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自薦ヘルパー推進協会・マニュアル(抜粋)


last update: 20160122


介助サービス事業の理念

 推進協会では、要介助の障害当事者によるホームヘルプ指定事業所を2003年までに全国で300か所、2010年ごろまでに1000か所作ることを目標にしています。
 ただ、一般のホームヘルプサービス指定事業所と同様のサービス水準の事業所を作るのではありません。私たちが求める水準は以下のようになります。

 どんなに重度な障害でも、地域で普通に暮らすことができるように、どんどん重度な障害者が出てくるたびに、介助サービスと事業所組織を常に改変し対応させて行く事が基本です。またその介助サービスや自立支援はエンパワメント(利用障害者自身が強くなっていくこと)を基本にしています。
 例えば、
・単身の24時間付きっきりで介助の必要な全身性障害者にきちんと介助できる専従介助者による24時間介助サービスと総合的な自立支援を行なえます。そのために必要になる24時間介助制度の行政交渉も行ないます。
・ALSや人工呼吸器利用者など、高度な介助内容が必要な場合にも対応できます。人工呼吸器ユーザーの一人暮しもサポートできます。
・重度知的障害の単身者などにもサービス提供でき自立支援が行なえます。
・重度知的と全身性の重度重複障害者の一人暮しも対応できます。
・精神障害者にも介助サービスと自立支援が行なえます。
・盲ろう者にもサービス提供できます。
・その他、あらゆる障害種別に対応し、家族と同居の場合や一人暮しの両方で、短時間ニーズから長時間ニーズまで対応します。
・意思や介助の指示のきちんと出せる障害者から、障害により指示の的確に出せない障害者や、生育の過程でエンパワメントの機会を奪われたために過渡的に意思や指示が出せない障害者まで、どのような場合でも自立支援を行なうことができ、それに対応する介助サービスが行なえます。

 この水準はすでに東京のCILなどのいくつかでは、ほぼ実現できています。その中には、まだ団体を設立して4年しかたっていないところもあります。全国各地でも同じことができます。事業所を立ち上げた最初から達成できるものではありませんが、これを目標にしない団体は、推進協会からの支援は行ないません。(一般事業者の水準を目指している方は推進協会に参加できません。)
 早急にこの水準に達するために、日々の実践や事業者向け研修を通して、この目標に向かって具体的にどのようなサービスを行なっていくか、どのような運動を行なっていくか、推進協会団体支援部と打合せしながら協力して実行していきます。
 すでに推進協会の加盟団体のいくつかにはノウハウはありますし、それを伝える研修システムは整備しますので、学ぶ意思と、実践する気力と、やる気があれば、組織は伸びていきます。決して楽な仕事ではありませんが、社会運動理念とチャレンジ精神と根気があれば必ず実現できます。
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介助サービスを指揮・監督する役職
 推進協会の加盟事業所は、介助を必要とする障害当事者自身が役員となって事業を運営することが基本です。代表や事務局長などは通常、介助を長時間利用する自立生活者がなります。
 介助を長時間利用する自立生活者である代表や事務局長・事務局次長などはジェネラルマネージャーを兼任し、健常者介助コーディネーターの直属の上司となります。(コーディネーターには健常者がなり介助者側の視点で介助者の意見を聞き、会議にあたりますが、まれに障害者職員がコーディネーターに配置されることもあります)。



 障害者のジェネラルマネージャーと健常者介助コーディネーターは上司と直属の部下の関係でかならず2人セットで介助サービス利用者を担当します。コーディネーターは週1回は担当する障害者の介助に入ります。ジェネラルマネージャーは担当する障害者の個別ILPを行ないます。また日々の相談にのり(夜も電話等で相談にのる)、介助者との関係で悩みやトラブルが発生しそうになったら、あらかじめ本人と話し合い、解決していきます。介助者とのトラブルが発生した場合は、部下のコーディネーターとすぐ相談し、本人とも、介助者とも話し合い、解決します。場合によっては個別プログラムを実施します(例えば、本人の指示がうまく出せない場合などは指示を出す練習の個別プログラムやピアカウンセリングを実施する)。
 週に1回、全てのジェネラルマネージャーとコーディネーターが参加し会議を行ないます。ここで介助サービスに関する方針も決めていきます。会議では、障害者側からの視点や介助者側からの視点で問題を洗い出し、自立生活運動の社会的視点も加味して問題解決の方針が決まります。ジェネラルマネージャーの代表である障害者は各職員の意見を十分聞いた上で、最終的には障害者側の判断で決定します。
 ジェネラルマネージャーやコーディネーターの追加など、人事もここで決まりますし、より重度のサービス対象者に対応した組織改革も検討されます。そのため、予算もここで決めます。事業者の代表者がジェネラルマネージャーでなければならないのはこのためです。ジェネラルマネージャーは自立生活をしている介助制度利用者でなくてはなりません。(この状態になっていない団体は早急にこの状態にもっていく人材育成・登用計画・代表など役職の交代が求められます。これは推進協会と相談のうえ計画が進められます)。

自立支援と介助サービスの関係について

 自立生活を行なっている障害者への支援、施設や親元から一人暮しをする時の自立支援、親元など家族と同居の障害者の将来の自立をめざした時期の自立支援など、さまざまな状況に合わせ、事業所は介助サービスを提供します。(自立支援には当面つながりそうもない家族と同居の重度重複障害者や高齢ALS障害者への派遣などもありますが、この場合は後述します)。
 提供する介助サービスは、障害者個々人に合わせて事業所が考える大まかな自立生活プラン(方針・計画)にのっとって提供されます。プランは常に新しい情報や状況に応じて更新されていきます。プランといっても、毎週変わりうるものですし、短時間の会議で短時間に確認していくものですので書類等には起こしません。ジェネラルマネージャー+コーディネーター会議で口頭で方針確認するだけにとどめます。プライバシーですので外部には漏らしません。
 プランは、事業所の代表である障害者(自らが介助を長時間利用していることが望ましい)とジェネラルマネージャーの障害者(単身の24時間要介助障害者が1人以上入ること)と、健常者コーディネーターで会議し、大まかな方針を決めます。
 介助サービスと個別自立生活プログラムの提供は、個々の利用者に対してワンセットで提供されます。これらはプランの方針に対応して行なわれるもので、介助サービスと個別自立生活プログラムは決してばらばらに行なわれるものであってはなりません。同じ担当者によって両方のサービスは組織的方針の元で行なわれます。
 ほかにも、組織的方針の元で(ジェネラルマネージャー+コーディネーター会議で情報共有した上で)、個別ピアカウンセリング、介助制度の行政交渉、相談、助言・情報提供が行なわれます。すべてのサービスの方針は、利用者自身のエンパワメント(利用者自身が強くなっていく)の視点を基本にします。介助を受けながら自立生活プログラムやピアカウンセリングも活用し、介助を使って社会参加活動に自主的に参加していくことを支援します。将来は、いろいろな障害者(利用者)が、交通問題や医療の問題、権利擁護の問題、労働の問題、発展途上国の障害者問題など、さまざまな社会改善の運動に独自に取り組むなど、新たな社会変革の担い手となることを目指しています。


専従介助者と登録介助者の違い

 専従介助者とは基本的に週3〜5日勤務の常勤で、(まれに週2回程度で)、月給制で毎週固定時間帯に1日8時間(程度)以上の労働形態で介助を担当する介助者・介助職員のことを指します。色々なパターンがあり、短時間要介助者にも介助に入る場合8時間という項目は上記パターンから外れますし、週の半分や4分の1を事務所コーディネーター職員等として働くこともあります。いずれにせよ、この仕事を一生の仕事として、この仕事のみで生計を立てている、または主な生計を立てている介助者のことです。推進協会でいう専従介助者は事務所の障害者役員やコーディネーターの部下として職員配置されます。
 これに対して、住民参加型団体などで主に活動する介助者は学生や主婦などの登録介助者(アルバイト介助者)で、短時間しか介助をせず、多くは1〜2年で仕事を辞めていきます。このような登録介助者の形態は軽度の障害者や高齢者には対応できますが、最重度の障害者には対応できません。
 すべての障害者(単身最重度から軽度まで)に対応するには、重度障害者に対応できない登録介助者は、あくまで半分以下にとどめ、介助提供時間の半分以上は専従介助者で組む必要があります。すべての介助を専従で行なっている事業所(東京にある、最重度に対応できるCIL)もいくつかあります。
 なお、このほかにも、制度が交渉により充実するまでの間、長時間要介助障害者にはボランティア介助者を使う必要が(過渡的に)ある場合もあります。

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当事者事業所の組織図
(メールマガジン版では図表が崩れています)

代表(ジェネラルマネージャー兼任)

事務局長(ジェネラルマネージャー兼任)

ジェネラルマネージャー(要介助の障害者)最初は1人でのちに数人

介助コーディネーター(健常者で介助者兼任)最初は1人でのちに数人

チーフヘルパー(2年ほど経って、この役職を作る)

