文)がある。
11 椅子を引きずる音が補聴器に騒音として増幅されるのを避けるために採られる方法。

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UP:20040723
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