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視覚障害者のIT時代

村田拓司
『季刊福祉労働』第92号(現代書館) pp.48-56 特集・情報のバリアフリー


 視覚障害者に大きな利便と可能性をもたらしたIT技術だが、晴眼者を標準とする開発が主流で障壁撤廃が後追い的になっていると感じる。初めから視障者などの声を取り入れていたら、どれほど労力や費用の節減が図れただろう。多様な需要の全ての人々が使える設計(ユニバーサル・デザイン)は、社会全体にとっても望ましいものである。


 パソコン・インターネット、携帯電話、データ放送……。今や「IT(情報技術)革命」が社会構造の大変革をももたらしそうな勢いである。
 IT革命の波は、視覚障害者(以下、視障者)にも大きな変化をもたらした。例えばパソコンに画面読み上げソフトを組み込めば、墨字(晴眼者の使う文字)の文書も独力で読み書きできるし、電子メールで、点字を知らない人とでも直接書信をやり取りできる。音声ブラウザでネットサーフィンもできる。携帯電話があれば、街中で公衆電話を探し回らなくて良くなった。デジタル・オポチュニティ(注1)の一例と言える。
 他方、ITの進展は、デジタル・デバイド(情報格差)をもたらしたと言われるが、視障者と晴眼者との間にも、新たな格差が生まれてきており、手放しでIT革命を歓迎できない現状がある。
 本稿では、全盲である私の体験したことを中心に、視障者のIT事情を報告する。


パソコン・インターネット
 
 パソコンは、視障者の情報環境に正に革命的な変化をもたらしたと言える。
 視障者の二大障壁として挙げられるのが、移動と情報、特に文字情報の障害である。墨字の読み書きできない視障者は、本や新聞が読めない等々、様々な制約があるのみならず、地方公務員の障害者枠採用でさえ「活字対応可」という採用条件に阻まれ、公務員に事実上なれないなど、情報障害は、視障者の社会参加の重大な阻害要因になってきた。パソコンは、これら全ての問題を解決したわけではないが、幾つかについて大きく前進させた。
 一 視障者は、専用の特別なパソコンを使っているわけではない。一般に市販されているパソコンに、ピンが点字の形に可動するピンディスプレイ、点字を打ち出す点字プリンタなどの周辺機器や、画面読み上げソフトなどを組み合わせて使うのである。
 しかし、視障者のパソコン利用に欠かせない画面読み上げソフトや、特に視障者用に開発された各種ソフトは、市場が狭い所為もあり、一般に高価である。ピンディスプレイや点字プリンタは特に高価で、個人で持つ人は少ない。そこで、国でも二〇〇一(平成十三)年度よりIT推進施策の一環として、視障者等が情報機器を使用するのに用いる周辺機器や専用ソフトを購入する際の費用を一部助成する障害者情報バリアフリー化支援事業を始めた(注2)。なお、同様の事業などを国に先行して実施している自治体もある(注3)
 二 視障者は、前述のように、読み上げソフトにより音声で確認しながらキー入力できるので、点訳ソフトで点字文書が書けるのはもちろん、視障者が代筆者に頼らずに墨字文書が書けるようになった。そして、点字に漢字がないので、その知識の乏しい視障者でも、ワープロやエディタを使う際は音訓読みさせて、墨字文書が書けるのである。現に私は、本稿をそうして書いている。
 その結果、例えば、前述のように電子メールは、視障者・晴眼者間の文字の壁を無くした。また、視障者の一つの夢だった、点訳に不向きな百科事典や各種辞書類を引くことも、検索ソフトを用いて電子ブックやCD−ROMから自由にできるようになった。さらに、OCRと連動させて、自在にとはいかないが、墨字本自体を読めるようにもなった。
 しかし画面読み上げソフトも、必ずしも万能ではない。これまで広く使われてきたソフトは、画面情報の全部を完全に読み上げるわけではない。最近は、より詳細に画面情報を読み上げるものも登場しつつあるが、これまでのものに比べて、かなり高価である。また、読み上げ対象は、テキストデータであり、たとえ文字でも画像データによるものは読み上げできない。そして何より、アプリケーション・ソフトの多くが画面読み上げソフトに対応しているわけではない(注4)。しかも、基本ソフトのバージョンアップに必ずしも対応し切れてもいない。
 三 出力では、墨字プリンタで墨字文書を印刷し、点字プリンタで点字文書が打ち出せる。
 また、それまで手作業だった点訳や音訳も、パソコンで編集が容易になり、飛躍的に進んだ。特にDAISY(注5)(デイジー、デジタル録音図書)は、これまでのカセットテープ図書では難しかった、任意のタイトルやページからの頭出しが容易になる他、文字や音声データと同期させて同時に、パソコン画面で文字を読み、スピーカーから音声で聴き、ピンディスプレイから点字で読むということもできるものである。
 以上の結果、これまで墨字本一冊が点字本では何十冊にもなったが、データをフロッピーディスクやCDに保存することで、持ち運びや保管に便利で、複製も容易になった。
 四 音声ブラウザにより、インターネットも利用できる。その結果、これまで読めなかった新聞記事が読めたり、点訳(注6)や音声のデータを取り込んで本や雑誌が読めたり(注7)できるようになった。最近では電子政府の総合窓口から法令データも得られるようになった(注8)
 しかし、ホームページは、必ずしも視障者にアクセシブルな(利用しやすい)ものになっていない。例えば画像データや、複雑な表のテーブル構造には、画面読み上げソフトで対応できない。この場合、代替テキストの用意や、表の概要を付けるなどの配慮が必要である。
 なお、障害者等のウェブのアクセシビリティについては、「インターネットにおけるアクセシブルなウェブコンテンツの作成方法に関する指針」がある(注9)
 インターネットにおける情報格差の一例を挙げておく。
 現在ネット上で、一週間分の官報が閲覧できる(注10)。しかし、取り扱いにくいPDF形式で、テキストデータが取り出せない設定なので、視障者が内容を知ることは、ほとんどできない。その理由は、官報紙の販売への悪影響を恐れて、セキュリティを高くしたためのようである(注11)
 とは言え、官報には法令公布など国民への情報提供機能があり、発行元の印刷局が国の機関であること、身体的条件によるIT利用の機会等の格差の是正について定めるIT基本法第八条の主旨に反することなどから見て、現状には大いに疑問がある(注12)


