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原発震災の経済学

安原 荘一 2002/02/05


  安原荘一(保険社会学、リスク社会学研究者)と申します。
  私が書いた以下の文章をBBCで、各種メーリングリスト・知人等に流しています。内容に一定納得して頂けて、広げるに値すると判断していただけたら、各方面にお流しくだされば幸いです。特にもしお知り合いがいればマスコミや官公庁や中部電力関係の方々に転送していただけるとありがたいのですが・・。内容的には経団連の会長だろうと、小泉首相だろうと、革命諸党派でも説得できる自信(地震?)はありますが、説得力を増すためには、「原発震災の経済学」というのも必要だとも思い執筆した文章でもあります。
  ペーストした予知連の前会長の発言に関する文章は、交流・直流掲示板(だめ連系)の伊達純さんの文章です。
  もとの文章自体は2月7日に予定されている浜岡原発三号炉の営業運転の再開をとりあえず何とか阻止しようと思って、稲葉振一郎氏(明治学院大学)のホームページに掲載した文章です。
  各種数字等は、本来なら出典を明記した上で、正確な数字を書くべきだったかも知れませんが、この様な問題の場合およそ正しい数字というのは、あまりあり得ないと思い、筆者の判断で概数にしてあります。なおそこから導き出された結論等は筆者の責任に属します。
  9.11以降、様々な議論がされていますが、僕なりに判断して、一番可能性が高く、なおかつ政治的、経済的に合理的な判断が下されていないと思われる日本人にとっての「巨大リスク」として、「原発震災」の問題を取り上げてみました。なんか結論部分の対策で、人に偉そうに指示していると思われる方もおられるかも知れませんが、問題が問題だけに、このような訴え方をした次第です。

  以下稲葉振一郎氏のホームページに掲載した文章を手直ししたモノです

やすはら 原発震災の経済学 2002年02月05日(火)20時14分15秒

  最近東海地震について興味を持って調べています。今世紀前半に起きることはほぼ確実なのですが、最近では2002−2004の間に起きるのではと言う説も専門家の間で出ています(東京大学助教授等の説)。まあ正確にいつ起こるのかはおそらく予測不能でしょうし、おそらく後づけ的にしか原因は説明できないような気もしますが。起きること自体はある種確実視されて居ることは皆さんご存じでしょう。
  さて被害の見積もりというのを静岡県のシンクタンクが出しているのですが、予知がなかった場合2000人強、予知が成功した場合200人強という数字が算定されています。この根拠というのはまったくいい加減で、例えば阪神大震災ではなく、何故か宮城沖地震の被害等を元に計算されています。この辺の地震被害に関する予測のいい加減さは是非皆さんでネットの「東海地震」で検索して、判断していただきたいです。また例えば新幹線の事故なども被害の数字には入っていません。ほとんど政策的に要請されてでっち上げた恣意的な数字としか僕には思えないのですが、それとは別に多くの人が心配しているのが、去年破断事故を起こした浜岡原発の震災被害です 一号炉と二号炉は過去の地震データーをもとに450ガルまで耐えられるように作ってあるそうですが、これは非常に単純な地震理論を使って計算されており、実際は非常に地盤が入り組んでいるため、地震の揺れというのは例えば阪神大震災の場合、800ガルを記録したそうです。阪神大震災の20倍の規模と想定される東海地震に地盤に固定する形で耐震設計がしてある一号炉や二号炉だけでなく、建物自体に耐震設計がしてあるらしい三号炉、四号炉でも東海地震に耐えられるかどうかは大きな疑問です。震源地予想図というのが、ネットで検索できると思いますが、浜岡原発はほぼど真ん中にあります。
  さて浜岡原発でチェルノブイリ級の事故が起きた場合、死者は数十万に上るという計算もあります。避難区域は、チェルノブイリの場合、半径200キロ、厳しい基準では400キロだったそうですが、要するに風向き次第では、名古屋圏のみならず、東京圏も含めて、とんでもない被害が、予想されます。
  人的被害だけでなく、経済的被害も破局的なモノになるのではないでしょうか。僕は経済は素人ですが、保険金支払いでただでさえ危ない生命保険会社の倒産、汚染地区の近郊農業の壊滅にともなう食糧不足、水源汚染による水不足、金融大恐慌(ちょうど金解禁の直後に関東大震災が起きたように、ペイオフ解禁に合わせて原発震災が起きそうな気さえします(さすがにこの点に関しては歴史の反復的な「柄谷行人的」予測はひかえますが・・・(笑)。)。そして当然予想される株価と円の暴落、汚染地区の土地の価格の暴落、等・・・経済的被害は天文学的な数字になるような気がします。
  政治的には、まず仮に予知に成功しても、原発は運転を止めても最低三ヶ月間は核分裂反応が続くそうで、その間に地震が起きれば、メルトダウン事故は起きうるのだそうです。従って地震警報が出るとパニック的に人々は東海地区から脱出しようとするでしょう。それをおそれて、おそらく東海地震は仮に予知に成功しても、警報発令はためらわれて出されず、結局なんの役にも立たないような気がします。警報が出るだけで、株価は大幅に下がるでしょうしね。そう言う警報は空振り懸念等も含めて出し得ない可能性が非常に高い。
  最近有事立法が議論されていますが、もし原発震災が起きると、放射能に汚染されていない安全な水と食料の買い占めと奪い合い等が、国際援助が届く前の時点で、最低一時的には起きえて、食料暴動・政治暴動等が起きることも十分予想されます。また放射能汚染で数十万人の規模で人が死ねば、今の社会ではそれだけでも政府は正統性を失うでしょう。まして経済・金融危機もともなえば事態は非常に悪化するモノと思われます。当然の事ながら反政府運動は活発化するでしょう。それを抑えるために自衛隊が災害救助の名目で治安出動する可能性も充分考えられます。センの理論では民主主義が発達している国では、あまり餓死などは起きないそうですが、そもそも民主主義が十分に発達した上でエネルギー政策が立てられていれば、デンマークのように最初から原子力発電所は出来ないでしょう(「身体文化のイマジネーション」ヘニング著 清水諭訳 新評論)。
  「原発震災」が起きた場合、政治的には、一種の統治不能状態になるのではないでしょうか(いわゆる「例外状態」の出現)。いわゆる「昔のファシズム体制化」するとは思いませんが、チェルノブイリの事故が社会主義体制を崩壊させたとも言われるように、政治的にはただでさえ不安定な東アジア地区に原発震災を元にどんな政治的経済的連鎖反応が起きるのかは、まったく予測不可能です。悲観的な予測をたてると、まず自然現象として数十万人死んだ後、社会現象として、数百万規模の死者が出る可能性さえ考えられます。まあこの辺は完全に「悲観的」予測ですが、国土が狭く人口が密集している日本でチェルノブイリケースの事故が起きた場合、一体何が起き(う)るのかと言うことをシュミレーションしておくことは、決して無意味ではない(「日本沈没」とか言って馬鹿にしたい人にはさせておけばよいのです)。

