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エイズ孤児:アフリカにせまる静かな危機


last update: 20160125


斉藤@足立区です。(2002/04/17)

会報「アフリカNow」第60号掲載の「感染者が治療に応じることこそが最大
の予防 エイズ治療薬をキーワードにアフリカのエイズ問題を追ってきて見
えてきたこと」で、エイズ孤児について少しだけ触れました。この問題は、
アフリカそしてアジアの諸国ではこれからますます大きな問題になることだ
ろうと考えます。
昨年10月に発行されたAfrica Recovery, Vol.15 #3(国連発行)に、ザンビ
アのエイズ孤児めぐる現状を伝えるまとまったレポートが掲載されていまし
たので、翻訳をお願いしました。

 

エイズ孤児:アフリカにせまる静かな危機

Africa Recovery, Vol.15 #3, October 2001, page 1
(Part of Special Feature: Protecting Africa's Children)
http://www.un.org/ecosocdev/geninfo/afrec/vol15no3/153child.htm

訳者 片山 雅美

 アフリカではエイズによって1700万人が死亡し、それによって1200万人が
エイズ孤児となった。エイズ孤児たちは、両親の死によって心に傷を負い、
仲間から差別をうけ、 一家の大黒柱を失ったことで、しばしば絶望的な貧
困に陥る。この増加し続けるエイズ孤児(「両親のいずれかもしくは両方を
失った子ども」と定義される)は、エイズ感染の拡大する多くの国々におい
て、伝統的な大家族に歪みをもたらし、国家福祉や教育システムを圧迫して
いる。ザンビアにおいてこの問題は特に深刻である。米国援助庁(USAID:
the US Agency for International Development)によると、2000年時点で
孤児は120万人を超えており、これはザンビアの子ども全体の四分の一に当
たる。このうち、およそ930,000人が少なくとも両親のいずれかをエイズに
よって失ったと推測されている。
 「これらの子どもたちに衣食住や教育を施すは道徳的要請であり、アフリ
カの発展にとっても不可欠である」と、アフリカ・エイズに関する国連特使
であるステファン・ルイス(Stephen Lewis)氏はAfrica recoveryに対して
述べている。彼は言う。「これらの子どもたちを救うためにはヘラクレスの
ようなすさまじい努力が必要とされる。十分な措置を講じないと報いをうけ
ることになる・・・子どもたちが教育を受けていないような社会では基本的
な職務が満たされなくなる・・・生きていくことが極度に厳しいために、社
会の大部分の人々が反社会的な感情を持っているような社会になってしまう。
そしてまた、この世代は自分自身に価値を見いだすことができなくなるため
に、搾取の対象とされやすくまた病気にかかりやすくなってしまう。」
 エイズ孤児のために必要なことは、次に口にする食事のように喫緊なもの
から、彼らが青年期を過ぎるまでの、教育へのアクセスや指導・ケアなど幅
広い。2001年7月のジェノバサミットにおいて、コフィ・アナン国連事務総
長は先進国の指導者に対し、エイズによって危機にさらされている命、特に
孤児を守るために資金拠出の必要性を訴えた。エイズ孤児は地球規模で
1300万人に達しており、その数はさらに増加している。

