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広がる短時間勤務の裏にひそむ女性の悩み

奥村 仁
(立命館大学政策科学部3回生)
20020727

last update: 20160125


 7月22日付け日本経済新聞夕刊の特集、「ワーキングウーマン」の中で、少子化対策としても注目されている、短時間勤務とその問題点について書かれていた。少子高齢化により労働力不足が予測される中で、女性にも働きやすい環境をつくるべきではないか、と日頃から感じていたことに加え、前回のレポートでまとめたSRI(社会責任投資)の査定対象ともなっており、関連があるので記事をまとめてレポートすることにした。

<記事の要約>
□ 短時間勤務の恩恵
 NECコーポレート・コミュニケーション部の広井さんは、「育児休暇を取っても、早く仕事に復帰したかったので短時間勤務制度があってよかった」と話している。次女が生まれてから7ヶ月で短時間勤務に切り替え、昼休みも仕事をして通勤電車の中で下準備をする毎日だと言う。また、万有製薬の中村さんは、長女の保育園送り迎えのためにこの制度を利用しており、「会社に短時間勤務制度があるからこそ」続けているのだと言う。
 このようにして、短時間勤務を導入する例が多くなっている中で、今年4月の育児・介護休業法改正とともに、対象を拡大する企業も増えている。約2時間ほどの短縮で給与は減額されるものの、広井さんのようにキャリア維持の側面からも効果があり、短時間勤務を希望する人は多い。

□ 「歓迎」の裏の悩み
 実際に制度を利用している女性社員の中には、悩みのある人も少なくない。ある女性社員は、仕事量のかさんでいた日に早退しようとしたところ周囲の同僚に冷たく扱われたこともあり、職場の目が心理的な負担になると話している。また、短時間勤務を利用しても、同じ成果が求められるのに変わりは無いため、時間当たりに処理すべき仕事が増える一方で、短縮した時間分は給与がカットされる。と、仕事の負担が重荷になると話すのは都内の企業に勤める30代前半の女性。ニッセイ基礎研究所の武石恵美子・主任研究員は、「日本企業の場合はチームで仕事をするという正確が強いため、短時間勤務によりしわ寄せが行く場合が多い。企業は短時間勤務社員のいることを前提とした仕事のシステムを考えるべきだ」と言う。

□ スムーズに制度運用するための社内環境整備が急務だ
 もっとも、育児支援措置は選択制のため採用していない企業は7割近くあり、その中で今後も検討の可能性無しとしたのは半数にも及び、まだ普及しているとは言いがたい。日本労働研究機構の今田幸子・統括研究員によれば「育児支援によって優秀な人材の流出阻止・確保につながり企業にとってメリットであるという正しい認識に欠けている」と苦言を呈し、そのうえで「少子高齢化の加速により、多様な労働環境の提供が不可避」であるとしている。このようにして、企業は短時間勤務制度を柱として新たな社内環境を整備する必要に迫られている。


<率直な感想>
 少子高齢化の問題は深刻で、日本経済を支える労働力が今後どう推移するかという議論が盛んである。通説では2005年に総人口がピークになり、労働力も減少するとされているが、むしろ問題なのは、2010年までに19歳から29歳までの若年層労働人口が400万人減る反面、55歳以上65歳以下のそれは380万人増えるという、労働人口の高齢化である。この対応策としては、「定年77歳制度」もしくは「移民受け入れ年間1000万人」というシナリオが挙げられている。しかしいずれも実現が困難であり、労働力としての女性を見直すことで企業は労働力の流出及び高齢化を阻止し、女性にも働きやすい環境を提供することで少子化に歯止めをかける方がより実現的なシナリオではないだろうか。
 ところがこの記事によると、実際に短時間勤務制度を導入している企業は3割ほどにとどまっており、企業倫理の問い直しが必要である。
 そのような中で、日立製作所は「仕事と育児の両立支援制度」として、具体的な指針と定義を決めている。特に男性にも育児休暇を幅広く認めている点は特筆すべきものがある。育児や介護のために退職した社員に対しても、男女とも再就職または関連会社の斡旋の可能性を示しており、待遇は先進的である。
 1回目に提出したレポートでは、SRI(社会責任投資)を紹介した。女性に働きやすい環境を整備するなど倫理的な活動を展開する企業に対して投資する、というファンドの一種である。今回の短時間勤務制度も査定対象のひとつとなっているのだが、SRIなどの民間活力を通じて拡大・発展させることができるのではないだろうか。

