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ジェンダーの視点からみた開発と援助

20020805
MY(立命館大学政策科学部4回生)

last update: 20160125


はじめに 問題定義

 開発途上国の開発・援助政策に目を向けてみると、重要なものの1つに女性・ジェンダー問題がある。国際機関においてもまた、わが国においても女性・ジェンダー問題というものは、従来の援助形態にない人間中心の開発という比較的新しい分野であるため難しい政策であるといえる。
 これまで、第3世界の国に対して先進国が行った援助に対し、開発→発展へと繋がっていることを願いたいけれども、同時に西洋的思考の押し付けであるという批判も多く上がっている。
 このような中で、この女性・ジェンダーによる開発援助を行うことにより、より良い援助政策へ導くことができるのかどうか。また、その方法を考えてみたい。
 その中で気になる点は、この問題は、他の分野の開発援助にも見られるように評価の基準がないことにある。その上で、「人間開発報告書1995」が示すものは、客観的にみて数字だけでは不平等とは語れない。その国、地域の固有の価値観で評価することがもっとも良い分析方法であると思われる。ということを念頭に入れておく必要がある。

【目次】
1、 ジェンダーの説明 (世界の主な動き)
             (日本国内の動き)+歴史 
2、 ジェンダーの国際的取り組み  (第4回世界女性会議 北京市開催)
3、  人間開発報告書 1995年

1、 ジェンダーの説明

開発における女性の評価の変遷  ―WIDからGADへ― (世界の主な動き)
開発途上国の開発計画の中に女性を取り込むこと自体は、1950年代に早くも現れてきた。その後、第3世界の女性の実態把握の進展や、またフェミニズムなどの論争の進展、開発理論そのものの変遷、さらには開発途上国内部における女性運動の高揚のなかで、開発と女性の関係の捕らえ方、アプローチの方法も変化してきた。

「国連婦人の十年」(1976年〜86年)

開発と女性WID(Women in Development)
「女性は経済的開発に貢献できるのにもかかわらず、これまでなおざりにされてきた有益な資源の一つである。」(モーザ)という概念にたっており、それゆえいかに上手く女性を開発計画に組み込むかを研究または政策の対象としている。

女性のみをアプローチの対象にすることの限界
開発とジェンダーGAD(Gender and Development)
「WIDアプローチのように女性のみに焦点を当てたのでは、男性に対して従属的な地位にいるという女性本来の問題解決にはならない。」(モーザ)という立場をとり、「開発過程で女性を援助する計画を立てる際」(同上)「男女の社会的な関係(ジェンダー)に目を向けるべきである。」(同上)

政策の展開においては、社会関係と無関係な人間の基本的なニーズの充足、能力の獲得から、社会関係における女性の政治的、経済的、社会的意思決定への主体的参加、つまりエンパワーメントへ、という大きな流れが存在するといえる。

開発における女性の評価の変遷  ―WIDからGADへ― (日本)
日本の政府開発援助は、主に外務省が政策の枠組み・無償資金供与の大部分を実施している。その他、海外経済協力隊(OECF)、国際協力事業団(JICA)も実施している。他、通産省や農林水産省、文部省もODA予算を計上している。
ここでは、OECFとJICAの二つの機関を用いてODAにおける「開発とジェンダー」について分析する。

1、 日本のODAのおけるWIDの導入過程

1983年 OECDの開発援助委員会(DAC)がWID指導原則(ガイディング・プリンシプル)を採択。
1987年 OECFにWID担当官を設置。
1989年 DACのWID専門家会合の運営委員会(ビューロー・メンバー)国に選出される。
WID援助委員会が外務省間に設置。

1990年 JICAに「開発と女性」に関する援助研究会を事業団外部の有職者にて設置。
1991年  JICA内に環境・女性課を設置。

1991年 OECFにWID配慮のためのガイドライン作成。
1992年  在外公館におけるWID担当官を設置。
1993年  OECFにWID担当課(環境・社会開発課)
WIDは、日本のODAにとって新しい政策であった。1980年代の終わりまでは、ODAにとってジェンダー問題はそれほど重要視されていなかった。しかし、外からの影響(DAC)により、国内において急速に整備されていった。

