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「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(案)に対する意見

田中 邦夫 2001/05/05

last update: 20160125


「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(案)に対する意見

2001年5月5日
田中 邦夫

 小生は聴覚障害者ですが、かねてよりいわゆる「交通バリアフリー
法」と関係政令・省令、および「移動円滑化基準」(以下「基準」とい
う)においては聴覚障害者への配慮が全然、あるいはほとんどないと感
じてきました。一見すると聴覚障害者は移動に関してはバリアがないよ
うに思われますが、「情報障害者」であることは間違いありません。そ
して法令や「基準」においては情報提供についての言及もあるのですか
ら、「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン」(案)
(以下「ガイドライン(案)」という)において聴覚障害者に対する配
慮が僅少であってよいとは言えないでしょう。
 「ガイドライン(案)」は聴覚障害者について触れるところもありま
すが、それに対するパブリック・コメントが募集されるという機会があ
りましたので、以下のような意見を提出します。記述の順序はおおむね
「ガイドライン(案)」に沿ったものです。
 よろしくご検討ください。

I.旅客施設共通
――――――――――――――――――――
1.移動経路に関するガイドライン(1)公共用通路との出入り口:案
内情報
◇緊急時には、出入り口などにおいても情報提供を行うことがなお望ま
しい。
――――――――――――――――――――
 緊急時の情報提供は交通機関にとって基本的な業務であろうに、◇
「なお望ましい」であることに根本的な疑問を感じる。これが法令や
「基準」に制約によるものであるならば、そこまで遡らなければならな
い問題である。
 緊急時の場合情報の面で一番取り残されるのは言うまでもなく聴覚障
害者である。最近車両には電光表示板をよく見かけるが、駅等の旅客施
設にはあっても車両の行き先・時間等を示すだけのものがほとんどであ
る。車両内のものも含め電光表示板には、常にとまでは言わないが、緊
急時に聴覚障害者用に配慮した(つまり、音声情報で流れている背景情
報を前提としない)情報を流せる態勢を整えるべきである。エレベータ
ーの項に、◇「なお望ましい」ではあるが、「係員に連絡中である旨や
係員が向かっている旨を表示する設備を設ける」という一項を設ける認
識があれば、緊急時の情報についても当然考慮すべきであろう。
 そして以上は当然○「標準的な内容」とするべきである。

――――――――――――――――――――
(4)通路:案内表示
○公共用通路からの出入口付近には、経路案内、旅客案内構内の施設案
内、また緊急案内のための設備を設ける。
――――――――――――――――――――
 これに聴覚障害者への配慮が含まれるべきことは上記の(1)と同様
である。さらに平常時における聴覚障害者への伝達方法も考慮すべきで
ある。一般化して言えば、音声による情報提供を行う設備があれば、必
ずそれに対応した視覚による情報提供を行う設備も設置すべきであると
いうことである。

――――――――――――――――――――
(7)昇降機(エレベーター):外部との連絡
◇聴覚障害者への緊急時の対応も配慮すると、以下のような設備を設け
ることがなお
望ましい。
・かごの内部が確認できるカメラを設ける。
・故障の際に自動的に故障したことが伝わるようにし、かご内にその旨
の表示を行うか、又はかご内に故障を知らせるための非常ボタンを設け
る。
・係員に連絡中である旨や係員が向かっている旨を表示する設備を設け
る。
――――――――――――――――――――
 まず、「聴覚障害者への緊急時の対応も配慮すると」という発想が問
題である。これは「も」ではなく「を」とあるべきであろう。また◇
「なお望ましい」であるのは、やはり理解困難である。内容的には他の
ところに比べても聴覚障害者への配慮がよくうかがわれるものなのであ
るから、「緊急時」ということを考えれば、躊躇なく○「標準的な内
容」とすべきである。少なくともこの部分は、法令や「基準」の解釈に
よって○に格上げすることが可能であると考えられる。

