「地位保全等仮処分事件準備書面(1)」
last update: 20151221
平成11年(ヨ)第21044号 地位保全等仮処分事件 (全文)
準 備 書 面(1)
債権者 A 氏
債務者 社会福祉法人愛成会
1999年4月15日
右債権者代理人
弁護士 中 川 真
東京地方裁判所 民事11部 御中
第1 債務者答弁書「第2 申立の理由に対する認否と反論」について
1 解雇理由について
J子に対する暴力行為以外の解雇理由は、すべて、仮処分で争われる段階になって
、はじめて債務者は主張し始めたものである。債権者は、J子に対する暴力行為を含
めて、全ての解雇理由について否認ないし争う。
債務者は、債権者に平成11年2月8日弁明の機会を与えたうえ退職勧奨をしたと
ころ、債権者がそれに応じて自ら「諭旨退職」に応じたと主張している。しかしなが
ら、2月8日の「話し合い」は、J子の兄による強度の暴力の影響下になされたもの
で、これが弁明の機会を与えたなどと評価できないものであることは、すでに申立書
に述べたとおりであるが、債務者のこの点に対する反論は、むしろ債権者の主張を根
拠づけるものである。すなわち、債務者は、債権者及び申立外職員B氏が呼び出しに
もかかわらず20分以上も事務室へ来なかったので、J子の兄がA氏を呼びに行った
。そして、J子の兄は債権者の顔を知らないのでいったん寮へ行き、J子に教わって
A氏を呼んできたと主張している。しかし、顔を知らない保護者に職員を呼びに行か
せるなどということはどう考えても不自然である。しかも、学園側はこの話し合いに
は乙第14号証にあるとおり、記録担当者まで用意しており、債権者を呼びに行く職
員がいなかったというわけではないのである。J子の兄が債権者を呼びに行ったなど
という主張はどう見ても不合理であり、J子の兄による暴力がなかったかのように装
う債務者の主張が、まったくのデタラメであることは明らかである。
さらに、J子に対して債権者が口止めをしたろいう点は強く否認する。むしろ、債
権者はJ子から寮や園長に対して報告しないように求められ、これに応じたものであ
る。つまり、学園では問題行動を起こした園生の「おやつ」を抜くなどの「罰」が行
われていたため、J子も暴れたことを寮などに報告されればおやつを抜かれてしまう
などの恐怖感を持ったため、報告しないでほしいと債権者に懇願したのである。そし
て、債権者は知的障害者がたのしみにしている「おやつ」を抜くという罰の与え方に
は常々疑問を感じてきていたため、これを報告しないことにしたものである。また、
債権者はJ子の口の怪我や体の痣についてはまったく認識していなかったし、仮に認
識していれば、きちんと医務の手当てを受けさせ、園にも報告したはずである。しか
し、外見上、J子に異常が確認し得なかったので、特に報告する必要はないと判断し
たものである。
2 J子の人格像について
申立書及び債権者陳述書に書かれたJ子の姿は、紛争を正確に理解するために、J
子の問題行動を抽出したものであって、J子の人格を狂暴な人間に描こうとしたとか
J子の人間性や人格を誹謗中傷するものという債務者の主張はまったく言いがかりで
ある。法律を知らない素人がそのような受け止めをするということはありえないこと
ではないかもしれないが、法律に詳しいはずの代理人までもがこのような主張を行っ
ているのだとすれば、驚くより他はない。
たとえは悪いが、教師をナイフで刺した「不良」の少年でも全生活史を見ればよい
点がるのと同じである。この場合に、その少年を処分するのであれば、その少年の全
側面を捉えて人格を把握する必要があるのは当然である(特に、少年法に基づく保護
処分の場合)。しかし、たとえば、その教師がナイフを少年から奪って逆に少年に怪
我を負わせたがその教師の行為について正当防衛が成立するかというような場合に、
その少年の全人格を問題にすることは争点をぼかし、事実を曖昧にするためにしか役