さて予想される最悪の事態に対して対策をとりあえず考えてみました
まずは自己防衛的なもの。
  パスポートは五年期限のモノを常に取得しておく。
  資産は外国の証券会社等を使って海外(欧米)の安全な資産にしておく。
  土地や不動産は放射能汚染されたら、まったく無価値になるので、所持しない。
  所持している不動産は売れるうちに売却する。
  外国に友人を作っておく。例えば子供がいるのなら、高校生以上なら、海外の全寮
制の自由主義教育をしている学校に入れておくると言う手もある(いろんな意味でこ
れは いいと思います)。

次に社会運動的な作戦。
  昨年の静岡県の知事選では、浜岡原発一号炉二号炉廃炉、三号炉、四号炉運転中止等を公約にした元参議院議員、元西武百貨店社長の水野誠一候補が残念ながら敗北したが、今の静岡県政は、静岡空港というとんでもないばかげた公共事業にどぶに水をそそぎ込むように税金を使っています。(ひょっとしたら、静岡県の政財界の海外脱出用に建設しているのかも(笑))
  防災予算は非常にお粗末。何故か天竜川に意味のないダムを造ろうとしている。 次の知事選挙までに、東海地震が起きないよう、お祈りしつつ(苦笑)、何とか次の知事選で水野候補が勝てる体制を作り上げる。なお共産党は独自候補作戦を止める。田中康夫も長野県にも被害は及ぶのだから、当然水野氏を応援する。まじめな話をすると、お祈りするよりは、住民投票等の活動をするのがよいのでしょうが・・。社会運動的な側面に関しては、ネットではあまり調べられなかったので、どうしたらよいのか僕もよく解りません。

