「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」を直ちに廃案に私たちはいかなる修正も許さず、「法案」廃案に向けた闘いを訴えます。
last update: 20160125
「心神喪失者等医療観察法案」に関する国会審議は政府与党の思惑に反して、法案の重大な問題性が明らかになり、採決できずに継続審議となった。しかし政府は法案成立に向けて必死に巻き返しをはかり、反対の姿勢を明らかにしている民主党などの切り崩しを「論点整理」という文章をもって行っている。(政府の「論点整理」およびそれに対する精神科医・弁護士の批判は全国精神医療労働組合協議会 http://www.seirokyo.com/に掲載中)。
そのうえ厚労省の役人は、これで成立しなければ、精神保健関連予算を塩付けにすると精神医療関連団体に圧力をかけ、そうした圧力のためか、精神医学講座担当者会議と国立精神療養所所長協議会が、廃案から賛成に転ずるという事態も既に生じている。法案をめぐる状況は危機的であり、強行採決すらありうる状況といえる。
法案は予防拘禁法であり、文言を修正しようが、「再犯予測」を必須とする
国会審議において「再犯予測」が不可能であることは、完璧に論証されている。「再犯予測」と精神保健福祉法上の措置入院の要件「自傷他害のおそれ」判断が同じであると強弁し、「再犯予測」は可能であるとするのは政府・与党と一部の精神科医のみである。「論点整理」はこの強弁に基づき、法案の対象者の要件を措置要件の「自傷他害のおそれ」から「自傷と軽微な他害のおそれ」を除いた「重大な他害行為を行うおそれ」に変更すると主張している。
しかし精神保健福祉法という強制入院法がすでにあるにもかかわらず、この法案を成立させようとする根拠は再犯防止にしかない。法案の目的が、濃密な医療と本人の社会復帰だとすれば、対象者を絞る必然性は無いはずだ。
精神保健福祉法が少なくとも建前上は本人の「医療と保護」を目的としているのに対し、法案の目的が「症状の改善」と「同様の行為の再発の防止」すなわち再犯防止と明記されている以上、たとえ文言を変更したとしても、基本的に判断されるべき要件は、再犯予測以外にはありえない。措置入院の「他害のおそれ」は今現在の切迫した状態判断であり、「再犯防止」を目的とする法案の将来にわたる「再犯予測」とは目的も判断基準もかけ離れたものである。
法務省も認めているように、精神障害者の犯罪および違法行為が一般に比べて多いという統計は全くなくむしろ少ないということが明らかになっている。また近年それが増加しているという事実もない。さらにいえば精神障害者の不起訴が一般より著しく多いという事実も存在しない。それゆえこの法案はその必要性も合理性もなく、そもそも立法事実が存在しない法案だ。
すでに行った行為に対しての刑罰ではなく、何かするかもしれないおそれをもって人を不定期に予防拘禁することは少なくとも日本では認められていない。それにもかかわらず精神障害者のみを予防拘禁することは精神障害者差別そのものであり、私たちは一切認めることはできない。
法案の下では医療はなく「社会復帰」などありえない。長期の拘禁がもたらされるだけだ
法案は対象者に「手厚い専門的医療を保障し社会復帰を促す」と欺瞞する。違法行為を行った精神障害者とそうでない精神障害者とで異なった医療が必要でありまたそうした専門的医療が存在するなどということはありえない。この「手厚い」というのは単に高度な保安のための人員をそろえ、厳重な監禁や監視を行うということの言い換えに過ぎない。その証拠に政府はいまだ「専門的医療」の内容すら明らかにしていない。
法案によって強制入院されたり、地域でも通院を強制されたりした対象者は、その全生活を常に監視観察され、すべての情報が拘禁や監視の継続につながることになる。そうした状況では対象者は病状悪化や苦悩を医療従事者や保健福祉専門家に隠さざるを得ないし、そこでは信頼関係に基づくべき医療など存在するはずがない。
現在でも、アパートを見つけられない、あるいは職につけないという実態が退院を難しくしている。この法案対象者は精神障害者であり、違法行為を行ったことがありかつ再犯のおそれがあったという二重三重の烙印を押されることになる。このような烙印を押し付けられて「社会復帰」など不可能だ。
