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アジア太平洋資料センターからのアメリカ「同時多発テロ」事件についての声明

http://www.jca.apc.org/parc/cgi-bin/PR/index.html

last update: 20160125


 わたしたちアジア太平洋資料センター(PARC)は、9月11日、アメリカを襲った
「同時多発テロ」によって、罪のない無数の市民が犠牲になり、それを上回る人
びとが負傷したことに深い悲しみを覚え、犠牲者とその家族に深い哀悼の意を表し
ます。またこのような暴力行為を容認することはできません。

 わたしたちPARCは、1960年代末に、アメリカによるベトナム戦争への介入に反対
する市民団体を母体として生まれ、日本とアジア・太平洋そして第三世界の人びと
との対等平等な関係を築く仕事をしてきました。このような立場から、今回のアメ
リカでの「同時多発テロ」事件および、同事件へのアメリカ及び日本国政府の対応
についてわたしたちの見解を述べます。

 まず第1に、わたしたちは、今回の暴力事件が、どのようなグループによって
企てられ実行されたにせよ(アメリカ政府はすでに犯人を特定しているようですが)、
それを戦争行為(Acts of War)と呼び、それに対して国家があらゆる軍事力を用い
て報復する権利があると主張し、軍事報復行動を実行しようとしていることに強く
反対します。これら事件を引き起こしたグループないし個人に対しては、綿密な
捜査の上、その結果を公表しつつ、国際司法および各国の警察力によって厳正な
対応をすべきであると考えます。なぜならば、国家をあげての軍事報復ないし同盟
国を動員しての軍事報復は、今回の事件と同じく、あるいはそれ以上の罪なき市民
を犠牲にする可能性がきわめて大きいからです。こうした軍事報復は、泥沼的な
軍事エスカレートを生み出すことになります。

 第2に、わたしたちは、今回の事件の実行犯が誰であれ、その実行犯と、その人
びとの属する民族集団ないし宗教とを同一視し、民族的宗教的偏見・差別をなす
べきでないと考えます。すでにアメリカではヘイトクライム(偏見や憎悪に基づく
犯罪)が起きていると伝えられており、またマス・メディアによる一方的な情報
流布も偏見を煽っている側面があります。わたしたちは欧米や日本社会の一部に
ある、イスラームや第三世界への偏見が助長されることに警鐘を鳴らしたいと
思います。

 第3に、今回の「同時多発テロ」事件がいかに残酷、悲惨な事件であろうとも、
そのことでアメリカ(政府と軍)が過去に引き起こしてきた多数の残酷・悲惨な
国家暴力・戦争・テロリズムを正当化することにはならないと考えます。ヒロシマ・
ナガサキにさかのぼるまでもなく、世界の警察官を任じ、すべての正義と善は我に
ありとの確信のもとに、アメリカの仕掛けた戦争ないし国家テロリズムによって、
ベトナム、イラク、スーダン、ニカラグア、パナマ、さらにバルカン半島等々で、
無数の罪なき市民が殺されています。さらにはアメリカの軍事的物的支援を受けた
多くの国々は、自らの軍隊によって、多くの住民を殺害してきました。欧米や日本
に支援されたスハルト政権のインドネシアは、東ティモールを軍事占領し、そこ
ではヒロシマの原爆に匹敵する人びとが犠牲になっています。こうした欧米日本に
よって支えられてきた第三世界の国家テロリズムは、ニューヨークの世界貿易セン
タービル自爆テロリズムの100分の1どころか、ほとんど報じられないできて
います。わたしたちは、今回の「同時多発テロ」の犠牲者に深甚なる哀悼の意を
表すとともに、過去の無数のアメリカの仕掛けた戦争や国家テロリズムで犠牲に
なった人びとに対しても等しく思いをいたさない限り、あらゆる暴力にまつわる
無垢の人びとの安全保障はあり得ないと考えます。

 第4に、わたしたちは、とりわけ冷戦体制崩壊後、アメリカを中心に進められて
いる市場経済のグローバル化が、世界をこれまで以上に、力ある者とそうでない者
とに二極化させ、そのことが周辺化された人びとを絶望の淵に追いやっていること
に深い憂慮の念を抱いています。これら周辺化を強いられた人びとが絶望の淵から
テロリズムに希望を見いだす構図がそこにはあります。その人たちの持つ武器は、
強者が輸出した武器であり、武器を売る者たちは、それによってさらなる強者に
なり、武装テロリズムは無垢の市民をさらに犠牲者にしていきます。こうした市場
クローバル化とテロリズムの悪の連鎖を断ち切ることこそが今求められていること
ではないでしょうか。21世紀を希望の世紀にするために、国家や国際機関さら
には巨大多国籍企業のグローバル化の論理に対し、地球市民同士の連帯と友愛の
論理をうち樹てることが肝要であると考えます。

 最後に、アメリカの「同時多発テロ」をもって、日本をさらに軍事面で強化し、
非常事態法(有事法)を制定し、集団自衛権の確立をさせようとの動きがあります。
わたしたちは、こうした軍事力強化や集団軍事行動容認の流れに強く反対します。
わたしたちは憲法前文の平和主義、平和を愛する諸国民への信頼という理想を放棄
することなく、世界の構造的暴力なくすために、地球市民の連帯と信頼を実現する
ことこそがテロリズムを克服し、人びとの安全を保障する道であると考えます。

2001年9月17日
アジア太平洋資料センター
e-mail: parc@jca.apc.org
http://www.jca.apc.org/parc/


……以上……
REV: 20160125
アメリカ合衆国  ◇全文掲載
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