HOME > 全文掲載 >

開発の障害分析
―開発を障害の視点から見直す―

久野研二(イースト・アングリア大学開発学部・博士課程) 200106
『リハビリテーション研究』107:41-45

last update: 20160125


1. はじめに
 途上国における障害に関する取り組みにおいて、近年二つの特徴が見られる。一つは障害分野において、地域社会に根ざした方法や参加型といった開発で用いられる視点・戦略が組み入れられてきたこと。もう一つは、一般の開発の中で障害(者)問題への理解が高まってきたことである。特にジェンダー分野の影響を受け、単に対象群の一つとして障害者を追加するのではなく、障害を切り口に開発全体を見直そうという動きである。
 歴史的に見て、途上国の障害分野の取り組みは障害者個人の機能回復に焦点があてられてきた。これはある程度の結果をもたらしたが、その一方で、例えば、機能訓練を受け運良く車椅子が支給されても、学校も社会も障害者を受け入れず、また物理的にも家の外では車椅子が使えず、結局、社会参加にはつながらないといった事も起こっている。
 先進諸国の政府開発機関の障害分野政策にはこの点が強く反映されてきている。スウェーデン国際開発協力庁(Sida)やアメリカ国際開発庁(USAID)は政策指針において、障害者のみを対象とする特別なプロジェクトは少数の障害者の特定なニードを満たすにすぎず、それは必要であるけれども、より広くかつ多くの障害問題に対処していくにはすべての分野の開発事業において障害と取り組まなければいけないとしている。イギリスの国際開発省(DFID)はジェンダー分野においてとられてきた方法である複線方法(Twin-track approach)、つまり、障害者のエンパワーメント(力づけ)を主にしたものに加えて開発政策・プロジェクトそのものを障害という視点から分析し、改善していくこと(注1)を平行して進める方法を提案している。
 これらの政策は、障害分野でいえば「障害者に関する世界行動計画」で述べられている“開発における障害(者)の平等な扱い”、開発分野では社会開発サミットで述べられた“全ての人のための開発”を反映したものといえよう。また各国の障害者政策には国連の「障害者の機会均等化に関する基準規則」が影響を与えている。しかし、開発においては、実際に個々のプロジェクトを障害の視点から分析していくための具体的な指針は十分に検討されてこなかった。そのため、開発に障害の視点を反映させる指針の必要性が国連によって提起され、フィンランド政府の財政的支援のもと、フィンランド国立福祉・保健調査開発センター(STAKES)のロナルド・ウィマンらによって「開発における障害の視点:包括的計画の手引き(The Disability Dimension in Development Action: Manual on Inclusive Planning)」とその簡易版 (Rapid Handicap Analysis: RHA)が1996年にまとめられられた(注2)。本稿ではこのRHAに焦点をあてる。

2. 障害の視点に基づいた開発プロジェクトの簡易分析 RHA
 RHAは開発プロジェクトに障害の視点を組み入れていくためのツールで、10の基本的質問とそれに付随する37の下位質問で構成されている(表1)。政府・非政府を問わず、開発に関わる機関の使用を想定している。
 障害の視点を反映したプロジェクトを行うには、まず、開発の対象・受益者として障害者が含まれていること、そして彼らのニーズを開発に反映することを目的として認識することが出発点である。また、その上で、プロジェクト自体が持続可能で対象者のエンパワーメントと機会の均等を考慮していることも前提である。これらの前提のもと、障害分析をしていくには、データ収集、分析、記録、評価の全ての段階に障害の視点が組み入れられること、障害者・障害者自身の団体との平等な協力の制度化、障害者の職員としての雇用機会の均等化、障害分析とその基準の確立、プロジェクト協力団体との障害政策の共有などが必要である。
 しかし、開発に障害の視点を組み入れていくには障壁も多い。最大の障壁は“障害者は特別な存在で、一般の開発の中で扱うのではなく、特別な政策と介入方法が必要である”、という考え方の流布である。そのため指針では、プロジェクトに関わる職員自体の啓発の重要性が何度も述べられている。また予算的制限を理由とし、障害者をプロジェクトの対象外とする例も多いが、RHAを起案当初から用いて障害分析をすれば、後から障害者のための特別なプロジェクトを追加したりするよりは経費的には低く押さえることができるとしているし、障害者が参加するために必要な経費は計上されるべきであるともしている。またプロジェクトの全ての記録に障害(者)に関して明記していくことも重要としている。しかし、もっとも大事なことは障害者本人がさまざまな段階でプロジェクト実施者として参加することであり、それによって上記のような点も留意されるとしている。

