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「道路交通法パブリックコメント」

障害者欠格条項をなくす会 2002/01/17

last update: 20160125


■道路交通法パブリックコメント

障害者欠格条項をなくす会
◆日本精神障害者リハビリテーション学会

 

                            2002年1月17日

警察庁交通局交通企画課法令係  殿

                      障害者欠格条項をなくす会
                   (代表 牧口一二・大熊由紀子)
              事務局連絡先
              〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
                  DPI障害者権利擁護センター気付
                 TEL 03-5297-4675  FAX 03-5256-0414


  「道路交通法施行令の一部を改正する政令試案等」に対する意見


担当官殿、まず、次の話をご自分の身におきかえてみて下さい。

「無事故無違反で運転してきているが、交通検問や免許更新ではいつも不安
になる。もし何かのきっかけで持病が知られれば、免許取消しの恐れもある
から」

「病気がわかれば、新道路交通法のもとでは、臨時適性検査を義務づけられ
るかもしれないと気が重い。診断によっては免許をもてなくなる。よいコン
ディションを維持するため医療は受けたいが、運転は仕事や移動にどうして
も必要だから、受診もためらっている」

 いずれも実例で、精神病者や内部障害者、てんかん既往歴のある人の声。
免許更新申請の時に「病気があるから危険にちがいない」と免許を取り消さ
れた体験や、軽微な事故でも免許取消しに至った話も寄せられている。
 欠格条項の存在がいかに日々の大きな人権侵害となってきたか、想像して
いただきたい。

 道交法の障害者観が旧法と根本的に変わっていない中で、細かな政令・施
行規則で社会参加をさらに阻み、差別偏見が助長されることを、私たちは強
く危惧している。


以下、各項目に沿って述べる。

・「第2 病気等に係る免許の拒否や取消しの基準等の整備について」
 総じて反対である。

 素案,試案ともに、飲酒して運転したり故意に自他の命を危険にさらす運
転をする人々への厳罰化という問題と、障害者や病者に「運転免許をどの範
囲で認めるか」とを、同時同列に意見募集していること自体が、アンフェア
であり、歪みをもっている。

 障害者にかかわる欠格条項の見直しとは、障害者の社会参加を法制度の障
壁でもって阻んできた歴史をふまえ、障壁をなくしていくことであるが、そ
のことに対する理解を、素案にも試案にも見いだすことができない。条文の
上では相対的欠格となっても、政令試案等は、これまで以上に厳密に免許を
制限する絶対的欠格的な内容となっている。
 なぜこうなってきたか、それは第一に、「障害者や病者が運転免許をもて
ば道路交通の危険のおそれがあり、事故を起こす前に制限しなければならな
い」という見方を、警察庁として根本的には変えていないためである。差別
偏見にとらわれた考えから改める必要がある。
 運転する限り、誰であっても「危険のおそれ」は否定できず、それだけに
交通環境の安全化が大きな課題である。運転者個人に目をむけた時には、
その人自身の注意力を主とした運転適性が問題で、運転適性は、障害や病気
の有無とは関係がない。事故につながりやすい不注意な運転を繰り返す人は、
障害や病気の有無にかかわらず存在する。
 第二に、現実を全体として見ようとせず「これまでは絶対的欠格だったか
ら精神病者等のドライバーはいないはずだ」といった枠にこだわって頭の中
だけで考えるのは、もうやめるべきだ。現に長年、安全運転してきた多くの
病者や障害者本人の声や経験を、真剣に取り入れて政策を形成するよう求め
る。
 第三に、あくまで「規制」をどの程度まで緩和するかで考えてきたため、
国民の等しくもつ人権を、置き去りにしてきた。欠格条項の見直しとは単な
る規制緩和の問題ではないことを、原点に立ち返って考えるべきである。

 交通安全は、障害や病気の有無にかかわらず共通の願いである。
 また、交通の安全と、障害者や病者の社会参加は対立しないばかりか、排
除せず必要な支援、環境改善を進めることで、より誰にとっても安全な交通
環境にしていくことができる。
 この見方に立ち政策を根本から検討しなおすことを求める。ものの見方の
基本から見直す姿勢をもたなければ、歴史的な悪法実施になる。


