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「ハッシーの性教育のお時間」,etc
障害学研究会関西部会第7回研究会

20000701 大阪市立早川福祉会館.


■障害学研究会関西部会第7回研究会

と き:7月1日(土) 1:30pm〜5:00pm
ところ:大阪市立早川福祉会館 4F第3会議室
司会:田垣正晋(関西部会世話人・京都大学大学院)

13:40-13:50 自己紹介

13:50-14:20
(1) 資料紹介
報告者=松波めぐみ(大阪大学大学院)

【発表要旨】
1. 紹介する本:好井裕明・桜井厚編 『フィールドワークの経験』せりか書房

2. この本を選んだ理由
 調査者である「わたし」が異なるひとや状況、現実、問題と出会うとき、どのように出会い、からみあい、どんなワークをしているのか。調査される人びとにとって「わたし」は何者で、「わたし」にとって人びとは何者か。この論集では、そうしたことを詳細に反省的によみといていく実践がつづられている。マニュアル的な技法ではなく、経験の意味が論じられていることが、分野をこえて障害学にとっても示唆的ではないかと思った。また、論考のテーマはさまざまだが、障害学と関係のあるおもしろいものが多いため。(今回は、特に発表者にとって興味をひかれた二本の論考を紹介する)

3. 序文より
「近年のポストモダン思想、オリエンタリズム批判等により、自らの声を奪われていた<周縁>からの地殻変動がおこり、「どの場所から誰のために何のために研究するのか」の問い直しがおこっている。学問的行為にまとわりついている「自明な部分」を一枚一枚ていねいに引き剥がして検討していく作業は、はてしないタマネギの皮むきのようなもの。その困難にあきらめず、自らが生活する暮らしの自明性までも主題化していけないか。
 フィールドワークに一般論はない。フィールドワークの経験の中には、調査をするわたしと対象との相互行為、他者や状況への身体的、情緒的な関与のありようなどが含まれている。あくまでローカルな場所にこだわり、個別のやりとり、個別の経験というローカルなものに照準をあて、そこで何がどのようにうごめいているかを読み解くなかで、方法の有効性も見えてくるのではないか。」

4. 掲載論文紹介1「ハンセン病療養所入所者のライフヒストリー実践」(蘭【あららぎ】由岐子)
 ハンセン病療養所の入所者(病気じたいは回復しているが、そこに住みつづけている人たち)のライフヒストリーを丹念に聞き取っている筆者による論考。聞き取りをすることになったきっかけ、聞き取りをおこなう過程で起こったさまざまなこと、周囲の反応、入所者にとっての語ることの意味、筆者との相互作用、聞き取りという実践をとおして両者はどのように変わっていったのか、などを、ていねいに描き、考察している。
★「『入所患者』カテゴリーに自らを分類するのをやめ、新しい、もはや「患者」ではないカテゴリーに自分自身を分類しなおす(=解放する)作業が、ライフヒストリーの語りではないか」(その過程に目をこらして記述することが筆者のしごと)

5. 掲載論文紹介2「あなたがセックスケアをしない理由」(宮内洋)
 筆者が福祉系の専門学校で非常勤講師をした時の教育実践に基づく論考。将来ケアワーカーになる可能性が高い人の「身構え方」と筆者個人の応答が中心。福祉的な言説の世界で「障碍者」が<性なきもの>として語られている現実を、筆者は”学校が「無色の障碍者像」をつくりあげる共同作業”と表現する。筆者は学生に「あなたが将来ケアワーカーとして働いているとき、相手から頼まれたらマスターベーションの介助をするか?」と問いかける。学生の答えは、YESよりNOの方が倍ほど多かった。特にNOと答えた理由が分析され、背後にある恋愛至上主義が明らかになる。学生の答えは筆者との日常的な相互作用の結果として出てきたものであり、「客観的な」質問紙調査などでは決して得られなかったであろうこと、実践をおこなった筆者のポジションについても述べている。

【質疑応答】
●宮内氏の論文で「する」という回答の理由に「もし特別なお金がもらえたら」というのはなかったか?
:なかった。「しない」の理由に「風俗の人がやるようなことだから」という答えはあったが。

●同性愛者は同性、異性愛者は異性という限定は、必要ないと思う。たとえば、セックスワークでは、同性愛者がセックスワーカー、客が異性愛者ということもある。


14:20-17:05
(2) メイン報告
「ハッシーの性教育のお時間」
報告者=橋本秀雄(ハッシー、日本半陰陽者協会[PESFIS]世話人)
コメンテイター=花立都世司