に立たない。
しかも、乙第12号証菊池扶美枝の陳述書によればJ子には「いわゆる自傷行為は
見られません」と断言している(3頁)。しかし、甲第4号証「ケ−ス会議」では「
自傷」ということが明確に指摘されている(5丁)。また、同じく甲第4号証には「
イライラすると他生に八つ当たりする。手が出やすい。」という問題点も明確に指摘
されている。
結局、債務者の主張は、「障害者の人権」ということを、いわば「錦の御旗」とし
て、自らのなした人権侵害には目をつぶらせようとしているのである。
債務者は、「障害者に対する暴力が暴力でなくなる」かのような詭弁を債権者が用
いているとしているが、このような債務者の論法こそがまさに詭弁なのである。
本件では、債権者のJ子に対する「暴力行為」の態様がどのようなものであったか
という点が最大の問題点である。
まず、債務者の主張には幾つもおかしな点があるが、たとえば、「A氏の解雇理由
」(乙第2号証)では、債権者の暴力として「階段を引きずりおろした」という行為
があるが、乙第6号証報告書では、引きずるようにして2階へ連れていったとはある
が階段を引きずりおろすような暴行は他のどこにも出てこない。
このような不一致は、たまたま生じたという性質のものではなく、そもそもそのよ
うな暴行がないのをデッチアゲによって、債権者を解雇しようとしていることから生
じているものである。
第2 本件解雇の背景事情
1 債権者の職場からの排除
本件解雇の本質は、学園の園生に対する処遇の在り方や職員集団の在り方などに疑
問を感じ、不満の意を表明していた債権者の職場からの排除を岩田園長ら学園側が企
図し、J子に対する「暴力行為」に名を借りて、債権者を学園から排除したものであ
る。
本件で、債務者は債権者の暴力行為を問題としているが、学園の実態は、まさに知
的障害者への虐待が日常化していたのである。すなわち、生活部C氏は園生を移動さ
せるときに園生がなかなか動こうとしないと、首根っこを持って立たせたり、足で蹴
ったりしていたものであるし、職員D氏は園生を押し倒し、押し倒した園生の上に椅
子を乗せて座ったり、園生が騒いだときには口をタオルで縛ったりしていたものであ
るし、職員E氏は園生に右の頬を叩かれたら感情的になって左の頬を叩き返すなどの
暴力行為が行われていた。この他にも、陳述書を提出していない職員の多くが園生に
対する暴力行為などの問題行動があった。また、重度の障害者を昼休みの間中トイレ
に縛り付けておくという、人権に反する処遇も園では行われていた。
債権者は、このような学園の在り方に疑問を感じ、岩田園長などに意見を言ったり
しいているが、結局受け入れられず、その憤懣をたとえば挨拶をしないというような
方法で周囲に伝えようとしていた。このような拙さは確かに債権者にもあるが、決し
て債権者のみに非があるわけではない。
本件解雇は、このような債権者を職場から排除することにより、職場の現秩序を維
持することを目的としてなされたものである。
2 学園の対応
学園では、本年4月4日に緊急の保護者会を開くなど、本件について債権者のみを
「暴力職員」に仕立て上げることで事態の解決を図ろうとしている。
今回、愛成学園保護者会から「上申書」が証拠として提出されたが(乙第21号証
)、これは保護者が学園に来園する毎に署名を依頼していたものであるが、この4月
4日の保護者会では寮ごとにまだ署名をしていない保護者の名前を名簿に記載して署
名するように圧力をかけながら署名を集めたものである。知的障害者のための施設が
圧倒的に不足する中で、障害者をいわば「人質」にして署名を集めたものであり、ま
た、何らの事実調査も行わず、債権者がJ子に対してひどい暴力を振るったというこ
とを所与の前提とするものであり、むしろ債務者が債権者を何とか辞めさせようと
いう意図を有することを証する証拠と評すべきものである。
以上