3. RHAの使い方
 マニュアルではプロジェクトの過程を5期に分け説明している。
 まず、第1期のプロジェクト起草期の段階で確認事項(以下C)の1,2を用いて評価しているプロジェクトが障害分野に関連しているか確認する。関連していれば、残りの3−10の8項目を各段階で確認することで障害の視点からプロジェクトをみなおすことが喚起される。第1期の起草の段階で行われるデータ集積や分析によってプロジェクトの方向付けがなされるため、この段階から障害の視点に基づいた分析が行われることが重要としている。
 C1,2によってプロジェクトの障害関連度が決まった後、重要になるのは、その国の障害に関する政策、協力可能な障害者団体、受益者間の関係などを含めた障害に関するデータの収集を十分に行うことである。また、障害者の平等な参加を疎外するなど障害者に負の影響を与えると予想されるならば、プロジェクトはこの段階で変更されるべきである。社会サービス、保健、教育に関する大抵のプロジェクトは障害関連度が高いものとなる。
 第2期の計画期では、問題分析(社会・文化的側面、経済、制度、環境、技術など)、受益者分析、社会資源分析、目的、評価基準、リスク、制度の枠組み、社会影響評価、環境影響評価、ジェンダー影響評価、また各種定義の中に障害の視点を組み入れていく。またプロジェクトの結果へのアクセスが障害者にも公平かどうかに留意し、C3-9を確認する。C3では障害者が均一な集団ではないこと、特に性、年齢、障害などによる違いにも留意する。C4では、短期的な成果ではなく長期的な視野に立ち、保護ではなくエンパワーメントに視点をおいた分析に注意する。全体を通していえることであるが、特にC8においては、障害者本人の参加がプロジェクトならびに結果を継続させるには重要であることを理解しておく必要がある。
 第3期の事前評価期、第4期の実施・経過観察期、そして第5期の最終評価においてC3-10を繰りかえし実施し、計画どおりにプロジェクトの障害分析がなされているかを確認していく。またプロジェクト単体だけではなく、実施母体自体の障害分野に関する政策・態度も確認すべきである。

4. RHA確認事項
 確認事項1:「そのプロジェクトは障害(者)と関連がありますか?」
 次の項目を一つ以上含めば、障害(者)に関連するプロジェクトである。
 ( )既存の環境、特に公共施設や設備、住宅などの設計と建築
 ( )交通機関や通信、上下水道や衛生に関する社会基盤の整備
 ( )小規模事業や企業開発
 ( )都市・農村の地域社会開発
 ( )保健や社会サービスの制度の整備
 ( )人的資源開発(就学前教育、初等・中等教育、高等教育、成人教育、職業訓練、公教育キャンペーンを含む:)
 ( )特に最貧困層の生活向上を目指す所得創出活動
 ( )開発政策やプログラム、プロジェクトに関わる人員の研修

 確認事項2:「プロジェクトはどの程度、障害(者)と関連していますか?また障害に関する情報はプロジェクトに反映されていますか?」
 下位の質問:対象政府の障害分野政策との合致、プロジェクトの対象となる地域社会の障害者数やそれらの情報の信頼性など。
 障害との関連性を決定するための評価尺度(4段階):以下の4つのどれにあてはまるか決定する。 
 (1) 障害分野と関連しないプロジェクト:人や生活を対象としないプロジェクト。
 (2) 障害分野と関連する一般的なプロジェクト :国民全体、もしくは特定の地域社会の人々の福祉に取り組むか、必須のサービスを行っているプロジェクト。もしくは障害者本人や彼らの生活環境、また障害の予防3など、直接/間接に障害問題に影響を与えるもの。
 (3) 障害分野との関連性が高いプロジェクト:社会、保健、教育分野を含む活動。プロジェクトの対象群に障害者というカテゴリーがあるか、障害分野に特化した部門があるもの。
 (4) 障害分野に特定したプロジェクト :障害者を主な対象としたもの。

 確認事項 3 :「障害分析をしていく上で必要な人々・機関は参加していますか?」
 下位の質問:障害者および障害者団体の参加、その他の社会開発分野の機関や組織との連携、またプロジェクトが障害分野に与える影響に関する議論の有無など。

 確認事項 4 :「プロジェクトの目的は国際条約・政策などと一致していますか?」
 下位の質問:人権や機会の均等化、持続的開発といった開発における国際的合意との整合性。貧困の軽減や障害児、女性障害者への配慮。障害者の機能障害ではなく能力への注意、参加と機会の均等化を目指した障害者団体の育成支援の有無、また適切な用語の使用など。

 確認事項 5 : 「受益者および協力者として障害者のプロジェクトへの参加を平等に保障する措置はとられていますか?」
 下位の質問:プロジェクトの計画/実施に関わる人員のバリア・フリーに関する知識の程度。考慮すべき事項として、利用のし易さ(Accessibility)、平等(Equality)、安全性(Safety)、入手可能度(Affordability)、利用可能度(Reachability)、便利度(Usability)、実行可能度(Workability)、理解の容易さ(Orientation)を確認すること。

 確認事項 6 : 「プロジェクトに負の影響を与える内的・外的要因(リスク)への障害の視点からの分析はなされていますか?」
 下位の質問:障害分野が抱える一般的な危険性の検討、危険削減のためのプロジェクトへの追加・変更内容の検討、予防的介入、プロジェクト職員への啓発の有無など。