WIDの位置付け
・ WIDは日本のODAの新たな政策である。「地球的課題」と位置付けられている。環境・貧困・人口・エイズ・難民・人権・教育とともにWIDは、これまでの開発のやり方では対応できなかった、国境及び産業分野の境界を越えた課題である。(JICAより)
・ WIDはODAの効果的・効率的実施の手段として位置付けられている。(外務省より)
・ WIDは参加型アプローチの一部として位置付けられている。特に、貧困・教育・参加型開発のような従来の開発になかったものについて、研究が開始されたJICAではこの位置付けが見られる。
社会経済開発は、男女を問わず社会を構成する住民の参加によって実現される。『参加型開発』であるべきであり、・・・我々は、開発途上国の人々が貧困と闘い、自らの経済的・社会的な自立を達成するための努力と、これを支援する開発援助の必要性を十分に認識しなければならない。(JICAより)
特に第3の「人間中心の開発」をめざす「参加型開発」は、これまでにない形態として日本の援助・開発に大きな影響を与えた。

WIDからGADへ
OECF、JICAにおけるWIDの取り組みは、組織の運営上の範囲の関係によりWID理解に
ギャップが生じていた。また、それらが相互に影響しあうことでGADの取り組みも活発化
していく。

*NGOによる開発
女性の参加がジェンダー計画の成功の決め手になるならば、市民社会の女性団体が実践に参加していかなければならない。すなわち、NGOは、「真に対象となる人々」があつまる「草の根」と結びつく力を持っているので、「もう一つの」=オルタナティブ 開発を実践できる組織形態として、近年ますます認められるようになってきた。また、NGOによる開発支援は、相互の信頼、利益の公平えさにおいて受益者と同じ立場に立てることにより、政府による援助よりも開発ニーズを満たすことが可能である。

*女性の組織
なぜ女性は組織化すべきなのか?
・「ジェンダーの社会関係は、それぞれの社会によって異なるため、女性は1つの均一なカテゴリーを作らないし、作ることもできない。さらに、女性達は、ジェンダーでは決められない政治・経済・社会的従属と不平等という状況のなかで、さまざまな経験をしてきている」(ホワイトヘッド)
       女性が連帯し、協力し合い、利益を共有する。
・ 国外からの影響 

2、ジェンダーの国際的取り組み(第4回世界女性会議)
第4回世界女性会議 北京市開催
1995 9月4日〜15日
テーマ:「平等・開発・平和への行動」
1985年の国連婦人の10年ナイロビ世界会議 
  「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」の完全行動計画を目指す。

1、行動綱領
目的:エンパワーメントをつけること
12分野別行動
貧困、教育と訓練、健康、暴力、武力紛争、経済、権力および意思決定、地位向上のための制度的な仕組み、人権、メディア、環境、女児

2、日本の課題
(日本の基本的な考え方) 参考:日本のWIDイニシアティブ
 
開発おける男女の平等な参加、受益に向けて努力することは、一義的にはその国自身の課題。
開発おける男女の平等な参加、受益に向けて実施することを通じて、開発途上国の努力を支援することができる。その上で、WIDに配慮することは、均衡の取れた持続的な開発に貢献することができる。開発途上国の女性の地位の強化(エンパワーメント)や男女格差の解消(ジェンダー・クオリティー)を推進する。       
3つの重要分野(国内・海外(協力)の二つがある)
これからの協力(海外)
 開発途上国の政府および国民一般の意識の向上
教育:  2005年までに、開発途上国における6歳〜11歳までの男女格差を無くすことを目指す努力を支援。
      2010年までに、開発途上国の6歳〜11歳までの女子のほぼ全員が男子と同様の学校教育を受けられるようにすることを目指す努力を支援。
・個々の社会の事状名あった女子教育の教科書・教材の作成・普及
・教員の養成
・女子が利用できる教育・訓練のための施設・設備の整備
・成人女性の識字教育の促進
・その他の女子の初等教育の普及に資する協力
健康:  すべての国・地域で、2010年までに、妊産婦死亡率(出生10万人あたりの妊産婦の死亡者数)を200以下に下げることを目指す努力を支援。
      出産に対する圧力を軽減するという視点から、2015年までに、乳幼児死亡率(出生1,000人あたりの1歳未満の子供の死亡者数)を35以下に下げることを目指す努力を行う。
・基礎保健医療体制の整備・強化
・基礎衛生栄養教育の促進
・母子保健サービスの強化 (例)乳幼児の健康診断、予防接種、栄養相談
・家族計画の普及
・医療・保健・衛生・栄養・人口に関する基礎のデータの整備能力の向上
・その他の女性の健康に資する協力
経済・社会運動:  女性のための適正技術の研修・訓練の場の提供、女性の労働環境の改善、女性問題関連の法律・制度の整備のための協力。また、経済活動への女性の参加を促進する上で、女性の起業家が多い零細企業の育成を支援していくことが有益。すでにこの分野において、女性経営者向けの優遇措置を有するインド・小企業育成計画に対する円借款供与の実績があり、先般、バングラデッシユ・グラミン銀行に対する円借款供与を決定した。
・零細企業への金融支援を行う組織・制度の導入・整備のための助言・協力
・個々の女性を零細企業や社会団体に組織化するための助言や指導 (例)機材供与
や貸付の対象となりえる同業組合の設立
・女性が従事する零細企業の育成や、その他の経済・社会活動への女性の参加に貸す
る機材供与 (例)縫製業支援のためのミシンの供与
・女性が従事する零細企業に対する支援制度への資金協力

