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「国連社会開発委員会・障害特別報告者ベンクト・リンクビストのスピーチ」

障害を持つ人に関するヨーロッパ会議
―「非差別+ポジティブアクション=インテグレーション」―
マドリッド 2002年3月20-23日

last update: 20160125


■国連社会開発委員会・障害特別報告者ベンクト・リンクビストのスピーチ
 障害を持つ人に関するヨーロッパ会議
 ―「非差別+ポジティブアクション=インテグレーション」―
 マドリッド 2002年3月20-23日

◆川島さんより

みなさま

マドリッド会議でのベンクト・リンクビスト障害
特別報告者のスピーチを訳しましたので、
メーリングリストに流します。これは、障害者の
権利条約に関する課題、社会開発委員会、国連
人権委員会、特別委員会など、障害者の国際人権
保障についてのポイントを述べたものです。川島聡

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http://www.disabilityeuropeancongress.org/english/information/Bengt_Lindqvist.doc


マドリッド 2002年3月20-23日

障害を持つ人に関するヨーロッパ会議
―「非差別+ポジティブアクション=インテグレーション」―

国連社会開発委員会・障害特別報告者ベンクト・リンクビストのスピーチ


参加者のみなさま

私たち障害を持ちつつ生活している人は世界に6億人います。私たち障害者の生活条件はさまざまですが、私たちは一つの共通の経験において強く結びついています。私たちは皆、種々の形態をもって排除されているのです。

障害を持ちながら生活をしている私たちは、まるで存在していなかのごとく、あるいは宇宙から来た来訪者のように、社会や他の市民から取り扱われていることにウンザリしています。私たちは人間として同じ価値をもち、同じ権利を主張しているのです。それぞれの国の市民のように、私たちはすべての生活面において完全参加と機会均等についての権利を有するのです。

たしかに政治家その他の意思決定者などほとんどの人は、そうした権利を私たちが有するかと尋ねれば、その通りであると答えます。問題なのは、彼(女)らがこの原則を結果として実現しないことであり、この原則に基づいて行動をとる準備がないことなのです。

20年以上の間、私たちは障害に基づく排除の問題を人権問題として認めさせるために取り組んできました。ここ数年になってようやく、事態は正しい方向に向けて進み始めました。こうした背景の中、私はこの会議のテーマ「非差別+ポジティブアクション=インテグレーション」を歓迎いたします。たとえインテグレーション(統合)という用語の代わりにパーティシペーション(参加)という用語が最終的には用いられることを私が好んだとしても、この数式は、実際のところ、私たちの今後の姿をまさに説明するものです。

参加者のみなさま

今や、障害を人権問題とする最良のときが来ました。障害に関する問題が人権の側面を有することは、国連人権委員会が採択した一連の決議を通じて、原則的に認められてきました。これらの原則を具体的な行動へと移すときが来たのです。

2002年となる今年は、国連政策の障害分野における発展にとって絶好の機会をもたらす年です。今年は三つの大きなイベントが予定されています。その一つである社会開発委員会はすでに行われました。

今年2月に国連で開かれた社会開発委員会は障害について二つの決議を採択しました。一つは障害者権利条約の作成を一般的に支援するものです。もう一つは、私の最終報告書に含まれるさまざまな提案を取り扱っています。この二つ目の決議において、社会開発委員会は、基準規則(訳注:障害者の機会均等化に関する基準規則)を実施するためのモニタリング・メカニズムを継続すべきとしました。私が障害特別報告者の任を離れるので、これが意味するのは、国連が新たな障害特別報告者を任命し、国際障害組織により構成される専門家パネルを継続することです。また、この決議は、基準規則を補足するために私が提出した新たな文書について国連加盟国の見解を求めるよう国連事務総長に対して要請しました。この補足文書は、基準規則のさらなる発展にとって重要であると考えます。というのも、この補足文書は、人権の側面を強く強調し、貧困の中に生活している障害者の状況やその他の特に弱い立場にある障害者の状況について明確に焦点を合わせているからです。この補足文書は、2004年の社会開発委員会において再び取り扱われるでしょう。

次の重要なイベントは、4月に開かれる国連人権委員会の会合です。そこでの議題の一つに障害はとりあげられています。国連人権委員会において私は声明を発するつもりです。また、この国連人権委員会には障害者の人権の保護とモニタリングを強化する措置についての重要な報告書が提出されるでしょう。この報告書は、クイン教授とデゲナー教授により実施された研究の結果です。この報告書は、いわゆる人権と障害における並行アプローチ(twin-track approach)を強く支持するものとなっています。それは障害関連問題について通常の人権システムの能力を開発するとともに、障害者の権利条約を作成することを意味しています。

