HOME > 全文掲載 >

「著作権審議会第一小委員会『審議のまとめ』1999/12/09(抜粋)」


last update: 20151221


■ 著作権審議会第一小委員会『審議のまとめ』1999/12/09(抜粋)  ■
--------------------------------------------------------------------

II 障害者の著作物利用に係る権利制限規定の見直しについて

 現行著作権法上、盲人用の点字による著作物の複製及び、点字図書館等で
政令で定める施設における盲人の貸出しの用に供するための著作物等の録音
については、無許諾・無償で行えることとなっている(第37条、第86条、第
102条)が、近年、デジタル化・ネットワーク化の進展により、障害者の著
作物等の利用形態も多様化が進んでいることから、著作権制度の見直しに当
たっては、著作権等の保護のみならず、著作物等の公正な利用の観点にも配
慮し、障害者による著作物利用がより円滑に進められるよう配慮すべきとの
要望が高まっている。

 著作権審議会マルチメディア小委員会複製検討班においては、平成 9年12
月の設置以来、技術の進展に伴う著作物等の利用機会と流通手段の変化に即
して、複製に関する権利制限規定の見直しに関し関係団体からのヒアリング
を実施するとともに検討すべき論点整理を進めてきており、課題の一つとし
て、障害者に係る権利制限規定についても検討を行った。その結果、障害者
への著作物等の提供に係る権利制限については、技術の進展への対応という
観点からの検討に加え、障害者福祉と著作権保護のバランズについて、より
広い観点から検討を行う必要があるとして、第 1小委員会でさらなる検討を
加えることが適切であるとされた。

 また、平成11年 8月の総理府障害者施策推進本部決定「障害者に係る欠格
条項の見直しについて」においては、身体又は精神の障害を理由としてこれ
らの障害を有するものに一般と異なる不利益な取扱いを行うことを定めた法
令の規定等の見直しを平成14年までに行うこととされている。著作権問題が
欠格条項の問題と直ちに関係するものではないが、政府全体として、障害者
向けの情報提供の充実等の措置を含めた障害者の社会活動への参加を促進す
る取り組みがなされているところである。

 このような状況を踏まえ、本小委員会においても、障害者のより適切公正
な著作物等の利用のための権利制限規定の見直しについて検討を行った。

 具体的には、マルチメディア小委員会複製検討班における審議、及び障害
者からの要望を踏まえ、視覚障害者に関しては、 (1)点訳の過程で行われ
る点字データのコンピュータヘの蓄積及びコンピュータ・ネットワークを通
じた送信、 (2)録音図書作成に係る権利制限の拡大、並びに (3)音声解
説の付加について、また、聴覚障害者に関しては、 (1)放送番組等の字幕
又は手話によるリアルタイム送信(リアルタイム字幕等)、 (2)字幕ビデ
オの作成及び (3)字幕放送、手話放送について検討を行ったほか、学習障
害者等に係る権利制限規定についても要望があることを踏まえ、検討を行っ
た。

 各々の事項についての具体的な検討内容及び検討結果は、以下のとおりで
ある。

1. 視覚障害者関係

(1) 点字データのコンピュータヘの蓄積及びコンピュータ・ネットワーク
を通じた送信

   第37条第 1項は、「著作物は盲人用の点字により複製することができ
る」としており、点字による複製は自由とされている。しかしながら、
  近年の技術の発達に伴い、パソコンを用いた点訳が増加していることか
  ら、

  (a) 点訳の過程における点字データのコンピュータヘの蓄積について
     明文の規定を置くこと
  (b) 視覚障害者情報提供施設聞及び視覚障害者情報提供施設から視覚
      障害者へのネットワークを通じた点字データの提供を自由に認め
     ること

  についての要望が高まっている。

   この問題については、パソコンによる点訳が点字図書の大半を占める
状況となっている現在、限られた人的、物的条件の中で点字情報資源の
  有効利用を図るためには、点訳ソフトにより変換された点字データの保
存とネットワークを利用した活用が重要なものとなっており、このよう
な利用ができるよう速やかに対応することが必要となっていること、ま
  た、パソコンによる点訳や点字データの保存、ネットワーク送信は、従
来自由利用が認められてきた点字複製に対し、技術の進展に対応した延
  長的な利用形態と考えられること、点訳の過程で生じる点字データは健
  常者が流用することが想定しにくいものであり、権利者の通常の利用を
妨げず、その正当な利益を不当に害するものでもないと考えられること
から、権利制限により自由に行えることとすることが適当と考えられる。

 また、従来、点字による複製が特定の施設に限定することなく行われ
てきたことに鑑みれば、点字データの複製、送信についてもその利用主
体を限定することは適当でないと考えられる。

 このほか、点字データを受信した後の利用者(視覚障害者情報提供施
設又は視覚障害者)の利用形態として、(ア)点字データを点字として
印刷して利用すること、(イ)点字データをいったん保存した後音声化
すること、及び(ウ)点字データをいったん保存した後ピンディスプレ
イを用いて読むことが考えられる。

 これらの利用については、現行第37条第 1項や第38条第 1項の権利制
限規定により自由に行えることとなっているか、又は著作権の保護の対
象となる利用行為でないと考えられるが、今後、技術の進展に伴う利用
形態の変化に応じ、点字データの受信後の円滑な利用に配慮する必要が
ある。