そして何より法案の目的が「再犯防止」である以上、判断する裁判官も精神科医も「何か事件が起きたときの非難」をおそれ、そうした圧力の下拘禁やその継続を選択せざるを得ない。今現在の措置入院の決定やその継続においてもそうした圧力のもと措置入院が長期化している実態があるではないか。
精神医療全体を治安の道具と化し精神障害者への偏見を強化する法案
現行の貧しい精神医療の水準の下では、違法行為を行った措置入院患者が日もあたらない保護室に長期間拘禁されていたり、いたずらに医療なき拘禁を継続されている実態があり、これを改善するには法案も意味があるという主張をする人たちが存在する。しかし上述したようにこの法案下では拘禁の長期化と医療の不在は必至であり、すでにこうした制度施設を持つイギリスの保安病院での入院の長期化がこれを明らかにしている。
また「論点整理」は法案対象者となるような患者の入退院を精神科医が判断している現状が過剰な責任を精神科医に負わせているが、法案はこれを解決するとしている。
医者が自分の患者の入退院を含め医療的判断をするのは当然医者の責任であり、こうした「過剰な責任」を訴える一部の精神科医はすでに医師としての責務を放棄しているのか、あるいは精神医療の任務をはきちがえ、社会防衛のために精神医療があると自ら認めているといわざるを得ない。
法案は「再犯の防止」を目的として精神医療および精神科医を活用しようとしている。法案によって「再犯予測」が可能とされている以上それはまた一般化され、「犯罪の予測」をできなかった精神科医は今以上に非難されるようになる。そうした非難を恐れ精神医療全体が拘禁などの人権制限を強化せざるを得なくなる。すでにイギリスでは精神科医のみならずすべての精神保健福祉従事者がこうした圧力のもと、強制入院や人権制限を選択せざるをえなくなっており、強制入院は過去10年間で1.5倍にも増加している。
上述したようにこの法案は本質的に精神障害者差別であり、一般人には許されない予防拘禁が精神障害者にのみ許される、あるいは必要とされるということを意味するものである。当然その理由は精神障害者は危険で犯罪を犯しやすいから、特別の法律で対応することが必要ということになり、精神障害者全体への差別と偏見はより強化されるといわざるを得ない。
かつて60年代に精神病院が増床された中で、それまでは何とか町で生きていた精神障害者が強制収容され、「精神障害者は人里離れた精神病院の鉄格子の中に拘禁されている危険な人たち」という精神障害者差別が作り出されてきたことは歴史が証明している。今この法案成立を許すならば、同じ誤った歴史が繰り返される。
法案成立を条件に精神医療保健福祉の充実をという動きもあるというが、このような法案と引き替えでなければ、精神医療保健福祉の充実をしないというのであれば、それは、これまで虐げられてきた精神障害者を愚弄するものである。
そこまでしてでも精神医療保健福祉の充実を求めたい、という切実な現場の声を政府、与党が逆手にとるとするなら、その卑劣さと、それに同調した人々の名は、どす黒い汚点として未来永劫忘れ去られることはないであろう。
私たちはいかなる修正も許さず、法案の廃案を求め闘いつづけることをここに宣言する。
2002年11月12日
行動提起
地元出身の国会議員に法案の廃案を要請してください。
国会議員名簿はたとえば以下のサイトから調べられます。
政治家・政策データベース http://db.kosonippon.org/
予防拘禁法廃案へ11・21国会デモに最大の結集を
日時 11月21日(木)午後6時から集会 午後7時10分デモ出発
場所 星陵会館 地下鉄「永田町」6番出口 国会議事堂前5番出口
電話 03-3581-5650
予防拘禁法案を廃案へ! 秋季共同行動
連絡先 TEL 03-3591-1301 救援連絡センター
FAX 03-3924-6646 陽和病院労働組合
メール kyodou-owner@egroups.co.jp
緊急連絡先 186-090-1254-8360
郵便振替口座 00120-6-561043 予防拘禁法を廃案へ!