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「議論のためのメモ−精神病院の設備構造上の基準について」

厚生省 2000/08/21 「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」第3回

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last update: 20160118


「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」第3回(2000/8/21開催)
のために厚生省が作成した
「議論のためのメモ−精神病院の設備構造上の基準について」


                           平成12年8月16日

【議論のためのメモ】

            精神病床の設備構造等の基準について

1.基本的考え方

○ 精神病院の設備構造等の基準に関して、現状では、精神病床以外の一般の病床と同じく、病床面積が4.3u、廊下幅が1.2m(両側居室1.6m)となっているが、現在の国民の生活水準にふさわしい療養環境という観点から、病床面積や廊下幅について、入院患者に快適な環境で医療サービスが提供されるよう見直すべきではないか。

○ 精神病院の人員配置の基準については、昭和33年の厚生省事務次官通知により、精神病院以外の一般の病院に比べて、緩やかな基準となっている。具体的には、主として精神病の患者を入院させる病院にあっては、医師数は患者48人に1人、看護婦等の数は患者6人に1人となっている。現在の精神医療を取り巻く背景は、入院患者や国民が期待するニーズ、また医療職種の人数などの医療資源に関して、現行の医療法上の人員配置の基準を設定した時点のそれとは、大きく変化してきており、現在の精神医療に求められるニーズや整備し得る医療資源の量を踏まえた人員配置の基準とするべきではないか。

○ 特に、旧医療法上の総合病院に設置されている精神病棟においては、精神疾患以外の重度の身体的疾患(以下「合併症」という。)を持つ入院患者に対する医療を提供する機能や、地域において単科の精神病院との連携による一体的な精神医療の提供が求められていること、また、現行の医療法上、精神病院以外の一般の病床と同じ基準により人員が整備されていることを踏まえると、大学病院や旧医療法上の総合病院の精神病棟においては、少なくとも新たな医療法上の一般病床と同じ人員配置の水準を確保すべきではないか。

○ また、早期の社会復帰を目指した積極的な医療の提供が求められていること、救急医療、児童・思春期精神医療、老年期痴呆やうつ病に対する医療などの多様なニーズに応じた専門医療の提供が望まれていることなど、精神医療を取りまく現状を踏まえると、今後、こうした医療を提供するための人員配置の基準のあり方について、検討を進めていくべきではないか。


2.設備構造の基準

○ 具体的な設備構造の基準としては、新たな医療法上の療養病床の基準である病床面積6.4u以上、廊下幅1.8m以上(両側居室2.7m)を参考としてはどうか。

○ また、1室当たりの病床数や、病室内の病床の配置についても、現在の国民の生活水準に照らして、入院患者のプライバシーの確保に十分配慮されることが必要ではないか。

○ 精神病院の設備構造に関する用語について、現行の施行規則においては、「危害防止のための」など、精神障害者の人権上の観点から、不適切な使用が見られるが、新たな施行規則を作成するにあたっては、用語の使用について十分配慮するべきではないか。


3.人員配置の基準

(1)医師

○ 精神科医師数については、医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、平成8年が1万93人、平成10年が1万586人であり、このうち病院に勤務している精神科医師数は、平成8年が9千327人、平成10年が9千783人(増加率4.9%)であり、病院に勤務する精神科医師は、年間約200人が増加している。

○ 現在の医療法の人員配置の水準を満たしていない医療機関は、平成10年度医療監視結果によると、1千193の精神病院のうち346病院、全体の29%となってる。また、充足率が80%未満の病院は、247病院、全体の20.4%の現状にある。

○ 現在の医療法の主として精神病の患者を入院させる精神病院の人員配置の基準である患者48人に1人の基準を達成するためには、推計によれば、少なくとも約700名の医師を新たに確保することが必要である。

○ さらに、精神病床以外の一般の病床と同等の患者16人に1人の基準を達成するためには、推計によれば、少なくとも約1万5千人の医師を新たに確保することが必要であり、精神科医師の年間の増加人数を踏まえると、短期間に患者16人に1人の基準を達成することは難しいのではないか。