家族を強化する

 しかしながら、ザンビアやエイズによって壊滅的な打撃を受けた諸国では、
危機にさらされた子どもたちを守るための伝統的なメカニズムである大家族
制が貧困と病という二重の圧力によって破壊されはじめている。
 「家族を強化することが、エイズ孤児という危機に対する唯一の現実的な
対応である」とUNICEFのカロル・ベラミー(Carol Bellamy)所長は言う。
「ここではこれらの孤児を保護するための孤児院は絶対的に不足している。
私達は大家族を強化してあげなくてはならない。」しかし、孤児問題をザン
ビアにせまる「静かな危機」と名付けた1999年の調査は、実際には家族強化
が困難であることを示している。
 問題のひとつは資金である。孤児の増加は、国家が深刻な貧困に陥り、債
務に苦しんでいることの原因であり結果である。貧困と債務は多くの家族を
生死の境へ追いやり、孤児の危機に対応する政府の能力を狭めている。
1999年に490ドルであった一人当たりの国民所得は、2000年の終わりには
330ドルまでに減少してしまった。その一方で、昨年の債務返済には、国家
の福祉・教育予算をあわせたよりも多くの歳費が費やされた。
 多くの子どもたちにとって、両親を失うことは、貧困に陥ることであり、
その結果、教育へのアクセスが閉ざされ、血縁者や隣人からの非難を受ける
ことにつながる。死亡者の増加にも拘わらず、ザンビアの孤児の半数近くが、
生き残った片親、多くは母親と生活をしている。しかし、婚姻者間での高い
エイズ感染率は、それらの子どもたちの多くがいずれ両親を失い、大家族の
全責任を背負うことになることを示している。これらの子どもたちの約40%
が祖父母に育てられ、約30%が叔父や叔母などの親戚によって育てられる。
 しかしながら、このような家族構成の影響は計り知れない。4人の孫を育
てている、ある70歳の女性が調査員に語った。「これらの子どもたちが私の
ところに連れられてきて以来、私はとても苦しい。私はこの子達をきちんと
育てていくには年老いすぎている。私は田畑を耕すこともできず、食料は底
をついてしまう。」
 「このような状態は、しばしば家族全体を生死の淵に追いやることになる。
にもかかわらず引き受けている家族は、信じられないほどの自己犠牲を払っ
ている」とルイス特使は認めた。「彼らはもともと自分達が生きていくのに
精一杯なのに、突然2人の子どもの面倒を見ることになる・・・エイズ感染
率の高い国々で起こっているこのような大家族制に対するかつてないほどの
打撃を誰が予想できただろう。本当にたいへんな課題に直面している。」
 ザンビアにおいて、かつては稀であった子どもを世帯主とする家族が、今
日では急激に一般的なものになりつつある。しかし、正式で伝統的な遺産承
継や土地所有、医療や教育に関する政策はこのようなニーズに追いついてい
ない。「私達の両親は2人とも1995年に死んでしまった。」と一人の若い女
性がUNICEFの調査員に語った。「両親が死んだ時、私達の親戚は私達をおい
てどこかへ行ってしまった。私達の両親は大きな農園を持っていたのに、そ
れもとられてしまい、食べ物を育てる場所もない。私の弟や妹は乞食となり、
家々を回って食べ物を集めています。」
 また別の子どもたちは、近隣に預けられたり、ザンビアにごく少数存在す
る孤児院や収容施設に寝床を見つける。そこからも取り残された子どもたち
には、ザンビア都市部の道路しかない。そこで子どもたちは、年長者から監
督を受けることも安定した住居を持つこともなく、物乞いや犯罪によって生
き延びている。

孤児?それとも困窮する子ども?

 ザンビアでは、孤児やさまざまな危機にさらされた子どもたちを育ててい
くために、家族を支援することが、コミュニティにとって主要な課題になっ
ている。エイズ感染が国中に広がったここ20年近くの間に、何百もの宗教ま
たはコミュニティを基盤とした子どもたちのための団体や家庭医療サービス
プロジェクトが、病気の人々を世話したり、孤児や孤児を持つ家族へのカウ
ンセリングや支援のために立ち上げられている。そのプログラムはコミュニ
ティによって様々である。しかし、多少の違いはあっても、それらの試みは
家族の2つの基本的なニーズを満たすことを支援している、食料と教育であ
る。
 まずコミュニティが直面する最初の課題は、孤児をどう定義し、どのよう
な子どもたちを特別な保護の対象とするのかを決定することである。
UNICEFその他ドナー(支援国・国際機関)が支援した1999年の研究によると、
多くのザンビア人は、子どもたちが成人の近親者と住むことができない場合
のみ、孤児としてみなすと考えている。いくつかのコミュニティでは、両親
は失ったものの、他の近親者によって何らかの保護を受けている子どもたち
は、その家族が極端に貧しくない限りは特別な保護を受ける事を要求するに
値しないと考えられている。多くのザンビア人は「孤児」という呼び方より
も「困窮する子ども」という呼び方を好む。というのも、しばしば、両親を
持つ子どもたちが両親を失った子どもたちに比べて、物質的に豊かであると
は言えず、両親を失った子どもと同様の援助を得るに値すると考えられてい
るのである。この調査によると孤児になった子どもたちのうち75%が貧困ラ
インより下で生活しているが、両親を持つ子どものうちの73%も同様に貧し
かったのである。
 あるコミュニティでは、ある支援者が孤児たちの養育費や制服を供給して
いるが、その他の生徒達は新しい洋服を買うお金はない。結果として、怒り
を買った孤児たちは仲間はずれにされたり、コミュニティ内の緊張関係を形
成してしまう。同様のことが大家族内でも起こり、孤児が叔父の世話を受け
ていることで、叔父の実の子どもたちが十分な世話を受けることができなく
なることがある。
 調査によると、「実際に支援策を講じる際には、孤児とその他の困窮する
子どもたちを分けることが、特別な意味を持つことはない。実際、両者を分
けることでより大きなリスクを伴うことがある」という。調査員が述べたと
ころでは、ドナーが直面している課題のひとつとして、多くのプログラムが
特に孤児の利益に特化している、つまり、「孤児」という資格条件を設ける
ことがリスクにつながっているのである。

