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ハンスト宣言



 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」が国会で審議されようとしている。この法案は「再犯のおそれ」を根拠とし、「再犯防止」のために強制医療を行う法案で、保安処分制度新設である。
 「再犯のおそれ」を要件とする以上「再犯のおそれのなくなるまで、すなわち社会にとって安全と証明されるまで」の強制入院や、強制入院の脅しの下での強制通院が、対象者に科せられることになる。まさに精神障害者差別そのものである。
 80年代に頓挫した刑法保安処分新設攻撃はその後いわゆる「処遇困難者専門病棟新設」そして「触法精神障害者対策」と名を変えて、継続してきた。
 90年代後半よりの「触法精神障害者対策論議」は単に保安処分推進派のみならず、いわゆる「精神医療改革派」までも巻き込んだ形で行われ、精神医療の近代化合理化の一環として弁護士会、精神医療従事者団体、家族団体、果ては「精神病」者当事者の一部までもこの論議に参加している。
 私はこうした当事者(=「触法精神障害者」とラベリングされた同胞)抜きの議論を一切認めない。
 桜庭章司さんを「肝臓検査」とだましてロボトミーしたのは誰か? 飯田博久さんに電気ショックを強制して記憶を奪ったのは誰か? そしていま精神科救急の名の下に私たちを拉致監禁し、薬漬け電気ショックを強制しているのは誰か? 徹底して人間の尊厳を否定し精神医療への恐怖を植付け、「精神障害者」という烙印を押しただけで放り出しているのは誰だ? 患者を選別し入院拒否し続け見殺しにしているのは誰だ?
 わが全国「精神病」者集団は結成以来反保安処分の闘いを継続し、そしてその内実として、保安処分対象者とこそ共に生きることを追求してきた。
 私は法案を提出した政府を弾劾する。獄にいる同胞、出獄後措置入院保護室に入れられている同胞、すべての強制入院中の同胞と共に生きる途を私は求める。私は「共にあること」を求め、精神医療によって奪われた自らの尊厳を回復するためにここにハンストをもって個人の意思表示とする。

2002年5月6日

                     全国「精神病」者集団会員 長野英子

7日から10日までハンスト座り込み 国会議員会館前 午前10時から午後3時
13日から17日国会議員会館前ハンストなしで座り込み 同上
途中議員会館に出入り等しますのでいないときもあるかと思いますが、お近くにいらしたらお声をおかけくださいませ。
何かあれば携帯電話にご連絡ください。090-8091-5131

 

「精神病」者からの訴え
――「心神喪失者医療観察法案」を廃案へ――


危険な「心神喪失者医療観察法案」が国会に提出

 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」が国会に提出され、審議されようとしている。
 この「心神喪失者医療観察法案」は、違法行為(放火、強制わいせつ、強姦、殺人、強盗およびこれらは未遂と、傷害)を行ったとされる精神障害者が、警察に逮捕され検察に送られても、心神喪失あるいは心神耗弱とされて不起訴(ないし起訴猶予)となり裁判にならなかったか、あるいは裁判になっても心神喪失による無罪・執行猶予などの判決を受けたときに、再び同様の行為を行うおそれがあるとされれば、強制的に入院ないし通院させて治療を加えるという新しい制度を定めたものだ。通院については最長5年とされていますが、入院については期限がない。
 「再犯のおそれ」を要件として精神障害者を予防拘禁あるいは強制通院という予防的な人権制限を定めた法案であり、かつて反対運動により阻止された刑法保安処分と同質の保安処分制度の新設である。法案は不起訴等の場合も対象としており、このばあいは「重大な他害行為を行ったか否か」の事実認定が裁判もなしに裁判官1名が簡略な手続きで認定することになっている。冤罪のおそれは非常に大きい。強制入院の期限のないことに加え手続き的にもかつての刑法保安処分より危険な制度といっていい。