<参考URL>
* 下段はアクセス日

日立製作所 生産技術研究所 総務課
http://www.hitachi.co.jp/Div/perl/saiyo/assist.htm
2002/07/25

朝日新聞2000年3月24日
「働く人の比率 50年後も維持するには」
http://plaza10.mbn.or.jp/~yebisu/yajiumadedondon/after50.htm
2002/07/26

「新世紀アジア発展のシナリオ」
日本総研調査部 環太平洋研究センター
http://www.jri.co.jp/
2002/07/26

株式会社 インテグレックス
http://www.integrex.jp/g-main.htm
2002/07/27

 

社会責任投資と女性の役割

奥村 仁
(立命館大学政策科学部3回生)
20020716

last update: 20160125


<このレポートの目的>
 女性の社会進出に伴い、法的にも企業風土的にも、その受け入れ基盤が急速に整えられている。今回は、欧州における働き方の事例を紹介した記事、ならびにSRIと呼ばれる社会責任投資(投資信託商品)の登場による資金的バックアップ体制が確立されつつあるという記事を、日本経済新聞の夕刊特集、「ワーキングウーマン」から取り上げ、記事のまとめを行うとともに、女性の社会進出をSRIでバックアップするという取り組みの、今後の展望を考察する。

<欧州パート最前線(新聞記事まとめ)>
 女性の社会進出が増加傾向にある中、その処遇などは国や地域によってかなり違う。フルタイムとの均等待遇を徹底しているネーデルランド(オランダ)と、関連法規の見直しを進めている英国。女性雇用者の約4割をパートが占める日本にも、他人事ではない。
 オランダでは雇用者のうち42%がパートで、なんと男性パート数も年々上昇し、2001年には20%にも達した。パートが増加する背景には、賃金や社会保障などでフルタイムとの均等待遇が徹底されているうえ、仕事と家庭を両立させたいと願う男性の増加もあるという。また、出産後も仕事を続けながらも育児はできるだけ自分たちで行いたいという発想が根強いこともある。実際、アムステルダム市およびその近郊で保育園を運営する「ミラクル」の社長、ミラ・クィント氏によれば、年々入所希望者は増えるものの、9割以上が週3日しか子供を預けないとのこと。「保育園は週3日まで、という発想が根強く、そのためパートタイムを選ぶ人が多い」と話す。アムステルダム市北部に住むイングリッド・ヘルデルンさん(女性28歳)は、教育行政に関わる仕事がしたい、と、2年前にフルタイムの教師からパートタイムの教師に転向し、「夫と過ごす休日、ボランティアでの水泳のコーチなど、自分の時間が増えるのがメリット」と話している。
 このように、今でこそ「パート労働の王者」と呼ばれるオランダであるが、そのための法整備には20年を要したそうである。オランダ産業経営者連盟のシップ・ニュースマ副理事によれば、「状況に合わせて(労使間で)しっかりと話し合いを続けてきたことが成功の鍵」と話している。

<女性進出と社会的基盤整備>
 さて、以上のネーデルランドにおける事例のように、女性の社会進出はそのものが目的ではなく、「育児に専念するのではなく働きたい」「大学に戻って勉強したい」「家族との時間を大切にしたい」といった考え方が根底にあり、パートはそのための手段でもある。また、日本の労働者人口も高齢化と少子化の影響で減少する傾向にあるため、移民を受け入れないならば女性の労働力が非常に重要となる。そのためには働きやすい環境と企業風土形成、ならびにそのための法律整備を早急に行う必要がある。
 日本国内でも平成11年4月より、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(男女雇用機会均等法)が施行されたが、これはすでにさまざまな問題点を抱えている。間接差別の黙認、職務評価制度の不徹底、運用管理区分などが代表的なものであり、利害関係当事者間でのトレードオフを目指すことが政治的に困難になっているためである。このようにして、国家が法律の制定により企業に対する強制力を行使しようとしている日本の現状を尻目に、人々の望むライフスタイルに合わせた雇用に関して、欧米では新たな試みが始まっている。それがSRIという、倫理的にすぐれている(=女性に対する差別などが無い)企業に対して民間が選定することで、企業の自主的な変革を狙おうという動きも出てきた。以下に、その新聞記事を紹介する。