この国連人権委員会に提出される報告書は、人権のモニタリングにおいて障害の側面をいかに強化するかについて極めて多くの具体的な提案を含みます。これらの提案は、国連人権委員会、条約モニタリング機関、国連人権高等弁務官事務所、条約締約国、人権NGO、障害者組織を対象としています。

2002年における三つ目の重要なイベントは、障害者権利条約についての諸提案を検討する特別委員会(ad hoc committee)の会合です。この特別委員会の設置は国連総会によって決定されました。おそらくご存知のことと思われますが、これは昨年の国連総会の会期中におけるメキシコのイニシアティブが功を奏した結果です。特別委員会は、国連総会に報告書を提出することになっていますが、その国連総会において障害者権利条約の問題の将来の発展方向が決定されます。

障害者権利条約のためにイニシアティブをとったメキシコは権利条約草案を準備し、それを特別委員会に提出するつもりです。もちろん、この権利条約草案を研究することは興味深いことですが、私は実際の草案活動を始める前に、多くの基本的な問題に対する答えをむしろ見つけたいと思います。例えば、条約という特徴がいかなるものであるかを定めることは興味深いことです。条約はおもに原則的なものとなるべきでしょうか?条約は実質的な分野(教育、アクセシビリティ、居住など)を取り扱うべきでしょうか?条約は途上国の状況を考慮に入れることを目的とすべきでしょうか?条約は基準規則に取って代わるべきものでしょうか、それともそれを補完すべきでしょうか?これらの事項は建設的な条約起草が行われる前に解決しなければならない問題でしょう。

これらの大きなイベントが障害分野における周辺化と差別と闘うために効果的に用いることができるのなら、
必ずや一層強力で新しい権利に基づく国際的な障害政策への道が開かれるでしょう。そして、この新たな国際障害政策によって、世界中の障害者の生活に変更がもたらされうるでしょう。

これらの事柄はすべてグローバル・レベルである国連において生じていることです。これは前向きものでありますが、十分なものではありません。

もちろん、世界の地域における発展がこれらのグローバルなイベントを支えることは重要です。この文脈では、欧州連合(EU)において行われていることは特に重要です。雇用と職業における平等な取扱のための一般的なフレームワークを設定した、EUの指令(directive)は興味深いです。この指令に基づき、数年のうちにEU加盟国が実効的な立法措置を講じることに期待しましょう。また、雇用分野以外の事項を明確に取り扱っている、民族差別(ethnical discrimination)に対する指令を知ることは大変刺激となります。障害分野における社会保障、ヘルスケア、教育、財・サービスへのアクセスについて、この指令に相当するものがなされれば、障害者の参加への権利は飛躍的に前進するでしょう。また、それは基準規則の哲学と、グローバルな条約作成に向けた努力とに完全に調和するものとなるでしょう。

また、私はこの機会を利用して、障害者にアクセシブルなヨーロッパ全体の公的なウェッブ・サイトをつくるためのガイドラインとして、ウェッブ・アクセシビリティ・イニシアティブ(WAI)の採択に関する決定をEUに薦めます。

私は、EU加盟国とその候補国の両方が、これら全てのさまざまな分野において前進するために、2003年の欧州障害者年を役立たせることを心から望みます。

参加者のみなさま

新たな人権に基づくアプローチは障害者組織に対しても新たな挑戦を課すことを意味しています。近い将来、この新たな分野において、障害者組織を本当に有効に利用するためには、障害者組織は人権機関についての自己の認識を高める必要があります。またその際に決定的に重要なことは、障害者組織がみずから適切な活動をするために十分な資源を必要とすることです。この分野において、人権志向的な開発プロジェクトが多数生まれつつあります。その最も確立したものが、障害啓発行動(Disability Awareness in Action)による人権プロジェクトです。

主要な国際障害組織のいくつかは独自の人権志向的なプロジェクトを有しています。とりわけ新たな発展は、私の事務所が、国際障害同盟(IDA)とトロントのヨーク大学と共に、長期プロジェクト第1期のための基金を得ていることです。このプロジェクトの目的は、障害分野における人権侵害および虐待に対して一層効果的なモニタリングおよび報告をするための能力構築と構造創出を諸国家にもたらすことです。この開発プロジェクトは、まず第1に障害組織に直接向けられたものですが、それはまた、障害分野について権限を持ち、今日その数を増やしている国内人権委員会と障害組織とのより一層組織的な協力を奨励するものです。

参加者のみなさま

この過程は今まさに継続しています。ネルソン・マンデラが明確に体現したように、障害を持つ男性、女性、子どもが他の人々と同一の権利を享有しないかぎり、この過程は進み続けます。

先に述べてきました重要なイベントに見られますように、2002年という今年は絶好の機会となる年です。私たちがこれらの機会を効果的に利用しうることを望みます。

この会議の成功と、障害者の生活条件を改善するための今後の努力の成功を願っています。

仮訳:川島聡


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REV: 20160125
全文掲載  ◇川島 聡
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