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「障害者と情報保障」レジュメ

田中 邦夫 2002/05/25
障害学研究会関東部会 第23回研究会

last update: 20160125


田中邦夫「障害者と情報保障」レジュメ


障害学研究会関東部会 第23回研究会

*日時 2002年5月25日(土)午後1時半ー4時半
    
*場所 東京都障害者福祉会館2階「児童室B」
(最寄り駅 地下鉄三田・JR田町駅)
地図 http://homepage2.nifty.com/pps/dd-3.html
電話 03ー3455ー6321 ファクス 03ー3454ー8166

*テーマ 「障害者と情報保障」

*発表者 田中邦夫(国立国会図書館)
     http://www.arsvi.com/0w/tnkkno.htm

*司会者 石川准(静岡県立大学)
      
*会費 1000円、学生 500円

*PC要約筆記、手話通訳、点字レジュメがあります

*参加自由です。事前の申し込みは不要です。

*問い合わせ先 長瀬 NagaseOsamu@mui.biglobe.ne.jp
              電話・ファクス03-5452-5063
              
(この案内の転送・転載を歓迎します)

*レジュメ

2002年5月25日

国立国会図書館 田中邦夫

 今回の報告は以下の拙稿二つによる。法的な視点からの考察が多い。

「著作権法と障害者――障害者の著作物利用に係る権利制限規定の見直しについて」
『調査と情報』[国立国会図書館調査及び立法考査局]第334号 p.1-15 2000.2

「障害者と情報保障−−法的側面からの一考察」『社会保障法』16号 p.177-192 
2001.5

1.情報保障の定義

情報バリアフリー環境:「高齢者・障害者の方々を含めたすべての人々が情報を発信
し、また、情報にアクセスすることが保証され、情報通信の利便を享受できる環境」
郵政省

アクセシビリティ:「利用者(障害者及び高齢者)が容易に機器を利用できることを
いう」通産省

 この二つは電気通信に比重を置く。米のリハ法508条も同じ。しかし「IT革命」
で片付く問題ではない。

情報アクセス権:「誰でも同じ情報を同じ負担で受け取る権利」: 著作権法改正の
過程で言われた。点字・字幕等で情報を獲得するのに、余分な労力・費用がかかるこ
とへの憤懣。

情報保障:「ある情報(音声とか映像とか)を受けるのに不都合のある人に、その情
報を何らかの方法で情報内容を伝えること」: 「情報保障」は聴覚障害者関連で言
われることが多いが、障害者一般の基本的問題として、考えてみた定義.。

(1)情報形態や厳密性より内容を伝えることが優先。

(2)情報のモード変換:文明進化の契機⇒目くじらを立てるべきことではない。

(3)情報内容そのものについては問わない。



2.情報保障が必要とされる場合の例

「情報」はとくに視聴覚障害者にとって切実。

(1)マスメディアへのアクセス(例:活字情報、災害情報)

(2)街頭や交通機関における情報利用(例:運行状況変更の告知、機器使用をめぐ
る情報)

(3)障害者の個別的コミュニケーション(例:受療時の関係者との対話)

(4)情報機器へのアクセス(例:インターネット情報のリーダビリティ)

(5)選挙・行政・教育・福祉・医療等の情報へのアクセス(例:政見放送、選挙公
報)

 それぞれマス状況、個別状況がある。いずれも音声⇒文字・手話、文字⇒音声・点
字というようなモードの変換によって保障されねばならない。

 以上は視聴覚障害者だが、他にも学習障害、知的障害、上肢障害、色覚異常などが
問題になる。



3.図<法と情報保障・制約>の説明 障害者と情報保障についての概念図(案)

 横位置の紙が3等分され、真中に楕円形。これは一般的情報空間のつもり。視覚障
害者、聴覚障害者という点線で囲まれた円があり、前者は点字と音声、後者は文字と
手話で情報空間に通じている。他に上肢、学習,自閉、知的という実線で囲まれた小
さい円がある。



 視覚障害者は点字と音声というチャンネルで、聴覚障害者は文字と手話というチャ
ンネルで、それぞれ一般的情報空間と通じている。(もちろんこれらのバリエーショ
ンはいろいろある)