【報告(14:20ころ-15:00)】
●人間の性の多層性
身体の性は五重
(1) 常染色体23本+性染色体(XYまたはXX)
(2) 性腺の決定
(3) 内性器(子宮&卵管、前立腺&輸精管)
(4) 外性器(小陰唇&クリトリス、陰嚢&陰茎)
(5) 尿道口(泌尿器)
こうした身体の性の上に、心の性、社会的性(ジェンダー)がある。

●「どっちかにしてやってほしい」というのが親の求め

●仮性半陰陽(XYなのに男性化しない、XXで女性化しない)と真性半陰陽(両性具有、ヴァギナのようなものとペニスのようなものがある。だが卵子も精子も生産していない)

●ジョン・マネー医師(米国ジョンズ・ホプキンス大学病院):生後すぐに性を決定して、男児または女児として育てる治療プログラムを作る。1963年のある日、生後7カ月の双子の両親が来る。双子の弟ジョンが割礼時の医療事故でペニス切断。ジョンは陰茎の人工形成できず、ジョアンという女の子として育てることに。14年間、女の子として育てる。マネーは「人間の性は途中からでも変えられる」と主張しつづける。
 しかし、1990年代に入って、半陰陽者自身がカミングアウトするようになり、マネーのプログラムにも批判が寄せられるようになる。ジョアン(ジョン)の追跡調査を行ったミルトン・ダイヤモンドは、ジョアンの女性化治療が14歳までで中断していたことを発見。ジョアンは14歳で「私は男だ」と宣言し、別の病院で陰茎の形成手術を受けて、10年かけて男性(ジョン)に戻っていた。1997年に米国abcのニュース番組に出て「私は失敗例だ」と語る。

●インターセックスを記述するのに医学用語しかない。男でも女でもない子はどっちかにしたれということになる。勃って射精しないのはみんな女だ、ということになる。
「6歳児でも本人にわかるように告知(説明)をせよ」といいたい。


【身体の性再判定ロールプレイング(15:15-15:40ころ)】
約6人ずつ3班に分かれて、二つの事例のそれぞれ割り振られた一つに関して、治療プログラムに同意するかしないか決める。その理由も考える。

(当日配布資料より)
●ケース(1)
 皆さん方は半陰陽児の両親です。
 皆さん方は、お子供さんを男児として九歳まで養育してきました。しかしお子さんは、男性の二次性徴の発現が現れません。そこで皆さん方は、子どもの性を再判定するために小児科で検査を受診することにしました。

《検査結果》
性染色体の構成 46XY核型
性腺の構成 片側小型精巣。精巣からは精子を生産していない。
内性器の形態 前立腺の形態は不完全で機能する可能性はない。
外性器の形態 陰茎のサイズは2.5cm以下に分化したマイクロペニスであり、また陰嚢は萎縮してしまって一見女性器形態の様に見える。
誕生したとき医師が判定した性 男児と判定
戸籍 次男
二次性徴の発現 男性ホルモンに対する身体的反応はない。
社会規範としてのアイデンティティ 自分は男でも女でもないと訴えている

医師は皆さん方に治療プログラムを次の通り提案しました。
あなた方のお子さんの場合、男性ホルモンの反応も悪いので、ペニスが2.5cm以下です。将来的にペニスが6.4cm異常に発達する可能性はありません。また、性腺は癌化する可能性が高いです。ですからお子さんの性腺を除去し、外性器を女性器に変えた方がいいと思います。戸籍も変更できますし、引っ越して女児として生活を送られた方がお子さんのためだと思います。

皆さん方は医師からお子さんを女児として養育するように告知を受けました。
さてこの医師が提案した治療プログラムを皆さん方は承諾しますか?
また子供にどの様に伝えますか?
また子供にどの様に伝えますか?

