「聴覚障害者の受診抑制の実態」(世界の動き・イギリス)
田中 邦夫
last update: 20151221
聴覚障害者の受診抑制の実態
世界の動き・イギリス
『月刊福祉』第82巻6号 1999年6月 p.126
田中 邦夫(たなか くにお・国立国会図書館)
「聴覚障害者の健康は危機に瀕している」。王立ろう者研究所(Royal National Institute for Deaf People:RNID)は聴覚障害者の社会生活に関する広範な調査の結果を1999年2月18日に公表し、この点を強調している。
1666名から回収したアンケートによれば、その16%がコミュニケーションが困難であるとして医者の受診を避けており、23%が予約をうまく取れない。きわめて個人的な検査を受ける場合も含めて、32%が通訳のために家族や友人を同伴する。一般的事項としては、39%の聴覚障害者が知らない人と会うのを避けるとし、また91%が公共の場で困難を感じることがあると言っている。
併行して行われた調査会社による調査の結果では、一般家庭医(GP)の87%が聴覚障害のある患者ときちんとコミュニケートしていると考えているが、一方で52%が聴覚障害者とどうコミュニケートすればよいのかわからぬと答えている。聴覚障害者側の回答では、「医師や聴覚訓練士はもっとも理解してくれるべきなのに、実際は反対だ。不機嫌でせっかちでぶっきらぼうだ」。「筆談を拒否し、時としては患者が聞えないということを受け入れない」。
特に受け付けのスタッフが、聴覚障害者とのコミュニケーションについて心得ていないのが問題であるが、この点については本年10月の障害差別法第3部の施行で、サービスの提供をめぐっての障害者差別は違法となるとしている。
RNIDの最高幹部によれば、「ろう、ないしは難聴の者が、単に聞えないからということで低い水準の医療しか受けられないのは法に外れる。もし私がGPであれば、この状態を何とかせねばならないと考えるだろう。課題がコミュニケーションであれば、ほんの少しの努力で変えることができる。GPがこのことに気付くのは、早ければ早いほどよい」。
GPカレッジの学長は、「われわれはRNIDによるこの調査を歓迎し、GPの必要とする教育と訓練をすべての分野で続ける。何よりもまず注意を喚起することだ」と述べている。
(資料)Leicester Mercury 18/02/1999;
RNID: "Can you hear us? Deaf people's experience of social exclusion, isolation and prejudice." (http://www.rnid.org.uk/campaigns/btsbupdate.html)