<SRIとは(新聞記事まとめ)>
 日本経済新聞の特集、「ワーキングウーマン」で、SRI(社会責任投資)が紹介されていた。これは、投資信託の新しい商品概念のようであり、環境や人権に配慮しながら活動する企業を資金面から応用するというものである。このSRIファンドは、もともと米国で始まったもので、90年代の401k導入とともに飛躍的に資産残高を増やし、現在では欧州でも普及している。ポルトガル、ギリシア、アイルランドをのぞく欧州連合12カ国に、ノルウェー、ポーランド、スイスの15カ国を加えたSRIファンドの規模は、現在約1兆8000億円に登る。目を見張るのはその成長率で、投資信託市場全体に占める割合は10%に満たないものの、最近18ヶ月で40%も総資産を増やした。もともと、環境対策、人権保護
などの観点から出発した投資信託商品であったが、現在では投資先の企業選択基準に「女性の活用度や女性の働きやすさ」を加えており、最近の主流になっており、現在ではほとんどすべてのファンドで女性基準を設けてある。
 なぜ女性基準が重視されるようになったのかは、欧州の2つの特徴が背景にある。ひとつは、差別撤廃の視点。法制面だけではなく、企業活動の側面から支援すべきという社会的合意がある。もうひとつは、人的資源有効活用の視点。女性が働きにくい環境を作っているということは、その企業が人的資源を活用しきれておらず、経営の失敗ともとることができる、と考えられるようになったことである。更に、出生率の低下で、労働力としての女性の価値が見直されたこともある。仕事と家庭のバランスを考慮しない企業は、優秀な人材を集められない、という見方だ。
 ただし、SRIにも常に問題点としてつきまとうのが、「金融商品としての側面」である。目的こそすばらしいものであっても、運用成績が悪くては、投資家の積極的な資金提供は期待できない。それでも、SRI市場の拡大は、女性の社会進出と好環境の提供につながり、職場での機会均等促進に大きく貢献する原動力になると期待されているのだ。

<労働力としての見直し>
 「男性は仕事、女性は家事」という固定観念が打破されはじめてから久しい。しかし、高齢社会と少子化が一層深刻な問題になると予測されている日本では、今まで以上に労働力としての女性の役割が重要視されるべきである。先述のとおり、日本における労働市場において女性の地位と労働環境は決してよいものとは言えない、根強い現状がある。しかし、オランダの事例のように、この国でも人々が望むライフスタイルは多様化しており、パートタイム労働者は今後も増えると思われる中で、フルタイムとの雇用条件の差別化は極力回避すべきである。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2001年の調査で正規の従業員・職員を除く雇用者は全体の25%に達しており、さらに2000年時点でのフルタイムとパート労働の時間あたり賃金格差は倍以上である。このままでは労働力の絶対的な不足は不可避であるとも思われる。
 法体系の整備が思うように進まなくても、民間の目を通して投資額という側面から企業を評価し、雇用側が自律的に倫理的労働環境の整備を行うことができれば、いっそう早く本当の雇用機会均等と自由時間の拡張が実現できるのではないだろうか。

<参考文献等>
「ワーキングウーマン 働き方いろいろ 欧州パート最前線」
 日本経済新聞(夕刊)7月1日発行
「ワーキングウーマン 女性の活用を後押し」
 日本経済新聞 7月3日発行
男女雇用機会均等法の問題点
(http://wom-jp.org/j/REPORT/kinto.html) 平成14年7月13日アクセス
 キャリアインタビュー お仕事デザイン
(http://www.cafeglobe.com/career/oshigoto/int_vol40.html) 7月13日アクセス

*SRI についての有用なサイト情報


株式会社 インテグレックス
http://www.integrex.jp/g-main.htm

同社社長の秋山氏のインタビュー
http://www.cafeglobe.com/career/oshigoto/int_vol40.html


……以上。以下はHP制作者による……
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