「著作権法と障害者」(シンガポール他)
田中 邦夫
last update: 20151221
■「著作権法と障害者」(シンガポール他)
田中 邦夫(たなか くにお・国立国会図書館)
『月刊福祉』第82巻11号〔1999年9月号〕p.123
シンガポールの著作権法によれば、視覚障害者援助施設によって一定の条件下で行われる出版物の複写ないし複製は、著作権を侵害するものではないとされているが、1998年4月16日に発効した改正によって、これは知的障害者援助施設にも適用されることとなった。
立法の趣旨とは別に、結果的に障害者にとっては障壁となる法律があるが、著作権法もその1つである。点訳、録音図書、字幕など、障害者が情報にアクセスするために必要なメディアの変換が、著作権法によって制限される例が見られる。これに対してアメリカではフェア・ユース、イギリスではフェア・ディーリングという、一定の条件においては著作権法の排他性を制限する判例法的な考え方があるが、近年ではアメリカをはじめとしてそれを明文化しようという傾向が見られるようになっている。
オーストラリアの著作権法においても、すでに47条のAにおいて文字障害者(people with a print disability)用ラジオ免許の保有者によるラジオ放送を、また135条のZN−ZTにおいて文字障害者と知的障害者の、それぞれ援助施設による著作物(テレビジョン放送を含む)の複製を、いずれも著作権の侵害とみなさないと規定していたが、1998年の改正によってこれらの援助施設が営利組織であっても可能になった。なお、この改正案起草に際しての著作権法調査委員会の報告は、さらに聴覚障害者のためにテレビジョン等につけられる字幕に関しても、同様な規定が設けられるべきであると勧告している。
(資料)Mondaq Business Briefing 04/98;Simplification of the Copyright Act 1968 (http://www.agps.gov.au/customer/agd/circ/circ%20report/);田中邦夫:人権と障害者(3)(『レファレンス』570 1998.7)