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緊急アピール 下関事件U被告への死刑判決に抗議する いわゆる「触法精神障害者」への隔離抹殺攻撃=保安処分攻撃に抗議する

大野 萌子・関谷 時子・長野 英子(全国「精神病」者集団会員)
2002/10/06

last update: 20160125


 新聞報道によると山口地裁下関支部並木正男裁判長は、5人が死亡、10人が
重軽傷を負った山口県下関市のJR下関駅事件(99年9月)のU被告に対し検
察側の求刑通り、死刑を言い渡した。
 U被告は事件当時精神科に通院中であり、獄中でも服薬している「精神病」者
である。
 すでに多くの「精神病」者に死刑判決が下され、かつ1993年3月26日に
は「精神病」者であるK氏が処刑されている。

 「精神障害者は何をやっても不起訴になり無罪放免だ」という誤解が一部に流
布しているが、新聞に大きく報道される事件においてはほとんどが起訴され、一
般人同様に有罪判決を受けている。そして死刑判決もまれではない。
国は今「心神喪失者医療観察法案」を成立させようとしているが、法案成立以前
になんらかの「事件」を起こした精神障害者に対する国の対応は、すでに共にあ
ることを全否定し、処刑により抹殺するか措置入院によって永久隔離するかであ
り、法案成立はさらに治安的判断に貫かれた永久隔離を確保しようとするものに
他ならない。

 国家は60年代に「精神病」者に対する隔離収容政策を強行し人々の「精神病」
者差別を作り上げた。今この国は不況と失業の先の見えない状況のなかで年間3
万人の自殺者を出している。国はこれに対して、戦争準備のための有事立法、重
罰化や組織犯罪対策法などの治安のための特別立法の乱発、など治安強化で人々
の不満を犯罪対策へとそらし、とりわけ差別されている精神障害者をいけにえと
してこの特別立法を作ろうとしている。

 今回のU被告への死刑判決はこうした「精神病」者差別抹殺攻撃の一つであ
り、保安処分攻撃であるといわざるをえない。

 私たちはこの保安処分攻撃に断固として抗議する。

 新聞報道によれば、公判においてU被告に対しては二つの精神鑑定が行われ、
福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)は「善悪の判断能力や判断に従って行動
する能力は著しく減退していたが、完全に喪失していたとは言えない」として、
責任能力を限定的に認める「心神耗弱」を示し、その後行われた保崎秀夫・慶応
大名誉教授(精神医学)の鑑定は「著しい障害があったとまでは言えない」とし
て、完全な責任能力を示唆した。

 判決は福島鑑定を信頼できないと切り捨て、保崎鑑定を採用し、完全責任能力
ありとして死刑判決を下している(添付資料参照)。

 死刑は何も生み出さない、国家による計画的殺人であり、私たちは死刑制度廃
絶の立場からもこの判決に抗議する。

 二つの異なった結論の精神鑑定にもかかわらず、死刑判決が下されるという事
態は死刑制度の矛盾を暴露しているといわざるをえない。死刑と無期は絶対的な
違いである。

 私たちはU被告への死刑判決に抗議すると共に、すべての精神障害者が共にあ
り、共に生きる社会を求めあらゆる保安処分攻撃に対峙し、「心神喪失者等医療
観察法案」廃絶に向け闘うことをここに宣言する。同時に本日の集会に参加され
た、法廃案に向け闘う仲間に獄中精神障害者と共にある闘いを提起する。

2002年10月6日
                  全国「精神病」者集団会員 大野萌子
                  全国「精神病」者集団会員 関谷時子
                  全国「精神病」者集団会員 長野英子

精神障害者差別・保安処分を許すな! 予防拘禁法を廃案へ!10・6集会に向けて

REV: 20160125
精神障害/精神障害者  ◇精神障害・精神障害者 2002年  ◇全文掲載
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