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「答弁書」

副島洋明他→東京地方裁判所 1999/03/24

last update: 20151221


平成一一年ヨ第二一〇四四号   地位保全等仮処分申立事件


                  債権者    ××××

                  債務者    社会福祉法人・愛成会 

   平成一一年三月二四日
                                        
               右債務者代理人
          東京都千代田区二番町一一―一〇 麹町山王マンション三〇七号
               副島法律事務所
                 主任弁護士   副島洋明       
                                        
          東京都中央区銀座三―七―一六 銀座NSビル六階
               木下・大石法律事務所    
                    同    大石剛一郎      

          東京都渋谷区恵比寿南二―一―一二 佐藤ビル四階 
               登坂法律事務所    
                    同    登坂真人       
                          
東京地方裁判所
  民事第一一部ろ係 御中

 
                                        
            答 弁 書       
                        
第一、申立の趣旨に対する答弁

 一、債権者の申立はすべて棄却する。

 二、申立費用は債権者の負担とする。

  との決定を求める。

第二、申立の理由に対する認否

 一、第一(当事者)については認める。

 二、第二の一(債権者の解雇)について
  1.平成一一年二月九日、債務者(岩田園長)が債権者××に解雇通知(甲第五号 
   証)を交付したことは認め、その余はすべて否認する。
   
  2.「解雇の理由」は、「利用生に対して暴力を振るった」ということを挙げてはい
   るが、それのみではない。債務者(岩田園長)はその就業規則(甲第二号証)第二
   〇条(服務の心得)、第一七条(解雇)及び第三七条(制裁)の二号「素行不良で
   風俗秩序を乱した場合」及び三号「自己の職務を忠実に実行しない時」、の各規定
   に基づき、その違反・非行は重大であるとして懲戒解雇したものである。その解雇
   理由(乙第二号証)は後述する。
   
  3.「園長岩田の全くの一方的な決めつけによるもの」としているが、そうではな 
   い。岩田園長をはじめ幹部職員らが債権者××のこれまでの非行や違反行為と今回
   の暴力事件を検討して、同年二月八日、債権者××に弁明の機会を与えたうえ退職
   勧奨をしたところ、債権者××自身が二月八日にそれに応じて、自ら論旨退職に応
   じたものである。(乙第四号証)
   
 二、第二の二(解雇理由の不存在)の前書について
  1.債権者××が平成一一年二月三日と同月五日に園生・××××さん(以下××さ
   んという)に対して暴力をふるったということの他はすべて否認ないし争う。
   
  2.債権者××は、「やむにやまれぬ事情が存したものであり、『暴力』と評価すべ
   きものではない。『体罰』でもなかったし、ましてや『虐待』などという性質のも
   のでは決してなかったのである』などと弁解しているが、債権者××が二月三日に
   なした暴力はまさに障害者虐待というべきものである。二月三日の暴力を現認して
   いる職員西川登子の報告書(乙第六号証)及び被害者である園生××さん本人から
   その被害の実態を直接に聞いている職員多田羅初子の報告書(乙第九号証)をみれ
   ば、その暴力の状況は虐待というべきものである。
   
 三、第二の二の1(××の性格特徴及び行動特徴)について
  1.被害者××××さんが知的障害者で、園生の中では知能程度は高いほうであるこ
   とは認め、その余はすべて否認ないし争う。
   