○ しかしながら、合併症を有する患者等の治療のためには、必要な病床数を確保するとともに、その病床について、精神病床以外の一般の病床と同等の基準とするべきではないか。平成8年患者調査によれば、精神疾患以外の疾病による人口10万対入院者数が合計で約1千人であり、これから推計すると合併症に対応する病床として少なくとも3千500床を確保する必要がある。

○ 一方、一定の診療科目を有する旧医療法上の総合病院の精神病床は、約2万床がある。

○ 旧医療法上の総合病院の精神病棟における精神科医師の配置状況については、日本総合病院精神医学会の調査によれば、全体の54%の病院が、既に、精神病床以外の一般の病院の人員配置基準である患者16人に1人の医師が充足されており、81%の病院が患者32人に1人の医師が充足されている現状にある。

○ したがって、旧医療法上の総合病院や大学病院においては、合併症に対応する役割も果たす施設として、精神病院以外の一般の病院と同等の水準を確保することが適切ではないか。


(2)看護婦等

○ 精神病床のみを有する病院の看護婦等の人数については、平成10年医療施設調査(動態調査)・病院報告によれば、平成8年が6万9千974人、平成9年が7万2千62人、平成10年が7万4千132人であり、年間約2千人以上が増加している現状にある。

○ 現在の医療法上の看護婦等の人員配置の基準を満たしていない医療機関については、平成10年度医療監視結果によると、1千193施設のうち53病院、全体の4.4%となっている。また、充足率が80%未満の病院は、10病院、全体の0.8%となっている。

○ 診療報酬上の看護婦等の配置については、医療法上の基準以上の配置が定められており、例えば精神科急性期治療病棟Aが適用されている病棟においては、看護婦等が患者2.5人に1人、精神科急性期治療病棟Bが適用されている病棟においては、看護婦等が患者3人に1人となっている。平成10年の精神保健福祉課調によると、看護婦等の配置状況が、患者3人に1人以上となっている病院は、全体の36.3%、患者4人に1人以上で61.3%である。

○ このような実態を踏まえると、現在の主として精神病の患者を入院させる病院における患者6人に1人という看護の基準を引き上げるべきではないか。

○ 因みに、主として精神病の患者を入院させる病院について、患者4人に1人以上の看護婦等を配置するため、平均的に看護婦等を配置したとすると、約7万6千人の看護婦等が必要であるが、現在の看護婦等が約7万4千人であることを踏まえると、患者4人に1人以上の水準を確保することは可能であると考えられないか。

○ 一方、旧医療法上の総合病院における精神病棟に関しては、日本総合病院精神医学会の調査によれば、調査を行った病院の93%が既に患者3人に1人以上の看護体制となっている現状から類推すると、患者3人に1人以上の水準の確保は、可能ではないか。

(3)薬剤師

○ 精神病床のみを有する病院の薬剤師の人数については、平成10年医療施設調査(動
態調査)・病院報告によれば、平成8年が2千756人、平成9年が2千820人、平成10年が2千869人であり、年間約50人が増加している現状にある。

○ 現在の主として精神病の患者が入院する病院における薬剤師の人員配置の基準である患者150人に1人の基準を満たしていない医療機関は、平成10年医療監視結果によれば、全体の27.2%である。

○ 新たな医療法上の薬剤師の配置の基準としては、一般病床においては患者70人に1人、療養病床においては患者150人に1人となっている。

○ 精神病床における薬剤師の配置の基準として、一般病床と同等の基準とした場合、推計によれば、少なくとも現在の倍の数の薬剤師が必要となることから、療養病床における基準を参考としてはどうか。

○ しかし、旧医療法上の総合病院や大学病院にあっては、合併症を有する患者に対する医療を提供することが多いという意味からは、他の診療科と処方の内容は同等であり、新たな医療法上の一般病床と同等の患者70人に1人の水準を確保するべきではないか。

