「災害時に必要 字幕付き放送」
田中 邦夫 1999/10/06『朝日新聞』,「声」欄
last update: 20151221
災害時に必要 字幕付き放送
田中邦夫
『朝日新聞』1999年10月6日「声」欄
東海村の原子力事故と周辺住民の退避を知って、聴力障害者がい
たらどうしているかと、私は同じ障害者としてとっさに考えた。
一部の地域では戸別に知らせて回ったというが、総計31万人と
もなれば、ラジオやテレビの情報で判断した人も少なくあるまい。
それが聞えないとどうなるか。テレビの画面だけでは断片的なこと
しかわからず、いたずらに不安を高めただけだろう。
阪神大震災の際も、震災直後の状況を知るのは聴覚障害者がもっ
とも遅かったと言われる。
ドラマ等の一部の番組に字幕の付いたものが増えてきたのは喜ば
しいが、ニュースの方がはるかに必要性が高い。しかし、放送局側
は正確に字幕化できない、本番で原稿が変わることがあるなど、乗
り気でないところが多いという。完全主義を目指さなくてもいい。
少なくとも緊急の場合は要約でもいいから字幕をつけてほしいもの
だ。
最近、聴覚障害者が参加する講演会などでは、質疑応答を含め、
同時にコンピュータを使って要約筆記を大画面に表示するところが
出てきた。
なお、現在ある字幕放送も役所や大病院、その他の公共の場所で
受信している所は、まず無いことも指摘しておきたい。