  2.「しかし」から以降の文章は、園生・××さんをまるで狂暴な人間というか、わ
   けもわからず暴れだす危険な人間のようにつくりあげて、その××さんの人間性と
   人格を全く誹謗中傷している。このような知的障害者観(人間観)こそ、知的障害
   者福祉の基本をふみはずしているものといえる。その申立書(四ページ)の中で、
   『しかし、気に入らないことがあるときなど興奮状態に陥り、暴れたり、自傷行為
   に及ぶことがしばしばある』とか、『またこの暴れるときには、その気に入らない
   ことをされた相手のみならず全くその事件に関係していない他の園生に対して突然
   体当たりしたり、髪の毛を引っ張ったりなどの行為に及び』、さらには『職員など
   から注意を受けると、ほとんど必ずといってよいほど自傷行為に及び、自分の体を
   引っ掻いたり、つねったりする』などという読むに耐えないような表現をされてい
   る。××さんの人間像(「しばしば」とか「ほとんど必ず」といえるような日常的
   な姿として)を園生・××さんの「問題点」だけを抽出して、まるで「異常人間」
   に仕立てている。そのようなことが許されるはずがない。またそのような知的障害
   者がいるはずもないことである。
    園生・××さんに対して債権者××の上司(主任)にあたる森田氏は、その報告
   書(乙第一一号証)の中で、『(××さんは)どの職員に対してもいつでもあばれ
   るように書いてありますが、興奮状態になっても××氏以外の職員の前では暴力的
   になることはほとんどなく、その職員の後を追い回し、自分の言い分を通そうとす
   る程度です』(一七ページ)と報告している。また職員(部長)の菊池扶美枝の報
   告書は、「××さんの人となりとかかわりについて」として、『私は以前、同じ寮
   で生活をしていました。陳述書(××)の中で××さんのわがままや異常なまでの
   行動が浮き彫りにされていますが、通常の××さんはビーズや折り紙、ししゅうな
   どが好きで、長い時間落ち着いて過ごすことのできる手先の器用な方です。また他
   の利用者の面倒を良く見るやさしい面があり、小さい子どもへの関心の示し方は、
   とてもいとおしさを感じさせるものがあります。一緒に赤ちゃんのことや小さい子
   どものことを話していると、ほのぼのとさせられる事がしばしばあります。デリ 
   ケートな感性の持ち主で、人にいわれた事や会話の中で心につまずきを感じるとと
   てもその事が気になり、追及してくるところがあります。そうした場面での受け止
   め方や対応がスムーズにいかないと、エスカレートしてしまい、いろいろな言動に
   発展してしまいがちです。創作班の中で少人数で密な関係を三年余続ければ、××
   さんとの関係性は自ずと把握できると思います』(右報告書・一、二ページ)と書
   いている。
    どうして人によってこんなに評価≠ェ違うのかということである。それは、×
   ×さんをまるで狂暴な人間と評価する××自身がそのようなかかわり(狂暴さ)
   ≠してきたことを証明している。
   
  3.申立書(五ページ)のいう『××は、身長一五〇センチメートル弱(正確には一
   四六センチ)で、体重が六〇キロ程ある』ことは認めるが、それはどういう意味 
   か。××(申立書)はおそらく狂暴なうえに重い体重の危険な××××さんのイ 
   メージをつくりだそうとしている。しかしよく考えていただきたい。××や××は
   立派な体格をした大人の男性である。その××の陳述書にあるように、そんな大人
   の男性から「押えつけられたり」「馬乗りになられて両手を持って押えつけられた
   り」(六、七ページ)「頭や頬を殴りつけられたりする」女性(障害者)の立場に
   なってみれば、その恐怖≠ヘおして知るべしというべきである。相手が知的障害
   者であれば暴力が暴力でなくなるなどというような論理はまやかしである。
   
 四、第二の二の2(債権者と××の関係)について
  1.その主張の認否としては、すべて否認ないし争う。 
    この申立書の文章(五ページ)は、まさに債権者××の権力的・独断的(つまり
   ひとりよがりの思い上がり)の思考をよく表している。××は、狂暴な人間でかわ
   いそうな××さんのために「××の更生とその可能性を信じて、決して××を見捨
   てることはしなかった」「真正面から真摯に指導した」として、暴力を正当化して
   いる。暴力をふるわれる被害者の身にすれば、そのような姿勢が大きな勘違い
   をしているとんでもない「熱血暴力マン」でしかないことに気づいていない。「真
   摯」「真正面」「見捨てず」「更正と可能性を信じて」等の美しい言葉に酔った
   ふり≠して暴力を正当化しようとしている。暴力は暴力でしかない。暴力をいか
   にも美しい言葉でかざりたてようと、「強者」と「弱者」の関係からの恐怖をつく
   りだすものでしかないのである。そして人は恐怖によって「成長」することはない
   し、「いい関係」がつくれるはずもないことである。
   
