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「精神科医療を真に統合した医療法へ」

小林 信子 2008/08/07

last update: 20151225


厚生省公衆衛生審議会第2回専門委員会(2000/8/7)に提出された資料

2000.8.7 専門委員会 ヒヤリング
                        東京精神医療人権センター
                              小林 信子

「精神科医療を真に統合した医療法へ」

 精神障害者の権利擁護機関であり、またつい最近都内の単科精神病院を訪問調
査した立場から意見を述べる。

医療法第1条 「・・もって、国民の健康の健康の保持に寄与することを目的と
する」があるが、精神医療の分野から見ると不可解な法律。

指摘されている問題点

1)第21条の但し書きの存在、同施行令 第4条の7病院の従業員の定員の特例
の問題

今日のいわゆる人員配置"精神科特例"を導入した、その合理的根拠を明らかにす
る説明義務が政府にはある。

この法律は戦後間もない時のものなので、心理・社会・薬物療法を基にする"近代
精神医学"にはそぐわない。この条文を削除して、まずは、一般科と同等数のスタッ
フを保証すること。

国際的にも
国連「原則8」ケアの基準:全ての患者は、・・他の疾病を持つものと同一の基
準に則してケア及び治療を受ける権利を持つ。


2)医療法施行規則には、今日の日本の精神医療を作り上げてきた"思想"が赤裸々
に表れている。特に第10条の5、第16条の6は、精神障害者に対する偏見や
差別を医療、ひいては社会の中に深く根づかせる1つの要因となった。

これらの法的な差別の結果として、
・この分野に関わるすべての人々から、人間としての尊厳や誇りを奪ってきたの
 ではないか。 それが質の良い医療を提供出来ない原因に一つ。
・少ないスタッフを前提とした病院運営がされている
  ― 閉鎖処遇・拘束の濫用などが  結果としてもたらされている

○例えば医師16:1,看護3:1と言う算定法が一般人には全く解りにくい。
・情報公開しても、常に病棟には患者1人に対して看護者3人がいるのかと誤解
 を与える。
・日医が認めない3:1の病院でも、ディルームで見かける看護職はまことに少
 ない

○「東京精神病院事情」からみた、治療機関とはとても思えないスタッフ数の病
 院がまだまだ多い現実―質の悪い病院も生き残れる精神医療の現実、淘汰がな
 い。
・医師1人に患者138人という精神病院が都内にある
・平均年齢70才近くの看護婦で占められている病院もある
 → 法改正とユーザーの力とPA
 
参考:CPTの基準提言(別紙)

○改築が進む精神病院。機能区分は時代の流れではないか。
だが、精神科における急性期も慢性期もごっちゃにした収容は、先進国での非常

 ―療養型Bに、新規措置入院者への入院も認めていて驚いた。機能区分をめざ
 しているらしい診療報酬の誘導も問題が多い。慢性期病棟の放置(古い大部屋
 と少ないスタッフ)が問題となっている。

○精神医療の改革は、病院から地域へ、入院は総合病院へ(それは必ずしも精神
 科病棟でなくても可能)という傾向が世界的なのだ。
・例)オランダでは1975年 精神病者 13,000総合病院、17,000精神病院
 多くのヨーロッパ先進国、開発途上国でも同様

これは、施行規則第10条の5に関係してくるが、

○単科精神病院優先の構造的差別は、医療者の偏見を増殖させ、他科受診の際、
 患者が精神科受診歴を隠したり、それががわかって診療を拒否されたりした相
 談が多い
 
○「総合病院の精神科に入院したい」という訴えがあるが…
・現実にはほぼ不可能
・総合病院を訪問した時に、精神科病棟に向かうときの鉄の厚い扉
 ―この向こうにはどんな恐ろしい人々がいるんだろうと思わせるに十分
・「患者を病棟外にウロウロ歩かせるな。何か起きたらどうする」という他科か
 らの文句
 
○精神科を閉鎖する総合病院が出てきていることは、国際的な潮流に逆行してい
 る
 
 精神障害者への偏見や差別をなくすために行政は「心のフェスティバル」なる
イベントに少なからぬ予算を組んでいるが、その一方で、基盤をなす法律や規則
に精神障害者差別の構造が編み込まれていることに気づくべきである。

 一般医療に統合されることが、精神病者、精神科への差別偏見をなくす一つの
手段である。

 21世紀に向かって、業界の都合でなく、利用者の立場からの精神医療サービ
スを作り上げてもらいたい。全ての人が良質の医療を受ける権利を享受し、精神
障害者もその一員として、医療におけるノーマライゼーションを実現出来る法律
にしていただきたい。

++++++++++

CPT(拷問等防止ヨーロッパ委員会)活動 1997年度報告 (抜粋)

3 精神科施設における非自発的入院
 A。序文
 B。虐待の予防
 C。患者の生活環境と治療 *
 D。スタッフ  *
 E。拘束の方法
 F。非自発的入院に関連するセーフガード

C。患者の生活環境と治療 *
32. 患者の生活環境と治療の不適切さは、"非人道的で品位を傷つける処遇"
へと結びつくために、CPTは重大な関心をもって検証している。その目的は"ポ
ジティブな治療的環境"を提供すべきであるという考えだからである。これは、患
者だけでなく、そこで働くスタッフにとっても重要だからだ。