――――――――――――――――――――
2.誘導系設備に関するガイドライン(1)視覚表示設備:考え方
 (前略)聴覚障害者は耳から聞く情報は得られにくい、日本語のわか
らない訪日外国人が多いなど、さまざまな利用者が情報コミュニケーシ
ョン制約を抱えている。
――――――――――――――――――――
 「得られにくい」では音量が大きければいいだろうといった誤った認
識を生みやすい。「得られない」とまでは言いきらずとも、「得られな
いことが多い」「得られないことが少なくない」「得ることが困難であ
る」といった文言が適切である。
 いずれにせよ引用部分のような認識があれば、この「ガイドライン
(案)」を通して、聴覚障害者に対する配慮はもっとあってしかるべき
である。
 これは聴覚障害者に対してのみのことではないが、サイン表示にある
目的地が記されている場合、そこに至るまでの同規格のサイン表示には
常にその目的地が記されているべきであるのに、出没というか、あった
りなかったりすることがままある。これは移動の妨げになることがはな
はだしく、とくに聴覚障害者は気軽に人に聞きただせないので、阻害性
も大となる。

――――――――――――――――――――
2.誘導系設備に関するガイドライン(1)視覚表示設備:可変式情報
表示装置;配置位置
○車両等の運行・運航等の可変式情報表示装置は、視覚情報への依存度
の大きい聴覚障害者を含む多くの利用客が、運行・運航により乗降場が
頻繁に変動する場合に各乗降場へ分流する位置のほか、改札口付近や乗
降場、待合室など、視覚情報を得て行動を判断するのに適当な位置に配
置する。
――――――――――――――――――――
 この認識はおおむね正しい。ただ「可変式情報表示装置」が単数であ
るか複数であるかは疑問の残る点で、この種のものは得てして一ヵ所の
設置でこと足れりとされるものであるから、最後を「適当な位置に適当
な数を配置する。」とすれば明確であろう。

――――――――――――――――――――
3.施設・設備に関するガイドライン(2)乗車券等販売所・待合室・
案内所:聴覚障害者の案内
◇筆談用のメモなどを準備し、聴覚障害者とのコミュニケーションに配
慮することがなお望ましい。
――――――――――――――――――――
 1.(4)通路:案内表示で述べたことがまず肝要であるが、1.
(4)通路:案内表示の内容が○「標準的な内容」であるのに対して、
これは◇「なお望ましい」であるのは理解しがたい。この項目における
ガイドラインが車椅子使用者や視覚障害者に対するものがすべて○「標
準的な内容」であるのに、聴覚障害者に対するそれのみが◇「なお望ま
しい」であるのは如何なる理由によるものであるか知りたいもので、も
しそれが法令や「基準」の制約に寄るものであれば、遡ってそれらに致
命的欠陥があるとせざるをえない。
 手話・筆談に対する抵抗を係員から払拭するのが第一である。少なく
とも要を得た筆談、筆記による質問への回答など、基礎知識として研修
することが望まれるが、一方FAX、携帯メールおよびEメールという
聴覚障害者にも使用可能なメディアを利用できるようにするべきであ
る。健常者と異なり聴覚障害者は手軽に電話による問い合わせができな
いのであるが、ホームページでFAX番号やEメール・アドレスを知っ
て問い合わせようとしても、ほとんどの場合データを得られない。直接
の問い合わせを忌避しているのかと思うと、たとえばJR東日本のホー
ムページで言えば主要駅の問い合わせ用電話番号のリストがある。音声
による直接の問い合せは可能であるということである。
 どうして、ただでさえ少ない聴覚障害者の情報手段がさらに狭められ
ているのか。この辺の改善を是非「ガイドライン(案)」に盛り込んで
いただきたい。「○ファクスおよびEメールのような情報獲得手段を聴
覚障害者に与える。」とでもいうのが適当であろう。
 なお、リアルタイムに近い問い合わせの方法として携帯電話による文
字メールがある。これは筆談よりも、健常者・聴覚障害者にとって抵抗
の少ない方法であると思われる、場合によっては対面で聞くよりも能率
的である。たとえば先に述べたJR東日本の主要駅の問い合せ用電話番
号リストのように、、問い合せ用の携帯の番号ないしアドレスを公表す
る、あるいは聴覚障害者団体に提示する、というような方法も考えられ
るであろう。上記のガイドライン案を「○ファクスおよびEメール、携
帯電話の文字メールのような情報獲得手段を聴覚障害者に与える。」と
してもよい。これでこそITである。