  2.債権者××の主張(申立書及び陳述書)には、知的障害者福祉の現場で働く者と
   しての基本的姿勢と認識が欠落している。××氏と同僚である職員・嶋田大子の報
   告書(乙第一三号証)と債権者××の陳述書を読み比べれば、いかに彼が知的障害
   者福祉の現場で働く職員としてその資質を欠いているかが明らかといえる。
    嶋田は「××さんの人間像に対する認識について」として、まずこの社会の中で
   知的障害者がいかなる状況にあるか、その苛酷な環境の中でも「人生を生きつづけ
   てきた障害を持った方々に愛おしさと敬意を感じます」としている。その視点のう
   えで、××××さんの人間像を具体的に自らのかかわり≠ニしてとらえている。
   そこから嶋田はその報告書で、××の知的障害者観・福祉技術(処遇)観、そして
   ××××さんとのかかわりを具体的に批判している。
    その報告書の最後に、この現場で働く職員の仕事について、「障害者の生活を支
   援する。それは職員がその人その人に応じて、必要なことを支援しようということ
   です。すなわち、障害者の上になって指導する時代はかなり以前の対応で、今は同
   じ人間として、もしくはお客様として障害者の人権を重んじながら対応するという
   ように変わってきました。その点からしても障害者に対する暴力はもちろん、障害
   者が先に手を出した防衛たりといえども、職員が一緒になって暴力をしてはいけな
   いと思います。学園では、平成九年六月一九日の職員会議において、西原雄次郎氏
   の『知的障害者施設における体罰≠ノついて』を職員一同読み合わせし、暴力は
   決してしないよう申し合わせをしました。その点からも暴力行為があったことが事
   実である以上、解雇されたことはやむをえないことです」としている。
   
 五、第二の二の3(「暴力」とされる事件について)について
  1.すべて否認ないし争う。
    債権者の申立書(六ページ)では、『(××は)××の暴力にひたすら耐えなが
   ら××に対する説得により××を落ち着かせようとしたが、それでも××が収まら
   ないため、やむにやまれず、いわば正当防衛ないし緊急避難的に××に対して有形
   力を行使したに過ぎない』などと主張している。まさに詭弁であり、知的障害者の
   人権を明らかに踏みにじる暴力論である。
   
  2.先の嶋田はその報告書(乙第一三号証)で、「××さんの暴力(二月三日)に対
   する反論」として、『××さんのように、少し興奮しやすい傾向のある人に対して
   は、職員が一緒に興奮したり、きつい言動をみせると、さらに興奮し、××さん自
   身収捨がつかなくなってしまったと思われます。このような時は、職員がよく話を
   聞き、××さんが今どんな気持ちなのかを受容すべきです。また利用者に馬乗りに
   なったのは、力で押さえつけている、そのことにつきますし、『××さんの頭を一
   回平手で叩きました。そこで××さんはようやく収まったんです』(陳述書七頁)
   とありますが、××さんは興奮が静まってからよく話すと理解し、自分のしたこと
   は謝ってくれる方です。陳述書にある対応は職員としての対応よりも××さんと同
   等の立場になって喧嘩をしているような対応といわざるをえません』としている。
    まさに大の男の××は女性障害者の園生・××さんと喧嘩≠し、暴力をふ 
   るってやっつけたことを「正当防衛とか、緊急避難的」なる言葉でごまかしている
   にすぎない。
   
  3.××の暴力を法律的な意味で「正当防衛若しくは緊急避難」などと主張するの 
   か、を明らかにしていただきたい。単なる暴力肯定論(正当化)のために、正当防
   衛とか緊急避難なる言葉を使うとすれば、それこそ実態を隠し、世をまどわす俗説
   でしかない。
   