3、北京後の課題
国際的
・西欧近代開発主義に依っている
植民地・自然・女性  (マリア・ミース)                                       日本の女性のエンパワーメントが必要  
・企業中心社会をどうやって変えるか
・日本の女性としての国際的な責任 (松井やより)
今回実際的に開発途上国におけるジェンダー視点を取り組むにあたり、日本・各国の社会状況が影響している点、また、国際的に見て西欧諸国の思想が大きく影響している点がみられた。これらの影響により、北京の行動綱領において、対立、意見の違いをもたらした一つの原因だといえると思われる。日本においては、企業中心社会が関係しているようであった。途上国援助のジェンダー視点は、性別役割分業をうまく活用した上で、平等な社会を形成していくべきであり、先進国(日本)の一方的な計画は、発展には結びつかない。

4、人間開発報告書 1995より
 ―開発途上国における女性の状態―
 開発と女性の問題を考えるうえで、必要となってくるのが、世界とくに開発途上国の女性が現在置かれている状態を把握することである。そこで、ここでは国連開発計画(UNDP)の人間開発報告書(HUMAN
DEVELOPMENT REPORT)1995から読み取ってみたい。
この本は「1995年9月 第4回世界女性会議」を年頭において作成された。世界の現状は、改善されているように思えるが、一方で女性の地位や権利は依然として十分ではなく、「ジェンダー・ギャツプ」が解消され、本当の意味での男女平等な社会の実現が望まれている。

 本書においてジェンダー問題を取り上げた理由としては、人間開発を実行する上でジェンダー問題を解決しない限り、その存在自体が危機に瀕するものであるとし、男女平等を目指すことにより、「社会、経済、政治生活の面での今日の前提条件のほぼすべてを覆し、開発―発展へと繋がる」としている。その中で、「開発」の目的として、「人々が健康で長生きし、創造性にとんだ生活を楽しめるような環境を整えることに加えて、人の選択権の拡大」と表記していた。
 本書にあげる数字や指標あるいは政策をとってもその運動の本質を捉えることはできない。しかし、専門的な分析の背景を提供することで、その運動の推進を助けることはできるとしており、単純な比較はできないが、現状を知るうえでの資料としてここでは取り扱う。

人間開発報告書は従来、「人間開発」の到達点を、各国別の人間開発指数(HDI: Human Development Index, 出産時の平均寿命、教育の到達度、所得の3要素からなる)を計算することによって明らかにしてきた。人間開発報告書1995では、これまでのHDIが男女を含めた各国別の平均であったため、一国の内部における格差とともに、女性に対する差別、つまり女性の「人間開発」の遅れを表現していないと批判を受けて、ジェンダー不平等の評価を組み込んだ人間開発の指標づくりに取り組んでいる。それが、ジェンダー開発指数(GDI)とジェンダー・エンパワーメント測定(GEM)である。
・ジェンダー開発指数(Gender-related Development Index-GDI)
 人間の能力に関して男女が以下に平等でないかを表す。
・ジェンダー・エンパワーメント(社会進出)測定(Gender Empowerment Measure-GEM)
 政治と経済という重要分野に女性がどれだけ進出して意思決定をしているかを表す。
 GDIは、ごく簡単に説明するとすると、HDIをその国の男女格差の大きさによって割り引いたものであり、その国に全く男女格差がなければGDIとHDIの値は一致する。そのグループ別の大まかな結果は、あるべき状態を1として、1992年において世界全体で0,638、先進国で0,869、開発途上国で0,560であり、1970年のGDIと増加率はそれぞれ、0,432(48%)、0,689(28%)、0,345(62%)である。
 この数値の改善は「開発途上国における女性の就学率が全レベルで上昇したことと、先進国において女性の賃金雇用が増加したこと」による。GDIの計算の結果から、人間開発報告書1995は以下の3点の結論を導き出している。
・「女性を男性と同じように扱っている社会はない」
・「ジェンダーの平等は社会の所得水準に左右されない」
・「過去20年間に顕著な進歩が遂げられてきたが、道のりはまだまだ遠い」

