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「テロと人間の安全保障−グローバル化による脅威の多様化の中で
アフガニスタンをケース・スタディとして」(概要)

平成13年12月
人間の安全保障国際シンポジウム
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hs/terro_gaiyo.html

last update: 20160125


平成13年12月

 12月15日、外務省の主催により高輪プリンス・ホテルにおいて、「テロと人間の安全保障−グローバル化による脅威の多様化の中で アフガニスタンをケース・スタディとして」をテーマに、人間の安全保障委員会委員、内外有識者等関係者の参加を得て国際シンポジウムが開催された。
 冒頭、小泉総理大臣が日本政府のテロとの戦いの取組み、我が国の人間の安全保障の取組みを中心に冒頭挨拶を
行い、午後のセッションの冒頭では、田中外務大臣が紛争予防の観点から人間の安全保障の重要性について挨拶を
行った。同シンポジウムには3つのセッション全てに約千人の聴衆が参加した(シンポジウム日程別添)。

1.第1セッション「アフガニスタンと人間の安全保障に対する脅威」

(1) リード・オフ:バーネット・ルービン・ニューヨーク大学教授

 基調講演を行う予定だったブラヒミ国連アフガニスタン担当国連事務総長特別代表より、アフガン暫定政府へのスムーズな移行の準備のためシンポジウムに出席できず残念である、アフガン復興に対する日本の支援と関心を期待している旨のメッセージを伝えたい。
 アフガンはこれまで無政府状態、無法状態、軍部による支配のため、テロ活動の温床として利用されてきたが、国際社会においては、アフガンの復興、ガヴァナンスの確立を支援する包括的な動きはなかった。しかし、9月11日の同時多発テロ事件を契機に、テロの脅威を撲滅し、アフガンの人々の人間の安全保障を取り戻す観点から、近隣諸国だけでなく世界全体にとり、安定したアフガンを確保することの重要性が認識され、国連によるアフガン復興に向けての取組みが開始された。ブラヒミ特使がボン会議でも強調したように、アフガンの復興はアフガンの人々が中心となり、アフガンの人々自身により進められるべきであり、アフガンにおける国際機関のプレゼンスが、アフガン復興過程に悪影響を及ぼさないよう、アフガン政府及びアフガン市民社会のキャパシティ・ビルディングを中心に考えるべきである。国際社会からアフガンへの資金援助についても資金が正当に使われるよう管理しなければならない。


(2) パネリストによる議論

(イ) アフガン復興支援

 アフガンの歴史は人間の安全保障の欠如が何をもたらすかを物語っている。アフガン復興は単にテロへの対処としてではなく、長期的なヴィジョンをもったアフガンの国家の建設としてとらえなければならない。現在アフガンで使用されている地雷などの武器はアフガンより全て撤去されるべきである。
 また、アフガン復興には、周辺地域の安定が重要であり、近隣諸国の支援環境が整っていない中でアフガン支援は可能であるのか、アフガンの近隣諸国の統治体制を懸念する意見もみられた。

(ロ) 人道的介入

 国家主権確保の観点から、アフガンのようなケースが他の国で発生することを防ぐために人道的介入は如何なる場合に行えるのか、人道的介入のガイドラインはどうあるべきか等を決める国際メカニズムが必要ではないかとの意見があった。

(ハ) グローバル化に伴う問題

 グローバリゼーションによる恩恵は国際社会において平等に共有されるべきであり、テロ、紛争、人間の安全保障を考える際には、グローバリゼーションによる恩恵は現状では平等に共有されていないことを考慮する必要がある。
 また、20世紀の国際理念は国連憲章を中心に西側の価値観に基づいているが、アジアからイスラム世界にも広がった国際社会の実情を反映する「21世紀憲章」とも言うべき国際社会が共有できる価値としての国際理念を打ち出す必要があるとの意見があった。


2.第2セッション「人間の安全保障に対する脅威を構成する根本的問題」

(1) リード・オフ:アマルティア・セン人間の安全保障委員会共同議長

 「人間の安全保障」または「人間の非安全保障」は広い概念であり、貧困、飢饉、医療の欠如、エイズなどの感染症、難民、テロリズム等を含むものである。テロの原因は必ずしも貧困ではなく、暴力、戦争の原因を貧困という経済的要因に結びつける経済的還元主義(economic reductionism)は適当ではない。また、テロは政治的暴力の一形態であり、様々な種類のテロリズムが存在するが、アフガンにおける戦いを、全てのテロに対する戦いとしてくくってしまうのは適当ではない。また、文明の衝突という概念を政治的に利用することは、世界の分割を助長することになり、ある特定の宗教的権威に特権を与える場合もある。