・「第2の1 免許の拒否や取消し等の基準」
 反対である。法律条文を含めて根本的な見直しを求める。

 政令試案等のように細かな規定を作って免許を制限すべきでない。病気や
障害等によってハードルが高かったり低かったりするのも不合理である。そ
れぞれの病気等への理解の度合い、あるいは偏見の度合いが基準案に反映し
ている。
 共通しては「現に病状等が重く運転危険な状態の時に運転してはならな 
い」ということでよいと考える。
 今の社会で自動車運転は欠かせないもので、運転の権利が合理的理由もな
く侵害されてはならない。運転免許試験に合格すれば必要な知識技能がある
と見なされ、免許を交付されるのは当然のことである。事故を起こしてもい
ないのに、将来の危険のおそれでもって障害や病気等がある人をその例外に
するのは、もともと合理性がない。
 もし発作が起こっているなど病状等が重いときに例外的に制限する場合も、
免許自体の取消しや拒否等ではなくて、一定期間運転をやめ経過をみること
とすればよい。あるいは、視力の関係で夜は無理でも昼間は運転できるとい
う人には昼間の運転を認めるよう、その人が安全運転可能な条件下で、最大
限運転して社会活動できるように、可能性を広げるように支援することであ
る。いずれの場合も本人のセルフコントロールに信頼をおくことを原則にす
べきである。
 たとえば「目が見えない」等とわざわざ書かなくても、現在の自動車技術
や道路環境で、たとえば全盲の人が自他の命を危険にさらして運転しようと
は、本人自身思わない。

 もし、やむをえず権利制限する場合は、権利回復にむけ予断偏見を排した
公正な評価を受けられるようにすることも非常に重要である。

 身体障害関連についても、後述する運転免許試験の適性検査基準を含めて、
進んできた補助的手段の活用などを前提に古くからの基準を見なおし、さら
に多くの人が免許取得して安全運転する可能性を広げることができるように
すべきである。


・「第2の3 臨時適性検査を行う場合の免許の拒否等の基準の整備」
 反対する。法律条文を含めて根本的な見直しを求める。

 もし、全ての免許申請者と、7500万人の免許保有者に対して臨時適性検査
を行うというのならば、まだ合理性が認められるが、病者等を危険視して免
許制限することに使われるため、病者等に大きな負担と制限を負わせるこ
とになる。


・「第2の4 免許申請書等による症状等の申告の整備(道路交通法施行規
則改正試案)」
 反対し、削除を求める。断じて導入してはならない。

 道交法や政省令が、将来の危険のおそれから最大限病者や障害者の免許を
制限しようとするものであるかぎりは、誰も、安全運転できているのに免許
取消し等の危険を冒そうとは思わないし、やむをえず病気を隠して申請する
だろう。確実に、必要な医療からも遠ざける結果になる。
 なぜ病状の申告が必要なのかの質問に警察庁は「新たに免許を取る人に、
保留を公安委員会が考えるかどうかのとっかかりにしたい」と答えている。
 病者等を免許保留することを想定して新たな障壁を設けることは、「…
検査などが欠格条項に代わる事実上の障壁にならないように」という 151
国会決議にも反する。

 警察庁は、もし交通安全を本当に願うのならば、持病があっても障害があっ
ても、試験に合格し運転適性がある人ならば、病状等が運転に差し支えるほ
ど重い時期を除き安全運転が可能であることを、まず正面から認めるべきで
ある。そして、あらかじめの制限ではなく、支援策・権利回復策を確立すべ
きである。そうした基本政策において日本は国際的にも、政策の進んだ国々
に大きな遅れをとっているのであり、そこを改めずに外国の規制だけを取り
出して導入理由とするのは、全くの筋違いである。