土地と食料

 農村部では、政府・宗教団体やコミュニティ団体が地域の伝統的指導者と
ともに、主たる稼ぎ手を失った家族が土地を維持していくための支援をした
り、家族がこれ以上生計を立てていくことが不可能な場合には、地元の資源
を生かして持続的な養育プログラムを作っている。ザンビア東部の農村では、
当初はエイズ家庭保健プログラムとして設立されたカンヤンガ孤児プロジェ
クト(KOP:Kanyanga Orphan Project)が、主たる稼ぎ手を失った家族の耕
作技術や食事改善が切迫した課題であることを認識し、取り組むようになっ
た。
 この地域での伝統的な遺産継承の慣習によると、女性あるいは未成年が世
帯主であっても、家族が土地を継承し留まることが認められるため、プロジ
ェクトは、当初、種や肥料、農具などを供給していた。家族が食料生産を増
加させるのに必要な能力を持っていないことが明らかになったので、プロジ
ェクトは訓練を受けた農業技術者を雇い、農業技術や生産力の向上に努めた。
もともとは養育プログラムであったKOPだったが、KOPの農場支援プロジェク
トによって子どもたちの教育費を賄い、コミュニティの金銭的負担を減らす
ことになったことから、世帯収入の重要な源にもなり始めたのである。
 しかしながら、ザンビアのその他の地域において、養育プロジェクトがこ
れほどうまく進んでいるわけではない。キツウェ(Kitwe)ではCINDI (
CINDI: the local Children in Distress committee)が稼ぎ手を失った家
族の収入や栄養摂取向上のために、共同で「孤児の果樹園」を設立した。し
かし、結局これらの果樹園は、個人所有の農園ほど農作物を生産することが
できず、食糧援助やその他の貧困削減プログラムへの依存を減らすことはで
きなかった。UNICEFやその他の研究者によると、このコミュニティが専門ス
タッフを雇うことができないことと、援助が農園の低生産性を補ってくれる
という認識とが相まって、このような結果に陥ったのではないかと推測して
いる。
 カニャンガ(Kanyanga)やキツウェにおける養育プログラムの経験は、孤
児やその他の困窮する子どもたちのニーズに対する地域ベースでの対応の長
所と短所を如実に示している。両者のケースにおいて、コミュニティはニー
ズを見つけ出し、その解決のために地域のスキルや利用可能な資源を活用す
ることによってすばやく行動を開始した。しかし、二つのコミュニティの結
果の違いは、外部のスキルや資金・技術支援へのアクセスがより必要である
ことと、ある地域の成功例をより大規模に共有することが困難になっている
ことを示している。