 確認事項 7 :「障害者の参加は保障されていますか?」
 下位の質問:障害者自身の単なる受益者としてではなく社会資源しての参加の保証、参加型の過程を可能にする現実的で十分な時間の設定、職員雇用における障害者の雇用機会の均等化など。
 確認事項2の障害関連度に応じて、組織が満たすべき最低条件は以下になる。
・ 障害分野と関連しないプロジェクト:プロジェクト職員雇用の際に障害者を差別しない。
・ 障害分野と関わる一般的なプロジェクト:プロジェクトの初期段階で障害者への影響などを検討する。適宜、必要な専門の知識や技術の導入において障害者本人の参加を支援する。
・ 障害分野との関連性が高いプロジェクト:障害者はプロジェクト全体の計画に関わるとともに、そのプロジェクトの特に障害に関連する部門は障害者自身によって計画されるべき。
・ 障害分野に特定したプロジェクト:障害者はプロジェクト全体の管理・運営権を持つ。障害者自らが目的の設定やその手段を決定し、資源の利用権を持つとともに、その責任も負う。またエンパワーメントの過程も重要とされる。

 確認事項 8 : 「障害者の視点から見て活動は永続性がありますか?」
 下位の質問:機会の均等化と障害予防の政策公約の有無、技術の適正度・現地調達可能度、環境への配慮・アクセス、障害児・女性障害者への配慮、制度と能力開発における障害者の参加とエンパワーメントの必要性の考慮、障害分析を組み入れることによる社会コスト・利益の経済的分析の有無など。

 確認事項 9 : 「計画全体の障害分析はなされていますか?」
 下位の質問:計画全体の構想の非差別性と包括性。プロジェクトの各段階における文書や契約書の障害分析、機会均等化の実現と障壁除去のための手段の導入の有無など。

 確認事項 10 : 「評価において障害分析はなされていますか?」
 下位の質問:評価・経過観察への障害者の参加、障害者の計画変更への発言権、追跡記録における障害者の参加の明記、将来の活動における開発機関と障害者団体との協力の合意など。

5. RHAの課題
 障害分野に関わったことのない一般の開発プロジェクトの実施者が、RHAだけでそのプロジェクトを障害の視点から分析することは容易ではない。そのため、指針が最も強調するように障害者自身のプロジェクトへの参加、もしくは障害者団体との協力体制は必須である。しかし、途上国の場合、障害者団体が十分に育っていない国も多く、この場合は該当国以外の国際障害者団体などの支援を受けねばいけないだろう。また全ての障害者が同一の利害を共有しているわけではなく、“障害者の利益”といった際に、障害者間の利害の違いにも注意が必要である。また二国間プロジェクトのような場合、相手国政府の障害(者)政策の影響もより大きくなるだろう。
 RHAは開発に障害の視点を組み入れていくための方策の一つである。障害(者)が一般の開発プロジェクトから疎外されている現状を打破していくという理想をチェックリストという実施可能な形・ツールとしたこと、また、各段階で障害者の参加などを喚起させていく効果を持つことは評価に値する。今後はこれをもとに各開発機関が自らの事業に即した指針を作っていくことが重要であろう。


表1 RHAチェックリスト
---------------------------------------------------------------------------------
C1:プロジェクトが障害(者)に関わるかどうかの確認
C2:障害分野への関連程度(4段階)の決定と、障害に関する政策・情報のプロジェクトへの反映 (5)
C3:障害分析をしていく上で必要な人々・機関の参加 (2)
C4:プロジェクトの目的と国際条約・政策などとの整合性 (6)
C5:受益者および協力者としての障害者のプロジェクトへの参加の保障 (3)
C6:プロジェクトに負の影響を与える内的・外的要因(リスク)への障害の視点からの分析の有無 (4)
C7:障害者の参加の保障(4段階の関連程度に応じた措置) (5)
C8:障害(者)の視点から見た活動の永続性 (6)
C9:計画全体の障害分析 (2)
C10:評価における障害分析 (4)
----------------------------------------------------------------------------------
*括弧内は各項目における下位の質問数




1 本稿では、開発政策やプロジェクトを障害という視点から分析・見直すことを、「開発の障害分析」もしくは単に「障害分析」と呼ぶ。
2 http://www.stakes.fi/で問い合わせできる。
3 疾患の予防だけではなく、障害を引き起こす環境全ての予防であり、原文では" prevention of disabling condition"である。

参考・引用文献

Department for International Development (DFID)(2000) Disability, Poverty and Development, London, DFID.
National Research and Development Centre for Welfare and Health (STAKES) (1997) The Disability Dimension in Development Action: Manual on Inclusive Planning, Helsinki, STAKES.
Swedish International Development Authority (SIDA:日本障害者リハビリテーション協会 訳) (1999) Sidaの障害児者のための開発協力に関するガイドライン, 東京, 日本障害者リハビリテーション協会.
USAID (2000) Policy Paper: Disability, http://www.info.usaid.gov/about/disabpol.htm (accessed 2/6/2000)


 

  以下はby立岩

REV: 20160125
久野研二  ◇CBR (Community-Based Rehabilitation)   ◇全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)