 六、第二の二の4(小括)について
   すべて否認ないし争う。
   その主張(六頁)によれば、「債権者××が〈利用者に暴力をふるったという事実
  は存在しない〉以上、解雇の理由は不存在であり、本件解雇は解雇権の濫用として無
  効とされねばならない」などとしている。詭弁を弄した正当防衛・緊急避難論で暴力
  の事実をもみ消し、つくりかえようとしているが、そのような主張自体、まさに居直
  りとして「権利濫用論」の濫用というべきである。
  
 七、第二の三(解雇手続の不合理性)の前書きについて
   すべて否認する。
   債権者××は自らの暴力(二月三日、二月五日の両日)について、被害者・××さ
  んに脅迫をして口止めをなし、学園になんら報告もせず隠しつづけ、発覚したあとで
  も強硬に虐待の否認をなしていながら、学園は「債権者(××)からまともな事情を
  聞くことなく、本件解雇を強行している」などと主張しているのである。学園が自ら
  の暴力事件の発覚が遅れ、調査が十分でなかったなどという弁解自体、成り立つとは
  思わないが、それならどうしてそのような暴力的事実をすぐに報告せずに、××さん
  に脅迫をして口止めをなし、事実のもみ消しの工作をしてきたのかが問われるべきで
  ある。
  
 八、第二の三の1(××の保護者の来園と債権者にたいする暴力傷害)について
  1.××(申立書)は二月六日になって、債権者××の二月三日と同月五日の暴力が
   発覚したことをまるで他人事のように記載している。二月三日と五日に××自身、
   少なくとも平手で頭と頬を叩いたという事実を認めていながら、学園がそのことを
   問題にすること自体を否定しているのである。××にすれば、被害者を脅迫して口
   止めをなしてもみ消そうとしたことからすれば、「バレてしまった」ことから学園
   の「調査不備」を手続の不相当・不合理などとして、ついていこうというのであ 
   る。
   
  2.本件暴力事件が発覚し、解雇に至った経緯は次の通りである。
     二月三日、暴力のあった日に××と同じ作業班職員の西川登子(乙第六号証)
    といずみ寮職員多田羅初子(乙第九号証)は、その日の午前中に××が××さん
    に対して暴力をふるい、被害がでているという事実を認知していた。しかし二人
    はそのことを学園(園長)にきちんと報告することをしなかった。それは同僚と
    してそれまでの××や××らの暴力的言動≠ノ対しておそれる気持ちがあった
    ためである。
    
     二月三日の暴力事件以降、多くの職員が被害者・××さんの顔の傷に対して疑
    問を抱き、「どうして生じたのか」と問い尋ねているが、××さんは××らから
    の口止めの脅迫(おびえ)から、××らから暴力を受けた事実をしゃべることが
    できなかった。暴力をふるい、口止めをした××らが被害者・××さんの学園に
    いるという加害者らの存在≠フ影響下では、暴力の被害者が被害≠しゃべ
    るということ自体、困難というべきである。
     とりわけ施設の中での職員(男性)と園生(知的障害者)という関係で、「弱
    者」にあたる障害者が職員である「強者」を告発≠キるなどということは難し
    い。
    
     二月六日、午後三時頃、いずみ寮の主任木暮が××さんに話しかけて顔の傷の
    ことを「園長先生に話してみようよ。園長先生だったら話せるよね」とすすめた
    ことで、××さんはやっと被害をしゃべる気持ちになった。そして園長室に行 
    き、まず最初に岩田園長に対して二月三日・五日に受けた暴力の被害状況を話し
    ている。岩田園長は××さんから足のひざや腕のアザなどを見せられて「××先
    生と××先生の二人から殴られたの」「げんこつで叩かれた」「園長先生にしゃ
    べったらダメだと、しゃべったら作業班をやめさせるといわれた」と聞かされ、
    はじめて二月三日と五日の事件を知ったものである。その後岩田園長はすぐにい
    ずみ寮の職員たちと看護婦を園長室に呼び、被害の状況を確認し、××さんが 
    はっきりと加害者と名指しした××氏と××氏の二人について「どうするか」を
    協議した。
    