介助者
介助者
介助者
介助者
介助者
介助者


役職の説明
代表  :介助を毎日利用する障害当事者
事務局長 :介助を毎日利用する障害当事者
ジェネラルマネージャー:介助を毎日利用する障害当事者。介助コーディネーターの直属の上司でコーディネーターと連絡を蜜にする。ピアカウンセリング、自立生活プログラム、個別プログラム、人事管理、行政交渉、自立支援のすべてのノウハウを持つ。(ピアカウンセラーと呼んだりIL担当と呼ぶ団体がある)介助コーディネーター:健常者。介助者としても働きながら、週の半分程度をコーディネーターとして働く職員。ジェネラルマネージャーの直属の部下で、介助利用障害者のことは週1回の「ジェネラルマネージャー・コーディネーター」会議で情報共有するほか、緊急時は常に電話等で情報共有して仕事にあたる。
チーフヘルパー:(2年ほど経って、事業所が大きくなってきたら、この役職を作り、週1会の「ジェネラルマネージャー・コーディネーター」会議に出席させる)

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行政交渉と介助サービスの関係について

 地域(利用者居住市町村)の介助制度が24時間介護保障になっていない場合、すべての障害者に介助サービスを行なうことはできません。早急に介護制度交渉を行ない、24時間の介護制度を作る必要があります。
 推進協会の目的は、全国3300市町村に24時間の介助制度を作ることと、その制度を運用する事業者(の内1つが)が要介助障害当事者によって運営され、どんなに重度の障害者でも、どんな障害種別でも十分な介助サービスを受けられるというシステムを作ることです。
 交渉を積極的に行なわない団体は推進協会のサービスを利用できません。

 新しく、長時間要介助の障害者が一人暮しをする場合など、現状の介護制度の時間数が足りない場合、必ず行政と交渉して解決していかねばなりません。個人の努力や事業者の内部資金での解決は解決方法としては間違いです。これでは世の中が何も変わりません。推進協会加盟事業者は世の中を変革して行く事も大きな目的の一つです。「困ったら市町村に交渉する」ということを心がけてください。(なお、24時間の制度を作るためには実際に最重度の24時間要介助の単身障害者が1人必要です。事務所職員になる24時間要介助障害者を自立させる場合、制度を作る目的で、制度交渉が終わるまでの期間限定で、事業所職員を夜間に雇用し、ボランティアとして24時間要介助の単身障害者に派遣することは、例外として行ないます。)

 また、制度を伸ばし、24時間などの長時間要介助障害者の自立支援を進めていくことで、この仕事で生計を立てていく常勤の専従介助職員がたくさん確保できますので、事業所の人材基盤が安定していきます。知的障害者の通所や親もとの重度全身性障害などから短時間の介助サービス依頼が来た場合にも、介助になれた専従介助者を定期的に安定して毎週派遣することができるようになります(登録介助者では技術水準が未熟で派遣できない。専従介助者の場合は週3回の10時間勤務と週2回の2時間派遣などを組み合わせ可能)。

 ホームヘルプ制度には市町村ごとに週あたりの上限があります。単身等の最重度障害者が市町村と交渉して、この上限を伸ばすことで、比較的短時間介助ニーズの障害者も適切な介助時間の制度を利用できるようになります。
 介護制度の交渉は、小人数で対象者を絞って行なうのが効果的で、地域の自立障害者のうち最も重度の障害者を交渉主体者として、団体はサポーターとして交渉します。事業者のジェネラルマネージャー(代表者など障害者役員)と健常者コーディネーターは、小人数で交渉を行ないます。なお、事業者とは別の交渉団体名(○○市在宅全身性宅障害者の介護保障を考える会など)を使って交渉するのが普通です。
 具体的な交渉方法は別の章で紹介します。
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ピア・カウンセリングと介助サービスの関係

 介助サービスを行なう際に、よく陥りやすい間違いが、「介助サービスだけを行なって行けばいい」というものです。推進協会の加盟事業所が行なう介助サービスが一般事業所と違うのは、利用者自身が力をつけていくというエンパワメントを基本としているところです。基本的には、介助の内容決定や指示は利用者(障害者)自身が行ないます。また、施設暮しが長かった、知的障害がある、などの理由で、今すぐそれが満足に行なえない場合も、事業所は個別ILプログラムや個別ピアカウンセリングを実施して(時には自立後数年〜10年にわたって行うこともある)、自分で指示を出せるように長期的計画でプログラムを立てていきます。
 ピアカウンセリングと介助サービスの関係では、とくに、自分で物事を決める経験が少なかったために、親や施設の職員に対して言いたいことがいえなかったり、自立した後も、自分の意見を言うのになれていない場合があります。これらの相談は、直接相談があるわけではなく、介助利用の中で問題が出てきます。ジェネラルマネージャーは常にピアカウンセリング手法で利用者に対応し、必要に応じ、個別自立生活プログラムや個別ピアカウンセリングで対応します。このため、ピアカウンセリング手法は障害者の事業者代表者をはじめ、介助サービスに関わるジェネラルマネージャーは必ず身に付けておかねばなりません。
 
 ピア・カウンセリングとは障害を持つ者同士(ピア=仲間)がお互いに心の傷を癒す場です。多くの障害者が障害を持っているがゆえにいろいろな精神的抑圧を受けています。そうした精神的抑圧が心の傷となり、自己の障害の受容や介助者との人間関係に影響を与えることがあります。ピア・カウンセリングは心の傷を癒し、その障害者をエンパワーメントし、自立生活への活力を与えるのです。
 ピアカウンセリングについては別項で紹介します。

24時間専従介助体制
 
 24時間介助が必要な障害者というのは、言い換えれば障害が重いということです。この障害が重い人にとって、介助者を入れていく場合、もっとも大事な事は、介助が安定しているかどうかです。特に先天性障害や言語障害などのある24時間要介助障害者には、安定した長時間介助に入る介助者が必要になってきます。
 例えば24時間要介助でも頚損などの中途障害の場合、十分な個別自立生活プログラムさえ受ければ、普通、新しい介助者がきてもすぐに指示が出せるようになりなす。この障害者が障害者団体事務所などで仕事を持っていても、朝、新しい介助者がきても、(その日だけ食事を簡単にするなどすれば)、職場に遅れずに出勤できるでしょう。ところが同じ24時間要介助でも、言語障害や、指示を出すのが時間のかかる障害の場合、また、非常に複雑な介助が必要な場合で、介助者がすぐになれない場合、同じ様に新しい介助者が突然やってきても職場に時間までには出勤できません。同じ方法では最重度障害者は社会参加ができないということになります。また、医療的知識や高度な介助内容が必要な障害者もいます。これらの最重度障害者に対応できる事業所を作るには、24時間専従(常勤)態勢での介助者体制は不可欠です。
 専従介助者は、あとから自立してきた障害者よりキャリヤが長くなることが多いので、1対1の介助現場で、障害者より強い立場にならないように、事業所の努力が必要です。具体的には障害者ジェネラルマネージャーとその部下の健常者介助コーディネーターの部下として位置付け、指示命令系統をはっきりさせます。その上で、当事者主体の理念や、トラブル対応を綿密に行なう必要があります。事業所はトラブル対応時にも理念を教え、よりよい方向へと導きます。色々な問題もジェネラルマネージャーや介助コーディネーターに相談するように教育します。(もちろんこれら一連の行為は利用者主体の理念の枠内で行なわれます)。
 事業者は、アルバイト介助者と専従(常勤)介助者を組み合わせるのが普通です。アルバイト介助者だけでは最重度に対応できません。逆に専従介助者のみの事業所では軽度障害者への短時間派遣も最重度対応も行なっている事業所があります。
 介助の安定は、決まった介助者(人の問題)が、できるだけ長い期間続けてはいる事(時間の問題)によって確保されます。すなわち、介助者がいかに責任を持って介助に当たるかと言う事になりますが、これには、介助がボランティアでは無く、仕事として安定している事、また、様々な場合のフォローの体制ができている事が重要な要素になります。
 
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介助を仕事として位置付ける
 介助が介助者にとって、自分の生活を支える仕事として成り立つためには、まずは生活をしていくのに必要な給料があることです。どのようにして生活保障をしていくかというと、仮に、ヘルパーの時給単価が1400円で24時間ヘルパーを入れるとすると、1日あたり33600円(1400円×24時間)の介助料があることになります。年間で12,264,000円です。単純に考えると,約4〜6人の生活が成り立つわけです。24時間介助を必要とする障害者が何人かいれば,介助者を共有する事ができ,一人に負担がかからないようにローテーションを組んでいく事ができます。
 以上のことを基本に考えて、実際に介助者を専従化して介助の安定を図っている例をあげてみます。

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障害者Aさんの場合(24時間介助保障の地域の場合)

全体の介助料(注)
     生活保護他人介護料大臣承認     185,600円(月額)
 自薦のホームヘルプ事業(1日12時間)      1,330円(時給)
 全身性障害者介護人派遣事業(1日8時間)      1,420円(時給)
年額   12,199,000円
月額    1,016,583円