 点字と手話の上下に実線がある。独自のチャンネルであることを表す。

 closed channel: 閉ざされたチャンネル→「健常者」社会は比較的寛大

open channel: 開かれたチャンネル→「健常者」社会は警戒的

 上肢、学習などの小さい円が実線で囲まれているのは、公認のチャンネルがないこ
とを示す。

 左側には情報を保障する法律名。矢印が真中の情報空間を指している。矢印の太さ
で保障の度合いを示す。書いてある順序と違うが、身体障害者福祉法、厚生労働省の
通達類、放送法等が最初のグループ。刑事、民事の訴訟法と、著作権法がその次のグ
ループ。さらに民法があり、もうひとつ公職選挙法がずっと下。

 右側には情報を制約する法律名。やはり真中に向かって矢印。最強のものが公職選
挙法。次に著作権法。第3グループに刑事、民事の訴訟法と民法。「柄のないところ
に柄をすげる」。

 そしてこれらの下の、土台となるものが

国際人権規約(B)第19条2号「すべての者は、表現の自由についての権利を有す
る。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方
法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝
える自由を含む。」

日本国憲法第21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを
保障する。」

 この二つから、下から上への太い矢印で表している。

4.レペタ事件

 1989年3月8日最高裁大法廷判決。報道関係を除き禁止されていた法廷でのメモ作成
を原則として認める。憲法21条の表現の自由と、国際人権規約(B)19条2号の「口
頭、手書き、もしくは印刷・・自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりな
く、・・情報及び考えを求め、受け及び伝える自由」。「表現の自由」に「受ける」
も含まれることを鮮明にした意味。「情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定
〔憲法21条1項〕の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるとこ
ろである」(判決文)。

 『判例時報』判決文 1299号 1989.

 『ジュリスト』座談会 936号。1989.6.15



5.法令による情報保障の現状と課題

(1)司法における先鞭

(2)制限の緩和

(3)積極的情報保障



(1)司法における先鞭

○刑事訴訟法 「通訳」:義務づけから裁量へ。

 「通事ヲ命ス可シ」(治罪法)→「通訳人に通訳をさせることができる」(現行刑
訴法)

       筆談の位置づけは不明瞭

○治罪法(明治十三年太政官布告三十七号)

第百五十六条 被告人又ハ対質人聾ナル時ハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナル時ハ書面ヲ以テ答
ヘシム若シ聾者唖者文字ヲ知ラサル時ハ通事ヲ命ス可シ

 被告人又ハ対質人国語ニ通セサル時亦同シ



○刑事訴訟法(旧々:明治二十三年法律第九十六号)

第百条 被告人又ハ対質人聾ナル時ハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナル時ハ書面ヲ以テ答ヘシム
若シ聾者唖者文字ヲ知ラサル時ハ通事ヲ命ス可シ

 被告人又ハ対質人国語ニ通セサル時亦同シ



○刑事訴訟法(旧:大正十一年法律第七十五号)

第百三十八条 被告人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナルトキハ書面ヲ以て答シムル
コトヲ得

第十五章 通訳

第二百三十二条 国語ニ通セサル者ヲシテ陳述ヲ為サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ
通訳ヲ為サシムヘシ

第二百三十三条 聾者又ハ唖者ヲシテ陳述ヲ為サシメル場合ニ於テハ通事ヲシテ通訳
ヲ為サシムルコトヲ得



○刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)

第十三章 通訳及び翻訳

第百七十五条 国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせな
ければならない。

第百七十六条 耳の聞えない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人
に通訳をさせることができる。

○刑事訴訟規則(昭和二十三年最高裁判所規則三十二号)

(書面による尋問)

第百二十五条 証人が耳が聞えないときは、書面で問い、口がきけないときは、書面
で答えさせることができる。



 徹底した情報保障のためには聴覚障害者の逮捕時に通訳を同道、聴覚障害者である
被疑者、

被告とのやりとりをすべてビデオテープで録音など(いずれも米の例)。

 米では裁判所事務局が法廷通訳の有資格者を掌握しておくべきだとされる(手話を
含む)。

 日本では聴覚障害者の裁判のビデオ録画が最近行われた。

 オウム真理教教祖の裁判



(2)制限の緩和

○著作権法 「権利の制限」:点訳の法定許諾、音声化の部分的法定許諾(1970)

