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「「身体障害者を対象とした本県職員採用試験について(回答)」を受けて・質問と提案」

障害者欠格条項をなくす会 2002/05/08

last update: 20160125


「身体障害者を対象とした本県職員採用試験について(回答)」を受けて・質問と提案

2002年5月8日

秋田県知事 寺田典城 殿
県総務部人事課課長 庄司善一郎 殿

障害者欠格条項をなくす会
共同代表
牧口 一二  大熊 由紀子
事務局
〒101-0062千代田区神田駿河台3-2-11
DPI障害者権利擁護センター気付
TEL 03-5297-4675  FAX 03-5256-0414


「身体障害者を対象とした本県職員採用試験について(回答)」を受けて
質問と提案


前略 4月15日付「身体障害者を対象とした本県職員採用試験について
(回答)」文書ご送付ありがとうございました。文書回答を受けて改めての
質問と提案を、下記のとおりお送りします。
 採用試験実施経過については詳しくご回答頂いていますが、いくらか質問
があります。当方の3月20日付の質問「A」各項目については、質問へのお
答えにはなっていない項目もありました。
 意見・提案をしっかり受け止めていただき、下記の質問部分については、
5月22日(水)までにはご回答ください。

 わたしたちは、3月20付と今回のいずれの質問についても、Tさんの具体
的な体験、ご回答のBにも示される4年間の客観的事実をふまえて、今後、
秋田県において、障害がある人をどう認識し、どのような配慮があれば職務
遂行が可能であると認識されるか、そしてそのために考え工夫していこうと
いう姿勢をお持ちかをうかがいたいと考えています。

 質問A−1項目「他自治体や国家機関では現にさまざまな聴覚障害者が採
用され職務についていること、一般事務でも少なからず存在することをご存
じと思いますが、なぜ秋田県ではこれまで採用していないのですか」につい
て県知事回答には、「一般事務職として県の様々な課所で様々な行政事務に
従事していただくため、補聴器等の補助的手段を用いてでも、県民の方々と
ある程度口頭によるコミュニケーションが図れることが職務遂行上必要にな
るものと判断してきたところです」とあります。
 これは一つには、従来においては、補聴器も要らない程度か、補聴器をつ
けさえすれば音声言語でほぼコミュニケーションができる聴覚障害者の採用
しか考えてこられなかった、ということになります。
 しかし、音声を受け取ることに障害がある者にとっては、補聴器だけで補
えることは限られています。この点、たとえば大多数の近視の人が「メガネ
をかければ見える」のとは決定的に違っており、軽度難聴者の場合でも、単
に補聴器をつけさえすれば聞き取れるわけではありません。補聴器はどうし
ても不要な雑音を拾ってしまうので装用しない、という人もいます。つまり
聴覚障害者の場合に特に重要になるのは、その人にとって何らかの補聴方法
が必要ならばそれを用いることは当然として、聴覚を音声情報で補う「補聴
器」以外の補助的手段を充実させることであり、環境の工夫です。周囲の人
もその人自身に適したコミュニケーション方法を本人から聞いて理解し相互
に協力することが大切です。補助的手段については、筆談・手話・FAXなど
に加えて、この十年に飛躍的に普及した電子メール、携帯電話、パソコン要
約筆記などがあり、現在では、その障害程度に関係なく、日々何十本もメー
ルを発信受信しさまざまな人と面談もしながら仕事を進めている聴覚障害者
が多く存在します。
 また、繰り返して言いますが、他の公共団体においても秋田県と同様に障
害者採用試験は一般事務の枠で行い、さまざまな部署で行政事務の仕事に配
置していることが多いのです。
 従って「ある程度口頭によるコミュニケーションが図れる」ことが職務遂
行上必要とする考えから根本的に見直されることを強く求めます。「口頭・
音声」以外のコミュニケーション方法は豊富にあり、それらを駆使し環境を
工夫することで職務遂行ができるからです。
 県知事回答は、A−3で「聴覚障害者が補聴器あるいは音声言語以外の様
々なコミュニケーション手段を用いることにより、県職員として必要な職務
遂行能力を発揮できる可能性があることは認識しております」と述べられて
いますが、この認識をかならず県下に徹底させてください。またこの認識に
基づけば当然、受験資格「(エ)活字印刷文による出題及び口頭による試験
(個別面接)に対応できる者」は削除されるべきものです。


質問
下記、5月22日(水)までにはご回答ください。

1.1998(平成10)年の制度開始から4年間で13人を採用してきた中に、
視覚,聴覚,言語障害者の採用が1人もいない理由、この事実の意味すると
ころは、どのようにお考えですか。

 これについては、前出A−1のご回答にある「合格者にいなかったため」
といった回答は、質問へのお答えにはなりません。要約筆記が必要な人が、
要請したにもかかわらず要約筆記も用意されない面接試験を受けて、どうや
って合格できるのでしょうか。
 また、前出A−1のご回答に「すべての聴覚障害者の受験を排除してきた
ものではなく、現に聴覚障害者からも受験をいただいてきているところで
す」とありましたが、当然ながら、受験さえできればそれでよいという問題
ではありません。