テレビ

 テレビも、昔からの最も一般的なITと言えよう。多くの全盲者も利用する。
 最近では、副音声による解説番組も、幾つかある。しかし、NHKの二〇〇〇(平成十二)年度実績で、解説番組の割合は、最も多い教育テレビで五・二%に留まる(注13)
 また、視障者がテレビで困ることは、他言語の場面で音声邦訳が付かないことである。近時、海外報道の他、ドラマなど多方面に他言語の場面が増えており、音声訳がないと番組内容が解らなくなるので、その要望は強い。副音声で付けてほしいという声もある。
 解説や音声訳についてNHKに尋ねると、解説番組が難しい理由として、副音声チャンネルがステレオや二カ国語放送で埋まるという技術面を挙げた。副音声領域の利用につきステレオと解説のどちらを優先させるかの構図のようである。また、音声訳については、それを付けるか否かは、番組ごとの判断だが、発言が長めなら付け、短めなら付けないというのが、大方の傾向のようである。
 最近、その伝送量の多さを生かした多チャンネル化などにより、番組を観ながらデータを取り出せる便利さや、番組の双方向化などを売り物に、BSデジタル放送が始まった。ただ残念ながら、今のところ、色チャンネルなど視障者には操作できないことをNHKも認めている。しかし、このデジタル放送には大きな可能性が期待される。例えば多チャンネル化を生かし、ステレオと解説の同時放送が、一部番組で既に実現していて、前述のステレオと解説の競合問題は解消されているようである。
 さらに現在、デジタル放送の特性を生かし、データの点字出力や字幕の音声化、弱視者に便利な字幕の調整などの研究開発や、解説を選択肢として標準装備するなどの検討がなされているとのことである。


