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>HOME ―障害者雇用の見地から― 遠山 真世 (東京都立大学・日本学術振興会) 第75回日本社会学会大会(於:大阪大学) 2002年11月16日午後 一般報告(2) 福祉・保健・医療2(A302教室) 1 障害者の雇用をとりまく状況 ・日本:差別禁止法や機会平等への関心の高まり ・アメリカ:差別禁止法のもとでも、障害者の不利な状況が解消されていない。 →これまで求められてきた「機会平等」とは? 2 研究目的および分析視点 「機会平等」のもつ問題点を明らかにし、障害者の不利を解消しうる政策のあり方を検討する。 ・雇用からの排除のパターンを把握し、それぞれの正当性を評価する。 ・排除の正当性の観点から、実際の政策の特徴を分析する。 3 雇用からの排除パターンと正当性 (1)差異と排除のパターン まず、どのような場合に雇用からの排除が行われうるのかを、<能力的差異>および<属性的差異>の組み合わせによって把握する(表1)。 ・能力的差異:ここでは労働能力の程度の違いを意味する。 (能力的差異がある場合の排除として、ここでは労働能力の低い者が排除される場合のみを想定) ・属性的差異:性別や人種など、労働能力とは関係ない条件の違い 労働能力やその他の条件において差異をもつ2人のうち、一方が雇用され他方が排除されるとき、いかなる理由で排除が決定されるのか。 表1:排除のパターン 能力的差異 属性的差異 排除A なし なし 排除B なし あり 排除C あり なし 排除D あり あり 排除A:能力的にも属性的にも差異のない2人のうちどちらかが排除される場合。 このパターンでは、労働能力および属性以外の何らかの条件が排除の理由となっている。 (労働能力の高い者が何らかの理由で排除される場合もここに含める。) 排除B:能力的差異がない2人のうち、特定の属性をもつ者が排除される場合。 このパターンでは、労働能力ではなく属性が排除の理由となっている。 (労働能力の高い者が属性を理由に排除される場合もここに含める。) 排除C:属性的差異がない2人のうち、労働能力の低い者が排除される。 労働能力の不足が排除の理由となる。 排除D:属性的差異がある2人のうち、労働能力の低い者が排除される。 労働能力の不足が排除の理由となると考えられる。 (2)排除の正当性 「機会平等」:能力以外の条件を理由とした排除を不当とする考え方。 能力のみに基づいて雇用か排除かが決定されることを求める。 これに照らして、それぞれの排除パターンの正当性を評価する。 排除Aおよび排除B:労働能力以外の要因が排除の理由となるため、不当であるとされる? 排除Cおよび排除D:労働能力の不足が排除の理由であるため、正当であるとされる。 ここでは、労働能力をもつ者のみが雇用され、労働能力の低い者は排除されることになる。 (3)障害者と排除 障害者の雇用問題と、こうした排除パターンおよびそれぞれの正当性とは、どのように関わっているのだろうか。 ・障害(impairment)という特徴をもち、障害者というグループに属する。 ・特定の環境下であれば労働能力を発揮できる場合がある。 ・特定の環境下であっても必要な労働能力に満たない場合もある。 →排除B(能力的差異なし+属性的差異あり)および 排除D(能力的差異あり+属性的差異あり)と関係している。 「機会平等」のもとでは、排除Bは不当とされ、排除Dは正当とされる。 そこで労働能力があると判断された障害者は雇用されるが、労働能力がないと判断された障害者は排除される。 こうした中、労働能力の低い障害者が雇用を達成するためには、自らの努力によって労働能力を向上させることが必要となる。 (4)障害者と能力 ・多くの場合、障害(impairment)による能力不足や生産性の低下は避けられない。 ・障害者本人には、労働能力が低いことの自己責任はない。 ・障害者本人の意思や努力で労働能力を向上させるには限界がある。 ・健常者が労働能力の向上に要する努力とは、程度と内容において大きな違いがある。 ・障害者の労働能力の不足には、教育や職業訓練などにおける機会の格差も影響している。 これらの点から、障害者の労働能力は属性的な特質をもつものであるといえ、その意味では障害者の 労働能力の不足を理由とした排除は不当であるということになる。 しかし、事実としての労働能力の不足が存在するかぎり、企業がそれを理由に障害者を排除することは「機会平等」に適っており正当あると考えられる。 →排除D(能力的差異あり+属性的差異あり)の正当性をめぐる対立が存在している。 <不当な排除>や<機会平等>のあり方に関してずれが生じている。 4 障害者雇用政策と排除問題 こうした対立やずれはいかにして解決可能か?誰がどのように対応するべきなのか? 現行の障害者雇用政策は、こうした排除問題(特にB,D)とどのように関わっているのか。 (1)差別禁止法 ・障害を理由とする「差別」(労働能力以外の要因を理由とした排除)を禁止するもの。 ・それによって「機会平等」が達成されるという論理 ・労働能力の不足を理由とする排除は正当であるとされ、労働能力の低い障害者は雇用されない。 →排除Bは解決されるが、排除Dは解決されない。 (2)割当雇用(およびアファーマティブアクション) ・一定の枠を設けて障害者の雇用を義務づけるもの。 ・特定の属性をもつ者をある程度優遇することで、結果としての雇用格差を是正しようとする。 ・労働能力が低くても雇用される可能性がある。 ・雇用/排除の決定要因として、労働能力よりも属性が優先されることが問題となる。 →排除Dに対応しようとする結果、排除Bが生じる。 (3)保護雇用 ・政府が障害者を直接雇用する ・雇用達成における平等(結果の平等)を保障するもの ・労働能力によらず障害者が雇用される。 →排除Dに対応でき、かつ排除Bも生じない。 ・実施形態の問題。特定の社会においてしか実施できない? では、どのような<機会平等>のあり方がよいのか? (前提:一般の労働市場における雇用) T.属性的差異を理由として排除されない U.障害などに伴う(属性的な特質をもつ)能力的差異を理由として排除されない 条件:@労働能力の適正評価・発揮のための環境の整備 A障害を理由として排除されず、能力ある者が雇用される B労働能力に応じて雇用が確保される Cコストや賃金の負担が適切に行われる どのような政策がありうるか? ・@およびA→差別禁止法 ・BおよびC→その他の施策 5.障害者雇用の規範理論に向けて 障害者雇用をめぐる従来の論点 ・「機会の平等」か「結果の平等」か ・属性による優遇(「機会平等」の破棄)か結果の不平等か ・障害者の働く権利か経済効率か しかし、障害者の労働能力と雇用からの排除の問題を検討してみると、そうした対立を超え真の<機会平等>を実現するための理論的枠組みと政策の必要性が導き出される。 [付記] 本報告は、障害学研究会関東部会 第19回研究会(2001年12月)での報告の一部を発展させたものである。多くの方々から有益なコメントをいただいたことに感謝申し上げる。なお、本報告は文部科学省科学研究費補助金(特別研究員奨励費)による研究成果の一部である。 [参考文献] 有賀美和子,2000,『現代フェミニズム理論の地平――ジェンダー関係・公正・差異』新曜社. 足立幸男,1991,『政策と価値―現代の政治哲学』ミネルヴァ書房. 石川准,1992,『アイデンティティ・ゲーム――存在証明の社会学』新評論. 石川准・倉本智明 編,2002,『障害学の主張』明石書店. 大庭健,1990,「平等の正当化」,高橋哲哉ほか編著『差別 現代哲学の冒険3』岩波書店,227-309. 笹谷春美ほか編著,2001,『階級・ジェンダー・エスニシティ―21世紀の社会学の視角』中央法規出版. アマルティア・セン著, 池本幸生ほか訳,1999,『不平等の再検討―潜在能力と自由』岩波書店. 竹内章郎,1993,『「弱者」の哲学』大月書店. ――――,1998,「能力に基づく差別の廃棄」『哲学』49: 15-28. ――――,2000,「『社会的弱者』という見方の問題」『季刊仏教』50:62-68. 立岩真也,1991,「どのように障害者差別に抗するか」『季刊仏教』15. ――――,1994,「能力主義とどうつきあうか」『解放社会学研究』8:77-108. ――――,1996,「能力主義を肯定する能力主義の否定の存在可能性について」,井上俊ほか編『差別と共生の社会学』岩波書店,75-91. ――――,2000,「『能力主義』という差別」『季刊仏教』50:55-61. ――――,2001,「できない・と・はたらけない――障害者の労働と雇用の基本問題」『季刊社会保障研究』37(3). 遠山真世,2001,「障害者雇用政策の3類型――日本および欧米先進国の比較を通して」『社会福祉学』42(1):77-86. 八木晃介,2000,『「排除と包摂」の社会学的研究−差別問題における自我・アイデンティティ』批評社. 山森亮,1998,「福祉国家の規範理論に向けて――再分配と承認」『大原社会問題研究所雑誌』473:1-16. 遠山 真世 〒192-0397 東京都八王子市南大沢1−1 東京都立大学大学院 社会科学研究科 社会福祉学専攻 e-mail:quin@bcomp.metro-u.ac.jp ……以上…… *以下のリンクはホームページの制作者による 有賀美和子,2000,『現代フェミニズム理論の地平――ジェンダー関係・公正・差異』新曜社. 足立幸男,1991,『政策と価値――現代の政治哲学』ミネルヴァ書房. 石川准,1992,『アイデンティティ・ゲーム――存在証明の社会学』新評論. 石川准・倉本智明 編,2002,『障害学の主張』明石書店. 大庭健,1990,「平等の正当化」,高橋哲哉ほか編著『差別 現代哲学の冒険3』岩波書店,227-309. 笹谷春美ほか編著,2001,『階級・ジェンダー・エスニシティ―21世紀の社会学の視角』中央法規出版. アマルティア・セン著, 池本幸生ほか訳,1999,『不平等の再検討―潜在能力と自由』岩波書店. 竹内章郎,1993,『「弱者」の哲学』大月書店. ――――,1998,「能力に基づく差別の廃棄」『哲学』49: 15-28. ――――,2000,「『社会的弱者』という見方の問題」『季刊仏教』50:62-68. 立岩真也,1991,「どのように障害者差別に抗するか」『季刊仏教』15. ――――,1994,「能力主義とどうつきあうか」『解放社会学研究』8:77-108. ――――,1996,「能力主義を肯定する能力主義の否定の存在可能性について」,井上俊ほか編『差別と共生の社会学』岩波書店,75-91. ――――,2000,「『能力主義』という差別」『季刊仏教』50:55-61. ――――,2001,「できない・と・はたらけない――障害者の労働と雇用の基本問題」『季刊社会保障研究』37(3). 遠山真世,2001,「障害者雇用政策の3類型――日本および欧米先進国の比較を通して」『社会福祉学』42(1):77-86. 八木晃介,2000,『「排除と包摂」の社会学的研究−差別問題における自我・アイデンティティ』批評社. 山森亮,1998,「福祉国家の規範理論に向けて――再分配と承認」『大原社会問題研究所雑誌』473:1-16. UP:20021119 ◇障害者と労働 ◇社会学 ◇障害学 ◇全文掲載 |