障害者雇用の国際比較:新たな政策の構想
遠山 真世(東京都立大学大学院)
quin@bcomp.metro-u.ac.jp
last update: 20160123
1 報告の目的
・障害者雇用政策の基本的なバリエーションを把握し、それぞれの原理や構造について比較を行う。
・「差別」概念と「能力」観について考察する。
・今後の労働や社会のあり方を構想し、そのための政策や社会的条件について検討する。
2 障害者雇用政策の構造
(1)主要な3つの施策
(2)各国の障害者雇用政策の構成
アメリカ:差別禁止
イギリス:差別禁止および保護雇用
日本:割当雇用
ドイツ・フランス:割当雇用および保護雇用
北欧:政府による雇用
(3)政策実施における問題
差別禁止:効果は軽度障害者に限定されている。
<訴訟リスクと職場調整のどちらが効率的か>の選択?
割当雇用:多くの企業が納付金の支払いを選択。
心理的要因も実際の雇用を阻害する?
<経済的貢献と実際の雇用費用とどちらが低コストか>の選択?
保護雇用:職場の分離 → 一般の職場に被保護雇用者を配置。
3 差別と能力
(1)「区別」の種類と正当性
@個人的な嗜好や偏見による区別
A統計的差別や先入観にもとづく区別
B同一の評価基準による区別
C職場整備にともなう区別
D能力的差異による区別
・不当な区別=「差別」:@とA、正当な区別:D。
アメリカではBCも差別になる。日本では「差別」とは認識されていない?
・「能力」の正当な評価:D。@〜Cは「能力」を正当に評価していないケース。
日本ではBCも「能力」に含まれてしまう?
(2)「能力」観
「能力的差異」に関する個人的責任と社会的責任について:境界はどこにあるか?誰が差異を解消する責任を負うか?どのような方法で差異を解消するか?
<個人の能力>や<その仕事に必要な能力>をどう考えるか?
(3)能力的差異と差別
能力的差異なし 区別なし
区別あり=差別
能力的差異あり 本人の努力で解消しうる 区別なし
区別あり
本人の努力では解消しえない 区別なし
区別あり 社会的責任を問える=差別
社会的責任を問えない
⇒ <社会的合意>の問題?
(4)不況下での不利
雇用ポストの不足→「能力」が正当に評価された場合でも障害者は不利。
より高い能力をもつ人が必要とされる。
→最低限の能力しかもたない人は労働市場から排除される。
同じ能力をもつ2人:特別な調整の必要な人が排除される。
4 新たな「労働社会」とその政策
(1)労働社会
労働を必要とする人々が働ける
能力や健康状態などに応じた就業形態・時間で働ける
かつ、最低所得は保障される
⇒ <ワークシェアリング>+<ワークフェア>+<ベーシックインカム>?
(2)障害者雇用政策と社会的条件
・<割当雇用>+<差別禁止>(+<政府雇用>)による雇用量の確保
<差別禁止>による雇用の質の保証
職場調整→政府および企業で責任を分担
・「差別」概念、「能力」概念の見直しと特定
権利意識・連帯意識・社会的責任の確立と共有
・司法制度の転換
オンブズマンなど第三者機関の権限拡大
参考文献
荒木兵一郎ほか編,1999,『講座 障害をもつ人の人権2 社会参加と機会の平等』有斐閣.
井上俊ほか編,1996,『岩波講座 現代社会学15 差別と共生の社会学』岩波書店.
岩崎晋也,2001,「なぜ援助の制度化が必要なのか――『自立』社会における援助の正当化問題」未発表.
栗原彬編,1996,『講座 差別の社会学2 日本社会の差別構造』弘文堂.
――――,1997,『講座 差別の社会学3 現代世界の差別構造』弘文堂.
メーダ,D.(若森章孝ほか訳),2000,『労働社会の終焉――経済学に挑む政治哲学』法政大学出版局.
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――――,2001,「ADAとDDA――雇用問題を中心に」,障害者総合情報ネットワーク研究会報告資料.
竹中恵美子編,2001,『叢書 現代の経済・社会とジェンダー2 労働とジェンダー』明石書店.
立岩真也,2001,「できない・と・はたらけない」『季刊社会保障研究』37(3).
遠山真世,2001,「障害者雇用政策の3類型――日本および欧米先進国の比較を通して」『社会福祉学』42(1): 77-86.
要田洋江,1999,『障害者差別の社会学』,岩波書店.
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