全国の精神科医とりわけ自治体病院および国立病院の精神科医に訴える。
全国「精神病」者集団会員 長野英子
2002/01/05
last update: 20160125
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前略
日ごろの精神医療現場のご努力に感謝いたします。
私は全国「精神病」者集団という全国の「精神病」者個人団体の連合体の会員で、「精神病」者本人です。
一昨年末より法務省厚生労働省(当事は厚生省)は「重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇決定及び処遇システムの在り方などについて」合同検討会を発足させ、昨年1月より検討を開始していたところです。6月に起きた池田小事件により、こうした動きは加速され、11月には与党報告書が出されました。
この与党報告書に基づき政府は今年の通常国会に新法案を提出するとのことです。
内容は別紙図のような「心神喪失等の触法精神障害者」に対する特別施設への収容を中心とした特別立法の提案と「精神障害者医療および福祉の充実強化」の提案です。
今回出された「報告書」は@重大な犯罪にあたる行為を行ったが心神喪失あるいは心神耗弱を理由に不起訴となったものあるいは心神喪失あるいは心神耗弱と認められ裁判で無罪等(執行猶予となったものも含むのか?)となったものを対象としてA全国の地方裁判所に判定機関を置き、精神科医による鑑定を参考に対象者の処遇を判定するB判定の結果は国立病院内におかれた専門治療施設に収容するか、保護観察所の観察下の通院を命令されるかであり、さらに責任能力ありと判断されれば検察官にその結果が通知されることとなる。C専門治療施設からの退院や通院措置の解除、また観察下の通院からの再収容も判定機関が決定する。としています。
私はこの報告書を以下の点で批判します。
一 「再犯のおそれ」を要件とした拘禁および保護観察下の強制医療は、明白な予防拘禁および予防的な人権制限であり、「精神障害者」にのみそうした予防的措置をとることはなんら合理性がなく、「精神障害者」差別そのものである(憲法第14条「法のもとでの平等」)。
二 対象者の収容や保護観察決定にあたっては、対象者はその病状からいって防御できる余裕があるとは考えられず、裁判もなしにまた防御権保障もなしに拘禁や保護観察下の強制医療を決定されることになり、冤罪のまま対象者とされ永久拘禁されるというおそれもありうる。重大な人権侵害である(第32条「裁判を受ける権利」、第33条「逮捕の要件」、第34条「拘留・拘禁の要件、不法拘禁に対する保障」)。
三 すでに措置入院制度によってこの報告書対象者にあたる「精神障害者」は健常者以上の長期永久ともいえる拘禁を受けている。この報告書に基づく「判定機関」も「解放したものがまた事件を起こしたら非難される」というおびえから、釈放や解除に消極的となり、対象者は永久の拘禁あるいは地域での保護観察対象となり続けることは明らかである。
四 専門治療施設の医療内容は明らかにされていないが、この対象者のみを選別し治療する医療的医学的根拠はない。「地域で医療を受ける権利」の考え方から言っても各地の患者を2つか3つの特別私設に監禁することの医学的医療的正当性などありません。永久の拘禁下で絶望した対象者への医療は、「本人のための医療」ではなくひたすら「保安のため」「管理のため」の強制医療となり、電気ショックや薬漬けが横行し、脳外科手術すら復活しかねない惨状となることは明白である。
五 報告書は同時に「精神障害者医療および福祉の充実強化」を述べているが、保安処分を行いながらの精神医療および福祉の充実強化は、精神医療および福祉を「犯罪防止」の手段に貶めるものであり、ますます多くの仲間の不信と疑念を招き、防衛上私たちは一切の医療福祉の拒否へと追い込まれざるを得ない。
さて資料添付した朝日新聞記事によれば、判定機関の最終決定は精神科医1名と裁判官1名の2名となるとのことで、その医師は専門性の高い医師をリストアップすることになるそうです。
このリストアップされた医師の任務とは何でしょうか?
医師の任務は患者本人の利益に奉仕し、患者を理解することであり、患者を裁き社会防衛に奉仕することではありません。この判定機関の任務は上記のように患者を裁き、社会防衛に奉仕する目的で患者を拘禁あるいは人権制限することです。
こうした任務を国家が精神科医に押し付けることを認めてよいでしょうか?
この任務は精神科医の医師としての職業倫理をその根底から破壊し、また私たち患者との信頼関係を著しく損なう結果を招きます。
おそらく厚生労働省は国立病院自治体立病院の院長あるいは医師をリストアップするでしょう。
全国の精神科医とりわけ自治体病院、国立病院の精神科医に、こうした任務を精神科医が医師たる誇りにかけて拒否なさることを訴えます。
私たち「精神病」者にこれ以上精神科医への不信を増幅させるような国家のたくらみに拒否の姿勢を明らかにしていただけるよう強く訴えます。
2002年1月5日
資料
犯罪時の精神障害者の処遇、裁判官と医師で判断
重大な罪を犯した精神障害者に対する新たな処遇システムを検討してきた政府は、入退院や治療の要否を裁判官と精神科医の合議によって判断する方式を採用する方針を決めた。各1人の構成になる可能性が高い。結論を出すにあたって精神保健福祉士(PSW)ら専門家の意見も聞くが、最終決定権までは付与しない。司法手続きの中で裁判官以外の人間が裁判官と同等の立場で関与する例は過去になく、まったく新しい制度となる。政府は専門治療施設や退院後のケアなども盛り込んだ法案を来年の通常国会に提出する。
与党3党は先月、新しい制度の骨格をまとめたが、細部については政府に検討をゆだねていた。
これまでに固まったところでは、審判は検察官が地裁に申し立て、地域医療や家族の支援態勢などに通じたPSWが必要に応じて参加する。裁判官と精神科医は、検察官が提出した資料や精神鑑定結果に加え、こうした人々の意見も踏まえ、専門治療施設への入院や通院措置などを決める。医師は専門性の高い適格者をあらかじめ厚生労働省でリストアップする。
患者は弁護士を選任することができ、決定に不服がある場合は高裁への抗告が認められる。治療や処遇の内容に関して高裁が地裁と異なる見解に達した場合は審理を差し戻し、別の裁判官と医師によって再び審判することが予定されている。
与党案では、処遇決定機関に裁判官、精神科医のほかPSWらも加わるとされた。しかしPSWの制度は歴史が浅く、地域によってばらつきがある点などを考慮。最終責任は医療と法律の専門家がとる考えが浮上した。
朝日新聞12月27日
なお今回の特別立法に対する諸団体の声明、見解あるいは与党報告書等は以下のホームページに掲載されております。
全国精神医療労働組合協議会
http://www.seirokyo.com/
……以上。以下はホームページの制作者による……