・運転免許試験の適性検査基準について(道路交通法施行規則23条)
 政令素案への意見書やこの間の話し合いにおいても、重ねて見直しを要請
しているが、「目下は政令の見直しで検討対象でない」「欠格条項にあたら
ないと見ている」との回答だった。政令試案等においては、同じ道路交通法
施行規則に、病状等の申告は盛り込もうとしているのであり、政令でないと
いうことは理由にならない。また、適性検査基準が欠格条項にあたらないと
いう回答は詭弁である。国土交通省などは、身体検査基準を含めて障害者欠
格条項見直し対象として、作業を進めてきた。
 さまざまな技術開発も進んできたことをふまえて、早急に古くからの基準
内容を見直すべきである。
 提案としては、必要な補助的手段の活用も前提として、実際に運転に必要
な要件、たとえば
・改造車で座位をとることができハンドルなどを操作できる
・ミラーや映像機器も使って視覚的に必要な確認ができる
など具体的な要件を満たすかどうかで判定するようにすればよい。具体的な
要件で考えれば、個々の障害や病気をあげつらう必要もない。
 なお、聴力については、すでに欧米の多くの国々、アジアでも韓国・タイ
で普通免許取得に不問となっており、"聞こえないから危険"というのは根拠
のない偏見だったことが実証されている。日本でいつまでも「10メートル離
れて 90デシベルの音が聞こえる」聴力基準に固執しているのは、国際的に
も恥であり、時代錯誤である。


 以上、運転免許・運転行為の権利性を踏まえ、病者や障害者の体験に裏
打ちされた意見提案をよく聞き、政省令、政策に反映することを求めるも
のです。
 決して拙速とならぬよう、慎重な検討を求めます。

 

■道路交通法パブリックコメント
2002/01/17?

氏名:日本精神障害者リハビリテーション学会 会長江畑敬介
学会事務局住所:112-0012 東京都文京区大塚3-29-1筑波大
学教育研究科カウンセリング専攻リハビリテーションコース内
電話:03-3942-6830
意見:

 日本精神障害リハビリテーション学会は,精神障害をもつ人の
リハビリテーションを通して,その社会参加の促進にむけて研究
活動を行っている学会です。
 そうした研究団体として「道路交通法施行令の一部を改正する
政令試案」の「第2 病気等に係る免許の拒否や取消しの基準等
の整備について」,当学会の見解を表明いたします。
 第一に,「1 免許の拒否や取消し等の基準」については,試
案のように「精神分裂病」「そううつ病」「てんかん」などの疾
患名を挙げての基準を定めないこと。
 特定の疾患を挙げて免許の拒否等を行う基準を定めることは、
これらの疾患患者においては、当該疾患を有するすべての人々へ
の偏見を助長し、その移動に関する生活のみならず、生活全般に
影響を及ぼす可能性があります。
 試案では「精神分裂病」「そううつ病」「てんかん」を挙げて
運用基準を定めることとしていますが、自動車運転に支障をもた
らすのはそれらの疾患のごく例外的で一時的な症状にすぎません。
また、治療やリハビリテーションの進歩等により、精神疾患は
従来よりも比較的短期に回復し、社会参加が可能となりました。
このようなことから、回復を前提とした保留・停止にとどめるべ
きと考えます。
 なお、精神分裂病関係、そううつ病の項目を削除し場合につい
ては、あらたに「急性精神病状態」という項目を立て、以下のよ
うな規定とすることを提言します。

「急性精神病状態」
(1) 急性精神病状態にある人が、その症状により交通事故を起こ
した場合は、主治医または公安委員会が指定する医師が、その症
状が消失し、運転に支障がない状態までに回復したと認めるまで
運転免許を停止する。6月以内に回復しない場合は、6月ごとに停
止期間の延長ができるものとする。
(2) (1)以外であっても、明らかに急性精神病状態にあり、主治医
または公安委員会が指定する医師が運転に支障があると認めた場
合は、最大6月間の運転免許の保留または停止を行う。主治医また
は公安委員会の医師が運転に支障がない程度に回復したと認めた
場合には停止期間を短縮できるものとするが、6月を経過してもな
お病状が回復しない場合には停止期間の延長を行うことができ
る。