(2) パネリストによる議論

(イ) テロへの取組み

 歴史的状況、国家体制等によりテロリストとみなされる集団の特質は様々であるが、テロは如何なる理由を持っても正当化されてはならない。宗教的狂信は社会を不安定化するものであるが、宗教そのものが社会を不安定化させるものではない。テロは一般の人々の恐怖をかきたて、信頼、自信に打撃を与えるものであり、心理的影響は多大である。

(ロ) 人間の安全保障の取組み

 人間の安全保障の取組みは、国家の枠組みを超え、人間自身の問題及びグローバルな連帯を強調するものである。人間の安全保障は、開かれた社会を実現するために使われるべき概念であり、人権や人間の安全保障という概念は国際社会のあらゆる場所においてレファレンスとして用いられるべきである。
 人権は人間の安全保障の重要な要素であり、人権をグローバルな倫理とし、世界の共通認識とすべきである。また性別による差別をなくし、女性の人権への取組みを強化すべきである。
(ハ) 米国政府の国際協調
 9月11日の同時多発テロ事件により、米国は従来のユニラテラリズムの政策から国際社会と強調してテロと戦うという国際協調の政策へシフトした。

3.リーヘム・オーストリア人間の安全保障担当大使リマーク

 紛争予防の観点から、社会の構築は民族、宗教、性別、信条による社会の垂直的な分断を解消(de-vertification)し、社会的水平化を図ることが社会の再構築過程を考える際には重要であり、この過程において人間の安全保障が重要視されるべきである。
 ガヴァナンス確立(building)は、国家の確立を通じてのキャパシティと社会的開発を通じての社会のキャパシティの強化から成り立つものである。ガヴァナンス確立が計画的に行われないと、人間の安全保障、人間開発は達成されない。オーストリア外相は、明年人間の安全保障ネットワーク閣僚会合の議長を務める予定であるが、人間の安全保障の取組みにおいて国内外の協力を目指しており、人間の安全保障委員会とも協力を図りたいと考えてい
る。

4.第3セッション「人間の安全保障の推進に向けた国際社会の取組み」

(1) リード・オフ:山内東京大学教授
 最近のアフガニスタンにおける事態から国際社会が引き出すべき教訓は、ポスト「ポスト冷戦」の構想を描きながら、21世紀の世界システムをいかに作るかという積極的な課題と関係している。国連憲章など西側の価値観に基づく理念を継承しつつ、アジア、中南米、イスラム世界にも広がる国際社会の実情を反映する「21世紀憲章」とも言うべき国際理念を打ち出し、国際社会が共有できる価値として、人間の安全保障を進める歴史的かつ哲学的根拠を示すことであろう。
 アフガニスタン復興における日本の役割としては、戦後復興支援を中心とした「人間の安全保障」と結びつけるなら、難民支援、地雷除去、教育(特に孤児と女性)の充実、インフラ再建などの分野で日本の貢献を行うことができよう。


(2) パネリストによる議論

(イ) 人間の安全保障委員会
 人間の安全保障委員会は、人間の安全保障と取り組むために設立された委員会であり、人間の非安全保障の根本的、構造的原因を分析し、人間が可能性を実現できない理由が何かを探求することにある、また分析だけでなく政策の方向性と行動計画を発表予定である。

(ロ) アフガン復興支援
 アフガンでは、長年、貧困と暴力が深刻であり、多くの難民を出してきたが、大きな緊急事態が発生しなければ世界がアフガンを省みないと考えていたところに、9月11日に発生したテロ事件により全てが変わった。米国、日本、その他の国が協力してアフガンの復興・平和に向け政治的なメッセージを送っていることは重要である。アフガン復興はボトム・アップアプローチでアフガン人自身により進められるべきものであり、救援、回復、復興の過程は途切れなく行われるべきである。

(ハ) 国際社会の資金的援助
 自国の景気の悪化を理由にODAを削減するべきではない。先進国による対外援助の総額は必要とされている額に比べて小さくなっているが、資金なしには人間の安全保障の議論はレトリックにとどまってしまう。

(ニ) グローバル化に伴う措置
 マルチラテラリズムの時代においては規則に基づいたグローバルなシステムが必要であり、WTOの取組みは評価されるべきであるが、環境問題等にもグローバルなシステムが必要である。
 また、新しい世界秩序における国際協力は相互依存が求められており、移民の受入により多くの社会は多文化社会にならざるを得ないとの意見が述べられた。

(ホ) 人間の安全保障基金
 人間の安全保障基金は、人間の安全保障が確保されていない人々に対し機会を与えるものであるが、より創造的に使われるようにするためには工夫が必要である。


5.締めくくりセッション

 緒方共同議長が、シンポジウム全体をつうじての議論を総括し、本シンポジウムが翌日より2日間行なわれる人間の安全保障委員会会合を導く上で有益であった、委員会としては、人々の実生活を変えられるよう努力したい、具体的勧告及び行動計画は2003年初頭に発表予定である旨述べた。


REV: 20160125
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