     二月六日五時すぎ、いずみ寮の職員らは岩田園長との協議に基づき、××さん
    の体のアザなどを証拠に残すために、××さんの被害状態を写真にとることとし
    た。それが乙第七号証の写真報告書である。
     そしていずみ寮職員嶋田が、同日午後八時頃に××さんの自宅にこの暴力の被
    害について報告している。電話には××さんのお兄さんの奥さん(義姉)がでら
    れたので、体中にたくさんのアザがあること、暴力の被害であることとともに、
    園としての責任と謝罪をなし、園長からあらためて報告と謝罪があることを伝え
    ている。
    
     二月七日(日)の午後、前日の嶋田の報告を受けて、××さんのお母さんとお
    義姉さんの二人が来園され、××さんの被害状況を確認されて大変に驚かれた。
    家族の方が××さんからその暴力と被害を直接聞きたいということであったた 
    め、管理棟二階の部屋に案内して××さんから話を聞く機会をつくった。学園の
    職員としていずみ寮職員の多田羅初子が同席し、××さんからその暴力の状況 
    (乙第九号証の報告書・八項・五、六ページ)、××氏が顔や口を殴りつけた 
    り、足を蹴りつけたりした暴行の具体的状況を聞いている。その暴力は単に頭や
    顔を平手で一回叩いたというものではない。××さんの母親らは明日(二月八 
    日)の朝、あらためて訪問する、その際加害者の××氏と××氏の二人に直接話
    したい、といって帰られている。
    
     岩田園長は二月七日の出来事について報告を受け、このような事態に至れば加
    害者ら××と××の二名を同席させて学園として直接家族に謝罪し、××氏と×
    ×氏の二人についてはこれまでもいろいろと就業規則上の違反と非行等をなし職
    員や園生から嫌わられていることから、退職勧奨(論旨退職)をすることとし 
    た。その旨理事長らに報告し、了承をえている。
    
     二月八日、××××さんの家族(母・兄・義姉の三人)が午前九時二〇分頃に
    来園された。園長をはじめ主任たちは謝罪し、話し合いをもった。岩田園長は×
    ×ら本人から直接暴力の事実について家族に謝罪させることが必要だと考え、二
    人をすぐ来るようにと呼び出した。
     ところが二人は二〇分程たっても来ることはなかった。待っていても二人が来
    ない状況がつづいたために、××さんの兄(長兄)が園長室を出られた。その後
    に××さんの兄と××や××との間でもみ合い≠ェあったと聞いているが、園
    長らはその状況について見てはいない。
     その後、二人は××さんの兄とともに園長室にきて話し合いをもった。当初二
    人は平手で叩いたことすらないなどとして強く否定していた。家族は前日の××
    さんから直接聞いたこともあって、××さんを呼び、本人の前で××と××それ
    ぞれから弁解を聞くということとなった。すると××は、それまでの強い否認か
    ら変わって二月三日と二月五日の暴力をすすんでしゃべりはじめた。岩田園長ら
    はその時まで暴力は二月三日だけと考えていたが、××が二月五日の暴力も認 
    め、その様子をしゃべったためわかったものである。
    
     ××は二月三日と五日の暴行を認め、家族に対して謝罪文(乙第四号証)を書
    き、提出した。そこには.「平成一一年二月三日に作業中に、××××さんに対
    し手を上げ口の傷を負わせました」「園長先生に報告もせず、すいませんでし 
    た」「どんなばつをもうけます」と記載している。
     その後岩田園長は××に対して、今回の暴力事件とともにこれまでの数々の非
    行や違反などをあげて、「あなたはどうして変わってしまったのですか」「暴力
    をふるって反省せずに報告もしないようでは、やめていただくことになります」
    等を語り、××自身、「やめることにします」と答え、「即日懲戒解雇であるが
    自ら退職するということ」で合意したものである。
     なお、もうひとりの××氏は、最後まで「自分は暴力をふるっていない」とし
    て否認し通している。
    