非自発的入院者は医学的治療や看護者によるケアを身体的にも、精神的にも、自
発的入院者と同等に提供されなければならない。

生活環境
34.前述の"ポジティブな治療環境"とは、明るさ、冷暖房、換気などと同様に
患者一人当たりの占有面積を意味する。また、施設の維持や満足できる状態に戻
すための修理、病院が設定する衛生基準にも合致することも意味する。特に我々
が注目することは、患者に視覚的刺激を与えるために病室やデイルームのインテ
リアがなされることである。ベッドサイドテーブルと洋服ダンスも必置されるべ
きだし、患者のある種の身の回り品(本や写真)を置くことが許されるべきであ
る。他の所持品を納めておくロッカースペースの重要性も強調しておく。これら
設備が不備であれば、患者の安全性や自立の意識に影響する。衛生施設部分では、
患者のプライバシーが許されるべきである。高齢者や障害者を持つ患者のニーズ
も考慮しなければならない。これらの人々には、座ることが出来ない形態のトイ
レは不適各である。

 パジャマやガウンを日常着とさせている病院を見ているが、これは個人のアイ
デンティティや自尊心を高めることには役立たない。自分の衣服を着るというこ
とも治療プロセスの一部である。

35.患者の食事も患者の生活環境を考える上で非常に重要であるとCPTは思
っている。
食事というのは、単に量と質が適切であればよいということだけでなく、患者が
満足する状態で提供されなければならない。必要な器材が揃っていれば患者に適
温で食事が低児湯出来る。さらに、テーブルセッティングにも配慮すべきである。
たとえば、席について適切な食器を使って食べること、というような患者の日常
的活動をおくることを可能にする。適切な食器を使って食べるということは、患
者の心理社会的リハビリにとって、プログラムに含まれたものである。同様に、
食事の盛りつけも軽視すべきでない一要素である。食事に関して、身体に障害が
ある患者の特別なニーズにも考慮をしなければならない。

36.CPTが明確に支持していて、多くの国々で見られている傾向は、精神病
院における大部屋の閉鎖である。この様な施設は近代的な精神医学の規範とは両
立しない。小人数を基盤にした部屋の提供は患者の尊厳を保持/回復するために決
定的な重要要素であり、同時に、患者の心理的、社会的リハビリに対する全ての
方針の鍵となる要素である。小集団の形態は、治療目的のプロセスに患者を導く
ことを容易にする。
 同様に、日中施設のデイルームで他の患者と強制されて一緒でなければならな
い状態よりも、患者が望めば病室に戻ることが出来る試みとるところが増加して
いることはCPTとしては喜ばしく思う。

治療
37.精神科治療とは、個々人に基づいたアプローチをすべきもので、患者一人
一人の治療計画を作り上げることを含む。それは幅広い範囲のリハビリ的、治療
的活動、即ち作業療法、個人精神療法、美術、ドラマ、音楽そしてスポーツへア
クセス出来ることをいう。患者は必要な用具が揃っているレクリェーション室を
定期的に利用でき、毎日、屋外での運動が可能出なければならない。同時に、教
育や仕事の提供がなされれば、なお望ましいことである。

 我々CPTは、根本的に重要で効果的な心理社会的治療の要素が不十分、ある
いは全く欠けている現場を余りにも多く見てきている。そして、患者に提供され
ている治療が主として薬物療法からなりたっていることも知っている。このこと
は、適切な資格を持ったスタッフと施設の欠如を容認ているし、あるいは患者を
監置していたかっての思想の結果としてあるのかもしれない。

38.もちろん、向精神薬は精神病の患者に与えられる治療の必要な部分を占め
てはいる。だが、処方された薬剤が実際上も提供されたか、適切な薬物の定期的
な供給が保証されることを明確にする手続きを準備すべきである。CPTはまた、
薬剤の誤使用のすべての兆候を見つけだしていく。

39. 電気ショックに関する記載なので 省略
40  カルテ開示と退院促進。より制限の少ない環境への移行.
41  インフォームドコンセント

スタッフ
42.スタッフ人材とは、いわゆる数と職種(精神科医、一般医、看護職、心理
職、OT、SW 等)、そして経験とトレーニングである。スタッフ人材の不足
は、しばしば37項で記述した種類の諸活動を妨げる。さらに、働くスタッフの
やる気や真摯な努力があっても、患者を高度に危険性のある環境へと追い込む。

43.多くの国々では、精神病院で看護職の中に資格を持つ精神科看護職の少な
さと、例えば、作業療法などの社会的治療活動をする資格を持った人材の不足に
CPTは大きな衝撃を受けた。専門的な精神科看護トレーニングの向上と、社会
的治療をより強調することがケアの質に大きなインパクトを与える。特に、これ
ら看護職の役割は、薬物に依拠したり物理的治療だけではない治療の場を生み出
す様になる。

44.スタッフに関する多くの意見、特に補助的なスタッフに関しては28−3
1で述べてきた。されに、CPTは精神科医や看護スタッフの態度に大きな関心
を注いできている。特に、患者との治療的関係を築く上で真の利益となるものを
探し求めていく。それは、やっかいな人とか、社会復帰の力が欠けていると見な
されている患者達が無視や放置をされないということを確かにしていく。

45.他の保健ケアサービスと同様に、精神科病棟で働く異なった職種のスタッ
フが定期的に会い、主治医の監督のもとでチームをつくることは重要なことであ
る。このことは。日々の問題を認識して議論して指導が与えられる。この様な可
能性がないとスタッフ間の葛藤や怒りを生じさせる。

46.外界からの刺激やサポートは、精神病院に働くスタッフが孤立することを
防ぐことを確認する必要がある。これと関連して、この様なスタッフには外部で
のトレーニング機会が与えられることが望ましい。同様に、精神病院での第三者
の存在(学生や研究者)や外部団体(55参照)は奨励される。

追加
55.精神病院は外部の第三者機関の定期的な訪問を受け入れるべきである。
訪問団は病院の監視と、患者と個別に面談をする権限を有する。
                                  仮訳
                                小林信子


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