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アフリカへのエイズ対策支援

―予防中心のODA 新薬投入に転換を―

last update: 20160125


福田伸生 2002/04/16

◆斉藤さんより(2002/04/17)

斉藤@AJF事務局です。

感染症研究会で確認してきたことにつながるようなオピニオンが、今朝の新聞に
掲載されていました。

朝日新聞2002年4月16日(火)朝刊、13面

アフリカへのエイズ対策支援
〜予防中心のODA 新薬投入に転換を〜

エイズがアフリカを追いつめている。サハラ砂漠以南では、成人の20~30%がエイズウ
イルス(HIV)に感染している国が珍しくない。だが、死と直面する人々にとって、治
療は高嶺の花だ。日本など先進国は予防中心の支援を転換させ、新薬による治療に力
を入れるべきだ。 (ヨーロッパ総局・福田伸生)

アフリカの政府・援助関係者は「沖縄イニシアチブ」への期待をたびたび口にした。
一昨年の九州・沖縄サミット(主要先進国首脳会議)で、日本政府が打ち出した感染
症対策である。エイズやマラリアで苦しむ途上国に、5年間で総額30億ドル(約3950
億円)を提供するというものだ。

南部アフリカのザンビアで、沖縄イニシアチブによる事業を見た。現地の非政府組織
(NGO)に資金を提供。メンバーが中学生や高校生に感染の仕組みを教え、最も確実な
予防法としてコンドームの使用を勧める。ヘルスワーカーに日本の放置自転車を贈
り、日本の資金で商品化したコンドームを家々に配ると行った試みもあった。
 ザンビアでは、15〜49歳の国民のうち、5人に1人がHIVに感染、死者は65万人、
エイズ孤児は70万人に達している。南部アフリカではどの国も同様の状況だ。
 感染者は増え続けているが、予防の大切さは次第に認識され、コンドームを使う人
が増えている。啓発予防の効果が表れ始めているようだ。

一方全く手つかずなのが患者の治療とHIV感染者の発症を防ぐ方策である。貧しさゆ
え、ウイルスの増殖を抑える逆転写酵素阻害剤など、最近開発された治療法には手が
届かない。
 沖縄イニシアチブに代表される日本政府の途上国援助(ODA)は、エイズ治療薬の
購入には使われていない。外務省幹部は「同じ金額なら、治療より予防の方が多くの
人を救える」と説明する。
 エイズ治療薬は高価なうえ、使い方が難しい。処方を誤ると、HIVは薬に対する耐
性を獲得するといわれる。効果を上げるには定期的な診察と検査が欠かせないが、医
師や病院が足りない途上国ではそれが難しい。日本はじめ先進諸国が、本格治療への
支援に二の足を踏む理由である。
 だが、アフリカでは、働き盛りの人々が数百万人単位で死に、経済的な負担に耐え
きれなくなっている。予防だけではなく、治療体制の確立が待ったなしの状況だ。
 ザンビア南部のチョーマで昨年11月、エイズで寝たきりになった7〜13歳の子
どもたち5人に、逆転写酵素阻害剤を投与する試みが始まった。3〜4ヶ月で、全員が外
で遊び回れるほどに体力を回復。多くの患者や感染者に希望を与えている。
 薬はイタリアの篤志家から贈られた。子どもたちの命ある限り、提供を続ける約束
だ。地元の病院が処方に責任を持つ体勢ができている。日本などがODAを投入すれ
ば、こうしたケースを増やすことができるだろう。
 ザンビア政府は最近、全てのHIV感染者に治療薬を与える方針を打ち出した。1日
1ドル以下で暮らす世帯が80%とされる最貧国だけに、財政的な裏付けはない。しか
し、国を挙げてエイズと闘う意志を示し、薬価の引き下げや援助を先進国に求める狙
いがある。
 複数の治療薬を併用する療法の普及で、先進国ではエイズを発症する感染者が劇的
に減少。エイズは共存可能な病になりつつある。
 命の重さの南北格差をこれ以上、放置してはならない。「エイズとの闘いでパート
ナーに」と訴えるアフリカの声に、こたえる時である。

【付記】
文中で「逆転写酵素阻害剤」と記されているのが、抗レトロウイルス薬(ARV)
のことです。ここでは「最近開発された治療法」と記されていますが、先進国で
はすでに4年ほど前から治療法として確立しています。ただし、現在のARV治療で
HIV根絶が可能になるわけではなく、延命治療薬と呼ぶのがふさわしい状況であ
ること、また、さまざまな副作用があることなどは忘れてはならないことです。


……以上……

REV: 20160125
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