     ところが二月九日、××は突然に来園して園長に対して、「昨日は自分からや
    めるということにしたが、解雇にしてくれ。解雇通知を書いてくれ」といってき
    た。前日同席していた主任らを呼び、あらためて話し合った。しかし××が「や
    めさせるなら解雇通知を書け」と居直りつづけたため、岩田園長は「あなたには
    昨日やめていただくことになりました。やめていただくことに変わりありませ 
    ん」として××の要求に応じてその解雇通知を書き、交付したものである。
     そして翌一〇日の午前九時頃、××は弁護士とともに来園して「解雇を撤回し
    ろ」という動きなどがでてきたものである。
    
  3.第二の三の1.2.3について
     前記した経緯に反する主張はすべて否認ないし争う。
    
     平成一一年二月八日の時点で、債権者××は岩田園長の退職勧奨に応じて自ら
    「今日付にて退職する」旨を述べて、その論旨退職と決定したものである。
    
     ××らは自ら学園の事情聴取に対して反抗して居直り、被害者との混乱をつく
    りだしたものである。その後、××は事情聴取に応じて正直に自分の非を認めて
    反省し、退職する決意をなしている。その話し合いの記録係として同席していた
    職員土屋美和の報告書(乙第一四号証)をみれば、その話し合いが××にとって
    も落ち着いたものであったことは明らかである。
    
 九、第二の四(解雇の不相当性)について
  1.その主張はすべて否認ないし争う。
                                        
  2.その主張によれば、『知的障害者の施設であるため、園生が暴れるという事態が
   決して珍しいことではない』(九ページ)などと知的障害者及びその施設について
   の偏見と誤解に基づいた認識をなしている。園生(知的障害者)が暴れるなどとい
   うことが珍しい施設はたくさんあるし、当学園でも××ら一部職員を除いて珍しい
   ことである。
    
  3.「愛成学園においては、園生が暴れたときの処遇の仕方は、従来、個々の職員の
   判断にのみ委ねられ、学園としての対処法を決定していなかった」などとまるで暴
   力による指導が許されていたかのようなひどい主張をなしている。前記した職員・
   嶋田の報告書(乙第一三号証)によれば、「学園では平成九年六月一九日の職員会
   議において西原雄次郎氏の『知的障害者施設における体罰≠ノついて』を職員一
   同読み合わせ、暴力は決してしないよう申し合わせをしました」とある通り、すで
   に暴力を使わない処遇は学園としての「決定事項」なのである。
    それをまるで理解せず、学園の方針に反して暴力を正当化してきた××氏自身、
   あらためてその職員としての資質の欠落を示している。
   
  4.知的障害者の処遇をまるで動物の飼育の如きやり方と同一視する野蛮な姿勢と見
   解こそ、知的障害者施設から排除されねばならないものであり、それを反省しない
   者を職員とすることは許されない。
   
 一〇、債権者××に対する懲戒解雇
  1.今回××を解雇した理由は次の通りである。
     今回の暴力事件(二月三日・五日)において、園生・××××さんの頭や顔を
    殴り、口から血をださせ、足を蹴りつけ、階段からひきずりおとすなど、福祉職
    員としてあるまじき行為をなしたこと。
   
     園長のたび重なる業務命令を無視し、その注意指導に従わず、上司ら職員に対
    し反抗的言動をとり、その職場秩序を乱してきたこと。
   
     福祉施設たる職場に飲酒のにおいをさせて出勤し、園生や職員らより「酒くさ
    い」と報告があり、園長が注意指導したにもかかわらず繰り返し、あらためなか
    ったこと。
   