――――――――――――――――――――
3.施設・設備に関するガイドライン(3)券売機
――――――――――――――――――――
 券売機について聴覚障害者に配慮したガイドラインがないのは明らか
な欠落である。「基準」には「券売機を設ける場合には、そのうち1以
上は、高齢者、身体障害者の円滑な利用に適した構造のものとするこ
と」とあるので、聴覚障害者を除外したのは単なる認識不足によると思
われるが、問題とせねばならない。小生がこのパブリックコメントの存
在を知ったのは、実はこの問題について検索した結果である。と言うの
は、券売機にコインを入れて反応がなかったので、呼び出しボタンを押
そうとして気付いたのであるが、駅の職員に反応されてもそれがどうや
って聞えない者にわかるのかということである。
 大規模な駅であったが、見ると券売機の間にところどころスピーカー
らしい穴の開いた個所があり、そこから返事の音声が出て来るのだと思
われたが、これではそもそも応答があったことすら認識するのは困難で
ある。この辺、想像力を働かせていただきたい。
 早急に「ガイドライン(案)」のこの項目に以下のようなものを付加
すべきである。
 …………………
聴覚障害者に支障なく利用させる券売機は以下の構造のものとする。
応答の表示:○呼出し、問い合せ等に対する駅員の応答は可視的なもの
とする。たとえば駅員が顔を出す場所を明らかにする等の表示を組み込
む。
 …………………

――――――――――――――――――――
3.施設・設備に関するガイドライン(4)休憩のための設備・その
他:FAX・モバイル
◇聴覚障害者が外部と連絡がとれるよう、自由に利用できる公衆FAXを
設置することや、携帯電話やPHSなどが利用できる環境とすることがな
お望ましい。
――――――――――――――――――――
 健常者や他の障害者が電話を利用できるのであれば、この項目も○
「標準的な内容」とすべきなのはあまりにも明らかであろう。

II.個別の旅客施設
――――――――――――――――――――
(1)―2 鉄軌道駅のプラットホーム
○到着する駅名を車内で表示する場合を除き、車内から視認できるよう
駅名標の配置感覚に配慮する。
――――――――――――――――――――
 これは聴覚障害者を意識したもののようで、それなりに有効な規定で
ある。東海道新幹線の場合「こだま」には車内表示がない場合がある
が、実際は「こだま」の方が停車駅の数が多く、現に停車している駅の
名を早急に知りたい場合が多い。ところが停車中であってもなかな駅名
標が見つからず、後でそのつもりで他の駅の駅名標を数えると、16両
用のホームでわずか5ヵ所であった。窓から首は出せないので、これで
は不十分である。加えて、駅名標の位置が高いので、ホーム側でない座
席からは見ることが困難である。記憶がはっきりせず、証明する写真も
未発見であるが、以前は山手線などと同様、ホームの柱ごとに駅名があ
ったと思う。デザイン偏重でそれを撤去したとすれば、それは重大な誤
りである。
 また「車内の表示」であるが、混雑時には立っている人に妨げられて
見えない場合もあることに留意せられたい。

――――――――――――――――――――
(2)バスターミナル:運行情報の案内
◇乗り場ごとに、行き先などの運行情報を点字・音声で表示することが
なお望ましい。
――――――――――――――――――――
 「施設」の問題とは言い切れず、車両の問題であろうが、ここで述べ
ておきたい。
 バスの車体広告で、今まで一人歩きができていた知的障害者がとまど
っているという話がある。アナウンスがどの位あるのかはわからない
が、聞こえない私もターミナルで塗り立てたバスを見てとまどいを感じ
る。バスの車体の色等も、利用する上での一つの、健常者に比べると比
重の高い情報であるからである。
 この「ガイドライン(案)」の領分ではないが、「昇降側は少なくと
も前部1/2は、バス会社によって一定の塗装にする」といった歯止め
を掛けて欲しいところである。

(以上)


◆公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドラインに関する意見募集
 〜20010508
 http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrier/guideline01.html


REV: 20160125
アクセス  ◇田中 邦夫  ◇全文掲載
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