 第二に,「1 免許の拒否や取消し等の基準」については,試
案の「…おそれがないと認められる場合には免許の拒否等を行わ
ないこととします。」ではなく,「…おそれが認められる場合に
免許の保留・停止等を行うことができます」と変更することを要
望いたします。
 「試験で確認することが困難な、幻覚の症状を伴う精神病であ
って政令で定めるもの、発作により意識障害又は運動障害をもた
らす病気であって政令で定めるもの、その他自動車等の安全な運
転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものにか
かっている場合等には、公安委員会は、政令で定める基準に従っ
て、免許の拒否や取消し等ができること」という規定は,当該疾
患の有無にかかわらず試験に合格したものの内「拒否や取消し等」
にあう者が例外であると解すべきと考えます。なぜならば,障
害者施策推進本部の見直しの方針では,障害にかかわる欠格条項
は原則廃止であり,「真に必要」なものについても,極力制限を
限定化する旨の趣旨が謳われています。この試案は、運転に支障
を来す可能性がある疾患や障害を列挙し、それらを有する人々の
運転免許取得を制限することを前提として、例外的に障害や疾患
が軽微な場合だけ免許の取得や更新を認めるという考え方に基づ
いていると解せられます。しかし、運転に支障があるのは、疾患
や障害を持つ人の一部の人にすぎず、しかも疾患によっては一時
的な現象にすぎません。よって制限が例外であることを明示する
ために,運用にあたっては「以下の諸基準は障害や疾患を持って
いる人も一市民として自動車を運転し移動する権利を有するもの
であるという基本的な認識に立って定められたものである。その
適用にあたっては、免許の拒否・取消し等にのみ着目するのでは
なく、障害や疾患を持つ人が安全に運転でき移動できる諸条件を
整えることに努めなければならない。」旨の趣旨が各公安委員会
等に周知徹底されるようお願いいたします。

第三に,再発予測診断に基づいた処分や命令は行わないこと。
 試案では、「免許証の有効期間中」あるいは「6月以内」に、
「症状が再発するおそれがないこと」を医師に診断させ、その診
断に基づいて免許の保留・停止・拒否・取消処分の決定、あるい
は臨時適性検査(又は主治医診断書の提出)命令を行うこととし
ている。しかし、次のような理由から、将来の再発予測を処分の
条件とすることは行うことは適切ではないと考えます。
@一般に精神疾患の再発の可能性、とくにその時期を確実に予測
することは不可能である。
A再発すると予測して再発しなかった場合には当事者の生活権の
著しい侵害をもたらす。
B主治医が、自動車免許取得制限のために再発可能性を記した診
断書を発行することは、主治医と患者の信頼関係を損ない治療継
続を困難にする可能性がある。

第四に,病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等
を行う場合には、一律にすべての運転を禁止するのではなく、障
害の質と程度に応じて停止処分の内容を弾力的に決められるよう
にすること。そのためには「運転制限に関する諮問委員会(仮称)」
の設置が必要である。
 病気などを原因としてやむを得ず運転免許の停止処分等を行う
場合には、一律にすべての運転を禁止するのではなく、運転目的
(自家用、人員輸送業務、運送業務など)、運転道路種と運転距
離、運転時間帯、服薬遵守など、その運転に支障を来す障害の質
と程度に応じて停止処分の内容を弾力的に決められるようにすべ
きと考えます。そのためには、障害者団体代表や精神科リハビリ
テーションの専門家が加わった「障害にかかわる運転制限に関す
る諮問委員会(仮称)」を設置し、公安委員会の決定を保佐するシ
ステムが必要です。
 このような配慮を行うことによって、日頃から制限されがちな
障害者の移動制限の拡大を最小限にくい止めることができます。

第五に,免許申請時や免許更新時の病状等申告制度の導入にあた
っては,まず申告対象となる病状出現期間を限定化すると同時
に,病状等を申告した者が,必要以上の権利制限が行われないよ
うに配慮すること。
 試案では、免許申請書又は更新申請書に、具体的な病名等の記
載は求めないが、「病気等ごとの具体的な運用基準」に該当する
症状等を有しているかどうかを把握するために4項目の設問に回
答しなければならないとしています。この申請書に精神疾患に関
する回答欄がないことはご配慮いただいたものと考えます。
 しかし4項目目(医師から助言を受けている場合)のみ「現在」
という限定がなされているものの,他の項目については,期間の
限定がなく数十年前にあった病状でも素直に読めば該当者として
申告を促すものとなっています。改正案の趣旨からいえば,当然
一定期間内に限定されるべきであると考えます。
 さらに,必要以上に申告者の免許取得の制限を回避し,また適
切な医療サービス等に結びつけるためにも,相談機関で適切な相
談が受けられるように配慮することを求めます。


REV: 20160125
障害者欠格条項をなくす会  ◇欠格条項  ◇全文掲載
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