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電子投票 バリアフリー忘れないで
村田拓司
(むらた たくじ)東京大学先端科学技術研究センター助手
『朝日新聞』2002年8月4日付朝刊「私の視点サンデー」欄
岡山県新見市で全国初の電子投票があった。私自身が視覚障害者(視障者)で、障害者の参政権の見地から電子投票に注目してきたので、現場の空気を体感すべく新見の地を踏んだ。大多数の有権者、特に電子機器が苦手とされがちな高齢者からも、従来より投票しやすかったとの声を聞いた。バリアフリーの観点からも今回は成功といえる。
この成功は高齢者・障害者に配慮した投票機の採用による面が大きい。もっとも視障者対応は、私が初めて評価会に参加した一昨年4月当時はお粗末だった。タッチパネルに張られた点字シールを頼りに入力し、強くなぞると誤動作する危険があった。しかも、投票者は機械が候補者名を読む速度を制御できず、押すときを誤ると思わぬ人を選ぶ恐れもあった。
しかし、何度も開いた評価会での利用者の声を生かして改良を重ねた結果、今回の投票機が実現した。それは、わずか五つのキーで操作できるうえ、それぞれ浮き出し記号と点字説明があり、点字の読めない視障者にもわかる仕組みだ。視障者はヘッドホンで案内を聞きながら操作し、候補者選択も思いのままの速さでできる。従来は後追い的だったバリアフリーに開発時から配慮した好例だ。
さらに、事前準備も重要だ。今回新見市は模擬投票などで市民への浸透を図った。その結果、高齢者を含む多くの市民が機械に慣れ、苦手意識を払拭して、本番の円滑な投票につながった。ただ、バリアフリー対応であることが広報されなかったのは残念だ。
注意すべきは、見せかけのバリアフリーの美名に惑わされないことだ。ある展示会で見た有名企業の「バリアフリー機」は、音声ソフトがなく、見えない人にタッチパネルを操作させるような代物だった。導入予定の自治体はもちろん、国も立法上、投票機の具備条件へのバリアフリー対応の明記が肝要だ。
また、現行法では投票機画面に顔写真が表示できないが、これは文字が不得手な知的障害者への情報保障の見地から再考すべきだ。目も耳も不自由な人への配慮も必要だ。ほかにも、参院比例代表選で多数の政党と候補者があるような場合の公平で効率的な表示など課題は山積している。
UP:20060131
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