注:生活保護他人介護料は障害者の介助者を雇うためのお金が障害者に出る制度で、歴史が古く、介護料(介助料)という呼び方(障害者団体間で使われる呼び方)はここからきています。ホームヘルプ事業や全身性障害者介護人派遣事業などの介助制度は直接現金が団体や障害者に出るものではなく、介助者に振込まれる制度です。介助者の給与計算を、事実上の雇用主である障害者が行なう場合、これら3制度は仮想的に金額に直し考え、それぞれの介助者の給与を不平等にならないように調整するため、これらの3制度(ガイドヘルパーを使える場合は4制度)の介助者への支払い総額を合わせ、「介助料」と表現することがあります。責任を持って介助者を雇用する障害者はすべての介助制度の仕組みや単価を完全に把握しなくてはなりません。

 上記の金額表を基に計算すると、ある介助者が毎週月曜に(24時間勤務)で1ヶ月介助に入ると、給与は(3制度から合計)月額145,336円(月額1,016,583円÷7)受けることになります。Aさんの場合には1日の介助を朝9時から夜7時までと夜7時から朝9時までの2交代制にしています。さらに、介助者から、病気で休んだときや、交通費、食費などの事も考えてほしいということで介助料からその分を経理公開されている介護料口座で積み立てて、介助者の保障に使っています。このような事情から、実際には昼の介助に入る介助者には月額62,000円、夜の介助者には月額65,000円をの給与になるように調整しています。(このときの1週間に1回特定の曜日の同じ時間帯に介助に入る体制を1枠というふうにいいます)。
 Aさんの場合、1週間に延べ14人の介助者が関わる事になりますが(1日2交代で週7日)、実際には11人の介助者がローテーションを組んでいます。週に2回来る介助者が10人のうち3人いるという事です。介助者は他の曜日は、同じ団体のほかの障害者の介助に入っています。

介助者Bさんの場合
 Bさん(男性介助者25歳)は自立生活センターに所属して、4人の障害者の介助に4枠(週4枠)入っています。介助料は障害者の住んでいる市によって多少の違いがあるので、まちまちですが、週4回勤務(月曜昼、火曜夜、金曜昼、土曜夜で、昼は10時間、夜は14時間勤務)の介助料が、全体で月額25万4000円になります。
 一人暮らしのBさんはこの介助の仕事のみで生活をしています。年に1回ほど風邪で介助を休んでも、1枠につき年2回までの病休補償があるので、少しは安心です。また、臨時で介助に入る事もあり、自立生活センターのコーディネーターを通し、介助者同士でフォローしあう体制ができています。
 同僚の介助者には結婚して子供がいる男性も何人かいます。Bさんは以前は飲食関係のサービス業に勤めていましたが、労働条件の問題もあり、介助の仕事に転職してきました。今の仕事に将来性があると考えており、長くこの仕事をしていきたいと考えています。


 このように、介助の体制を充分に介助者が生活できるものにする事で、頻繁に介助者がやめる事もなく、ローテーションも安定しています。また、介助上の様々なトラブルや、介助の方法、相談なども、自立生活センターでフォローしながら、当事者同士で解決していきますので、当事者主体の介助が保障される事にもなっています。

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介助派遣を始める前の個別プログラム

介助派遣の依頼を受け、面談が終わり、介助者を実際に派遣する前にこのプログラムを行います。受講者は親元や家族と暮らしている障害者、施設入所者等です。障害種別や個人の障害にあったやり方でプログラムを進めていきます。ジェネラルマネジャーは、基本的に10人の依頼があれば、10人に対して一人一人違った「個別の」プログラムを考え、行うとよいでしょう。障害者の情報、知識、経験不足

ここで、1例に過ぎませんが、下記の例を挙げてみました。
〈実例〉Sさん 年齢:28歳 性別:女性 障害:脳性麻痺、少々視覚にも障害がある
家族:父、母、兄、本人、弟
略歴:養護学校高等部を卒業後リハビリセンターに入所。25歳のときに実家に帰る。以後作業所に通所。
性格:おとなしく、人見知りをする。人への心配りがある。母親は礼儀に厳しく「こんにちは」「有難うございました。」などきちんと挨拶をする。そのため人に対して遠慮がちに話をする。気を使う。物事に対して慎重に考え結論が出るまで時間がかかる。聞かれたことに答えられないとパニックになり黙ってしまう。
依頼内容:週1回、作業所の休日時の外出介助依頼。


注1:Sさんは親元で暮らした経験が長く、周りの人達に気を遣い遠慮するのでなかなか自分の考えを言えず、自分にとって難しい話をしたり答えなれない質問したりするとパニックになるという特徴がありました。個別ILでは、障害者としての権利を伝えていくことによって、自分のやってほしい事を少しずつ介助者に言えるようにしました。そして介助者との関係を伝える事によって、介助者の使い方、気をつけることなどを理解してもらい、少しでも介助者との信頼関係を築いていけるようにプログラムを行いました。

注2:ジェネラルマネージャーは、介助派遣開始後も担当者としてトラブル対応などのサポートを行わなければなりません。本人との関係を深め、信頼関係を築くことが大切です。
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1.障害者としての権利 〜当然の権利〜

(1)自分のやりたいことをはっきり言って、それを一番にする権利。
 (今までは、親や施設職員の顔色を見て、自分のやりたいことを言えず引っ
込めてしまう。)
例えば親や職員が忙しく働いていると、自分がテレビを見たり、音楽を聴きたいと言っても、「待ってて」「また後でね」と言われ、後まわしにされます。やって欲しい事の中身が特に重要なことではない限り、あとにあとにまわされ、悪いときにはそのまま忘れられてしまうこともあります。自ずと、頼むタイミングや親や施設職員の顔色を見ながら、お願いをするようになります。親も施設職員も色々な仕事や役割があるので、障害者の権利を満たしていくのは難しいといえます。しかし、介助が必要な障害者が、自分のやりたい事をはっきり言うことは、決して悪いことではなく、人として生きていく上で当然のことです。

(2)自分のやりたいことを人を使って実行し、それを自分のしたいことにする権利
 (今までは、迷惑をかけてはいけないと思い、人に頼めない。)
例えば(1)でも述べたように、一般社会では人に迷惑をかけてはいけないという考え方があります。しかし、障害者は自分のやりたいことを人に伝え、やってもらうことで自分のやりたいことが出きる現状があります。障害が重度であればあるほど人にお願いすることが多くなりますが、人にお願いをすることは、迷惑をかけることとはまったく別の問題です。

(3)能力のある、平等な人間として、尊重される権利。
 (今までは、障害があると、自分の能力が低いものと思ってしまう。)
例えば、障害があるがゆえに仕事についていないと、まるで生産性が低い人間として扱われてしまうことがあります。その人の障害と人間の価値は関係ありません。

(4)危険を侵す権利
 (今までは、親や介助者に付き添われ、守られていた。)
例えば、酒を飲んで酔っぱらったり、夜遊びをすることです。

(5)間違える権利
 (今までは、間違えることは、馬鹿なことだと思ってしまって、だから自分は能力がないと思ってしまう。)
行動し、その結果失敗したり、間違えをおかすことは誰しもあり得ることです。能力のあるなしとは関係ないことです。

(6)自分だけの考えを持つ権利
 (今までは、親や周りの人に言われるままになっていた。賛成してもらえないと自分の考えがおかしいと思ってしまう。)
人間はすべて別々の人間なのですから、ひとりひとりの考え方が違うのは、当然のことです。

(7)思うとおりに「はい」「いいえ」を言う権利
 (今までは、人に気を使って自分の気持ちが言えない。)
例えば、人に嫌われたくないので、相手に合わせてしまう。介助者との関係においては指示する時のことを考えて、指示したことをやってもらえないことを恐れて、自分の気持ちを押さえてしまうことがあります。

(8)気持ちを変える権利
 (今までは、一度言ったことを取り消すと、何か言われると思い、取り消すことができない。)

(9)「わかりません」「できません」と言う権利
 (今までは、「わからない」「できない」と言うのは、能力がないことを言ってしまうことだと思ってしまう。)

(10)楽にする権利。体を気持ち良くする権利。
 (今までは、疲れることやしんどいことでも、頑張らなくてはと無理をしてしまう。)
社会で認められたいために、努力を求められると、自分の力以上のことをし、つい無理をしてしまいます。


2.介助者との関係性

(1)生活の主体
 生活の主体は障害者本人であり、介助者はその生活をサポートする人です。

(2)雇用主としての立場
 障害者は介助者に対して雇用主であり、介助者を雇用している立場だということを確認します。ボランティアとは違い、金銭が介在する雇用関係であり、介助者は介助を仕事として務める立場にあります。

(3)指示することが介助の始まり
障害者が介助者にものごとを頼むことを、CILでは指示とよんでいます。介助者は障害者の指示にしたがって仕事をするのです。介助者の仕事の内容は始めから決まっているのではなく、その場での障害者の指示によって決まるのです。指示することが介助の始まりと言えます。