自動現金預け払い機(ATM)、電子自治体など

 一、ATMも、ITの一つと言えよう。しかし、金融機関設置の大部分はタッチパネル式で、全盲者には操作不可能である。弱視者も画面に顔を近づけて操作するため誤作動したり、視野狭窄で全画面が見えなかったりと、やはり不便のようである。二〇〇〇(平成十二)年二月四日付読売新聞によれば、視障者が使えるボタンとの併用式は、割高が理由で、都銀の設置数の〇・五%の一六七台しかない。ただ、最近設置された視障者対応ATMには、受話器内側にテンキーを配置したハンドセット式のような利便が図られているものもある(注14)
 この点、郵便局に約二万四千台設置された、ボタン・音声案内との併用式は、受話器からの音声やピンディスプレイで残高も確認でき、概ね「バリアフリー」と言える。
 近時は、銀行より身近なコンビニ銀行が開業し、各店にATMが設置されつつある。ハンドセット式の視障者対応がハード面で用意されているが、まだソフトは準備中とのことで、展開力など影響は大きく、早期の稼動が望まれる(注15)
 二、因みに、JR東日本のプッシュホン形テンキー・タッチパネル併用式の券売機は、バリアフリーの一例と言える。
 三、また、「電子自治体」の名の下、自治体によるITを利用した住民サービスが始まっている。旧大宮市(現さいたま市)の例を紹介する。
 旧大宮市では、住民票の写しや印鑑証明書の自動交付機を数台設置している。あらかじめ登録したカードを機械に読み取らせ、暗証番号を入れ、タッチパネルで希望の項目を選び、手数料を入金すると発行される。ハンドセット式による音声案内サービスも行われているとのことである(注16)
 他方、やはりタッチパネル式だけで、視障者への配慮に欠ける端末を設置している自治体も少なくないようである。電子自治体は、役所に行かなくても最寄の設置場所で利用できるという意味で、移動に制約をもつ視障者には最適な利便があるのに、これでは肝心な視障者にその利便が享受できない。


携帯電話など

 携帯電話やPHSなどいわゆる携帯情報端末も、今や視障者に確実に浸透しているITである。ここでは、あるアンケート結果(注17)から、現に利用している視障者の声を紹介しておく。
 利点としては、次のようなものがある。すなわち、まず、待ち合わせに便利で、待ち合わせ場所に迷ったときや遅れるときの連絡に便利なのは一般的だが、着信音で互いの位置を確認し合うという、視障者ならではの使い方もある。また、公衆電話を探す苦労が無くなった。全盲者などが急に連絡を取りたくても、不案内の場所で探すのは一苦労だからである。家族などにいつでも連絡でき安心とか、どこででもタクシーを呼べるようになったなど、副次的な利点もある。その一方で、携帯電話の普及で公衆電話が減り、持たない視障者にはかえって不便になったという面もある。
 課題としては次のようなものがある。すなわち、電話帳への番号登録などの各種設定の際や、着信通知、電池残量など画面が見えないか見えにくいため、せっかく多機能でも使えなかったりする不便がある。また、画面読み上げなどがないため、携帯電話などからのメール交換やインターネット接続などのサービスが使えない。説明書が読めず、点訳があっても一部機能に限られている。
 そこで、番号入力、各種設定などの際の確認、ネット接続やメール機能の音声化等使い勝手の改善、説明書の点訳やテキストデータ化などが望まれている。ただし、技術革新が目覚ましく、機種や電話会社によっては既に改善されている点もあるかもしれないことを付言しておく。


最後に

 以上、ざっと視障者(特に全盲者)のIT事情を報告してきた。これらの他に、電子マネー、電子投票、音声誘導システムその他、今後本格導入が予想され、日常生活・権利行使の面で重要になるものを書き残した分野は多い。
 パソコンや携帯電話などITは、視障者に大きな利便と可能性をもたらしたが、どうしても晴眼者を標準とする開発が主流になり、視障者にとっての障壁撤廃が後追い的になっていると感じるのは、私だけだろうか。書き残した電子マネーなどに用いるものも含めて、操作端末やホームページでも、視障者が使えないか、きわめて使いにくいタッチパネル式やPDFファイルなどによるシステム構築が先行し、後からの視障者の抗議や要望で、慌てて音声案内を用意したり、テキストデータ提供をしたりする場合が、あまりに多いのである。
 しかし、新たな技術の開発やシステムの構築の際、初めから視障者などの声を取り入れていたら、どれほど労力や費用の節減が図れただろう。何よりも、視覚情報に頼らない設計は、よく挙げられる、暗い場所では晴眼者にも便利だという例もあるし、今後の高齢社会には、受益者の拡大など、より有用なものではないだろうか。多様な需要の全ての人々が使える設計(ユニバーサル・デザイン)(注18)は、視障者のみならず、社会全体にとっても望ましいものである。これを踏まえたITの進歩により、障害者、非障害者の別なく、豊かさを享受できる真の二十一世紀社会の実現を期待したい。