(2)録音図書作成に係る権利制限の拡大

  第37条第 2項は、録音図書は「点字図書館その他の盲人の福祉の増進
を目的とする施設で政令で定めるものにおいて、もっぱら盲人向けの貸
出の用に供するため」に作成することができるとしており、具体的には、
視覚障害者情報提供施設で点字刊行物や盲人用の録音物を盲人の利用に
供し、又は点字刊行物を出版するもの、盲学校に設置されている学校図
書館等が政令で指定されているが、これら以外の施設において録音図書
を作成する場合には権利処理が必要となるため、第37条第 2項の対象施
設の拡大についての要望がある。

  また、他の施設にコンピュータ・ネットワークを通じて音訳データを
  送信する行為についても新たに権利制限を行うべきとの意見や、録音図
  書の利用対象者を学習障害者や高齢者等に拡大することについても要望
  がある。

  この問題については、一部の著作権管理団体において、権利者の了解
  を得て無償で許諾を行うこととしているように、既に一定の権利処理の
  ルールが形成されている。また、健常者も利用することができる複製物
  が作成されることから、今後、流用を防ぐどのような措置を講じること
  が可能かという点についても検討を行う必要がある。このようなことか
  ら、より適正な権利処理ルールの確立・運用についての状況を踏まえな
  がら、引き続き検討を行い、権利者をはじめとする関係者の十分な理解
  を得る必要があると考えられる。

(3)音声解説の付加

   音声なしに映像のみが放送されている場面について、視覚障害者のた
  めに音声解説を付加することについては、音声解説を新たに付加するこ
  とは放送されている映像の複製とは考えられず、映像の著作権侵害には
  当たらないと考えられる。

2. 聴覚障害者関係

(1)放送番組等の字幕又は手話によるリアルタイム送信
(リアルタイム字幕等)

   聴覚障害者からは、放送・有線放送される著作物の音声内容を字幕化
  し、放送とは別にリアルタイムでコンピュータ・ネットワークを通じ提
  供すること(リアルタイム字幕)を無許諾で行えるようにすることにつ
  いて要望がある。
  
 この利用形態は近年のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い可能
  となったものであるが、特に緊急事態におけるニュース等の生番組など、
  事前に字幕を付加することが困難である放送番組に関する障害者の情報
  保障の観点から緊急性が高く、速やかに対応する必要があると考えられ
  ること、また、健常者であればリアルタイム字幕を利用することなく、
  通常の放送番組を視聴すると考えられることや、複製権を制限せず、ネ
  ットワークによる字幕の提供(自動公衆送信)についてのみ制限を行う
  のであれば、その後の流用も想定しにくいことから、権利者の利益を不
  当に害するものでもないと考えられることから、権利制限により自由に
行えることとすることが適当である。

 この際、音声内容を一部要約等することから、翻案権についても制限
する必要があると考えられるが、同一性保持権については、著作者の人
格的利益の尊重という観点から、制限することは適当でないと考えられ
る。

  さらに、著作者の権利保護の観点から、字幕作成は一定の組織、設備、
  人材を確保できる施設等に限定して行うこととすることが適当と考えら
  れる。

   また、字幕と同様リアルタイムで手話の映像をコンピュータ・ネット
 ワークを通じて提供することについては、現時点で通信回線の整備状況
  等から見て実現可能性が低く、今後の通信環境の整備や手話放送等の普
  及状況等を踏まえながら検討する必要があると考えられる。

  このほか、字幕の受信後の利用形態については、現在、個々の家庭内
  等における利用が主に想定されるが、今後の利用形態の変化に応じ、点
字データの受信後の利用と同様、障害者の円滑な利用に配慮する必要が
  ある。

(2)字幕ビデオの作成

  現在、映画の著作物等の字幕ビデオの作成については許諾を得ること
  が必要となっているが、聴覚障害者のより円滑な著作物の利用のために、
  これを自由に行えるようにすることについての要望がある。

   この問題については、現在、一定の施設において権利処理の窓口を集
  中化し、一括してビデオの作成を行う等、既に一定の権利処理ルールが
  形成されている。また、健常者も利用することができる複製物が作成さ
  れることから、今後、流用を防ぐためのどのような措置を講じることが
  可能かという点について慎重に検討を行う必要がある。このようなこと
  から、より適正な権利処理ルールの確立・運用についての状況を踏まえ
  ながら、引き続き検討を行い、権利者をはじめとする関係者の十分な理
  解を得る必要があると考えられる。

(3)字幕放送、手話放送

   聴覚障害者のための字幕放送や手話放送の拡大について要望があるが、
  字幕放送等については、放送事業者が放送許諾を得る際に、字幕放送等
  に係る権利処理を同時に行うことより対応することが可能と考えられ、
  当面字幕放送等の普及状況を見守ることが適当と考えられる。

3. 学習障害者等関係

 視聴覚障害者以外にも、学習障害者等に対し、権利制限による様々な
形態での視聴覚障害者に準じる「情報保障」の要望がある。

  この問題については、学習障害者等の判断基準や範囲が現時点におい
てまだ確定しているとは言い難いこと等の問題があることから、政府全
体としての取組み等、関係各方面の検討状況を見ながら引き続き検討を
行うことが過当と考えられる。



全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)