(4)指示の出し方
 求める介助の仕方は、一人一人の障害者によって違うので、介助者には自分のやり方を尊重してもらいます。介助者は障害者の指示に従うので、きちんと何をしてもらいたいのかを伝えてください。買い物を頼むときは、どんなものを買ってきてもらいたいか具体的に指示を出します。例えばパンを買ってきてもらう場合、次のように指示を出します。「パンを買ってきてください。ソーセージのパンが欲しいんだけど、それが無ければサンドイッチ、それもなければジャムパンでもクリームパンでもいいです。150円ぐらいのもので一個だけ買ってきてください」という感じです。介助者の仕事は指示をする障害者の責任で行われます。

(5)介助関係
 介助関係において、もっとも大切なのは人間関係の構築です。金銭が媒介する関係だからこそ、介助者とはきちんと人間関係をとった上で仕事をしてもらうことが必要です。人間関係といっても、介助者にボランティア精神を求めてはいけません。また友達のように扱うことも望ましくありません。利用者と介助者という立場(雇用主と従業員の立場)の上に、人と人の信頼関係を築いていくことが大切です。

(6)金銭管理
 金銭管理は自立生活の中で欠かせないものです。自分でお金の出し入れができない障害者は、家計簿を用意して、介助者に記入(領収書・レシートを利用する)するように指示を出します。

(7)出勤管理
雇用主として、介助者の出勤状況を把握することも必要です。出勤ノートを用意して、仕事に入った時間と出る時間を記入してもらうようにします。

(8)介助者の職場環境
 雇用主として介助者の職場環境を整えるというのは当然のことです。
〈リフト〉介助者の腰痛防止のためのリフトを利用するということも考えなければなりません。最初は、機械で自分の身体を移動するわけですから、重い荷物を運ぶように感じたり、物あつかいされるように感じるかもしれません。しかしリフトを使わない場合を考えれば、毎日の事ですから介助者の身体に負担がかかるのは間違いありません。介助者が腰痛になれば、代わりの介助者を探さなければなりません。新たな人の確保が必要になります。介助体制も整わず、その結果自分の生活も不安定になります。確かに介助者が直接障害者の身体を移動する方が、手っ取り早くすみます。しかし、介助者を守る事で自分の生活も安定し、守られるわけです。自分の生活の中でリフトを導入していくことも考えましょう。
〈休憩時間〉長時間介助者を入れている障害者は、仕事の合間合間を見つけ、休憩時間をとりましょう。昼食、3時の休憩など働きぱなしにならないように介助者の体調や疲れ具合を見ながら休憩時間をとるようにしましょう。少しの心遣いが介助者の精神的な面を安心させ、仕事の効率も上がります。

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(求人〜採用はメールマガジンでは略)
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(メールマガジンでは中略)

マニュアルの紹介はこれで終わりです。
この続きは来月号以降で順次掲載します

推進協会マニュアルの一部を紹介します(その2)

推進協会 団体支援部・サービス支援部
フリーダイヤル 0120−66−0009
fax0424−67−8102

施設や親元からの自立支援


自立支援の理念と方法

 人は誰でも成人すると社会に参加し、独立し、責任を負い、成長し、自分の考えでどんな仕事をし、どんな生活をするかを決めるのが普通です。日本の最重度障害者は長らく、親元で児童と同じような待遇を受けたり、入所施設での刑務所のような暮らしを強いられてきました。これは、在宅の介護制度が24時間保障になっていない状況の中で、仕方のないこととされてきました。しかし、最重度障害者の自立生活を支援し、施設や親元で暮らさなければならない状態は、当たり前の人権が守られていない異常な状況です。
 海外では在宅介護制度の充実とともに入所施設の全廃を決めた国やほぼ全廃した国もあります。
 普通の生活とは、当たり前に地域で生活し、自分のアパートを借り、自分の選んだ社会活動をすることです。その際、介助が必要な障害者の場合は、介助の必要な時間帯に介助者を使い自分の生活を行動するだけのことです。

 推進協会の加盟事業所では、どんな重度な障害者が自立をしたいと相談をしてきても、介護制度の交渉を行なうことで、対応した長時間の介護制度を作っていき、自立の支援を行ないます。早急に24時間の要介助障害者の自立支援を行ない、介助制度を24時間保障に伸ばします。その後は近隣市でも同様に自立支援を行ない、24時間介助保障の市町村を増やします。
 待っているだけではなく、積極的に、講座形式の多人数で行なう自立生活プログラムやイベントを通して施設や地域の障害者に参加を呼びかけ、自立生活の方法を伝えていきます。地域の障害者は、最初はモデルになる人を見たことがありませんから、東京などから24時間の介助制度を使っている単身障害者を講師に迎えて講演会や、セミナーを開催して身近に経験してもらいます。イベントの案内は施設や作業所、親の会や福祉センターなどに配布してもらいます。最初は自立をしたいという方は全く出てきませんから、楽しめる内容を多くしておき、参加者と関係をつくり、次回のより高度な自立生活プログラムに誘うようにします。自立に少しでも興味のある障害者が参加したら、1年から3年ほど受講してもらい、自立の意思が決まったら、具体的自立支援作業に進みます。

 入所施設や親元からの自立を支援することは、施設や親の代わり(管理者)をすることではありません。どんなに重度の障害者の自立支援を行なう時も、個々人に応じた計画で、エンパワメントの視点からサービス提供を行ないます。
 推進協会では、将来、全国で24時間介護保障を実現した後に、入所施設全廃を目指しています。そのときには全国の当事者事業所が自立支援活動の担い手になります。
 

自立前のグループ自立生活プログラム講座
 施設や親元からの自立支援の最初のステップは、当事者事業所が定期的に行う、ピアカウンセリング講座や自立生活プログラム講座です。
 推進協会の目的の一つに、全国の市町村で24時間の介助制度交渉をして24時間の滞在型介助制度を作るということがあります。そのために推進協会加盟事業所では24時間要介助の単身の全身性障害者を最低1名自立支援し、交渉を支援しなくてはなりません。
 といってもその地域の24時間要介助の全身性障害者と事業者が全くつながりがない場合、事業所はまず、参加しやすい内容の講演会や、もようしもの、自立生活プログラム講座等を施設や親の会、父母の会、作業所などに積極的に広告してつながりを作っていかねばなりません。また信用してもらうために、それらの親の会の集まりや作業所のあるまりにも顔を出すようにします。
 自立生活プログラム講座や講演会では、東京や四国からロールモデルになる講師を呼びます。(ここで言うロールモデルとは、24時間要介助で公的な介助制度を使って1人暮ししている全身性障害者など)。自分たちが自立生活できないと思っている中で、将来の生活のモデルになる講師を直接見て、話を聞き、肌で感じることで、自分たちも自立生活できるかもしれないという考えが芽生えてきます。
 そして、自立生活プログラムに何度も参加して行けば実現できるかもしれないと思うと、参加したいと思う24時間要介助の障害者も(24時間でなくとも、それなりに長時間要介助の障害者も)出てきます。
 
 ピアカウンセリングについては別項で説明していますので、ここでは介助サービスに向けた自立生活プログラム講座について説明します。

 なお、ピアカウンセリングや自立生活プログラム講座は、基礎的なものでしたら全国各地の障害当事者団体で実施されていますので、推進協会の研修会以外にも、必ずそれらの講座も勉強のために受講していってください。


講座形式の自立生活プログラム(週1回で10回程度実施)

 自立生活全般に関する事柄を学ぶ講座です。施設や親元にいる障害者は社会的な経験や知識に乏しいために、自立に対する障壁が多いのは事実です。その経験と知識を得る場として自立生活プログラム(以下ILP)があります。CIL以前は個人レベルでの知識の伝え合いで自立への道を開いていましたが、現在ではプログラムとして実施されています。プログラムとして行われていますが、あくまでも先輩の障害者が後輩の障害者に対して伝えるという本質的な部分は同じです。
 内容としては次のような物があります。障害の受容、制度の利用方法、親との関係、介助者との関係のつくりかた、アパートの借りかた、金銭管理、健康管理などです。講座形式のものと実践形式のものがあります。実践形式とは実際に介助者を使う体験をするもので、調理実習や交通機関を利用するフィールドトリップがあります。
 また、プログラムの形式にも種類があります。講座形式のプログラムには期間に応じて長期、短期、単発の3種類があります。ほかに、個別の相談形式のプログラム、自立生活を実際に体験する宿泊体験プログラムが行われています。
 では、ここでILPを行うまでに、CIL小平がどのような過程をたどるのかを説明します。

ILPの準備(略)
 次に、実際にCIL小平で2000年5月〜7月まで行われた『長期自立生活プログラム』について簡略ではありますが、説明します。
第6期長期自立生活プログラム

第1回  自己紹介・目標設定
第2回  障害って何?
第3回  介助者との関係
第4回 自立生活って何?−part−1
第5回  調理実習
第6回  自立生活って何?−part−2
第7回  フィールドトリップ
第8回  フリートーク
第9回  家族との関係
第10回 反省・感想・打ち上げ

以上10回が、週1回4時間程度で行われました(調理実習とフィールドトリップは除く)。

?ILPは、リーダー(1人)、サブリーダー(2人以上)で行います。リーダーは、司会進行が主です。サブは、リーダーの補佐が主です。
?ILPには、いくつかの決まり事があります(別項、『受講生のみなさんへ』参照)。