○ 将来的には、精神病院に入院する患者の高齢化による合併症への対応など、精神病院における薬剤の種類や処方の件数が増加することが予測されるが、その一方で外来患者に対する処方において医薬分業が推進することにより、病院で処方する必要性が減少することも予測されることから、今後、精神医療における調剤の状況について把握していくことが必要ではないか。


4.おわりに

○ この議論のためのメモは、精神病床の機能分化が未だ成熟していない状況や長期入院患者の療養のあり方が未だ具体的に提言されていない状況を踏まえて、精神病床の設備構造等の基準に関して論点を整理したものである。

○ したがって、精神病床の機能分化のあり方を含め、21世紀の精神医療の方向性については、別途、検討を開始するべきではないか。


【資料】

資料1 精神科医師数(医師・歯科医師・薬剤師調査より)
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│                │  平成6年    │   平成8年    │   平成10年   │
├――――――――┼――――――――┼――――――――┼――――――――┤
│総   数      │     9,514      │    10,093      │     10,586     │
├――――――――┼――――――――┼――――――――┼――――――――┤
│病院に勤務      │     9,024      │     9,327      │      9,783     │
├――――――――┼――――――――┼――――――――┼――――――――┤
│診療所に勤務    │     1,570      │     1,901      │      2,060     │
└――――――――┴――――――――┴――――――――┴――――――――┘
注)病院と診療所に従事している場合、各々に重複計上している。


資料2 精神病医院における医師の充足率別病院数(平成10年医療監視結果より)
┌――――┬――――┬――――┬――――┬――――┬――――┬――――┐
│        │60%  │60%  │70%  │80%  │90%  │100%│
│        │未満    │〜70%│〜80%│〜90%│〜100% │以上    │
├――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┤
│病院数  │  51    │  51    │  43    │  98    │  103   │  847   │
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│累積%  │ 4.3%   │ 8.5%   │ 12.2%  │ 20.4%  │  26.7% │  100%  │
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注)精神病院:1,193施設


資料3 旧医療法上の総合病院に勤務する精神科医1人当たりの精神病床数
   (日本総合病院精神医学会調より:1999年139施設を調査)
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│            │1〜16人  │16〜32人│32〜48人│48人以上  │
├――――――┼――――――┼――――――┼――――――┼――――――┤
│   割合    │  54%    │   27%   │   13%   │   6%     │
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資料4 精神病院における看護婦の充足率別病院数(平成10年度医療監視結果よ
り)
┌――――┬――――┬――――┬――――┬――――┬――――┬――――┐
│        │60%  │60%  │70%  │80%  │90%  │100%│
│        │未満    │〜70%│〜80%│〜90%│〜100% │以上    │
├――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┤
│病院数  │   1    │   3    │   6    │  17    │   26   │ 1,140  │
├――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┼――――┤
│累積%  │ 0.1%   │ 0.3%   │ 0.8%   │  2.3%  │   4.4% │  100%  │
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注)精神病院:1,193施設


資料5 看護婦等の配置状況(平成10年精神保健福祉課調:1,663施設)
┌――――――――――┬――――――――――┬――――――――――┐
│                    │    3対1以上     │     4対1以上     │
├――――――――――┼――――――――――┼――――――――――┤
│  病院数(累積)    │        603         │       1,020        │
├――――――――――┼――――――――――┼――――――――――┤
│      %            │       36.3%        │       61.3%        │
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資料6 精神病床のみを有する精神病院の看護婦等の人数の年次推移(平成10年医
療施設調査(動態調査)・病院報告より)
┌――――――――┬――――――――┬――――――――┬――――――――┐
│                │  平成8年     │   平成9年    │   平成10年   │
├――――――――┼――――――――┼――――――――┼――――――――┤
│看護婦等の人数  │    69,974      │     72,062     │     74,132     │
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資料7 精神病床のみを有する精神病院の薬剤師の人数の年次推移(平成10年医療
   施設調査(動態調査)・病院報告より)
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│                │  平成8年     │   平成9年    │   平成10年   │
├――――――――┼――――――――┼――――――――┼――――――――┤
│薬剤師の人数    │     2,756      │      2,820     │      2,869     │
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