2.「その他の障害や重複障害」が2001年度は合格者4名のうち3名も占め
ていますが、どんな障害かを、たとえば「内部」+「肢体」1名、のような
記述で示してください。


3.2001(平成13)年度、受験資格を身体障害者手帳所持「1級から4級」
から「1級から6級」に変更されていますが、これはなぜですか。
 反対に「1級から6級」を「1級から4級」に変更した例はありますが、
秋田県のように、最初は含まなかった5級・6級を新たに含むように変更す
るのは、制度の趣旨にそぐわないものです。

4.今年度、受験資格や試験のあり方を具体的にどう見直す方向をお持ちで
すか。
当方の3月20日付文書では
「要請事項
1.受験資格ウとエの削除。特にエはただちに削除すること
2.手話通訳者,要約筆記者の配置、点字試験,拡大文字試験の導入
3.受験申込み時に、各受験者から2の内容をはじめとする必要な配慮を申
込むことができるものとすること。かつ、県は申込み内容に応じて必要な配
慮を用意すること。
の三点の要請事項の各々について、県のお考えを示してください。」
と質問を出していましたが、正面からのご回答をいただけませんでした。改
めてうかがいます。

4月15日付ご回答では
「前述のとおり、本県では、補聴器等の補助的手段を用いてでも、ある程度
は口頭によるコミュニケーションを図れることが職務遂行上必要であるもの
と判断し、口頭による試験に対応できることを受験資格の一つとしてきたと
ころです。
 しかしながら、御指摘のとおり、できるだけ様々な障害をもつ方々に受験
をしていただくことは本試験の実施の趣旨に合致するものであり、またその
ことにより多くの方々に受験をしていただくことで、より優れた人材の確保
も期待できるものと考えております。
 こうしたことを踏まえ、今後、受験資格の見直しにあたって必要となる職
場環境の整備等についての検討を進めるとともに、併せて、今年度の身体障
害者を対象とした職員採用試験に関しましては、資格要件を含めて実施方法
の見直しについて人事委員会と協議して参ります。」

と、最後の段落のとおり、今年度の試験は資格要件・実施方法の見直しにつ
いて協議を進めていくということでした。
 現時点で、上記要請事項1.2.3についてはどのようにしていくことを
お考えですか。


提案として

提案1 採用された人の従事する職務は、総務・経理への偏在がありますが、
障害がある人と対応する仕事を、固定的にとらえられてはいないでしょうか。
 障害者に可能な仕事や無理な仕事がある,とする発想を捨てて今後にのぞ
むことを、提案します。「障害者」一般を、あるいは障害別に一括りにする
見方では、一人一人が見えなくなります。
 かつて知的障害者は単純反復作業に向くといわれ、本などにもそう書かれ
てきましたが、実際に知的障害がある人が企業や官公庁のさまざまな仕事に
入っていく中で、単純反復作業だけでは飽き、疲れやすいことは、人間誰で
も同じであることがはっきりしました。また、聴覚障害者は、手作業が向い
ているといわれてきましたが、それは大部分、コミュニケーションができな
いという決めつけから来たものであって、手作業に向く人と不向きな人がい
ることは、健聴者と何ら変わりません。障害があるということで引き算して、
仕事を限る発想のもとでは、職場もその人の力を生かせず本人も困っている
という、もったいないケースがたくさんあります。
 採用された人が、環境の工夫もしながらその人固有の適性・能力を発揮し
ていければよく、この方向で進めていけば、最初のうちは双方に戸惑いも不
安もあるでしょうが、いずれは掛け算になります。
 基本的に県の仕事はどこでもできる(つまり、その仕事をできる人は、障
害がない人の中にいるのと同じように、障害がある人の中にも必ずいる)と
いう発想へ、考え方の基本から転換してください。

提案2 当方の3月20日付文書中「A−4 障害がある職員を積極的に採用
し、その能力を発揮できる環境づくりを進めるならば、障害がある県民への
サービスの向上、県下の官公庁や公共施設等のバリアフリー推進にとっても、
たいへん大きな意義をもつのではないでしょうか。」に対しては、「御指摘
のとおりであり、そうした観点から本県においても身体障害者を対象とした
職員採用試験を実施してきているところです」とのご回答でした。
 それならば、支援や環境の工夫、補助的手段があれば職務遂行可能な人を
優先して採用することを提案します。
 関連して、等級を1級から6級に拡大されたことにはやはり大きな疑問が
あります。元どおり1級から4級とすることを提案します。
 たとえば、歩行に障害がない人は、階段や段差を特に意識せずに歩いてい
ますが、電動車いすを使う人は、段差が8センチあれば越えられないことを
知っています。こうした障害をもつ人たちは、全国各地で走行するようにな
ってきた低床電車やノンステップバスの普及にも尽力してきました。つまり、
現状で社会活動上の障害にぶつかる立場の人が最もよく、問題のありかや解
決方向を提示できる故に、上記提案します。


