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「著作権法改正に関わる要望について」

障害者放送協議会

last update: 20151221


                       平成11年6月10日
        著作権法改正に関わる要望について

                         障害者放送協議会
                           代表 村谷昌弘

 1988年の著作権法大改正の際、障害をもつ人の情報利用について配慮する
ようにとの付帯決議が出されましたが、その後今日まで、必ずしも十分な取り
組みがなされたとは言いがたいものがあります。
 今国会で、「著作権法の一部を改正する法律案」が提出されるにあたり、本
協議会では、去る6月4日、「障害者の情報アクセスと著作権法を考えるシン
ポジウム」を、文教委員諸先生方のご出席のもと衆議院議員会館にて開催し、
各障害者団体による要望事項をとりまとめました。
 つきましては、ここに以下の点を要望いたします。

1)手話および聴覚障害者のための字幕を、著作権法第37条に準じて、公表
  された著作物に付加することを認めてください。これにより、手話および
  字幕による、同時通訳を含む情報保障が、許諾等を経ず円滑に行えるよう
  にしてください。

2)点字について、著作権法第37条で認められている事柄を、今回の改正法
  においても十分に保証してください。またこれに準じて、映像による著作
  物に視覚障害者のための音声解説を付加することを認めてください。さら
  に第37条が、インターネットなど新しい技術を用いた通信・放送の場に
  も適用されるようにしてください。

3)録音図書を含む音訳物について、現在利用対象者として認められている視
  覚障害者だけでなく、音声情報を必要とするLD(学習障害)者や高齢者
  などにも、利用対象の範囲を広げてください。

4)インターネット等を利用した、新しいマルチメディア技術の普及の中で、
  情報の翻案、要約、書き直し(rewrite)等を必要とする、知的障害者や
  LD(学習障害)者などに対して、情報アクセスの権利を保証してくださ
  い。

5)国および文化庁におかれましては、著作権審議会の委員に、視覚障害・聴
  覚障害など各分野の障害当事者団体代表を含めるとともに、障害者の情報
  アクセスと著作権について、障害者団体と継続的に協議する場を設けてく
  ださい。

                                以上。



…………………………………

1999年6月19日

「障害者放送協議会研究委員会と文化庁著作権課と話し合い」(報告)


              (社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合

                         理事長 高岡 正



 6月18日午後6時より、文部省6階の特別会議室で障害者放送協議会放送
研究委員会と著作権課との話し合いが行われました。これは、去る6月4日
に衆議院会館で「障害者の情報アクセス権と著作権を考えるシンポジウム」
で採択された文部大臣宛の5項目にわたる要望書を提出したものです。この
話し合いの実現には八代英太議員にお骨折りを頂きました。

 私たち聴覚障害者の情報アクセス権について、文部省著作権課が吉田課長
以下担当官が5人も話し合いに応じて頂いたことは、6月11日に今国会の文
教委員会で障害者の情報アクセス権問題が質問で取り上げられましたように、
障害者の情報アクセス権と著作権の問題が目下の喫緊の課題になっているこ
とを示すものです。また、全日本ろうあ連盟と全難聴等が組織する差別法令
の改正をめざす中央対策本部が著作権問題で文化庁と交渉を重ねてきたこと
と比べても大きな前進です。

 最初に、5項目の要望の説明から行われ、私から字幕や手話の挿入が著作権
法に触れるために聴覚障害者の情報アクセスが著しく損なわれていることを
説明しました。毎日見ているテレビ放送の音声に字幕がないために放送事業
者以外の私たちが提供する字幕の字の間違いがあったとしても聴障者の情報
を得る権利を制限する理由になるとは思われないこと、著作権法が聴覚障害
者の存在を想定していないこと、著作権法が科学技術の発展により大きな可
能性をもつ障害者の情報アクセスを制限しないように求めました。

 字幕入りビデオを制作する他の委員からも、聴覚障害者に音声を伝える手
段としても文字を用いる以外ない以上、点字のように1対1の関係にないか
らとして「同一保持権」の主張はおかしいことも出されました。

 視覚障害者からは、点字はパソコンで行われる例が増えているが電子デー
タにいったん蓄積されること、点字データや朗読の音声データは聴覚障害者
情報提供施設のネットワークを通じて配信されることから、点字の電子デー
タが著作権法に抵触することはおかしいと訴えました。全要研の委員からは、
いきなり権利者である著作権者と視聴者である障害者の権利の「調整」に入
るのではなく、基本的人権である障害者の情報アクセス権をどう位置づける
のかという研究会を設けてはどうかという意見がだされました。

 学習障害児の親の方からは、知能発達に遅れがないのに特定の文字や音の
認識が出来ない子どもには要約や言い換えなどの必要があることから著作権
法上の配慮を求めました。
 5項目目の要望事項として、一つめの著作権審議会に障害を持つ当事者を含
めて欲しいことに対して、著作権課は昨年の視覚障害者に続いて聴覚障害者
の意見を聞く機会を設けることを言明しましたが、委員に含めることは難色
を示しました。現在の委員は学識経験者と著作権権利者、「大量の利用者」(著

作権課長)である放送事業者などで構成されていて、「著作物を享受」(同)
である障害者や一般の利用者は含まれていないことが明らかになりました。
それは学識経験者に含まれているという考えです。

二つ目の継続的な話し合いの場を設けることに対しては良いとは思うが即答
は出来ない、検討しますという回答でした。

 著作権課としても聴覚障害者の情報アクセス権が重要な権利と認識してい
ることを確認しました。最後に、アクセス権を拒否された事例として、落語
に手話を付けないことを決めている東京の落語団体とか講演で手話通訳を拒
否された例とかが出され、これには著作権課でも拒否する根拠が法律にない
ことを認めました。手話の著作権法上の位置づけについては、すぐにでも回
答ができるということでした。

 要望書は7月そうそうには回答していただくことを確認して、始めての交
渉を終わりました。


……………………

(回答)


平成11年6月22日

(財)日本障害者リハビリテーション協会

    河村 宏   殿


                     文化庁長官官房著作権課長

                          吉 田 大 輔



先日の意見交換会で御質問のあった手話通訳者と著作権との関係について、下記の通
り回答します。


         記



 講演や説明会において手話通訳を行う場合は、財産権である著作権(複製権、口述
権など)との関係では問題はないものと考えられるが、当然に表現形式の変更を伴う
ことから人格権である同一性保持権との関係が問題となる。しかし、それが手話通訳
に伴う必然的な避けえない表現の変更にとどまる限りにおいては、基本的に同一性保
持権侵害とはならないものと考えられる。なお、手話通訳にあたって、著作物の内容
を実質的に変更してしまう場合や誤訳の場合については、手話通訳に伴う必然的改変
とはいえないことから、同一性保持権の問題となる。







平成11年6月22日
(財)日本障害者リハビリテーション協会

    河村 宏   殿



                      文化庁長官官房著作権課長

                           吉 田 大 輔

                                  

 

平成11年6月18日付けで各団体からいただいた御要望については、文化庁としては、
今後、下記の方針により対処していきたいと考えている。



         記


障害者と著作権との問題に関しては、障害のある方々への配慮と著作権の保護とのバ
ランスを図っていくことが重要である。

文化庁としては、情報技術の変化等の環境変化に対応して、障害者と著作権との問題
についてどのように考えていくかは、重要な検討課題の一つであると考えており、上
記のような視点から、著作権審議会の場で検討を行っていきたい。また、審議会での
検討に当たっては、障害者関係団体の意見も十分に聞いていきたいと考えている。



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