次に学問的な作戦。
  端的に言えば、「ケアの収奪」(市野川容考)というのが根本にある。自分の生命や財産に関するリスクについて、ごく理性的に考えれば良いものを、国家や行政のでっち上げたいい加減な情報をもとに、判断しているとしか考えられない。(あるいは判断停止をしているのかも知れませんが・・いわゆるイデオロギーというモノが従来果たしてきた役割です)。リスク社会学者は(僕も含めて)、この際この問題をまじめに考える(ついでに触法精神障害者特別立法の問題も考える・・これは僕も今少しは取り組んでいますが)。理想の社会づくりを目指すのも良いが、一体我々は何に騙されているのかと言うことを、明らかにするのは、学問の大切な役割です。
  そして一橋大学前期室田武ゼミ出身の稲葉振一郎先生には、原発震災が起きた場合、日本経済がどうなるのかに関して、大体で良いから理論的に予測して、それを本にして一刻も早く是非出版して欲しい。誰もが理解できる形で、例えば岩波新書かなんかで・・・。
  当たり前のことですが、原発はすべて危険です。風向きによっては東海村で地震で、原発震災が起きることも充分考えられます。しかし、現実的に考えて、とりあえず危ない順に止めて行くしかとりあえずないでしょう。これは別に資本主義・脱産業資本主義どうこうと言う議論とは全く関係なく、東海地震は近い将来確実に起きまるのです。そのとき何が起きるのかと言うことを事前に予測して、被害を最小限に防ぐことは非常に重要だと思います。放射能に汚染されてしまっては、ボランティアも入れなくなる。もう残されている時間はそうはないような気もします。
  地震国日本にはドイツとは別のやり方の脱原発の戦略が必要でしょう。また脱原発主義者でなくても、浜岡原発の危険性は理解していただけるものと思います。(もっともリスクを騒ぎ立てる悪質な「デマゴーグ」と言う判断も成立するのかも知れませんが、その場合どのような立論でそう判断されるのか、「学問的(笑)」にも興味があるので、是非ご意見を私宛にお寄せください)。
  なお自然科学的、工学的な議論は不案内なので、原子力資料センターの議論等も含めていわゆる反原発派の議論をある程度鵜呑みにしてはいますが、反論が有れば、お寄せいただければ幸いです。なお私の専門に関わることで言うと、原子力発電と保険の関係に興味のある方は「保険の社会学」(本間照光著)を読まれることをお勧めします。資本主義的に考えても、原子力発電所のリスクというのは、引き受け不可能であることが明示されています。

  以上は、おもにネットで、浜岡原発を検索して得た情報を元に書きました。三号炉は2月7日から営業運転を再開するらしいです。良心的な中部電力の社員か、情報を知っている中央官僚かが、マスコミすっぱ抜き作戦か、あるいは手続き論作戦か何かで、何とか再開を阻止して欲しいと思うのですが・・・。(ごく端的に言えばエゴと金銭欲の塊の「資本家」という人が仮にいるとしても、その人にとっても、少なくとも「浜岡原発」は一定の確率で予想される「原発震災」を前提にすると、全然利益にならないと言うことを冷静に説いたつもりです。また自民党であろうと共産党であろうといわゆる「政治家」という人の利害を調停すると一般には見なされている職業に「真剣に」(別にずるくて賢くてもかまわない。この場合。)取り組もうと考えられている方でもご理解いただける内容だと思います)。前述したような事態は政治的な右や左とも関係なく、ごく普通に理性的に判断すれば、充分、今から「予防」出来ることです。もし原発震災被害者に、「見舞いの餅」でも配れば、「政治家」としてやっていけると考えている人がいるならば、その人はただの馬鹿としか言いようがありません。現代日本社会で人が数十万規模で死んだとき、どのようなことが「政治的」「経済的」「倫理的」に起きるのかに関して、想像力がないのは、ただのアホです。

  多くの地震学者が浜岡原発の危険性を指摘しています。(のみならず従来発見されていなかった「活断層」でも地震が起きていることをふまえて、日本における原子力発電所の立地計画全体にに異議を唱えている人もいます)。

  最後に前東海地震予知連の会長の話をペーストしておきます。以下は交流・直流掲示板の伊達純さんの文章からの引用(ペースト)です。

  当日出された資料には、地震予知連絡会の前会長である茂木清夫東大名誉教授の「浜岡原発は東海地震の想定震源域のほぼ中心に位置している。抜本的な検討が必要である。」という主旨の文章(静岡新聞の論壇に掲載されたもの)のコピーがあった。また、週刊朝日の2002年1月25日号の「茂木地震予知連前会長に中部電力が説明した浜岡原発「困った事情」」という記事のコピーもあった。それによると、中部電力の本社から職員2名が茂木氏の自宅を訪れた。茂木氏は皮肉まじりに「中部電力の人と会うのは、あなた方が初めてだよ」と言った。「東海地震」の危険性をいち早く指摘し、東海地震研究の第一人者とされている人物に、中部電力は、これまで一度も意見を聞いたことがなかったというのだ。そして茂木氏が「なんでこれまで一度も意見を聞きに来なかったか」と問うと、「茂木先生にうかがうと、この立地はダメと言われると思ったからかもしれません」と答えたとのことである。茂木氏は言う。「私が反対しそうだから意見を聞かなかったのだとしたら、国や中電(中部電力)が意見を聞いている専門家っていうのはイエスマンだということでしょうか。」と。


UP:2002
原子力発電/原子力発電所  ◇科学・技術・社会  ◇全文掲載
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