     仕事において園長及び上司の指示に従わず、業務怠慢を繰り返し、園の業務に
    妨害的行為をなしてきたこと。
   
    右の事実については岩田園長の解雇理由書(乙第二号証)及び上司の森田氏の報
   告書(乙第一一号証)で具体的に説明している通りである。
   
  2.学園の就業規則において次の通り定めている(甲第二号証)
    第二〇条(服務の心得)では、「園の諸規則を遵守し、職務上の指導命令に従わ
   なければならない」等の規定を定め、
    第一七条(解雇)では、「 法人の趣旨に反し著しい損害を与えた場合」「 勤
   務成績が極めて悪く、法人又は他の迷惑となる時」と定め、
    第三七条(制裁)では、「 素行不良で風俗秩序を乱した場合  自己の職務を
   忠実に実行しない時」には「理事長と園長とが相談の上、懲戒免職させることがあ
   る」と定めている。
    右就業規則に基づき、××がなした解雇事由たる行為は右就業規則第三七条  
   にそれぞれ該当し、懲戒解雇にあたる。
   
 一一、第三(賃金支払請求権)の一及び二について
  1.賃金の額については認める。
   
  2.岩田園長は××に対して二月八日、論旨退職に応じた際に、「三月分までの賃金
   を支払いますが、明日から出勤しなくてもいい」と通知している。その余の主張は
   すべて否認ないし争う。
   
 一二、第四(保全の必要性)について
  1.すべて否認ないし争う。
   
  2.知的障害者施設の職員の給料はすべて税金(措置費)であり、それも入所定員に
   応じた職員数に応じて給付されるものである。学園としては一人の職員が欠けるこ
   とはそれだけ園生の生活と援助が悪化することで、早急に知的障害者の人権を尊重
   する職員を採用しなければならない。
  
  3.現在の東京において、××が福祉施設以外の職場をみつけることはその年齢や体
   格等からみて容易である。むしろ××はその資質から福祉施設で働くことはふさわ
   しくない。××が自分の資質に適した職業を選ぶことは決して難しいこととはいえ
   ない。
   
 一三、第五(債務者との事前交渉)について
  1.××とその代理人中川弁護士が二月一〇日の午前九時頃来園し、朝礼の行事を 
   やっているところに面会を申し入れきたこと、それに岩田園長が、その時間帯は忙
   しくて対応できないため、訪問の時には事前に連絡を入れてからきていただきたい
   旨回答したことは認め、その余はすべて否認ないし争う。
   
  2.事前交渉の場で、「相手方代理人(学園代理人)は退職金などの金銭面では考慮
   できるが・・・」などとしゃべったとする主張は、学園は一切関知しないことであ
   る。債務者(学園)としては、すでに××のこれまでの非行及び今回の暴力事件に
   ついては懲戒解雇にあたるため、退職金を考慮することなど全く検討したこともな
   い。今後の学園運営において、今回の××の解雇をあいまいにすることなど考えて
   いない。
                             以上  。
   
   
       疎明方法        
   
乙第一号証   岩田園長・陳述書
乙第二号証   岩田園長・解雇理由書
乙第三号証   岩田園長・「債権者との事前交渉」についての反論
乙第四号証   債権者××・謝罪文
乙第五号証   ××××(×××)・診断書
乙第六号証   職員西川登子・報告書
乙第七号証   被害写真報告書
乙第八号証   被害場所の写真報告書・現場見取図
乙第九号証   職員多田羅初子・報告書
乙第一〇号証  医師山田真・鑑定意見書
乙第一一号証  職員森田宏一・報告書
乙第一二号証  職員菊池扶美枝・報告書
乙第一三号証  職員嶋田大子・報告書
乙第一四号証  職員土屋美和・報告書
乙第一五号証  全国福祉保育労組・要求書
乙第一六号証  右同・団交申し入れ書
乙第一七号証  右同・通告書
乙第一八号証  愛成学園・団交延期の回答



      添付資料       

一、甲号証(写)    各一通
二、訴訟委任状      一通


                                        
    一九九九年三月二四日
                                        
                    右債務者代理人
                        弁護士  副島洋明
                                        
                         同   大石剛一郎
                                        
                         同   登坂真人
                 
東京地方裁判所 
   民事第二部 御中



愛成学園事件  ◇全文掲載
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