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「警察庁交通局運転免許課法令係 殿」

北林康 2001/09/27

last update: 20160125
警察庁交通局運転免許課法令係 殿
                     (住所)
                     北  林    康

                      2001年9月27日

 初秋の候、貴職におかれましてはますますご健勝のほどお喜び申し
上げます。
 さて、私はナルコレプシーを病んでおります市民です。今般の「運転
免許の処分基準等の見直し素案」に対する意見の募集につきましては、
当方の病気仲間から連絡をもらい、おっとり刀でご意見申し上げるべく
準備に着手した次第であります。乱筆乱文ながら、下記とのとおり意見
を申し上げますので、ご査収・ご高察のほどよろしくお願い致します。
 末筆ながらますますのご発展お祈り致します。
                               敬具


               記

「運転免許の処分基準等の見直し素案」のうち、ナルコレプシー患者にた
いする規制にかんする内容について、以下の通り意見します。

1. 他国の事例を参照する際には、その目的と内容を慎重に吟味してくだ
さい。日本では他国に比べて(潜在的なものも含めて)ナルコレプ
シーの患者が桁違いに多いのです。この点を勘案していただき、他国
の例に拠らない対策を施していただく必要があると思われます。

2. 治療する手段が国策的に制限されている現状で、国民としての自由に
移動する権利が制限されることには私は納得できません。他国と異な
り、日本ではナルコレプシーの治療に必要な主要な薬品が認可されて
いないからです。本案件にあっては、他国に比して日本の医療行政が
甚だしく劣っている現状がまったく反映されていません。免許人の疾
病にかんする言及については、厚生労働省殿との密接な連携を得た上
で行われるよう、本案件の手続き上の問題を解決してください。

3. 運転免許の「保留」や「効力の停止」の判断にかかる(病状の回復へ
の猶予期間としての)「6月」という期間は不当に長すぎます。現状
では、どの治療ケースにおいても、病名確定後に投薬による治療の効
果が安定して得られる(個々の患者に対する薬剤の処方が安定する)
まで数ヶ月の期間を要します。そのため、「素案」に基づけば、とく
に病名の確定直後は(「6月」以内に病状が安定するという確証は得
られないため)ほとんどのナルコレプシー患者が運転免許を失効する
ことになりかねません。期間を問わない柔軟な配慮を望みます。

4. 処罰の対象でない患者に対して、特定疾病への罹患を理由に免許の
「取消し」を行うことは倫理的に不当です。日本の法体系においては、
「取消し」の「処分」後の何らかの免許取得権獲得までに2年程度の
年数を費やすことが規定されることがあります。道路交通法において
飲酒運転と同等に扱われようとする「処分」としての「取消し」につ
いても、同様の規定が同法内に追加されることが容易に予想されます。
したがって私は疾病を理由とした「取消し」行為そのものに反対しま
す。

5. 「取消し」行為については、日本の自動車運転技術教育の特殊なあり
方を鑑みる立場からも、否定的に評価される必要があるでしょう。
「素案」のとおりに立法が為されるならば、(不本意ながら)特定疾
病に重度に罹患しつつ、かつ(幸運にも)何年か後に治癒することが、
同時に自動車学校への2重払いをも要求することになってしまいます。
法案には特定疾患にかかる免許「取消し」行為を含まないよう願いま
す。

6. 「取消し」行為は、単に運転弱者を排斥するだけの効力しか持たない
ものです。むしろ「保留」「停止」とリハビリ教育を組み合わせるべ
きです。この件については、各自動車学校さんが自主的に提供してい
るペーパードライバー講習などが、新設すべきリハビリ教育の雛型に
値するでしょう。なお、ナルコレプシーなど疾病の罹患をしつつ(継
続的な投薬などにより)運転技能を回復していく過程にあっては、従
来の安全交通知識ならびに自動車運転技能だけでなく、疾病に関する
ケアについてもリハビリ教育のカリキュラムに含むべきだと思われま
す。

7. 日本では他国に比べてナルコレプシーの患者が桁違いに多いにもかか
わらず、ナルコレプシーによる自動車運転時の事故数は、問題視され
るに値しない程度に微少と推察されます。パブリックコメント募集時
には、信頼すべき詳細なデータを添付してください。

8. 現在の日本では、本人が罹患している疾病についての情報を自動車運
転免許証に記載すること自体が(交通行政の第一義的な方針とは無関
係に)プライバシーの侵害に直結します。 日本では、自動車運転免許
証の主要な用途は(運転免許証としてではなく)身分証明書としての
用途です。事実として、日本では(公共図書館の利用者登録や、レン
タルビデオ店での会員登録、その他売買・賃貸借等々のあらゆる契約
のために)身分証明書として運転免許証が提示されるケースのほうが、
本来の目的のために免許証を提示するケースより桁違いに多くなって
います。とくに宮城県仙台市役所の例としては、婚姻届にすら運転免
許証の提示を求めるよう準備を進めているのが現状です。
 したがって、運転免許証を本来の目的外に使用されたものが身分証
明としての効力を持たないよう法により規制されていないかぎり、免
許人の疾病に関する情報を県公安委員会が運転免許証に記載すること
は、すなわち県公安委員会が未必の故意としてプライバシー侵害を行
うことになるのです。
 本案件においては、運転免許証の目的外使用を一切禁止するための
法規を整えるとともに、市民および各機関・法人に対し、身分証明と
して住民票(写し)等の身分証明書を使うことを促せるよう、総務省
自治行政局殿および法務省殿との連携を得た後に、パブリックコメン
トのフェーズへ移行することが望ましいでしょう。

                         (以 上)


REV: 20160125
欠格条項  ◇自動車の利用に関わる欠格条項  ◇なるこ会  ◇全文掲載
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