(略)

まとめ
以上が、実際に行ったILPですが、あくまでもこれはきっかけであって、これを受けたからといって即自立というわけではありません。受講生の一人でも多くの者が『私でも、自立が出来るかな…』と思ってもらえれば、それは大きな効果といえます。
 自立生活プログラムは当事者事業所の最も重要な事業です。なぜなら障害者が自立のことにかんして主体的にかかわることなしに自立は実現できないからです。受講生とリーダーがともに障害者であることがこれまでの福祉サービスにはない利点です。
 自立生活プログラムは自立するまでの限定的なものではなく自立後にも行われます。個人の生活スタイルや段階によって必要なサポートをします。

自立希望後の個別ILP

 グループILPを終了した人(※1)や、何度も受講して自身のついた人が、講座の最中や、事務所職員へ電話をかけてきて、「自立をしたい」との決意を伝えるときがやってきます。自立生活プログラムを実施していて、苦労が報われる一瞬です。
 しかし、事業所の仕事はこれからです。自立を希望した障害者には、ジェネラルマネージャーの担当がつき、個別プログラムを用意します。
  以下、自立を希望したときに行う個別ILPについて説明します。

※1 人によっては、金銭的な面で介助者を雇ってILPに参加する事が困難ということ、受講料を払うのが困難ということ、また、早急に自立をしなければという理由などで、グループILPを受けられない場合があります。ILリーダーは、そのへんを考慮し、臨機応変に対処します。

・家族説得
 自立をするにあたっての難関の一つに、家族説得があります。親、兄弟、親戚と、人により、説得する相手は異なりますが、たいていの家族が心配事に上げる点は、次の通りです。

1.生活費
 自立を提案したときに、『働けないのに、食べていけるの?生活費は、どうするつもりなの?』などと聞かれることが多いです。そのような場合は、グループILPの中の制度学習を参考にし、資料などを見せ、家族の疑問を一つ一つ解消します。また、説得に望む前に、ILリーダーとロールプレイをし、あらかじめ練習をすると良いでしょう。それにより、どのようにして説得すれば良いのか、どこに説得力が無いのか、注意点など色々とアドバイスが出来ます。そして何よりも、本人の自信に繋がります。

2.介助者の確保
 これも、制度学習内で学んだ介助制度を、参考に説明します。

3.社会経験、知識
 これは、人によって色々ですが、お金の管理、栄養面、健康面、そして何よりも社会経験の乏しさについて考えさせられる場合もあります。社会経験やお金の管理等に関しては、ILセンター側がサポートしてくると説明します。
 また、こちらもあらかじめロールプレイをし、練習をします。 人によっては、いくら頑張っても本人だけでは説得しきれない場合があります。そのような場合本人の希望であれば、家族と本人に事務所に来て貰い、ジェネラルマネージャーと、コーディネーターが本人が説明しきれなかった部分を説明します。しかし、最終的には本人と、家族のことなので、よく話し合うようにさせます。ILセンター側が、家族を説得することは基本的にありません。

・介助者との関係
 ここでは、介助者とは何か、介助者の必要性、雇用主としての責任、雇用主の立場などを話します。

1.介助者とは何か

?.介助者とは、自分(雇用主)が出来ないことを、お金を払ってやって貰う人のことです。
?.介助者が、家族やボランティアや施設職員と違うところは、自らが雇用主となり仕事をやって貰うと言うことです。すなわち自分が、社長になるのと同じです。これにより、家族や施設職員にいつも後回しにされていたことが、すぐに出来るようになります。また、遠慮も、ご機嫌取りも無用です。また、ボランティアと違うところは、立場が上になるということもそうですが、ドタキャンの心配がいりません。それは、契約して仕事としてきて貰うのですから当然です。

2.介助者への配慮

?.私たち(特に重度の障害者)の生活は介助者がいなければ成り立ちません。ですから、介助者は、大事にしましょう。決して、お金を払うからと言って、奴隷やロボットのように働かせるのではなく、一人の人として介助者の体のことも考慮しながら(休憩を入れるなど)指示を出させます。また、食事を取る時間も確保させます。例えば、小さな工場の社長さんは従業員の体を気遣い、人間関係も気遣い、仕事がしやすいようにいつも考えているものです。職場(自分の家)を清潔にする、休憩用の場所や椅子を確保するなど、職場環境を良くするのも雇用主の責任です。

3.雇用主としての責任

?.雇用主になるということは、いわゆる社長になることです。しかし社長だからと言って、気に入らない介助者をすぐに辞めさせるというわけではありません。介助者には介助者の生活があるわけですし、雇用主には雇った義務があります。そのような場合には、よく話し合い、お互いを理解するようにします(別項自立後一年間の個別プログラム参照)。また、気に入らないことがあれば、ためずにすぐその場で言って解決するようにしましょう。それは、ためるとますますお互いの関係が悪くなり最後に「やめたい」「やめさせたい」という事でお互いにやり直しが出来なくなります。

?.雇用主の家は、介助者にとって職場です。介助者に気持ちよく仕事をして貰うためには、衛生面(介助者用寝具の洗濯、掃除…etc.)や、指示を出すときの言葉遣い(冷たい過度の命令口調にならないように等)、介助リフトの必要性(腰痛防止、体力の維持等)などには注意させます。

4.雇用主としての立場

?.介助者との関係に置いて、仲が良いことは良いことなのですが、あくまでも自分が雇用主であることは忘れないでください。仲が良くなりすぎると、遠慮などが出てきて、物事を頼み難くなります。ですから、自分の位置だけは、きちっと理解した上で、介助者と付き合うようにさせます。

?.介助者は、一生自分の介助をやってくれるわけではありません。介助者によって、向き不向きなことはありますが、特定の介助者がいなければ自分の生活が成り立たない状況は、なるべくしないようにさせます。

5.その他、指示だし、確認、時間、臨時、休みについて
別項介助者との関係〜雇用主として〜を参照。

自立希望者が出た。そのとき事業所では・・・

1.担当コーディネーター(チーフヘルパー)を決める
自立の意志が確認されたら、担当の介助コーディネーター(チーフヘルパー)を決めます。介助コーディネーターは、出来れば同性が好ましいのですが、事務局の人員体制によっては異性になる場合もあります。チーフヘルパーは、実際介助にも入りますから同性が原則です。
自立をするまでの間で、本人からの介助依頼があれば、コーディネーターかチーフかどちらかが一度入っておきます。実際に介助することで、後の介助派遣で必要な介助時間、介助内容、またどんな介助者を入れたら良いか、などをある程度把握することが出来ます。

2.住む地域を決める
自立する本人とジェネラルマネジャーが話し合い、自立する場所を決めます。本人が自立後に就職や作業所への通所、通院等の予定があれば、そのアクセスにも考慮して場所を考える必要があります。ただ、障害者が自立すると、自立した先の行政に大きな財政負担が生じるのは事実ですから、行政の財政状況によって、24時間派遣の障害者を受け入れられるか否か、短時間派遣の障害者なら可能か、といったことを事務局で検討する必要があります。介護補償が整っていない地域であって、いずれ交渉を行うのであっても、状況によっては本人の希望する場所で自立出来ない場合もあります。
そういった事情も含めて説明し、本人と話し合っていくことが必要です。

介助者を使ってみる

 介助者を入れて外出する機会を作ると、個別ILPでの「介助関係」を実践の場で学ぶことが出来ます。また、事業所にとっては、介助内容や自立後必要になる介助時間をあらかじめ把握することが出来ます。どのくらい介助者を入れるかは、本人と話し合い、無理のないペースから始めます。

1. 介助者を選ぶ際のポイント
 事業所が介助サービスを始める前に、自立後のことを考え、どの介助者を入れるか充分検討します。担当になる介助コーディネーター(チーフヘルパー)の他に、自立後の介助のローテーションであらかじめ入ることが決まっている介助者がいれば、その介助者も含めて介助サービスを行います。自立生活がはじまった時に、慣れた介助者が何名かいるほうが、自立した時の障害者の精神的・身体的負担や疲労を軽減できるというメリットもあります。
  
2.いつ介助者をいれるか?
 介助者を入れる場面としては、?講座の(週1回の)ILP等で事業所に来るとき、?定期的な通院、作業所への通所、?その他の外出、等があります。
 例えば、週に4日、作業所に通所している人であれば、行き帰りの送迎(または家族が付き添って通っている等)を、週4日のうちの1日だけ介助者を入れてみます。慣れて来て、また本人の希望があれば徐々に回数を増やして行きます。

3.事前研修を行う
 介助(コミュニケーションなど)の難しい人の場合、本人と相談の上、介助サービスを始める前に介助コーディネーター(チーフヘルパー)が研修を受けておきます。そうすることで、後で入るそれ以外の介助者に、事前に介助の方法をあらかじめ伝えておくことができます。