●ケース(2)
 皆さん方は半陰陽児の両親です。
 皆さん方は、お子供さんを女児として九歳まで養育してきました。しかしお子さんは、女性の二次性徴の発現が現れません。そこで皆さん方は、子供の性を再判定するために小児科で検査を受診することにしました。

《検査結果》
性染色体の構成 46XX核型
性腺の構成 片側卵巣、片側線状性腺。卵巣からは卵子を生産していない。
内性器の形態 子宮と卵管は発生発育していない。
外性器の形態 クリトリスは1.5cm、やや肥大しており、膣は浅くて狭い。
誕生したとき医師が判定した性 女児と判定
戸籍 長女
二次性徴の発現 性ホルモンに対する身体的反応はいい。
社会規範としてのアイデンティティ 自分は女性ではないと訴えている

医師は皆さん方に治療プログラムを次の通り提案しました。
あなたのお子さんの場合、女性ホルモンの反応がいいので、性ホルモン療法を続行する。また外性器形態を美容整形手術によって子供サイズ膣造形手術を行い、その後、思春期になれば大人サイズの膣形成手術を行う。そして肥大しているクリトリスは皮下埋没させると告知しました。

皆さん方は医師からお子さんを女児として養育するように告知を受けました。
さてこの医師が提案した治療プログラムを皆さん方は承諾しますか?
また子供にどの様に伝えますか?
また子供にどの様に伝えますか?

★ハッシーからの補足:手術費用の負担はない(先天性代謝異常の治療ということになるので)

【各グループからの発表(15:40ころ-16:00ころ)】
●第2グループ(ケース2):承諾しない(全員)
理由:最終的には本人が決めるべきこと。親であっても本人の意志を尊重すべき。
子どもには:9歳の本人にわかるような説明をする。インターセックスであることは恥ずかしいことではないという肯定的情報を伝える。いじめが起これば、親として子どもをできるだけ支援すると伝える。

●第1グループ(ケース1):今すぐ手術はしない
理由:1. 本人のアイデンティティは「男でも女でもない」というが、実情がわからないので速断すべきではない
   2. 本人に、とりうる選択肢を提示し、また将来選択してもかまわないのだと伝える
   3. 癌化を防ぐこと/女性器を作ること/女性として生きること、はみな異なるので、すべてまぜこぜにして治療を勧めてくるのは問題がある。癌の可能性があるというだけで摘出してよいということにはならない。
参考意見:学校での教師の対応なども子供にとっては大きな意味を持つことになるだろう。

●第3グループ(ケース1):これだけの情報では承諾できない
理由:1. まず子どもに聞く。手術をするかしないか、男がいいか女がいいか。
   2. 手術をしないとしても、社会制度の中では男か女かどちらかしか認められない。方便としてどちらかを選択するか、男社会の中で男でも女でもないという自覚をもって生きるのと、女社会の中で同じ自覚をもって生きるのと、どちらがましかということは考えられるかもしれない(個人的には、女として生きるほうがましかもしれないという意見あり)。

【ハッシーのコメント(16:00ころ-16:20ころ)】
 ケース1はハッシー本人である。医学書はめちゃくちゃ書いている。女として生きろと言っても無理。性腺は癌化していないのだから、不要だからとっちまえというのは乱暴。
 半陰陽を専門にしている医者はいない。性腺を取られ、外性器を作られてしまってから、相談してくる母親が多い。つい「なぜ承諾してしまったのか」と責めてしまっていた。お実際のケースで、父親はほとんど出てこない、子育てには無関心な父親が多い。母親と一緒に来る父親は立派。
 どうやって育てるのかということに、残念ながら答えはない。「私を手本にしろ」といえない。ケース1なら、片側の精巣に望みをかけて男として育てていこうとする母親もいる。でも、本人が「将来結婚するんだ」といっても、その希望はかなえられない。
 男でも女でもない生き方などない。便宜上男という生き方もない。だから答えがない。母親に言ってあげられることは「バランスよく生きていきましょう」というくらいしかない。私は性欲のかわりに食欲に偏っていた。勉強に生きる子もいる。
 ゲイは男。レズビアンは女。バイセクシュアルも男か女。全部ハッシーとは違う。ゲイの団体でも違和感を感じた。また障害者団体でも「私は障害者にされた」という。ハッシーが「勝手に男にされた」と言っても通じなかった、半陰陽といってもわからなかった。でも大阪セルフヘルプ支援センターで話をするようになって、画一化されたものから外れている人たちに初めて会った。私は支援センターで居場所を見つけた。

【質疑応答(16:20ころ-)】
●「勃起しない、射精しないのは男ではない」と、インターセクシュアルの人も思っているのか?
:そう思いこまされる。しかし自分自身はそう思っていない。すべての人間はジェンダー・モデルを追い求める。9歳までは、男の子のようなものだと思っていた。父や兄のペニスや陰嚢のほうがおかしいと思っていた。9歳で、ほかの男の子たちにも父や兄のようなペニスや陰嚢があることを発見する。