  2000年改正   

   点訳ファイルの公衆送信の法定許諾

   テレビ等の音声情報の要約文字化→公衆送信の部分的法定許諾

 録音図書の使用者(学習障害者(読字障害)、一部の自閉症者、難聴者)について
は著作権法に規定なし。

 点字で作成した文書の著作権

 「健常者も利用することができる複製物が作成されるところから、今後、流用を防
ぐためのどのような措置を講じることが可能か」4回(『著作権審議会第1小委員会
審議のまとめ』1999.12)

 そのような危険性の論証はない。

 一般のコピーによって失われる利益については試算あり(『企業・大学等における
出版物からの複写実態調査概要報告書』1988)。複写された出版物の合計価格推計
349億円(1987)。

 著作権法第30条1項の1ではコンビニ等でのコイン式コピーを禁止。刑罰あり。一方
著作権法付則(抄)第5条2では「当分の間」30条1項の1は適用しない、とある。



○公職選挙法

  立会演説会(手話通訳が行われた)の廃止(1983年)

   ⇒1995年の政見放送への一部手話導入まで聴覚障害者は情報保障の点で無権利
状態

  1986年にろう者の立候補者の政見の無声放送事件(ラジオ・テレビ)

   ⇒1987年に「政見放送及び経歴放送実施規程」(以下、「規程」)を一部改正
(7条の

    2を新設)。代読を認める。

  1995年に参議院比例区の政見放送のみに手話通訳導入を許可(「規程」の8条3
項に追加)。

  1996年に候補者側制作の録画の放送を許可(「規程」の11条6項、14条1項
の改正)

   ⇒字幕、手話の挿入が実質的に可能に

 以上は公選法150条の「そのまま」条項への固執による。

 政見放送、候補者の演説の筆記通訳は公選法142条「法定外文書頒布」にあたると
して否定的見解。「玉野事件」の不合理性。

・ 選挙広報の点訳、音声化は外部に委ねるが、しばしば選管が干渉。選挙期間の短
縮とあい

   まって減少の方向



○民法969条 「口授」「読み聞かせ」の文言により聴覚障害者の公正証書遺言作成
は不可能

   ⇒1999年の改正で手話・筆記等の手段使用が可能に 。

視覚障害者の自筆遺言は依然禁止。



6.おわりに

○法的・制度的な情報保障はある程度存在するが個別的

   ⇒ 存在が認識されにくい

   ⇒ 保障の程度と条件には一貫性少ない

  法によって情報獲得が阻害されることが有り得るのがようやく認知されてきた

   (著作権法は隠れた欠格条項:著作権法審議の報告書で「欠格条項」に言及)

○「情報保障」という統一的な概念が意識されているか疑問

             ↓

 (1)包括的な「情報保障法」の制定の必要性

  各種の情報保障手段の提供義務、法・制度により障害者に情報の獲得と発信が阻
害されていないかの吟味、さらに永井事件などをかんがみて障害者に対する広報・周
知徹底の義務を定める。

 (2)当面、障害者基本法の22条3項を強化。情報保障の位置づけを行う。

例:「障害者が円滑に情報を利用し、及びその意思を表示できるようにするため、」

 →「障害者が円滑に情報を受容かつ利用し、及びその意思を表示できるようにする
ため、」

 「障害者に対して情報を提供する施設の整備等が図られるよう」

 →「障害者に対して情報を提供する制度・施設の整備等が図られるよう」

 →国・自治体の行う施策、主催する審議会や公聴会、啓蒙活動などについて、情報
保障の有無と、あるならばその方法をその広報に記載することを義務づけるなど。

○米リハビリテーション法508条:電子情報機器のアクセシビリティ

 「障害をもつ人も障害をもたない人と同等の情報アクセス・利用を行えるべき」

・参考にすべき点

  政府機関は遵守義務あり・ガイドライン作成(障害者多数のアクセス委員会によ
る)・政府機関の調達はガイドラインに従う・政府機関の機器の現状を調査報告・以
後定期的に調査報告

○人権規約(B)については、他にも外国人被告人が経費負担なしで通訳を付される
権利を認めた高裁判決が14条3項fに依拠しているなどの例もあり、拠るべき法のな
い場合には、障害者を始めとする情報弱者の情報保障に関して援用することが考えら
れる。


……以上……

REV: 20160125
田中 邦夫  ◇障害学研究会関東部会  ◇全文掲載
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