4.介助サービス開始以後
 障害者が、介助者を入れることを何回か経験した後、事業所では今後とるべき対応を検討します。障害者に対しては、個別プログラムを組み、介助者を入れてみてどうだったか?、まず感想をきいてみます。それからの、以下の点ついて自己評価してもらいます。
・ 指示がきちんと出せているか
・ 金銭管理、時間の認識はどうか
・ 介助者との関係はどうか
 等です。本人の認識に加え、介助に入った介助者からも情報を得ます。これは、本人は「良くできた」と言っていても、実際には介助者がとまどう場面があったり、指示がうまく出せていなかったりする場合もあるからです。それによって、本人へあらたに課題が示される場合もありますし、自立生活の中で事業所がフォローしていくことがあれば、それが具体的にわかってきます。

宿泊体験

 長期I.Lや短期I.Lをうけ自立がほぼ決まった障害者や、自立を前提とはしないが介助者をいれて生活をしてみたいという障害者などは、当事者事業所の自立生活体験室(民間賃貸アパート)で、2泊3日か3泊4日の宿泊体験をします。宿泊体験の内容は、それぞれの状況によって変わってきますが(別項参照)、この宿泊体験では、実際に介助者を入れて生活をしてみる事から始まります。このときセンターとしては、障害者と介助者双方に対して体験すべき課題を設けていきます。

障害者に対して
 障害者の状況に応じて、テーマを設ける事もありますが、基本的には1回は食事を作る(メニューを考える、買い物をする、指示を出すなどを含めて)、風呂に入る、掃除をするという項目を必ず入れています。
 ほかに、外出をすることを課題にしたり、体験期間中にI.Lプログラムを組む事もあります。施設などで日常的に外出が思うようにできない場合などは、この体験期間に個別プログラムを組む事もあります。

 実際に自立生活を体験する上で、問題になるのが、介助者に自分の生活ややってもらいたい事をどう伝えるかです。これには
1 指示を出すのになれていない
2 指示を出す以前の問題として、何をどうしていいかわからない。(メニューが思い浮かばない、掃除のやり方がわからない、目的地までの道がわからない等)
3 コミュニケーションをどう取ったら良いのか分からない
といった事があり、うまく伝えられないまま過ごしてしまう事もあるようです。こういった場合も障害者、介助者双方に、「トラブルがあって当たり前、大切な事は、どう解決するかである」ということをわかってもらった上で、うまく自分の気持ちを伝えるようにしていく事が肝心です。

介助者に対して
 この時、理想的には、自立したときに実際に介助に入る介助者がある程度決まっていて、その介助者には、宿泊体験期間中に介助に入ってもらうようにするのがいいと思います。また、障害者は、長時間介助者を自分で使うのははじめてという場合が多いので、介助者は介助になれた人を選んでいきます。
 介助者には次のような事を、あらかじめ伝えておきます。
1 指示を待つのが基本であるが、指示を出す事になれていない事もあるので、その時には指示が出しやすい状況を介助者の側が作る事もある。(メニューを考えるなら、例えば本を見て決める、自分はこういうものなら作れるがどうか等、いくつかの事例をあげて考えるようにする)
2 ただ単に指示を待っているのではなく、相手が何を求めているのか、何をしようとしているのか等、常に相手のことを考えながら過ごす。
3 言語障害などがあって、言葉がわかりにくくても、わかるまで聞いてきちんと対応する。

 3〜4日の短い期間ですが、障害者に対するのと同じく「トラブルは恐れず、どう解決するかを考えるのが大事である」ときちんと伝えます。

コーディネーターは
 介助者を入れて自分の力で生活するのは初めてという障害者が多いので、コーディネーターはなるべく其々の介助者が入る初日に一緒に行って、基本的な介助のやり方、特に注意する事など話しあいます。介助のやり方については、障害者自身が自分の介助方法についてうまく説明できない事もありますので、コーディネーターの技術と工夫で当事者に聞きながら一番いい形を探っていきます。
 これから自立しようとする障害者にとって、この自立生活体験はとても大きな不安と期待があるものです。このときにコーディネーターとしてきちんと関わって信頼関係を作る事はその後の自立生活にとても大きな影響をもつ事になります。

介助のローテーション
 障害者がどの程度の介助を必要とするのかI.L担当者、当事者と話しますが、実際にある問題として、当事者が介助の必要度を把握していないことがあります。夜中、自力で寝返りができるか、できない場合その回数はどのくらいか、トイレに行くか、昼間は自力で着替えができるか、洗濯ができるか、移動ができるか、介助者はどのくらいいたら良いのかなど話し合って、時間を決めていきます。
 24時間介助が必要な場合、あまり細かく時間を区切らず、1日2〜3交代ぐらいで計画をたてます。そして介助者の人数があまり多すぎないように配慮していきます。毎回違う人がくると、同じ事を何度も言わなくてはならず、それだけで疲れてしまいます。

  1日2交代の場合
9時〜19時 昼の介助者
 19時〜泊まり介助〜翌9時

 以上のような事を考えながら、障害者は悪戦苦闘して宿泊体験を経験します。短い期間ですが、障害者、介助者其々によい事悪い事を含め貴重な体験をするはずです。最後に反省や、感想を聞いてその後の自立に役立っていくようにできれば大成功です。

3泊4日 宿泊体験
日程
内容
IL担当
介助者
11/25(月)
・ 11:00
オリエンテーション、目標設定
・ 13:00〜15:00
介助者との関係、雇用主としての立場
・ 15:00〜
買い物、夕食作り
川元

CIL代表

11/26(火)
・ 起床後
朝食、洗濯、掃除
・ 13:00〜17:00
生活保護の受け方、制度学習
・ 17:00〜
夕食(外食可)
・夕食後、入浴
黒田

CIL
事務局長

11/27(水)
・ 起床後
自由行動
・ 13:00〜15:00
アパートの借り方
・ 15:00〜
自由行動
・夕食作り
川元

11/28(木)
・ 起床後
掃除(※忘れずにゴミと調味料をまとめること)
・ 11:00〜
感想、反省
黒田


◎ 3泊4日の間に下記のことは体験してください。
● 夕食作り…自分でメニューを決め、買い物をする。
      そして介助者に的確な指示を出して、作ってみる。
●入  浴…リフトを使い、自分にとってより良い入浴の仕方を考え、
      指示を出してみる。
◎ 日頃できないことをしてみるのもOK!
  例:お酒を飲みに行く、カラオケ、夜更かし
――――――――――――――――――――――――――――――――

自立生活前の事業所の準備/介助者の募集広告

1. 何名募集するか?
 求人をかける前に、およそ何人くらいの介助者が必要かあらかじめ割り出しておきます。その際、既に登録している介助者の中で、仕事の量を増やしたい、または減らしたいと考えている介助者がいれば確認をとります。求人誌を使って行う募集は、大量の人の目に留まりますから、効率がよく便利ではあります。しかし、有料(4〜5万円)であり、またそれはけして低い金額ではありません。(活動費の財源が豊かであれば別ですが)また、求人から面接までの作業は大変忙しい事業所の代表者やGM、コーディネーターが1週間の半分の時間を取られてしまうことになるので、早々何度も行なえるものではありません。そこで、求人をかける前には必ずこの作業を行います。
事前調整確認により、介助派遣全体の調整が行えますし、その結果次第では、 既に働いている介助者で、必要な介助時間をうめられるとわかれば、あらたに募集する必要はなくなります。

2. 募集の時期
 自立の時期が決まったら、介助者の募集・面接の時期をあらかじめ決めます。およそ、自立時期の約3週間前に募集をかけるのが妥当です。このやり方でいくと、面接→採用後、実際に介助に入るまでに約3週間ありますから、その間に打ち合わせや研修などが余裕を持って行えます。事前研修のことを考えると、募集から介助初日までは、最低約2週間はあったほうが良いでしょう。

3. その他・・。
 以上のように、介助者の募集・面接は、自立時期が決まってから逆算して行います。ただし、その時期というのはあくまで目標の時期であって、例えば、アパート探しが難航すれば、介助初日も当然ずれ込むことになりますから、そういう可能性も状況によっては有り得ることを、面接時には伝えておくことをお勧めします。障害者がアパートを借りる場合、改造等の理由からそう簡単に引っ越しができるわけではありません。ほとんどの場合、一度住み始めたアパートにはほぼ一生住むことになります。そういった事情をきちんと説明し必ず理解を得ておきます。(自立体験室(アパート)を持っている事業所で、まず体験室に住民票を移して自立する場合は、このような心配がありません。介助者の労働保障という観点からも資金計画が立てば早急に体験室を用意します)。

自立前の事業所の準備(介助制度の行政交渉)

1.24時間介護保障制度(ホームヘルプ事業・生活保護)がある地域に自立する場合

すでに24時間介護保障制度(ホームヘルプ事業・生活保護)がある地域に自立する場合は、自立が決まったら、事業所の障害者ジェネラルマネージャー、健常者介助コーディネーターが、自立1ヶ月〜3ヶ月前にその地域の行政(障害福祉課・生活保護課)に行き、本人の障害の状況、生活の状況を説明し、利用する制度についての話し合いを設けます。これは、行政各課の担当者と行います。