精神障害者差別をあおる法案

 現行の精神保健福祉法の下でこの法案対象者は措置入院という強制入院となっている。厚生労働省の1999年6月末の統計によると、措置入院中の患者は全国で3472人そのうち1082人もが20年以上措置入院のままである。もちろん措置入院が解除となっても退院のめどが立たず医療保護入院や任意入院という形で入院はさらに長期化している(全入院患者の30%強が10年以上、15%が20年以上の入院)。精神病院しか居場所がないからである。健常者で同様の行為を行い刑務所に行った人以上の長期拘禁が現実に行われている。
 今回の法案はこの措置入院制度に屋上屋を重ねて、精神障害者のみに限り新たな予防拘禁制度をひこうとするものである。
 法案では「再犯のおそれ」が要件として強制入院させられることになっているが、逆にいえば「再犯のおそれ」がなくなったとき、つまり「安全である」とされるまで拘禁が続くことになる。個人の将来の行為の予測など科学的にできないとされているが、「安全であること」の証明はさらに不可能である。精神障害者であろうがなかろうがいったい誰がどうやって「自分は安全である、社会に害毒を流さない」と証明できるだろうか。なぜ精神障害者だけは「安全である」と証明しなければ監禁され続けるのだろうか。差別以外のなにものでもない。
 すでに池田小事件以降地域で生きる私たち「精神病」者は周囲からの圧力により「安全であること」の証明を迫られている。いや以前から私たち「精神病」者には常にそうした圧力がかけられてきた。作業所や支援センターを建設しようとすれば住民の反対運動がおきる。反対する住民は「危険じゃないこと安全であることを証明しろ、あるいは何らかの対策を確保しろ」と要求してきたではないか。
 この法案は「精神障害者は危険、特別の体制がなければ地域で生きることは許さない」という精神障害者差別を肯定し、お墨付きを与えるものである。政府・法務省が精神障害者差別の予防拘禁制度を新設しておいて、人権擁護の法務省などといったい誰が信じるだろうか? 政府のいうノーマライゼーション、差別と偏見の除去などいったい誰が信じるだろうか。

法案は精神医療総体を破壊する

 法案では強制入院や強制通院の処分は裁判所が決定するが、決定するのは裁判官1名と精神科医1名となっている。医師の任務は患者本人の利益に奉仕し、患者を理解することであり、患者を裁き社会防衛に奉仕することではない。しかしこの処分を決定する精神科医の任務は患者を裁き、社会防衛に奉仕する目的で患者を拘禁あるいは人権制限することだ。精神科医は専任の精神科医を雇うのではなく、政府がリストアップした精神科医が行うことになっている。おそらくリストアップされるのはこうした任務を拒否しづらい、国公立の精神科医となるであろう。
 この任務は精神科医の医師としての職業倫理をその根底から破壊し、また私たち患者との信頼関係を著しく損なう結果を招く。
 そしていったん精神科医が「再犯防止」の任務を公に受け入れれば、その影響は精神医療総体に及んでいく。退院させて何か事件が起こったら責任を追及される、というおびえは今現在ですら精神病院管理者に蔓延しており、それもあって措置入院は長期化している。法案が成立した後も法案の対象行為以外の「犯罪にあたる行為」をしたものは現行の精神保健福祉法のルートで措置入院になるが、「再犯防止」を任務として精神医療が受け入れた以上「精神医療は犯罪防止を任務とせよ」という圧力は強化され、措置入院は今現在以上に長期化していくことになるだろう。もちろん医療保護入院であれ任意入院であれ、そうした治安優先の圧力の下におかれることは確実であり、病棟の開放化など一気に後退してしまうだろう。法案による精神障害者差別の強化とあいまって、かろうじて続けられてきた、精神医療改革、開放化、地域化の試みはこの法案によって叩き潰されてしまう。
精神医療こそが私たちを追い詰め、事件をおこさせている
 現行精神保健福祉法体制下ですら、私たち「精神病」者は強制入院へのおびえから精神科医との信頼関係を作るのが非常に困難となっている。「薬を飲まなければ退院させない、措置解除にしない」「きちんと服薬通院しなければ強制入院だ」「デイケアに通わなければ強制入院だ」という脅しで患者を支配する精神科医はあまたいる。私たちのほうも率直に苦しい症状を訴えたら、強制入院になるかもしれない、閉鎖病棟に移されるかもしれない、保護室に監禁されるかもしれないというおびえから症状を訴えることすらできないことがままある。
 精神病院は保護室、閉鎖、開放という段階的な処遇で患者を支配しており、私たちは生殺与奪の権限をもつ精神科医への屈服によって、退院という自由を手にするしかない状況を強いられている。自らの尊厳を否定することでしたか生き延びられない精神医療の実態がある。
 医療を提供されるどころか、保護室や閉鎖病棟に入れられたまま運動の機会も日の光を浴びる機会もなく放置されているおびただしい仲間が存在する。さらに「医療なき監禁」のまま放置されている多くの仲間が存在する。
 精神科救急により強引に見知らぬ精神病院に強制入院させられ、電気ショック薬漬けのあげく、3ヶ月で何のアフターケアもなしに退院させられるという例はあまりに多い。本人はひたすら精神医療への恐怖と不信を植え付けられ、「精神障害者」という差別的な烙印を押されただけで放り出されるのだ。
 逆に入院を希望しても拒否される例が非常に増えている。休息を希望してもそれを受け入れてくれるところは地域には存在しない。
 かつて看護人による入院患者虐殺が暴露された栃木県宇都宮病院の患者さんが「医療と福祉さえなければこんな目にあわなかった」と告発しておられたが、残念ながらその実態はいまだ続いている。
 あえていえば精神医療そのものが私たち「精神病」者を追い詰め孤立化させ、私たちを事件をおこすまでに追い詰めている。
 こうした精神医療の実態の中で法案は精神医療に「治安に奉仕する」任務を押し付け強化しようとしている。
 これ以上強制入院制度予防拘禁制度を強化していったい何が生まれるというのか。
 終生の拘禁の脅しの下では医療など一切成り立つはずがない。ひたすら管理のため保安のための「医療」が行われ、薬漬けや電気ショックが濫用されることは間違いない。ロボトミーすら復活しかねない。