●ハッシーは、ジェンダー・モデルはないといいながら、はしばしにジェンダー・モデルを感じる。「勃起しない」云々は、ジェンダーの規範にとらわれている。勃起しない・性交しないセックスがあってよい。
:そのへんで食欲に入っていく。

●食欲に行くのは、ずれているのでは?
:照れている。実際には、半陰陽児はほとんど女の子にされている。本人たちは外性器を変えて悩んでいる。母親たちは、挿入しないセックスはないと思っている。だから本人たちは「セックスしなくても生きて行ける」と思って、食欲や勉強に走る。

●いわゆるノーマルなセックスができないから、食欲になっていく?
:そういうふうにならない。

●何でならないのか?
:女の子の世界にいるからでは。

●そうならない、というのは決め付けでは?
●オルタナティブがあるとは思っている。インターコースがないと駄目と思っているのと、インターコースがなくてもいいやと思っているのとは、少し違う。
●いわゆるインターコースを伴わないセックスをよしとするパートナーとは出会いにくいというのはあるのでは。障害者よりも。
:見せるということが恥ずかしい。子ども時代に触診・内診され外性器を変えられたトラウマがある。脱ぐということが、そのトラウマをフラッシュバックさせる。

(花立さんからのコメント)
●最近、性の多様性がすこしずつ認識されるようになってきたが、女ー男という性の2元制の枠組をこえるものはすくない。ようやく、性の多様性について、すくなくとも社会的な性(ジェンダー・パターン、ジェンダー・ロール)、心の性(ジェンダー・アイデンティティ)、身体の性(セックス)の3つの階層と性指向(セクシュアリティ)の4つの重要な変数があることが認識され、その概要が整理され語られるようになってきた。今日の話は、その1変数とみなされている身体の性も多層な講造をもち、たとえば性染色体の構成によってのみ決定されるという単純なものでなく、様々な要因が複雑にからみあって決定されている、女/男という2元制ではおさまらない多様性をもっているということ。マネー医師のプログラムは、「性は後天的に変えられる」というある意味で安易な構築主義の問題ともいえる。

(ハッシーの追加コメント)
半陰陽として育てるという場がない。半陰陽のままでいろ、と親や本人に言えない。
intersexというのは医学用語。インターセクシュアルというのは自分で作った。
いま危惧しているのは、医療技術がどんどん先に進んでいる。ヒトゲノム研究所から患者さんのところに問い合わせが来る。性染色体の遺伝子解析などと言っている。遺伝情報で人間の性を分けるようになってしまっている。もっと進むと、遺伝子治療の対象になる。画一化された遺伝情報によって生まれる男と女になってしまう。どうなるかわからない恐怖がある。

●インターセックスの人が勉強しいくと「あの人たちは勉強できるからいい」という能力主義になるのでは?

●花立さんが「マネーは構築主義の失敗」というのは間違いでは。こうあるべき性というのは、むしろ社会的構築物としての強固さを示している
:ソーカル事件で論争になっているが、私は物理学や生物学のように、物質とのハードな関係が問題になる部分では、構築主義を使うのは慎重であるべきとかんがえている(花立)
:マネーを恨むのは、憎しみと悲しみをぶつける対象にしている。憎しみと悲しみからの解放を求めている。(ハッシー)

●手術を受ける人々は多いのか?
:外性器がおかしいのはみんな受けさせられる。ハッシーのように、手術を受けなかったのは「超ラッキー」(ダイヤモンド博士)。

●ろう児のケースにも類似点がある。親の希望として早期の人工内耳や補聴器、口話法で聴者に近づけようとするが、困難は続き、やがて手話の世界に入っていく。半陰陽の場合、手術後も日本半陰陽者協会に悩みを訴えてくる親や本人がいるというが、どのような悩みなのか。
:手術し、ジェンダーを選ぶが、やはり期待通りにはいかないから。

●ろう者の場合はろう学校やコミュニティがあるから「音声言語ではない」選択肢を求めやすいだろうと思う。半陰陽者同士が出会える場所はないのか?
:横浜の病院では50人いて、医師が母親の会を作ることを勧めていたが、結局作れなかった。半陰陽専門の集まりは日本ではpesfisしかない。医師達が患者会をなぜ作ってこなかったか。だから私は私は患者会を作ろうと思っているだけ。今の制度は十分成り立っている。男女というより、その子らしく育ててほしい。

*参加者数:22名(うち通訳2名)



UP:20090717
全文掲載   ◇障害学研究会関西部会 2000   ◇障害学 2000
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