 また、GEMは女性の経済、政治、専門職への参加の到達点を測定するものであり、経済力に関して、購買力評価ドルで換算された女性1人当たりの所得、専門職への参加や経済活動における意思決定への参加に関して、専門職、技術専門職、管理職に分類される仕事の占める割合、政治や政治的意思決定への参加に関して、国会に占める女性議員の割合、野3つの要因から計算している。GDIとGEMを比較して、「GDI値が0,6以上の国が66カ国あるのに対し、GEM値が0,6以上の国は9カ国に過ぎない。一方、GDI値が0,3以下の国が13カ国しかないのに対し、GEM値が0,3以下の国は39カ国を数える」としている。

 以上、「人間開発」の概念から導き出された開発途上国の女性の状況を概観した。人間開発報告書1995では、とくに女性に関する「人間開発」の段階を、人間の基本的能力の獲得と、エンパワーメント(参加と能力の発揮)に大まかに分けて考えていると思われる。そして1つの結論として、人間の基本的能力の獲得つまり人間開発は、女性に関してもまだ満足できる状況ではないとはいえ確実に進歩してきている。一方、政治、経済、社会への参加すなわちエンパワーメントの分野における進歩が遅く、今後の課題となることを指摘している。

 ちなみに日本のHDIは1992年の数値で0,937、順位にしてカナダ、アメリカ合衆国についで3位である。GDIは1992年において0,896、順位はHDIと比べるとやや落ちて8位、1970年の数値は0,766、順位は変わらず8位。
 日本の社会状況を目のあたりにしては、少し疑問をもつ順位と数値である。そこには社会一般の到達点をいかなる基準によって評価するのかという問題、つまりはあるべき社会や、発展をどのようにして展望するのかという問題があるといえる。一方、GEMは1992年の数値で0,442、順位は先の2つの指数に比べて大幅値落ちて27位である。GEMの数値と順位の低さと、HDIとGDIとの落差は、日本社会の女性の社会参加の困難さという現状を表しているといえる。

終わりに―若干の追加考察―

 WIDから始まった女性問題は、GADに変化したといっても完全に変化したものではない。ということここでは書き加えておく。国や機関による立場やそれぞれの方針により、WIDとGADの理解も様々である。とりあえず、WIDという理念の中からGADが生まれたのは確かである。これからは、両者の良いところをもっと活かさなければならない。しかし、地球的問題だからこそ、一定の基準が必要ではないでしょうか。それを議論する場が、世界女性会議であると思うが、私には、わかりにくい所が多かった。
 ジェンダー問題はこれからより注目されていく分野であるだろうから、もう少し評価基準の見直しは必要だと思われる。
 個人的には、「男女の役割が尊重された社会においてのよりよい開発・援助のあり方を考えていきたい」と思っています。

参考文献
・「ジェンダー・開発・NGO」  キャロライン・モーザ  新評論 1996
・「国連・女性・NGO」活動の手引き  国連NGO国内夫人委員会 1997
・「アジア・太平洋地域の女性政策と女性学」 原 ひろこ他  新曜社 1996
・「北京からのメッセージ―第4回世界女性会議および関連事業報告書」  総理府男女共同参画室編  1996
・「世界女性会議をどう生かすか 北京発日本の女性たちへ」  アジア女性資料センター編書  明石書店  1997
・「NDP国連開発計画 ジェンダーと人間開発 1995」 国際協力出版会
http://www.unic.or.jp/ 国際連合広報センター

……以上。標題と以下はHP制作者による……

REV: 20160125
女性の労働・家事労働・性別分業  ◇ジェンダー gender  ◇2002年度講義関連  ◇全文掲載
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