〔相談の内容〕
○ 生活保護について
○ 他人介護加算特別基準大臣承認(1日4時間)について
○ 介護制度・・・ホームヘルプ事業 / 全身性障害者介護人派遣事業について
○ 特別障害者手当を受給していない場合は申請します。申請書と医師の診断書の用紙をもらいます。診断書は自立1ヶ月前に医師に記入してもらい、自立当日に提出します。
○ 住宅改造・・・改造費用は地域によって違うので、本人の改造費用がその地域の上限を越える場合は生活福祉資金の利用を考えます。
○ 日常生活用具・・・自立後すぐに使用する生活用具(福祉電話・浴槽・福祉ベッドなど)の説明をします。申請は自立当日に行うので、それまでに日常生活用具の申請書と利用した業者の見積もりを用意しておきます。
○ 本人の転入する住所と転入日(自立日)が決まり次第行政に連絡する旨を伝えます。
○ 転入後1週間以内の行政の訪問を依頼します。生活保護課、障害福祉課、住宅改造(改造前の状況を見るため)の3者の訪問があります。


2.自立する地域に24時間介護保障制度が整っていない場合

(中略)



自立前の事業所の準備2(その他の行政交渉)

自立時期がより具体的になったら、住むことを予定している先の行政と事前交渉の場を持ちます。交渉の参加者は、自立を希望している本人(可能であれば)、代表、事務局長、ジェネラルマネージャー、介護コーディネーター、チーフヘルパー、です。行政の方から人数を制限された場合は、今あげた先頭から順に優先して交渉に臨みます。

交渉の内容は、主に以下のような内容です
1.予定している介護体制
必要な派遣時間数を話しておきます。行政側は出来る限り派遣時間は短くしたいと考えていますから、それだけの派遣時間を必要とする根拠を相手に示す必要があります。一日の生活の中で、一つ一つの介護にかかる時間を割り出して、その合計が希望する派遣時間と見合うようにするとより説得力があります。
 初めて交渉する市では、交渉方法は大変高度な方法が必要です。(その場合の交渉方法は別の章で解説します。通常課長と交渉します)。交渉してある程度の長時間数の制度ができた場合、同じ市に2人目以降の人を自立させる場合、そこまで詳しく説明する必要は(普通)ありません。詳しく説明するかどうかは相手(係長など)の感触次第です。交渉がそれほど難航しないようであれば、ぼかしておける部分はそのままにしておいた方が、後々のためには有利です。

2.日常生活生活用具・住宅改造・各福祉手当
自立した際に申請する予定のある制度をあらかじめ伝えておきます。これは事実の通りに話せばいいのですが、漏れがないかどうか、事前に確認してから交渉に臨むことをお勧めします。また、自立する当日は、転出・転入の諸手続きで一日がかりになりますから、この時に福祉の各制度の申請用紙などをもらっておくと、当日の手間が省けます。

3.その他の注意点
前にも触れましたが、障害者が自立することによる行政の財政負担は、実に大きいものです。行政からすれば、「なぜうちの市(区町村)でなければいけないのか?」という疑問があるのは当然です。おそらく交渉の場でも、その質問がされるでしょう。
自立する場所を決める際、本人の希望(そこに住みたいという希望)と行政の財政状況(1つの市に連続して自立させると問題があるので近隣市に満遍なく自立させます)を主な材料に考えますが、後者(財政事情)が主たる理由で場所を決めた場合は、それを正直に明かすかどうかは、これも相手の出方次第です。それが無理なようであれば、単純に「当事者がここに住みたいと言っておられます」という「当事者の意志」を伝えます。ただ、どうしてもその場所でなければいけない、という理由がなかなか出てこなくても、その質問をされた時になんらかの答えが返せればいいのですから、あまり神経質に考える必要はないでしょう。

家探し〜契約〜住宅改造
〔略〕

自立直前のILプログラム

 施設に入っていたり、家族の介助で暮らしている障害者が自立を希望した場合、次のようなプロセスを経るのが一般的です。
 まず、自立生活センターに介助の依頼や生活面の相談を持ちかけます。次に、具体的なプログラムや利用できる制度の提案をILリーダーが行います。それに基づいて、依頼主である障害者が自立生活センターのサービスを選択します。将来的に自立生活をしたいと希望した場合には、自立生活プログラム(以下ILプログラム)を受けることになります。
] ILプログラムの初歩的な講座(長期プログラム)を終了して、次のステップとして個別プログラムを受けながら自分なりの自立生活を実現するための準備を進めます。この段階は人によっては数年かかることもあるし、数ヶ月で地域に出ていく人もいます。
 その後、自立生活への準備が整い、新しい生活への自信が持てた段階で、具体的な自立の日程が決まってきます。自立する日が決まると、最終的な個別プログラムを実施します。直前のプログラムは、自立2ヶ月前から1ヶ月前ぐらいまで行います。回数的には5回ぐらいが一般的です。

 具体的な直前プログラムの例
 第1回 自立の理念
第2回 介助者との関係
 第3回 制度(生活保護以外)
 第4回 生活保護の受け方
 第5回 アパートの借り方

?自立の理念
 現在では、自立生活センターが各地にでき、その力を借りて多くの障害者が地域に出ています。それまでは、自立生活をするための知識も経験も自力で得るしかありませんでした。自分より前に自立する障害者がいない人は自ら道を開かねばならなかったし、既に自立している障害者がいたとしても、個人的に自立のノウハウを教えてもらう必要性がありました。今は、お金を払って講座を受ければ自立のノウハウが得られますが、以前はごく少数の限られた人間しか自立生活を実現させるができませんでした。
 プログラムが充実し、ILリーダーが障害者のサポートを十分にできるようになっても、自立するのは障害者本人です。本人が自覚を持って自立生活を営まなければいけません。自立生活というのは、自由で何ものにも縛られない気楽な生活ではないのです。生活する上では、しなくてはならないことがたくさんあるし、主体性をもって行動しなければ充実した生活を送ることができません。自由の代償として負わなければならない責任があります。
 こういった自立に対する障害者本人の精神的な面の確認を直前のILプログラムで行います。自立生活がそれほど楽なものではないこと、主体性をもって行動することの必要性などを認識してもらいます。「自立の理念」では、上記のような事柄を取り上げます。

?介助者との関係
 介助の必要な障害者にとって、自立生活は介助者との生活を意味します。生活の中に介助者を入れることで、健常者と変わらない一人暮らしをすることが出来るのです。制度の利用方法などと違い、介助者は人間なので、一度や二度ILプログラムで 学んだくらいでは、生活に役立たないのが現実です。そのために自立直前にも繰り返し行うのです。この段階で主眼に置くことは、まず第一に生活の主体はあくまでも障害者自身であるということ。ともすれば、介助者の意志に左右されてしまうので、その中での自分を貫くことを身につけてもらいます。第二に介助者にとって障害者が雇用主であるという認識をもってもらいます。雇用主として行使できる権利と、従業員を守るために果たさなければならない義務について考えます。

?制度(生活保護以外)
 自立生活を始めると必要になる制度を再確認する。市役所での申請手続きのやり方も含めて、これまでのILプログラムの制度学習を振り返る。自立直前であるため、自立当日の申請の手順を決めることが重要です。

?生活保護の受け方
 生活保護の申請は他の制度に比べて慎重に行う必要があるので、他制度とは別にプログラムを行います。申請書の書き方、窓口や面接室でのケースワーカーとのやりとりなどを詳しく説明します。一般的に生活保護は受けにくい制度なので、現在制度を受けているILリーダーが経験に基づいてノウハウを伝えます。リーダーがケースワーカーの役を演じるシュミレーションの方法で行うのが普通です。

?アパートの借り方
 自立生活を始める時期が明確になったら、その時期に合わせてアパートを探すことになります。アパート探しといっても健常者がアパートを見つけるのとは訳が違います。障害があるから、車椅子に乗っているからなどという理由による困難があります。具体的な物件の内容(間取り、家賃、立地条件等)を決めた後に生活保護の時と同様、不動産屋とのやりとりのシュミレーションを行います。



自立の日とそれから1週間の個別プログラム

 この時期は、様々な制度申請や、荷物整理、介助者との関係で早く過ぎてしまいますが、それだけ不安も沢山抱えていると思われます。ジェネラルマネジャーは訪問や、電話連絡をこまめに取り、状況を把握するとともに、ピアカン的心のケアも必要です。
注1 ☆:本人 ★センター職員(ジェネラルマネージャー・コーディネーター)

自立生活開始の日
1日目 ☆自立スタート、☆各種制度申請等(※1)、★電話相談(※2・※3)
※1 これは市役所に行き、申請しますが、必要に応じてコーディネーター、障害者スタッフ等が同行します。基本的には本人が申請します。同行の理由は、自立を始めたばかりでいろいろなことに気を使い、体力を使っている当人に、申請の失敗等で、何度も市役所に通わなくてすむためです。
 ?.当日、施設入所している人については、措置を受けている市町村の行政の窓口に行き、措置を切ります。そして、転出届をします。
 ?.転入届をどの制度より、まず最初に手続きをします。
 ?.当日申請する制度は、次のような物があります。
・生活保護+大臣承認の申請
・特別障害者手当の申請
・福祉手当の申請
・ホームヘルプ事業の申請
・全身性障害者介護人派遣サービス事業の申請
・住宅改造の申請
・日常生活用具の申請
※2 生活保護とホームヘルプ事業と住宅改造の訪問日が決まっていれば聞きます。また、どのように対処すればよいかを教えます。