私たちの求める精神医療そして福祉、サービス

 いま必要なのは精神医療を医療の名にふさわしいものに変革していくことだ。まず精神保健福祉法を撤廃し、強制入院制度、閉鎖病棟と保護室を廃絶しなければならない。国が押し付けてきた精神医療への差別(人員配置基準の差別医療費の差別など)を撤廃、一般科に限りなく近づけるために単科精神病院を廃絶し、地域のすべての公立総合病院に精神科を設置し、精神科を他の科同様の体制に統合していくことが求められている。
 福祉においても精神障害者福祉は限りなく縮小し、統合した福祉サービスの充実によって誰もが受けられるサービスを充実させなければならない。どうしても必要な最小限のところだけ特別な精神障害者に配慮したサービスが補う、そういった体制の中で私はサービスを受けたい。
 差別的な烙印を押されるサービス、医療にいったい誰が自ら進んで近づくであろうか。監禁と強制医療が待っていることがわかっていていったい誰が精神医療に近づくだろうか。
 国のなすべきことは今現在の差別的に特別扱いされた精神医療体制にさらに法案によって特別な法律施設を付け加えることではない。この国の百年余に及ぶ精神医療行政の徹底的な自己批判と私たち「精神病」者、そして全国民に対する謝罪を国家は最優先でなすべきである。その上で、超長期にわたる精神病院入院患者の救済のため特別時限立法として精神障害者復権法を制定し、彼ら彼女らの地域での生活保障に全力を傾けるべきである。
 なすべきことをサボタージュするいけにえとしていわゆる「触法精神障害者」を利用しようとしている政府を私は徹底的に弾劾する。

2002年5月6日

全国「精神病」者集団会員 長野英子
923-957 小松郵便局私書箱28号 絆社ニュース発行所
電話 090-8091-5131 ファックス0761-24-1332
E-mail hanayumari@hotmail.com
http://www.geocities.jp/jngmdp/top.htm


……以上。以下はホームページの制作者による……

UP:2002
長野英子  ◇精神障害/精神障害者  ◇精神障害・精神障害者 2002年  ◇ロボトミー殺人事件(1979)  ◇全文掲載
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