提案3 長期の目標と計画をもって進めていくために、障害者基本法に基づ
く障害者基本計画とそれを具体化する障害者プランを策定し、その中で障害
者職員採用について記述することを提案します。
 ※別紙 参考資料



参考資料

いくつかの公共団体の障害者基本計画・障害者プランより抜粋引用

公共団体の障害者職員採用について、課題として言及しているところは各地
にある。その中で、数値目標として雇用率3%など公共団体独自の設定をし
ているところは、下記では大阪府、東京都の例をあげているが、この他にも
ある。


<宮城県の場合>
1998(平成10)年3月
宮城県障害福祉長期計画
地域で自分らしい生活を安心して送れる社会をめざして
宮城県

障害者雇用率の向上と就労の場の確保

公共団体等の機関における雇用率を高めるとともに、民間企業における法定
雇用率達成のための指導を強化し、雇用の場の拡大に努めます。
県職員の採用に当っては、手話通訳や点字受験を実施するなど障害者の受験
機会の拡大を図るとともに、市町村職員への障害者の雇用についても働きか
けを行います。
一定の要件のもとに子会社を設立し、そこに障害者を集中的に雇用し親会社
と同一の事業主体を擬制する「子会社特例制度」の活用促進を図ります。
また、地域における障害者雇用のモデルとして、第3セクター方式の重度障
害者多数雇用企業の設立を進めるとともに、未設置の圏域 に重度障害者多
数雇用企業の設置を推進します。
重度身体障害者等がインターネットを活用して自宅で就業できるシステムの
研究開発を進め、在宅における就労促進を図ります。


<大阪府の場合>
1994(平成6)年3月
ふれあいおおさか障害者計画
新大阪府障害者計画−すべての人が平等に暮らせる社会をめざして

本計画は、平成6年12月に開催した第1回大阪府障害者施策推進協議会にお
いて、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第7条の2の規定に基づく都道府
県障害者計画とすることが承認されました。これに伴い、大阪府では本計画
を法にいう障害者計画と位置づけ、さらに障害者施策を推進してまいります。

第2部 行動計画−第4章 雇用・就労の充実
《課題1:雇用の促進》
5 大阪府等の職員採用の促進
5-1 大阪府身体障害者採用選考の充実
身体障害者がその適性と能力に応じた公務に就く機会を保障するため、身体
障害者を対象とする採用選考を実施します。
適職の開発、職場環境の改善等に努め、知事部局においては、障害者雇用率
3%の達成を目標に、身体障害者採用選考の充実をはかります。
5-2 市町村への雇用促進の指導
市町村については、民間企業に率先垂範すべき立場にあることから、法定雇
用率の達成に止まらずより以上の障害者の雇用を積極的に働きかけます。
(中略)
市町村に対して、障害者を対象とした選考採用の実施や知的障害者の積極
的な採用、障害者の計画的な採用等に関する指導を行います。


<大阪市の場合>
1998(平成10)年4月
大阪市障害者支援プラン
−みんなのためのひとにやさしいまちづくりをめざして−
1 基本的考え方
 大阪市障害者支援プランは「障害者支援に関する大阪市新長期計画」の重
点施策実施計画です。
就労支援
【労働への参加と生活の安定を図るため働く意思をもつ障害者を多面的に支
援】
1就労支援のための施策の展開
○就労相談から職場定着までの一貫的な支援を行う障害者就労支援セン
ターの設置
2就労の促進
○大阪市職業リハビリテーションセンターと大阪市職業指導センター(障
害者能力開発施設)の充実
○職域開拓や啓発による障害者雇用 企業の拡充と大阪市職員採用の拡充
3福祉的就労への支援


<東京都の場合>
1992(平成4)年3月
ノーマライゼーション推進東京プラン
東京都障害者福祉行動計画
「課題別行動計画」より

項目 職員採用 制度の改善
事業名 108 身体障害者を対象とする採用・選考の実施
事業内容 身体障害者がその適性と能力に応じた公務に就く機会を保障し、
企業等に対する指導的役割を果たすため、身体障害者を対象とする採用選考
を実施し、3%の雇用率を維持するよう計画的な雇用の促進に努める。
計画目標 年次計画による選考の実施、点字試験の実施範囲の拡大、プロジ
ェクト・チームによる検討
所管局・庁 総務局人事委員会


この参考資料は、
公共団体の公式ホームページ上で公開中のもの(大阪市)のほか
下記のホームページ上にまとめられているものを典拠にした。
障害保健福祉研究情報システム
http://www.dinf.org/

 ……以上……

REV: 20160125
障害者欠格条項をなくす会  ◇全文掲載
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