 ?.※2であげた対処法は次の通りです。
 生活保護訪問の場合
・金目の物は置かない(貴金属等)。
・携帯電話を所持していれば、トラブル回避のため、隠します。
 ホームヘルプ訪問の場合
・ホームヘルパー申請の件で、現在の生活状況や介助の必要性でいくつか質問されますが、風邪などで体調が悪くなったときの状況を思い浮かべながら答えます。
 住宅改造の場合
・アパートの改造が必要な部分を把握しておく。
※3 雑談を盛り込みながら、こちらの用件を切り出します。必要であれば、ピア・カウンセリングもします。これは、電話の時は、いつも心がけます。

2日目 ★電話相談(※1)
※1 介助者との関係について話します。

 ?.施設や、親元から自立した人は、どうしても介助者に対して遠慮がちになってしまうことが多いです。そこのところを、CILの介助者はあなたが雇っているのだから遠慮しないで(介助者の体力を考慮しながら)、頼んでも良いと言うことを伝えます。

3日目 ★電話相談(※1)
※1 何を食べているかを聞き、献立が片寄らないように、アドバイスします。又、後日献立の立て方や栄養についての個別ILPを行う日程を決めます。

?.主食、副食、付け合わせ(野菜等)、汁物といったふうに、バランス良く献立を組み立てるようにします。
 ?.?で、全部作るのが大変であれば、どれか一品だけ、お総菜を入れるなど工夫します。
 ?.レシピなどを買うようにし、献立のバリエーションを増やすようにします。

4日目 ★電話相談(※1)
※1 いろいろと、生活必需品を揃えるにあたって、生活費を頭に入れながら購入するようにいいます。また、地元で、安めに買い揃えられる店などを知っていれば、伝えます。

5日目 ★電話相談

6日目 ★お宅訪問(※1)
※1 実際に家へ行き、目で見たアドバイスをします。また、交流を深めます。
?.交流の理由は、お互いの距離を縮め、悩み事などを気兼ねなく話し合える関係性を取るためです。

7日目 ★電話相談(※1・※2)
※1 介護料について説明します。

 ?.個別ILPで、既に説明済みではありますが、生活保護受給者の場合通帳に生活費と介護料(他人介護加算)が一緒に振り込まれることを伝えます。必要であればもう一度個別ILPを行います。

※2 始めの数ヶ月は、市役所からの郵送物で、頭を悩ませてしまう当事者がいます。そのような理解不能な書類が来た場合は、ILリーダー等に聞いてもらうようにします。捨てたり、解らないまましまい込まないようにします。

 ?.郵送物例
・ホームヘルプサービス決定通知書
・保護決定通知書
・生活保護費支給通知書



そのとき事業所では…

1. 介護派遣に関して

それぞれの介助者の初日にはコーディネーター(チーフヘルパー)が同行します。事前研修をもとに、いよいよ実際に介護にはいってもらうわけですが、当事者本人が指示を出しそれ基づいて介助者が動いているかどうか、介助者が本人の言葉をきちんときいているか、などを注意してみる必要があります。介助経験が少ない介助者は特に、障害当事者よりも同行した健常者スタッフに頼りがちです。そのような傾向が見られた時は、障害者本人の指示を尊重するように促します。
また、コーディネーター、チーフヘルパーの方でも、「やり過ぎ」ないように注意します。基本的に、具体的な介助方法は本人が説明します。健常者スタッフは、補足した方が良いと判断した時に限り「助言」というかたちで間に入るのが良いでしょう。
初日の様子をもとに、障害者本人の指示の出し方や、介助者の介助の仕方などで気になる点があれば、事務局で把握しておきます。1ヶ月〜2ヶ月の間、様子をうかがいながら、必要に応じて研修を行ったり、話をしていきます。


2. 行政の訪問

この時期には、行政の居宅訪問があります。

?制度申請→(行政側の)申請受理の過程で

訪問の内容は、その人がどの制度を申請したかによりますが、生活保護、ホームヘルパー派遣、住宅改造、等です。訪問調査があったときに、どのように対応するかは、ILP担当と本人とで事前に打ち合わせしておきますが、本人が自分一人で対応することに不安があれば、双方話し合った上で、コーディネーター、またはチーフヘルパーが同席することも検討します。 行政は、申請されたことについて、その必要性があるかどうかを確認するために訪問調査を行います。例えば、ヘルパーの派遣時間が実際どのくらい必要なのか、住宅改造で無駄なものが申請されていないか、などです。必要性が認められてから申請が受理されます。

?住宅改造終了後

申請と実際の改造に相違がないかどうかの確認です。この時も、コーディネーター等が立ち会う方が良いかどうか、本人と確認をします。


介助者への事業所からのフォロー

 障害者の自立生活を支えていくために、障害者の生活スタイル、考えかたを尊重できる介助者を育成していく事は、当事者事業所の仕事として、とても重要な事です。介助の入り方としては指示を待つのが基本ですが、指示がうまく出せない障害者の介助に入る場合は、ただ指示を待つだけでは生活が成り立たない事がありえます。身体障害か、知的障害かによっても、支援のスタイルが違ってきますし、指示は出ているのに、介助者の技術が未熟なため指示どおりにできないということもあります。
 事業所では、その理念を介助者に伝えていくのはもちろん、どんな障害の人にも対応できるように、制度の事や、家事援助技術の初歩を教えなければならないことがあります。
 ここでは、色々な場面で必要とされる介助者へのフォローを述べます。

介助者を雇うとき 
 面接して介助者を雇ったら、研修をかねて、事務所の説明や、介助料の支払い、介助者としての心構えなどを説明します。

初めて介助にはいるとき
 初めて介助にはいるときは、個別の障害者の介助方法を、コーディネーターがついて教えます。昼に入る介助者と夜に入る介助者では仕事の内容がちがいますので、実際に関わる介助内容から把握してもらいます。
 昼に入る場合は、たとえば、洗面、歯磨き、髪の整え、着替え、外出、トイレ、リフトの使い方、食事などで、実際に車椅子を押したり、リフトにも自分でのってみたりしながら当事者とともに研修します。また、障害の種類、当事者の状況などによって個別に説明しなければならないことを話します。このときには、基本的に指示に基づく介助でなくてはならないが、知的障害、自立したてで指示をだすことに慣れていない、など障害者の状況によってはそうでない場合もあることを説明します。ここで重要なことは、指示がないからと言って、介助者の勝手な思いで行動しないこと、すなわち、指示がないときには、介助者からの声かけによって、指示を促したり、相手の意志を確かめながら介助を行う、いくつかの選択肢を提示するなどしてあくまで障害者の意志を尊重することにつとめるように強調します。

介助になれてきたら
 介助者はだいたい3ヶ月もたつと介助になれてきて、いままでは介助をすることだけで精一杯で緊張していたものが、それ以外のことも考えられるような余裕が出てきます。そのときは、障害者に対する要望、不満、自分の将来のことなど、いろいろ考えているので、タイミングを計って、介助者と話をする機会を設けます。比較的、介助コーディネーターと接点の多い介助者と少ない介助者がいますので、障害者とも連絡を取りながら、できるだけ多くの介助者と接点を持ち、信頼関係を介助者と事業所本部事務所の間でもつくっていくようにつとめます。信頼関係がきちんとできると、介助者なりに、当事者や事務所との関わりを前向きに考えてくれるようになりますし、こちらの主張することもすんなり受け入れてくれるようになります。

トラブルが生じたら
 トラブルというのは、人が関わる限り、必ずと言っていいほど起こります。あえて表に出てこないものを含めると、いつも何らかの事件が起きていると言ってもいいくらいです。ですので、トラブルは起こさないようにするより、どう解決するかということに焦点を向けた方がよほど建設的です。そして、うまく解決されれば、前にもまして良い関係が生まれてきます。このようなことをはっきり認識して、覚悟を決めて徹底的にトラブルに関わるようにします。 まず、障害者か介助者から苦情を聞いたら、たいていは、自分の思いで話をしていて、公平ではない場合が多いので事実を把握するようにつとめます。障害者のジェネラルマネージャー、健常者の介助コーディネーターと連絡を取りながら、それぞれの言い分を別個に聞きます。ほとんど双方にそれなりの理由があるものです。大体のことがわかったら、相手もこんな風に感じているので自分の気持ちを正直に出して、きちんと話をしてみて下さいと勧めます。これで話が出きればたいていは当事者同士で解決できます。うまく話ができないときには、話をする機会を介助コーディネーターが作って、ジェネラルマネージャー、介助コーディネーターもはいりながら何度でも話し合いを持ちます。
 介助者へは、時々面接を行い、何か問題を抱えていたらすぐに対応できるように体制を整えておきます。常日頃の心がけで、信頼関係を築くようにしていきます。

REV: 20160122
自薦ヘルパー推進協会  ◇全文掲載
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