1 「情報技術を使いこなすことによって生じる社会的格差解消の機会」(電子ブック版『現代用語の基礎知識二〇〇一年版』「デジタルデバイド/デジタルオポチュニティー」の項より)
2 障害者情報バリアフリー化支援事業の主旨は、障害者が、非障害者と同様に情報機器を使用するには、通常の機器のほかに周辺機器やソフト等を追加する必要があることから、これらの機器等の購入費用の一部助成により、障害者の情報バリアフリー化を推進し、ひいては情報機器を活用した障害者の就労を促進するというもので、都道府県・指定都市において、重度視障者等がパソコン等を使用するに当たり、その周辺機器等の購入費用を一部助成する。「高齢者・障害者の情報通信利用を促進する非営利活動の支援等に関する研究会報告書(案)」http://www.yusei.go.jp/policyreports/chousa/barrier_free/010530_3.html
 視障者からは、一式そろえるのに助成範囲が不十分だとして、助成範囲の拡大や、パソコンの必要度の高さに配慮して全額補助もある日常生活用具の指定を求める声もある。
3 「視覚障害者用パソコン・ソフト・周辺機器デモンストレーション当日配布資料」(パソコン等の公的助成を求める視覚障害者学習交流集会準備事務局)http://www.normanet.ne.jp/~zensi/PCDEMO-SIRYOU.HTM
4 参考:視覚障害者にも利用可能と思われるWindowsソフトウェア一覧
 http://www.people.or.jp/~sugita/soft.html
5 DAISYについては、http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
6 ないーぶネットは、ボランティアによる点訳データを集中管理し、登録利用者がデータを自由にダウンロードできるサイトである。https://www.naiiv.gr.jp/
7 本や雑誌の録音データをサイトから直接に、あるいはダウンロードして聴ける。例えば「声の花束」サービス http://www.koetaba.net/
8 法令データ提供システム http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi
9 『「情報バリアフリー」環境の整備の在り方に関する研究会報告書』
 http://www.joho.soumu.go.jp/policyreports/japanese/group/tsusin/90531x51.html
10 財務省印刷局 http://kanpou.pb-mof.go.jp/
11 印刷局官報課の話。併せて、いずれネット版官報が有料化されれば、視障者の利用可能性(アクセシビリティ)にも配慮するが、当面いつからかは明言できないという趣旨の発言もあった。それまで、何ゆえ視障者は、ネット版官報へのアクセシビリティが認められないのか、はなはだ理解に苦しむ。
12 『第五回IT戦略会議・IT戦略本部合同会議 議事要旨』(平成十二年十一月六日)
 http://www.kantei.go.jp/jp/it/goudoukaigi/dai5/5gijiyousi.html にある情報バリアフリーの推進についての内閣審議官からの報告には、「……官報の点が指摘されているが、これについても十三年度中に視覚障害者に配慮した官報のインターネット配信を予定する」とある。しかし、『高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部第一回IT戦略本部議事録』(平成十三年一月二十二日)http://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/1gijiroku.html にある本省庁ホームページのバリアフリーの取組状況等についての事務局からの説明では、「昨年第五回IT戦略会議・IT戦略本部合同会議において、政府における情報バリアフリーの取り組みとして、少なくとも本省庁のホームページについては視覚障害者の音声変換ソフト利用への対応を図ることとされたところである。全省庁が措置を完了していることを御報告する」とあって、官報の話が消えており、誠に不可思議である。
13 NHK・経営広報の話。以下、同じ。
14 【視障者ATMフォーラムVer7.0】佐々木克祐 http://www2.justnet.ne.jp/~kattchanofatm.post/
15 『ユニバーサロン アクション』長谷川貞夫「アイワイバンク銀行社長からの回答」
 http://www.mainichi.co.jp/universalon/action/200105/06.html
16 古川愛子『バリアフリーガイドブック二〇〇一年版』日経事業出版社、九七頁。
17 宇根正美『「資格障害者の携帯電話利用」に関するアンケートのまとめから』
 http://www.kikiweb.net/enquete/khetai/result.html
18 注9報告書参照。

むらた・たくじ………一九九二年、東京都立大学大学院社会科学研究科基礎法学専攻博士課程単位習得・満期退学。(財)日本学術振興会特別研究員(PD)などを経て、九九年より(財)日本障害者リハビリテーション協会リサーチ・レジデント(任期付研究員)、障害者法学専門。


UP: 20060908
村田 拓司  ◇Archive
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