孤児と教育

 ザンビア政府と地域団体は、孤児やその他の困窮する子どもたちの教育ニ
ーズを満たそうとして、同じような課題に直面している。1999年の調査は、
コミュニティや両親、子どもたち自身が教育は不可欠なものであると認識し
ているにも拘わらず、「おそらく、政府や援助ドナー、その他の開発団体が
ザンビアの子どもたちを最も救うことができなかった点は教育の分野である。
」と指摘している。ザンビア政府は資金不足から、無償教育を提供すること
ができない。政府は教師の給料は支給するが、実質的な運営資金は地域の学
校管理団体が入学費を請求したり、制服の条件を課すなどして賄わなくては
ならない。結果として、孤児になったり世帯収入がなくなった場合、すぐに
教育を受けることができない、という状況に陥ってしまう。
 貧しい家族の子どもたちがもっとも危機にさらされている。「私達の記録
によると学校をやめてしまう孤児の多くが貧しい家庭出身なのです。」とイ
ソカ・カトンゴ(Isoka Katongo)の校長先生は語る。
 子どもたちを学校に留めておくための手立てとして、コミュニティは三つ
の対応策を導き出した。まず一つ目が、地域の学校管理団体にロビー運動を
行うことによって、最も困窮している子どもたちの学費を免除してもらうこ
とである。このような試みはしばしば成功するが、当たり前のことながらそ
の学校の資金的基盤を弱めることになる。例えば、キツウェのチムウェムウ
ェ(Chimwemwe)学校では、全校生徒1500人のうち、400人が学費を免除され
ているが、これによって運用資金は約3分の1に縮小している。
 二つ目のコミュニティによる対応は、孤児の学費を寄付することである。
奨学金は学校の支払能力を維持するには有利であるが、通常、地域の管理団
体は寄付金を得る代わりに所得を創出するようなプロジェクトを作成・運用
することを求められる。しかし、ごく稀な例外を除き、コミュニティには管
理能力や出資金、広報の機会が欠如し、プロジェクトを上手に管理すること
ができない。多くの場合、コミュニティ主導の所得創出プロジェクトは資金
を失い、自発的にプロジェクトに関わったボランティアたちの時間やエネル
ギーを無駄にすることになる。ザンビア政府、ドナーやNGOはコミュニティ
の事業収益創出のためのスキルを向上させることが不可欠であるとの点では
一致しているが、依然成功への道のりは長い。
 三つ目のアプローチはオープンスクールプログラムである。これはボラン
ティアの教師によって、援助により提供された施設と6年分の内容を3年に縮
めたカリキュラムを用いることによって、困窮する子どもたちのために無償
で教育を提供するプログラムである。当初、このプログラムは孤児やその他
の困窮している子どもたちに教育を提供するために画期的な政府とコミュニ
ティのパートナーシップとして立ち上げられたが、これらの学校は公共学校
システムの代替としてではなく、補助的なものとして認識されていた。生徒
達は7年目には州の教育システムに戻ってくることを予定されていたのであ
る。
 このオープンスクールは成功し、その数は飛躍的に増加したが、しばしば
その教育の質が問われる。ボランティアスタッフに依存しているために、教
師はよく欠席し、他の職が見つかると学校そのものを去ってしまった。教育
専門家は、このような一時しのぎの措置も大切であるが、最終的には国家の
無償の義務教育システムだけが発展のために必要なスキルを次世代の人々に
身につけさせることができるのだと指摘している。

子どもたちを収容するのではなく対応策の制度化を

カオマ・チェシア・ホーム(The Kaoma Cheshire Home)はザンビアでも最
も多くの孤児が生活する地域を担当し、エイズ孤児のための施設保護サービ
スを提供するプログラムを行う数少ない団体である。しかしながら、この団
体も状況が整い次第、早急に子どもたちをコミュニティに戻すことを目的と
しており、それは通常2歳から3歳の間に行われる。
 活動家やサービス提供者の間に、孤児や困窮している子どもたちを収容す
ることを制度化することへの一致した懸念があることを踏まえて、国際レベ
ル、国家レベル、地域レベルの支援策を調整する必要がある。UNICEFや
UNAIDSの支援の下、ザンビア政府がそうした役割を担うことが、認識されつ
つある。国家レベルでは、公共福祉省がNGOや地域団体と共に委員会を結成
し、最も必要とされているニーズや具体的な技術・物資を特定し、孤児や困
窮している子どもたちの複雑なニーズに応えるための政策策定を行っている。
 さらに、ザンビアの市民社会団体によって、これまで長期に渡る孤児の危
機に対する取り組みや、国内の人々を巻き込んで実施してきた貴重な経験な
どを活かしたた資源の有効活用への取り組みが現在進行中である。しかしな
がら、資金・技術・人材といった資源の大幅な増加がない限り、アフリカの
孤児の未来は暗い。とルイス特使は言う。
 「したがって、多くの子どもたちが、文字通り子どもの腕の中で死んでい
く母親を看取るというような絶望的で心を痛める厳しい試練を経験している。
」と彼は言う。「彼らは本当にに自暴自棄になってしまう。とても綺麗で大
きな瞳を持った、4歳、5歳、6歳といった小さな子どもたちが、この静か
に囁かれている会話にあなたをひきこむ。そうするとあなたはこの子どもた
ちのどうしようもない状況に対して何かできることはないかと考えをめぐら
すでしょう。コミュニティは子どもたちが共に過ごすための場所、もし可能
であればそこで食事をとることのできるような場所、を用意しようとしてい
る。しかしながらすべてがとても不確実である。コミュニティは死にかけて
いる人達、死んでしまった人達、そして貧困に苦しむ達に囲まれている。「
孤児に対して特別に対応する時間がないのだろうが、それでも彼らに対して
何らかの対応をしなくてはならない。」
「時々感情的にどうしようもない焦燥感に駆られてしまう。」と彼は締めく
くった。

African Recovery, United Nations


……以上……

REV: 20160125
HIV/AIDS  ◇全文掲載
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